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きみの手を引いて:5

    

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第五話

  

         
 Tシャツとパジャマのズボン姿で風呂から上がってきたハルは、上機嫌で鼻歌を歌いながら髪の毛を拭いている。

 柚月が自分に反応して、それをからかったのが面白くてならないらしい。

 冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、ごっくごっくと勢い良く飲み干す。
「ビールだったらもっといいんだけどなー」
「……」
 
 ソファーから柚月が伸び上がるように自分を見ていることに気づき、「飲んでないって」とペットボトルを振ってみせる。

「信用ないなー」
「……信用はしてる。ただ、俺をからかう為だけにビール飲むんじゃないかと思って牽制しただけだ」

 憮然とした柚月の声にハルは首を傾げる。 
「あれ、さっきのこと怒ってんの?」

 ハルはL字型のソファーの短い方へ座った。
「ちょっと抱きついただけなのに」

「そんな綺麗な顔で、気軽に抱きつくんじゃない」
「いーじゃん、別に抱きついたって。てゆーかまたそれ? オレ、キレイじゃないよ」

 ハルは顔をしかめてソファーの上で膝を抱えた。

「そんな、女みたい?」
「……女みたいっていうか、……男でも女でもないって感じだな。綺麗な、顔だ」

 ふん、とハルは鼻を鳴らす。

「言われるの嫌ならもう言わない」
「……女みたいって言われるよりは、まだキレイのがマシ」

 そのままハルは口を噤んでしまう。
 いやだ、と言い返してくると思っていた柚月は戸惑った。

 ハルは時々、急に押し黙って物思いに耽るところがあった。

 いつもは明るくふざけた様子のハルも、そんな時だけは大人しく沈んだ表情で俯いてしまう。

 自分の心の奥深くを覗いているハルの眼差しは暗く、どこも見てはいない。

 ふいにハルは我に返り、沈黙をごまかそうとするように言った。

「じゃあさー、男か女か確かめてみる?」
「ば……ばか言え」

 思わず焦って噛んだ柚月にハルは笑った。

「あ、やーらしいこと考えたー、今。見るだけってイミだったのに」
「……」

 柚月は頬を赤らめて苦虫を噛み潰したような顔をした。
 ハルはそんな柚月を面白そうに眺める。顔を傾け、抱えた膝の上に頬を乗せた。

「柚月さんだったら、本当にヤらしたげてもいいのに」
「ハル、お前な」
「うそうそ、冗談。冗談だってば。柚月さんは好きな人としかしないもんね。溜まりすぎでオレに反応しちゃってもヤるわけないよねー」
 
 夕食後のことをからかうハルを柚月はじっと見つめた。
 ためらいながら口を開く。

「……お前は、」
「え?」
 
 柚月の声が低くなり、聞き取れなかったハルは問い返す。
 柚月はもう一度言った。

「お前は、好きじゃない奴とでも出来るのか」

 ハルは驚いた。オレ、が? 好きじゃなくても出来るかって?

「オ……オレは」
 
 すぐに答えることが出来ない。今まで考えたこともなかった。
 ハルは柚月から目を逸らした。

「……そんなの、判んないよ。好きだの好きじゃないのってそんなに大事なこと? 好きじゃなかったらなんでヤらせたらいけないの? オレはただ」
 
 金くれるって言うからヤらせただけ ─── と言う前に、ハルは黙って唇を噛んだ。
 柚月が正しいのは判ってる。間違っているのは自分の方。
 
 でも悪いのはオレだけ?そんなはずない。

 そんなの、ズルい。

 唇を引き結んで俯いているハルをしばらく見つめていた柚月は、諦めて立ち上がった。浴室へ向かおうと背を向ける。

「─── 好きじゃなくても出来る」

 柚月の背中にハルの声が当たった。

 振り向いた柚月はソファーからゆっくり立ち上がったハルの真っすぐな目を捉える。

 濡れて光る少し長めの髪の毛。パジャマから覗く喉元は白く滑らかで触れてみたいと思わせるには充分だった。長い睫毛に縁取られた大きな茶色い瞳が瞬く。

 赤く、小さな唇が動いた。

「……好きじゃなくても出来るよ。嫌いな奴でも、なんとも思ってなくても平気。オレで反応するんなら寝てもいいよ。好き嫌い抜きで、……性欲処理だって思えば柚月さんだって出来……」
 
 柚月は拳を握りしめる。
 その気配に気づいたハルは目をぎゅっと閉じ、殴られる覚悟を決めた。
 
 衝撃が来ない。
 
「─── 好きじゃない奴とはしなくていいんだ」

 案に相違して柚月の静かな声が響く。
 ハルが恐る恐る目を開けると、もうそこに柚月はいなかった。

  

   

   

   

 浴室に入った柚月は頭からシャワーを浴びた。温かい湯が出るまで浴び続け、やっと止める。
 髪の毛を乱暴に洗いながら考えるのはハルのことだけだった。

(……毎日あれだけ見惚れて、挙句の果てには抱きつかれただけでその気になって)

(……気持ち悪いと思われてないだろうか……?)

 いや思われてる。絶対思われてる。最悪だ。
 
(でも、ただ、綺麗だなと思って)

 好きになってくれないかと思って。

「!」
 
 ハルへの好意を自覚して、柚月は自分でも驚き、うろたえた。そして次の瞬間には落ち込む。

(……いきなり性欲処理はあんまりだろう)

 その言葉に反応している下半身を見て情けなくなった。無視して体を洗い始める。

(あんな言葉が出てくるってことは俺なんか完全に恋愛の対象外ってことなんだろうな……)

 全然、これっぽっちも眼中にない、と呟いて強調する。それでもなかなか下半身は納得しないが、知ったことかと湯に浸かった。
 
 落ち着くのを待って浴室を出る。

 トランクスとTシャツを身に付け、TVが点け放しのリビングを見渡す。ハルの姿がない。

 消し忘れてロフトへ上がってしまったのだろうと、リモコンを探すべくソファーを回り込むと ─── 彼がそこにいた。

 ソファーに横になっている内に眠ってしまったらしい。リモコンを持った手が床近くまで下がっている。

 寝息に合わせてパジャマの胸元が上下していた。ついさっき、「処理で寝てやってもいい」などと口にしたとは思えないほどあどけない寝顔を、見つめてしまう。

 柔らかそうな赤い唇から、白い歯が少し覗いていた。

(……綺麗だな)

 何度見ても、起きていても、笑っていても、ぼんやりしていても、気に入らないという表情をしていてさえそう思った。

 そっと声をかける。

「……ここで寝たら風邪引くぞ。起きろ」

 起きないハルの肩に手を掛けて揺すった。ハルの手からリモコンを取り、TVを消してからテーブルに置く。

「ハル」

 起きそうもない、と見て取ると柚月は ─── 少しの逡巡の後、ハルを抱え上げた。思った以上に軽い。
 
 柚月の私室に連れて行き、ベッドへ寝かせる。

 ハルは起きなかった。

 柚月は跪き、ハルの髪に手を伸ばした。起こさぬようにそっと撫でる。

 リビングからの光源で、薄暗いベッドの上に浮かぶハルの小さな顔は柚月の知る他のどんな人間よりも美しく、艶めかしかった。

 もし俺がこのまま覆いかぶさったりしたら ─── ソファーでハルが眠っているのを見つけた時から、考えまいとしてきた思いが頭をよぎる。

(「オレで反応するんなら寝てもいいよ。好き嫌い抜きで」)

(……そんなこと、できるわけない)

 ハルにとっては性欲処理でも、自分にとってはそうではないのだ。

 柚月は頭を横に振り、ベッドから離れる。

 もう少しハルの傍にいたかったが、もし悪戯したと誤解されて嫌われでもしたら目も当てられない。

 寝室をそっと出た柚月はキッチンへ行き、冷蔵庫から缶ビールを出した。
 ソファーに座りTVを点けて眺めるが、内容がさっぱり頭に入って来ない。

(……どうしてこんなに惹かれるんだろう)

 最初は確かに綺麗な顔だ、と思った。にっこり笑って座っていれば、世間知らずのいいとこの子にしか見えない。しかしひとたび口を開けば、言葉は乱暴だし全く大人しくなどない。

 柚月のことなど平気でからかい、赤くなったと言っては笑い ─── しかもその笑顔は恐ろしく可愛らしい。ただそれだけなら、一ヶ月も一緒に暮らさない、と柚月は思う。

 容姿が美しく、中身は勝気で、無論それも魅力ではあったろうが ───。

(あの、暗く、寂しい目)

 ハルが時折見せる、自分の心の奥深くを覗きこみ、誰にも助けてもらえないと諦めてしまったような目。
 
 家出してからのことに関係しているのだろうか、と柚月は考えた。

 ハルからはっきり聞いたわけではないが、見当はついている。ハルは恐らく ─── 。
 想像すると胸にもやもやとした嫌なものが生まれる。それでも、考えずにはいられない。

(それであんな目をするように ───?)
しかし、なんだかそれは違う、という気がした。
 
 もっと何か ─── 誰にも言えない何か、ずっと以前の辛い記憶を思い出しているような。
 それが何かは判らない。詮索するのは許されていない。

 柚月はビールを飲み干してため息をついた。

 

  

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