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きみの手を引いて:2

   

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい 

    

 第二話

 

       
「ちょっと待ってて」

 ハルは柚月を残し、店の前で煙草を燻らせるオーナー ─── 成沢 和臣に近寄っていく。

 ハルが知る限り、いつも高価そうなスーツを着ていたがこの日もやはりブランド物らしいグレイのスーツを着ている。普段着のチェックのシャツにジーンズという格好のハルだったが臆することなどない。

「……なに、にやついてんだよ」
「べつに? ─── アパート、火事にあったんだってな。今、牧田が見に行ってきた」

 和臣は煙を吐いた。
「また俺ん家のゲストルーム貸してやろうか」

 前と変わってないぞ、と和臣はさらににやにや笑う。ハルは顔をしかめてそっぽを向いた。

「家賃、払うのやだ。あんたしつこいんだもん」
「言うねえ。どっか当てでもあるのか」

 ハルは柚月に聞こえないように、当てンなるかどうか判んないけどね、と小さく答え、後ろを ─── 柚月のいる通りをちらっと見た。

 和臣もつられて目を向ける。煙草の火が一瞬赤く灯った。

「……ふーん。男前じゃないか? お前の客じゃないな」
「当然。あの人、マトモだよ。商売っ気ゼロ」
「足洗う気か?」
「さあね」
「もったいないな。最後にやらせろ、タダで」
「ぜってーやだ」

 煙草の先から煙が白く流れ、ハルの鼻をくすぐる。

「なんだかんだ言ったって、お前メンクイだからな。篭絡しちまうんじゃないの」
「そんなんじゃないって。……もう行くよ」

 話を切り上げて、ハルは柚月のところへ戻った。

 柚月は同じ場所でほとんど動かずに待っていた。ほんの少しだけれど ─── ハルは柚月が消えてしまうんじゃないか、と疑っていた。

 なんとなくほっとして、背の高い柚月を見上げる。

「ごめん、行こう」 
「……いいのか?」
「なにが?」
「あの人、」

 和臣はまだ店の前で煙草を吸っている。ハルと柚月を見ていた。
 ハルは軽く頭を横に振った。

「ああ、アレはいいの。なんでもない」

 柚月は何か言いたそうだったが、黙って歩き出す。そのまま通りをしばらく進み、近道だというさほど大きくない公園を抜ける。

 そこはもう住宅街になっていて、柚月の暮らしているアパートはその一角にあった。

  

    

 柚月の部屋は五階にあった。玄関から入ってすぐに目隠しの為のパーテーションがあり、それをまわり込むとLDKになっている。奥にひとつだけある部屋は寝室だと柚月は言った。

 キッチンとリビングを見まわし、ハルは訊いた。

「柚月さん、彼女いるの」
「いないけど、どうしてだ。……アイスコーヒーでいいか。ガムシロは?」
「いれるー。─── ひとり暮らしにしては散らかってないなーと思って。隠さなくたっていいよ、べつに柚月さんとどうにかなろうってわけじゃないんだからさ」

 ハルは柚月をからかってくったくなく笑う。

 当の柚月は居心地悪そうにせき払いした。冷蔵庫からコーヒーが半分ほど入ったサーバーを取り出し、氷を入れたグラスにそそぐ。その場でガムシロップを入れてマドラーでかきまぜた。

 からからと氷の音が響く。

「掃除も洗濯も自分でしてる。食事も自炊だ。なるべく、だけどな」
「ふーん。オヤは? 田舎?」

 柚月は眉尻を下げて困ったように微笑んだ。ハルにグラスを手渡す。

「大学、入った年に両方とも事故で死んだ。もう四年……五年になるな」
「……ごめん」

 ハルは驚いて顔色を変えた。
「てっきり仕送りでもしてもらって生活してるんだと思ってた。……ごめんなさい」

「いや、かまわない。もう慣れた。……保険金と遺産がけっこう入ったからここに住んでられるんだ。叔父が弁護士で管財人になってくれて、生活費も毎月振り込んでくれるし……仕送り、もらってるようなもんだ。気にするな」

 柚月は自分のアイスコーヒーを持ち、ソファーに座った。しおれた様子のハルも柚月から離れたところへ座る。
 さっきまでのいたずらっ子のような表情を消した、大人しくいかにも可憐なハルの顔を柚月は見つめる。─── 思わず、見惚れていた。

 長い睫毛は伏せられてコーヒーの黒い水面に向けられている。自然にほの赤い唇をグラスの縁に押し当てて中の液体を飲んだ。ごくり、と白いのどが動く。

「……なに?」

 その視線に気づいて、ハルは怪訝な顔をした。柚月は目を逸らしてもごもごと言う。

「……いや。なんでもない」
「やっぱ出て行って欲しくなった? ヤなこと訊かれたから……そうならはっきり言って下さい」
「そうじゃない。親のことなんて気にしてない」

 柚月はあわてて否定する。苦し紛れに話を変えた。

「その、……そうだ、寝る場所どうする。布団はあるけど」
「寝る場所? そっか……」

 シゴトじゃないんだっけ、とハルは思いながら部屋を見渡す。ここで寝るとすればこのソファーか、フローリングに布団を敷くか ───。

「─── あの、ロフトは?」
「え?」

 リビングの右端、柚月の寝室の壁側にロフトがあった。下が引き戸の収納になっていて、黒い鉄製の梯子が付いている。明るめの青のカーテンがかかっているが端に寄せてあったので、中にほとんど物が入っていないのが見て取れた。

「そこでもいいよ」
「でも……物置だぞ? ほかに収納あるし、上がるの面倒だから使ってないけど」
「物置だっていいよ。ソファーより広そうだし。布団あるんだよね」
「ああ。前、使ってたのが」

 グラスをテーブルに置いて、ハルは梯子を身軽に登る。姿勢を低くしてロフトの中を『探検』した。胡坐をかいて、ソファーに座る柚月に笑いかける。

「なんか秘密基地みたい」

 子供っぽくはしゃいだハルはロフトを降りて元の場所に座る。上機嫌でアイスコーヒーを飲んだ。

「さっき、大学って言ってたよね。柚月さんて大学生?」
「いや、大学院生」

 ハルは目を丸くする。

「へえ、アタマいいんだー。じゃあ二十三……四?」
「二十三。……おまえはいくつなんだ」

 柚月の顔色をうかがうようにハルは上目遣いで見る。
 柚月は両親の事を聞かれたときと同じに、眉尻を下げて微笑んだ。

「─── 詮索しない約束だったな」
「─── じゅうろく」

 同時だった。ハルはもう一度、言う。

「十六だよ」

 柚月の左の眉がぴくり、と上がる。しかし、表情は淡々としていた。

「そうか」
「驚かないの」
「驚いてるよ。思ったより子供だ」
「ガキで悪かったね。……ケーサツ、連れてく?」
「だったらここに来る途中に交番に寄ってる」

 ハルは氷だけになったグラスを揺すって、アイスコーヒーを飲む柚月をちらちらと見る。
 ためらいながら口に出した。

「……本当にここにいてもいいの」  
「ああ」

 全く躊躇せずに柚月は答えてグラスを空ける。

「─── ありがとう」
 ハルは小さく言って、笑った。

  

   

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コメント

ハル可愛いなぁ…☆☆
私の家においでよヘ(゚∀゚ヘ)商売でも…((殴∑
私も驚いた♪16だったんだぁ…
結構大人だと思ってたから、ビックリしました(゚ロ゚屮)屮
最後の笑った顔が目に浮かびます♥
また、続き見に来ますねw*
 
 
 ≫以下レスです。
 コメントありがとうございます♪
 マメにいらして下さって恐縮です。m(_ _)m
 びっくりしましたか?ヤってることがオトナだからかなあ……(下品)
 内面は子供で、(最初の方は)えっちが自分にとって良いことなのか悪いことなのか区別がつかない、みたいなキャラなのでまだこんなカンジです。
 ハルがなつきさんの家に押しかけたら、大した働きもしないのにお金をせびるかもしれませんよ~(ろくでなし……)
 そんなんで良かったらどうぞ♪
 
 
 

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