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きみの手を引いて:3

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい 

  

 第三話

  

        
「必要なものは明日買いに行こう」

 夜になり、柚月が手早く拵えた夕食を二人で摂った後だった。バスルームから出てきた柚月はソファーでTVを観ていたハルにそう告げる。
 振り向いたハルは柚月から借りたパジャマを着ていた。

「オレ、金ないよ」
「知ってる。だから一緒に行くんだろ 」
「ちょっと待って」

 ハルは立ち上がって柚月のそばへ来ると腕を組んだ。半袖のパジャマはやたらと大きく、ひじが隠れてしまって七分袖だ。ズボンは無理やりウエストより上に上げているらしい。

「柚月さんが買ってくれるってわけ? どうして?」
「お前が金がないから」
「そうじゃなくて。……そんなの変だ」
「変か?」

 柚月は冷蔵庫から缶ビールを出してプルトップを開けた。すかさずハルが言う。

「オレにもちょうだい」
「だめに決まってるだろう、十六歳」

 ペットボトルのミネラルウォーターをコップに注いでハルに渡す。
 ケチ、とハルは小声で悪態をついたが大人しくそれを飲んだ。

「─── それからな、この家は禁煙だ」
 シンクに捨ててある吸殻を見ながら柚月は言う。煙草とライターは見当たらなかった。

「もう吸うなよ」
「……煙草、取り上げないの」
「吸ってるの見たら取り上げる。十代で煙草吸ってたら、肺真っ黒になるぞ」

 ハルは唇を曲げ、面白くなさそうな顔をした。ソファーにあぐらを掻いて座る。きょろきょろと落ち着きなく部屋を見回し、生乾きの髪の毛に細い指を突っ込んで頭を掻いた。

 しばらくそうしてTVを観ていたハルは不意に立ち上がる。

「─── オレさ、ちょっと出かけてくる」
「今から? もう十一時だぞ。どこ行くんだ」
「ど……どこだっていいだろ。詮策しないって約束」
「……そうだったな」

 出し抜けに柚月はソファーから立ち上がり浴室へ向かう。ハルの服を洗濯機に入れ、洗濯を始めた。
 物音に気づいてハルが飛んでくる。

「何すんだよ! 服、これしかないんだぞ!?」
「風呂場に干しとけば明日には乾く。乾燥機ついてるから」

 ハルは柚月を睨みつけた。

「……金、稼いでこようと思ったのに」
「俺の服、着て行くか?」
「着てけるわけないだろ!」

 自分の着ているパジャマをひっぱって柚月に見せる。柚月はしれっと感想を言った。

「ちょっとでかいな」
「ちょっと!? これはかなりって言うんだよ! 柚月さんの服なんか着てってもダレも引っかかんない……」

 ハルは語尾を濁して口ごもる。まっすぐ自分を見つめる柚月に気圧された。
 うつむき、唇を尖らせるハルに、柚月は目付きを和らげる。小さなハルの頭に柚月はぽん、と手を置いた。

「─── まあ、今日はゆっくり寝ろ。疲れてるんだろう? 布団はロフトに敷いといたから」
「こ……子供扱いすんな!」

 頭を振って柚月の手を払いのける。その後もわめき立てるハルを相手にせず、柚月はリビングに戻り、ソファーでビールを飲み始めた。

 ハルは相手にされないのが口惜しくてならなかったが、仕方なしにソファーに腰を下ろした。

 つけっぱなしだったTVではバラエティ番組が始まっていた。観るともなしに観ていたそれに、ハルは笑い声を上げる。
 他愛なく機嫌を直したハルの笑顔に見惚れ、柚月は素直に口にした。

「─── 綺麗だな」
「え? なにが?」

 TVの中に『綺麗』なものを捜そうとしてハルは目を凝らす。無茶振りでものまねを披露する芸人しかそこにはいない。

「お前の顔。タレントとか、スカウトされるだろう。たくさん、」
 ああ、とハルは軽く肩をすくめた。

「ぜーんぜん。いっぺんもスカウトなんてされたことないよ」
「本当に?」
「うん。……オレ、キレイじゃないから。中にはさあ、柚月さんみたく言う人もいるけどなんでだかさっぱり判んない」

 客相手には決して言わないことをハルはこぼれ落ちるように話す。

「こんな顔、どこがいいの? 不細工だよ」
「……お前が不細工だったら俺なんか人間じゃないな」
「それって口説いてんの?」

 ハルは柚月に向き直った。

「あ、そうか。明日買い物に行くってのも込みなんだ。早く言ってくれればいいのに」

 腕を組んでうんうんとうなずくハル。

「男に興味ないと思ってたけど、外れたの柚月さんが初めてだよ。修行が足りないねえ」
「ちょっ……と、待て」
「心配しなくても今日はタダだよ、もちろん。泊めてもらって服まで買ってもらうんだからさ。まー、明日からはそれなりに相談の上でってことで。……柚月さんのベッドでいい?」
「ちょっと待て!」

 柚月の寝室へ向かおうとするハルの肩を掴んで引き止める。
「お、お前、何言って……」 

 ハルは困ったな、という表情で柚月を見上げる。

「あのさ、柚月さん……いくらオレでもソファーとかフローリングの床とかよりは、ベッドのほうがいいんだよね」
「そうじゃない! どこでとかそういう……、ベッド行ってなにするんだ!?」
「ナニって……エッチ?」

 けろっとしたハルとは対照的に、柚月は頬に血を昇らせる。耳まで赤い。
 無造作にハルの肩を掴んだままだった、その手を放した。
 
「……柚月さん?」
「─── 綺麗だと思ったからそう言ったんだ。口説いたわけじゃない。買い物に行くのも俺がそうしたいと思ったからだ。その代わりに、なんて思ってない。……俺がそんなこと要求する男だと思って、それでもいいと思って、ついて来たのか?」
「あの……だって、」

 どうやら柚月は怒っているらしいが、その理由がハルにはよく判らない。

 今までハルの周りにいたのは「その代わり」を要求する男ばかりだったからだ。
 何か言い訳をしようとするハルに、柚月は背を向けた。

「もういい。……早く寝ろ」
 突き放すような柚月の言葉はハルの癇に障る。思わず、カッとなった。

「なんだよっ、泊めてもらうからお礼のつもりで言ってるのに! ヤりたくないならそう言えばいいだろ!」
「やりたいとかやりたくないとかそういう問題じゃない」
「じゃあヤりたいの?」

 言葉に詰まった柚月の顔をハルは覗き込んだ。

「……キレイなんだろ。してもいいよ」
 大きめのパジャマから鎖骨が覗く。白い喉。赤く柔らかそうな唇と誘うような瞳を間近に見て、柚月は身を引いた。

「─── そういうことは好きな奴とだけするんだ」
「はあ?」
「好きでもない奴に簡単にやらせるな。自分を大事にしろ」

 ハルは思いも寄らないことを言われてぽかんと柚月を見つめていたが、ふいにそっぽを向いた。

「ああそうですか。お堅い柚月さんは好きでもない奴とはしたくないわけね。よーく判りました。誘って申し訳ありませんでした!」

 憎まれ口を叩くとハルはさっさとロフトに上がってしまった。

(─── なんだよ。キレイだって言うから誘ったのに)
(わーるかったね。どうせオレは柚月さんの好みじゃないよ)
(したくなきゃしたくないってはっきり言えばいいのに)

 柚月が用意してくれた布団に横になった。小さなスタンドまで枕元に置いてある。ハルはカチカチと点けたり消したりを繰り返した。

 しばらくすると頭が冷えてきた。

 TVの音が消えたのでそっとカーテンの隙間から覗くと、柚月がいない。浴室の方からの物音で洗濯物を干しているのが判った。

(……オレの服)
(悪いことしたな。あんなふうに誘って……イヤだったろうな、柚月さん)
(好きなひととだけ……自分を大事に、か)

 自分のことをありのままに知ったら柚月はきっと軽蔑するだろう。

(……柚月さんて、イイひとだな……正しくて……間違ったこと言ってない。間違ってるのは、多分オレの方だ……)

 判ってる、とハルは呟いた。

  

  

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