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きみの手を引いて:4

    

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい                     

     

 第四話

   

 柚月の部屋は居心地が良かった。
 リビングもダイニングも物が少なく、大体いつも片付いている。柚月は洗濯も掃除もこまめに自分でしていた。
 
 ハルがだらだらとソファーに横になってTVを観ていても文句一つ言わず、風呂を洗ったりしている。
 普通なら居候のくせに ─── と言われても仕方がないところだが、柚月は何も言わず淡々と家事をこなし、大学院へ通った。

 一方、ハルはほとんど、部屋の中 ─── リビングやロフト ─── で過ごした。柚月に買い物を頼まれた時にしか外へは出ない。
(……このご時世、得体の知れない奴信用して買い物頼むってのも、相当お人好しか変人だけど。オレが金持ってズラかったらどうすんだろ、この人)

 しかしハルは逃げたりしなかったし、柚月もそれが判っていたようだった。買い物を終えて帰宅したハルに「昼飯代だ」と釣銭を与えさえした。
(ガキの使いかよ)
 くくっ、とハルはのどの奥で笑う。

 彼はハルに干渉せず、一緒にいて苦にならなかった。なにより夜、ベッドに引きずり込まれずに自分ひとりでゆっくり眠れる。
 柚月との生活は楽しかった。

「柚月さん」
「なんだ?」
「オレのこと、知りたい?」

 夕食時だった。柚月は豚肉のしょうが焼きを摘もうとした箸を止め、片眉だけ上げてハルを見た。
 
「本名とか、住所とか……知りたくない?」
「─── お前が話したくなったら話せばいい。詮索はしないよ」
 
 約束したからな、と柚月は言って食事を続ける。

「……オヤ、死んだって言ったよね、柚月さん」
「ああ」
 
 ハルはぽつりと言った。
「─── オレもオヤいないんだ」
 
 父親は幼い時に事故で死んだこと。十二才の時、母親も肺炎をこじらせて死んだこと。引き取り手がなくて施設に入ったこと。
 自分のことを話すのに慣れていないのか、たどたどしい口調で言う。

「小さい子だと養子とかでけっこう引き取り手が見つかるんだけど、オレもう十二だったしね。中学だけ施設から通って就職先探してたら、高校行かないかって……言ってくれる人がいてさ」

 ハルはうかがうように柚月を見る。

「その人も同じ施設の出で、自分も高校行けなかったからってオレに同情してくれたんだ。すごいイイひとなんだよ。そのおかげで高校入れて、一緒に暮らしたんだけど……」

 半分ほど残っている食事に手をつけずにハルは話を続けた。

「ダメだった。誰かと一緒に暮らすのってダメみたい、オレ。……そのひと、就職してから大学行ったりして、頭もいい人で……まだ若いんだけど会社でもエライひとなんだよ。─── 尊敬してる。こんな人がオレの「おとうさん」になってくれるのかってすげー嬉しかった。父親って全然覚えてなかったし。……でもダメだった。オレが悪いんだ」

「……喧嘩でもしたのか?」
 初めて柚月が口を挟んだ。
 ハルはためらいながら、うなずく。

「……うん。だから、家出した」
「……そうか」
「─── 帰れって、言う……?」

 ハルは恐る恐る柚月の表情を見つめた。
「いいや。仲直りしたいって言うんなら、一緒にそのひとのところに行ってもいいけどな」
「……」

 返事もせずに、ハルは押し黙る。思いつめた顔をして柚月から視線を逸らした。

「どうした?」
「……柚月さん、あの、ね」
 言葉が続かない。

 柚月はいぶかしみながらも食事を終え、自分の食器を下げ始める。
「しょうが焼き、苦手だったか?」
「……ううん! すごいうまい」
 ハルは慌ててご飯としょうが焼きを一緒くたにしてかき込む。

 洗い物を始めた柚月のところへハルが食器を持っていくと、彼が言った。
「─── 帰りたくないんだったら、ここにいていいんだぞ」
 
 ─── 自分がいては、迷惑だろうに。ハルは柚月の優しさが嬉しかった。
 素直に感謝の気持ちを表すのが気恥ずかしく、ハルはふざけて柚月の背中に抱きついた。

「ありがとうっ、柚月さんっ」
 柚月はぴたりと皿を洗う手を止める。
「柚月さんてイイひとだね、ちょっと融通が利かないとこもあるけどさー、あんとき柚月さんに声かけられて超ラッキー」

「……ハル。それは、ちょっとマズい」
「え? なにが?」
「だから……その……離れてくれないか」

 ハルは柚月が耳まで真っ赤になっていることに気づいた。胸にまわした手から柚月の大きな鼓動が伝わる。
「……離れないと、マズい?」
 人の悪い笑みを浮かべると、ハルは広い背中に頬をすりすりと押し付けた。

 うう、と柚月はうめく。
「非常に、とても、ものすごく、マズい」
「へー、そーなんだ」
 ハルはぎゅうっと柚月の背中を抱きしめた。 

 シンクに食器を落とす激しい音。
「ハル!」
「はあーい」

 面白かったのになー、とハルは柚月を解放する。
 柚月は食器が割れなかったか確認しながら言った。

「……風呂、入って来い。出来てるから」
「柚月さんが先に入ったほうがいいんじゃないの。オレでも良くなるくらいたまってるみたいだから」
「……ハル!」
「冗談だよー」
 ハルはくすくすと笑いながら浴室へ向かった。

   

   

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