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きみの手を引いて:番外編1

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

   

 第1話      

       

 四月なのに、やけに寒い夜だった。
 コンビニの駐車場で弁当を食ったのが朝の十時過ぎ、今は午後十一時。寒いしハラ減るし、かと言って所持金は残り五千円程度。
 
 贅沢は出来ない。
「……っくしゅ!」
 ジーンズにウィンドブレーカー、その下の長袖のTシャツだけではこの寒さは凌げない。オレは身震いをひとつして、緩い坂を上っていく。

「さみ、……」
 どうすっかな、今日。昨日はコンビニで夜明かしして、明るくなってから公園でダンボール被って寝てみた。その前はネットカフェ。その前も。その前も。家を出て、最初の夜も。

 カクジツにホームレスへの道たどってんなー、と感慨深く思いながら目の前に現れた高層マンションを仰ぎ見る。
「……すっげ」

 こんなとこ、どーゆー奴が住んでんだろ。家賃高そ。待てよ、分譲か? いくらすんだろーなー、見当もつかねー。
 ま、どうでもいいか、と思いながら車寄せのそばの植え込みの敷石に座る。

 疲れていた。昨日の夜、じゃなかった、朝はさすがによく眠れなかった。またネットカフェに逆戻り? 待て待て、節約しないと。ハラ減った、コンビニでなんか買っとくんだった。ダメだって、節約すんだろ?

「……金、欲しーなー」
 心の中で考えた浅ましいことが口をつく。実際貧乏はツラい。金さえあったらメシ食えるし、屋根のあるとこで寝れる。何も目の前のこんな高級そうなマンションじゃなくていい。

 ガキの頃、ハハオヤと一緒に暮らしてたぼろアパートを思い浮かべる。四畳半と六畳の二間しかない部屋。畳黄ばんで剥げてるし、箪笥だってガタガタ、雨漏りしなかったのが唯一の救い。……それでも、いい匂いがしていた。食事の匂い。洗濯物の匂い。生活の匂い。ハハオヤの、匂い。

「……」
 病院で最後に見た彼女を思い出す。オレを育てる為に働いて働いて、弱った身体で肺炎起こして死んだ母親。彼女は最期にごめんね、と言った。

(何がごめんねだよ。オレなんか施設にでも預けてお水でもやりゃよかったんだ。どんだけ美人でも宝の持ち腐れだろ、コブつきじゃさあ)
 あーあ、やなこと思い出した、と膝を抱えて顔を埋める。

 ……と、人の気配がした。誰かが上り坂を歩いてくる。
 ヤバい。このマンションの人? ここにいたらカンペキ不審者だ、通報されるかも……。
 思いながらも腰も顔も上げられない。

 オレ疲れてんだな、マジで。家、……長谷川さんとこ出てからまともに寝てない。ハラも減った。おまけに寒い。三重苦だ。

 ケーサツ呼ぶなら呼べ、と開き直ってその場にうずくまってるとその人物が目の前で立ち止まった。
 男だ、と黒い革靴とスーツらしき黒のスラックスで判る。

 その男はオレに視線を注いでいるらしい。全然前から動こうとしない。
 くっそ、通報すんなら通報しろよ。
 意地になり目線を上げずにいると、間の悪いことにオレのハラが鳴った。

 ぐぐー。

 ああ、なんてマヌケなハラの音。今度は意地ではなく羞恥から顔を上げられずにいるオレに、男は言った。
「腹減ってんのか?」

 ええそうですとも。このでっかいハラの虫の鳴き声聞いたら、判りそうなもんですけどね!?
「……だからなに? あんたオゴってくれんの」

 オレは顔を上げて、男を見上げた。
 男は端正な顔立ちをしていた。浅黒い肌に、意志の強そうな瞳。額に落ちかかる前髪をかき上げ、皮肉気に唇を歪める。黒のスーツにグレイの軽そうなコートがよく似合っていた。

 オレが男を観察していたように、男もオレを観察していた。
 舐めるようにオレの顔を見ていた男の目がすっと細められる。

「なんだ。男か」
 ……断っておくがオレは別に女っぽい格好をしていたわけじゃない。ハハオヤに似たこのカオのせいで時々、こんな風に言われるのだ。あくまでも、時々。心の中では大概の人が思っているのかもしれないが、言われるのはあくまでも時々、だ。 

 思ったことを心の中に止めておけない性質なのか、それともわざと意地の悪いことを言いたいタイプなのか、男は続けた。
「オンナかと思った」
 大多数の人のように心の中でだけ思って、口には出さないで欲しい、そんなこと。

「男で悪かったね。オゴってくんないならほっといて」
 オレはまた視線を下げた。こういうとき、女ならオゴってもらえるんだろう。このマンションの一室で美味いもんたらふく食って、いかにもセレブっぽいこの男と寝ればタダで泊まれる。いや、ひょっとしたら万単位で金もらえるかも。

 でも、オレは女じゃない。長谷川さんが、……オレのこと女みたいに扱っても、オレは女じゃない。
 だから目の前のこの男にとって、オレは用なしだ。

「……っくしゅ!」
 またくしゃみだ。そしてハラも鳴る。ぐ~。

 ずずーと鼻をすすりながら顔を上げると、男の顔が真正面にあった。
 男はいつの間にかしゃがんでオレを見てた。
「な、……に?」

「奢ってやるよ。デリバリーのピザでいいか?」
 ピザ。あつあつの、ピザ。チーズが溶けて、いい匂いさせるピザ。マジで?
 考えただけで、ヨダレが口ん中に溜まる。ごくんとそれを飲み込み、男を見つめた。

「……いやなら無理にとは言わないが」
 返事をしなかったオレを見限ったのか、男は立ち上がり背を向ける。コートの裾がひるがえった。
「ちょっ……嫌だなんて言ってねーじゃん!」

 疲れを吹っ飛ばす想像のピザに急かされて慌てて立ち上がり、男に追いすがる。
 男は肩越しに振り返り、にやりと笑う。
 その笑みには気付いていたが、ピザの前にはどうでもいいことだ。

 あつあつとろーりチーズのピザの幻影に惑わされたオレは、見ず知らずの男に伴われてマンションに入った。

    

           

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