« きみの手を引いて:6 | トップページ | きみの手を引いて:7 »

ヘヴンズブルー:5

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第5話

 

       
「……親が離婚したのは十歳の時だったかな。どっちも僕のこと欲しがらなくてさ。こんなそばかすだらけのみっともない子、いらない、迷惑だって怒鳴り合ってた、父親も母親も。それでも仕方なく父親が引き取って……すぐに新しい母親が出来たよ。離婚する前から付き合ってたひとみたい」

 ナオは淡々と話した。
 くす、と笑みさえ浮かべる。

「その人が絵に描いたような意地悪な継母だったってわけじゃないよ。いいひとだった。優しくて……七生ちゃん七生ちゃんって、実の母親よりも気に掛けてくれた。
 なのに、どうしても懐けなくて……僕が悪いんだけど。
 お母さんて呼べなかった」

 和臣はナオのくせのある髪の毛に顔をうずめた。
 抱く腕に力を込める。
 
「その内、あんまり話さなくなって……父親は僕のこと疎ましがってたし。すごい寂しい家だった。毎日、しーんとしててさ……。
 中学生の時、妹が出来たんだ。可愛かったよ。手なんかこんな小さくてさ、ミルクの匂いがしてた。当然、父さんもあのひとも妹に夢中になったよ。もう溺愛。
 父さんとあのひとと赤ちゃん、それで一つの家族。
 僕の居場所なんて、どこにもなかった」

 ナオは和臣の腕をやんわりと解き、ベッドの上でひざを抱えた。
 静かな笑みを浮かべている。
 
「遠慮がちに話しかけてくるあのひとも、僕を無視する父親もどっちもウザかった。妹は可愛かったけどどう扱ったらいいのか判んなかったし……自分の部屋にいても妹の泣く声とか一生懸命世話するあのひとの声とか、父さんとあのひとが妹のことで笑いあう声とか聞こえてきて。
 居づらくて、ほんと居づらくてさ、家に帰りたくなくて。
 ……僕は妹と違って、要らない子供だったから……」

 こんな話、退屈でしょうとナオは横になったままの和臣を見下ろす。
 和臣はいいやと頭を横に振った。

「……家にいらんなくて、どこも行くとこなくて……ふらふらしてたら、女の人に声掛けられた。初めてシゴトして……てゆーか、童貞だったんだよね、そんとき。で、二万もらって……気持ちいーことしてこんなもらえるの? ラッキーとか思って。何回か女の人相手に仕事して、家出たかったからもっと稼げないかなあと思って……男の人、相手にした」

 へへー、とナオは笑う。処女ソーシツ。すっごいイタかった。終わったあとの方が痛いよねー。
 面白くない和臣はつっけんどんに、それで、と先を促した。

「その男の人さ、僕のこと気に入ってくれて、専属……結婚してたから、愛人? みたいなことになったんだ。一年くらい。家には夜バイトしてるって言って、まあほとんど帰らなかったしその頃はもう、父さんもあのひとも僕には無関心だったから……で、中学卒業する時に一人で暮らすって言って家出て、その男の人にお金出してもらってアパート借りた。愛人みたいって言うか、こうなるともう完全に愛人だよね」

 和臣はナオの腕を掴んで強く引いた。
 体勢を崩したナオは和臣に組み敷かれる。

「……二年経って、奥さんにバレたんだ」

 ナオは無表情でわずか数センチ先の和臣の目を見つめた。
 すぐにいつもの柔らかい笑みを浮かべ、軽い口調で話を続ける。

「すっごい修羅場。アパートに乗り込んできて、いきなり頭、バッグでぶん殴られた。あんた一体なんなの、男のくせに……って。僕もそう思った。僕は一体何なんだろう、何で男と寝てんだろう、どうしてこんなことになっちゃったんだろうって。ぼーっとしてたら、奥さんに首絞められて、島崎さんが ─── あ、旦那さんね、止めに入って。ふざけるな、殺してやるとか奥さん泣き喚いて物投げてくるし、島崎さんはそれなだめようとして、落ち着け落ち着けってそればっか……もうここで奥さんに殺されてもいいやとか思ってたら、島崎さんが奥さんの肩抱いて出てって……のど痛いし、部屋ん中めちゃくちゃだし、放心状態で座り込んでたらケータイかかって来て。島崎さんから。もう二度とアパート行かないって小さい声で言って、切れちゃった」
 
 和臣は絞められたというナオの白いのどに指を這わせる。
 無論、そこには何の跡も残されてはいない。

「なんかさ、あの修羅場の後、めちゃくちゃの部屋の真ん中で自分もぼろぼろで、堕ちるとこまで堕ちたってこんなカンジかなーって思った。男なのに男に囲われてお手当てもらっていい気になってたら、奥さんにバレて殺されそうになって。……サイッテーだな、死んだ方がマシだなって思った。でもさ、部屋片付けてる間になんかおっかしくなってきちゃって。今時、昼ドラでもこんなのないよって。
 泣きながら笑ってた。声、掠れて出ないんだけど。
 両親に要らないって言われたときに死んじゃえばよかった、そしたらこんなめちゃくちゃなことにならなかったのにって思いながら、昼ドラかよって自分で突っ込んでんの。殺されかけていよいよ頭おかしくなったんだなーと思って、もうどうでもいいやって一晩寝て、……通りに立ってお客探した」

 金、なかったのかと和臣は訊く。
 ナオは頭を横に振った。

「……しばらく生活してけるくらいはあったけど、家賃とか島崎さん当てに出来なくなったから……それにもうこんなめちゃくちゃなんだし、どうだってイイやって。あの人以外、男相手にしたことなかったんだけど案外平気だった。やることなんて大して変わんないし、……その内ヘヴンとかにも行くようになって、ウリ街道まっしぐら。─── ね。大層な理由なんてないでしょ」

 和臣はナオの額にかかる髪の毛を撫で上げる。
 あきれた? と訊くナオに首を振ってみせた。

「ムリしなくていいよ。こんな奴そばにいたら、僕ならなんてバカな奴なんだろうって呆れてる。
 ……あの時。
 親に要らないって言われたあの時、死んじゃえば良かったのかなあ?
 僕がハルみたいにキレイだったら要らないって言われなかったかなあ? そしたら、もっと、……」
 
 ナオがハルに固執する訳を、和臣は思い至る。
 ─── ハルに、というよりも美醜に。ハルはナオが知る少年の中で最も美形というだけだ。

「……つまんない話して、ごめんね」

 和臣はナオの額にキスを落とし、お前が一番美人だと囁く。
 目をぱちぱちと瞬かせたナオはにこりと笑った。

   

     

     目次next≫ 

 

↓投票して頂けると嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

 

« きみの手を引いて:6 | トップページ | きみの手を引いて:7 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヘヴンズブルー:5:

« きみの手を引いて:6 | トップページ | きみの手を引いて:7 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ