« 「番外編5」更新しました。 | トップページ | ヘヴンズブルー:9 »

きみの手を引いて:10

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第十話

 

         
 一夜明けて。
 寝室のドアを開けた柚月が見たものは、ダイニングテーブルに並んだ朝食だった。ありえない。

 いつも腹を満たす物を作っていたのは柚月だ。居候 ─── 柚月は同居だと思っているが ─── となって一ヶ月になるハルは、一度としてキッチンに立ったことがない。
 目を瞬かせてトースト、ハムエッグならぬ目玉焼きハム添え、トマトとレタスのサラダを見つめていると、その側に柚月のマグカップが置かれた。

 ハルは自分のマグカップを手に柚月の様子を見ている。その瞼が少し腫れていた。
 柚月がまともに視線を向けると、彼は俯いて自分の席に座った。
「早く食わないと冷めるよ?」
 いつもと変わらない少し乱暴なハルの口調。柚月は、ああ、と半ば上の空で返事をし、椅子に座る。

「メシ、作ってくれたんだな。ありがとう」
 戸惑いながらもそう言うと、ハルはみるみる赤くなった。
「……べつに……腹減ったから、ついでに柚月さんの分も作っただけ……」
 照れ隠しでトーストにかじりつく。
 
「コーヒーさ、豆から淹れたことなかったからよく判んなくて……マズい?」
 マグカップに口を付けた柚月を上目遣いに見て、ハルは問う。
「いや、美味いよ。よく淹れられたな」

「ほんと?」
 ハルはぱッと顔を明るくした。
「柚月さんが淹れるとこ結構見てたんだよ。明日からオレがコーヒー、淹れようかな……?」
 柚月の様子を伺うようにちらっと見た。
 それに気づいて柚月は苦笑する。

「いつもそんなに早起き出来ないだろう? 時々、気が向いた時に淹れてくれればいいよ」
「で、でもさ、オレ居候なのに何にもしないから……あの、……迷惑?……」
「迷惑なんかじゃない」

 柚月は否定しながら、ハルの様子がいつもとだいぶ違う事に気づく。
 おどおどとしている。柚月の顔色を気にし、正面から見ようとしない。生意気で、柚月をからかって喜んでいたハルは何処へ行ってしまったのか。
「ハル」

「あっそれからさ、風呂掃除と洗濯もするね、……迷惑でなかったら」
「……それは、助かるけど……」
 口ごもる柚月にハルはほっとしたように微笑む。
「よかった」

 目玉焼きを箸で切り分け、口へ運ぶハルをじっと見つめる。やはりおかしい。いつものハルじゃない。
 心当たりはたったひとつ。
「……昨日の夜のことだけど」

「そうだオレ、バイトしようと思うんだけど!」
言いかけた柚月をハルは強引に遮った。
「どっかいいとこないかなー?」
「……バイト?」

 ハルが無理やりに話を変えた事に気づきながら、柚月はそれに付き合った。
「働くのか」
「うん。悪いでしょ、タダで居候して柚月さんに食費とか洋服代とか出してもらって。……なんかヒモみたいだねえ、オレ」
「ヒモ……」

 じゃあ俺が女か、と想像して柚月はぞっとする。
「やっぱダメだよねーヒモは。働かないと。……出来れば履歴書とか出さなくていいところ、ないかな」
「保険証とかもないのか」
「……あるけど、家出ってバレたら連絡されるもん……」

 ハルは言いづらそうに俯いた。
 未成年のハルがまともに働くとなればいろいろなものが必要になる。履歴書は元より親の承諾、印鑑、最低でも保証人、場合によっては身分証明書 ─── 家出中のハルにはハードルが高すぎる。

 だからこそ身体で生計を立てざるを得なかったのだ。
 柚月が自分と同じことを考えていると判ったハルは、焦って取り繕おうとする。
「あの……へ、ヘンな仕事じゃなくて、普通の……皿洗いとか、あとなんだろ……なんか普通の仕事……無理かな……?」

 その声は頼りなく揺れる。─── 柚月に糾弾され、軽蔑されるのが怖かった。
 いや、軽蔑されているのは判っている。それでも真正面から柚月に罵られたり、蔑まれた目で見られるのは辛過ぎる。
 昨日の夜、柚月に振り払われた手をぎゅっと握った。

「……俺の知り合いのコーヒー屋で良かったら、紹介する」
「え?」
 顔を上げたハルは柚月の優しい目に驚く。心臓が跳ね上がった。

「従兄弟がコーヒーショップのマスターやってるんだ。時給安いけどそこで良かったら。……俺が身元保証人になるから」
「あ……あ……うん。……いいの……?」
「ああ」

 柚月は何でもない事のように言い、平然と食事を続ける。
 聞こえてしまったらどうしようと危ぶむほど、ハルの鼓動は大きい。それでも平静を装い、トーストを平らげた。

「……目、どうした」
「え?」

 不意打ちの柚月の質問だった。昨日の夜の事を話題にしたくないハルにとって一番訊かれたくない事。
「あ、」
 ハルは左手で瞼を隠した。

 俯いても誤魔化せない。仕方なくハルは笑った。
「これは、……えっと、その……なんでもない」
「……なんでもない?」

 何でもなくない事は一目瞭然だった。─── ハルは泣いて、泣きすぎて瞼を腫らしているのだ。
 柚月の胸の奥がずきん、と痛む。

「─── ごめん。あの、昨日は」
 なんて言い訳したらいい? お前に乱暴する夢を見て理性を失いそうだった、何をするか判らなかった、だから触れないで欲しかった。
(絶対に言えない)
 言ったが最後、どれだけ白い目で見られるか知れない。

 言いよどむ柚月にハルは首を横に振って見せた。
「ゆ……柚月さんが謝ること、ないよ。オレが悪かったんだ、……触られたくなくて当たり前だよね。オレ、アタマ悪いから全然気が付かなくて」
 無理やりに作ったハルの笑顔は淋しそうだった。

「柚月さんに、き……嫌われてるの判んなくって、オレずっと」
「違う! きらっ……」
 嫌ってなんかいない、逆だ、触りたくて、お前に触れたくて、気が変になりそうで、でも夢みたいに嫌がられたら。
 
 柚月はぐっと黙り込む。言えない。ハルに嫌われたくない。安心して自分に近寄ってくるハルの信頼を失いたくない。

 ハルは俯いて小さな声で言った。
「……も、触ったり、近づいたりしないから」
「……」
 言い訳したい。出来ない。柚月は心の中で身悶えする。

「……ここ、に、いてもいい……?」
 恐る恐るハルは柚月を見上げた。
「当たり前だろう、俺が連れてきたんだ。……ずっといていい」
 掠れる柚月の声。─── 本当は他にもっと言いたい事があった。もっと、聞いて欲しい事が。

 焦燥に駆られ、それでも何も言えない柚月にハルは安堵の笑みを見せる。
「良かった。オレ、他に行くとこないから」
 ハルのその笑顔に柚月は胸を突かれた。
 
 ─── ハルが好きだ。

 どうしようもなく惹かれる。その笑顔をずっと見ていたい。いや笑ってくれなくても構わない、怒っていても自分をからかうひとの悪い表情でも ─── 泣いていても。
(傷つけて泣かせたくせに何考えてるんだ、俺は)

 慌てて頭を横に振り、柚月は朝食を食べ終える。
 食器を下げて洗い物を始める柚月を、ハルは切ない目で追った。

  

    

    押して頂けると嬉しいです    

      目次next≫   

  

   *投票していただけると励みになります。

     ←ネット小説ランキングの人気投票です。

   にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
   にほんブログ村  ←クリックすると投票になります。

    ←クリックすると投票になります。

« 「番外編5」更新しました。 | トップページ | ヘヴンズブルー:9 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: きみの手を引いて:10:

« 「番外編5」更新しました。 | トップページ | ヘヴンズブルー:9 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ