« きみの手を引いて:7 | トップページ | 「きみの」四十一話更新♪ »

ヘヴンズブルー:6

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第6話

 

       
 その日を境にして、和臣の目はナオを追い始めた。

「客が付かなかったら言えよ。俺が買ってやる」
 
 あの日の朝、そう言った和臣を「オーナーの気まぐれ」とばかりにナオは本気にせず、笑った。

「売れ残りなんか相手にしなくたって、臣さんならよりどりみどりでしょ」
 
 出会ったのは一年以上も前、ナオは今までの間に和臣が自分と同じシゴトの子をとっかえひっかえしているのも、玄人素人問わず女遊びを繰り返すのも、目の当たりにしてきた。

 またナオはナオで客が誰であれ、よほど性質が悪くなければ金で買われる商売をしてきた上に、和臣に過去を知られてしまっている。

 和臣が自分に執着するなどありえない。少なくともナオはそう思っていた。

 ナオに相手にされなかった和臣は、歯噛みする思いで彼の常連客を睨みつける。

 ナオが常連客に向ける笑顔や、さりげなく甘える仕草、連れ立って店を出て行くときの和臣の目付きはあからさまに尋常ではない。

「ナオの隣にいる奴、誰だ。知ってるか」

 たまたま運悪くカウンターの中にいたバーテンの河合は、雇い主の剣呑な声にびくつきながら答える。

「えーと、……最近、ナオくんのこと気に入ってるみたいで……高木さんってナオくんは呼んでましたけど……結構はずんでくれるって喜んでましたよ……」

 高木は実直で人の良さそうな顔をしていた。小太りで眼鏡をかけている姿は、普通の四十代後半のサラリーマンだ。笑うと目がなくなりいかにも優しそうに見える。

 ナオを愛人として囲っていた島崎 ─── 和臣は見たこともなかったが ─── と重なり、胸がちりちりと焦げる思いがした。

(……あんなふうに……島崎にも笑って……)

 暗い照明の下で高木に笑いかけるナオから目を背ける。手の中のグラスをぐっと握りしめた。

「ま、まあ、ナオくんもせっかくの常連さんですから……愛想良くしないと……」

 雇い主に八つ当たりで眼光鋭く睨まれ、河合はそそくさと奥の厨房に引っ込む。一部始終を見ていたレイはその後、他のスタッフに「だってオーナーが怖いんですよう、カウンターにいられません~」と泣き言を言っている河合を目撃した……。

 ナオの客が顔を出さない夜の和臣はまるで別人のように機嫌が良かった。フロアマネージャーを使って彼をスタッフルームに呼び出し、相場に上乗せした額を提示する。

 ナオはいつも困ったように和臣を見上げ、仕方なさそうにうなずく。
 その様子は、彼を金で無理やり自由にしているという意識を和臣に植え付け、苛立ちを生んだ。

 和臣は苛立ちをかき消そうとナオを何度も抱く。
「……や…っ臣さん、も……やだっ……」
 
 哀願するナオの唇を、枕に押し付け、あるいは和臣自身の唇で塞ぎ欲望を満たした。

 そんな夜が幾日も過ぎ、ついに和臣はナオへの気持ちを自覚した。

 一日中、ナオのことが気にかかって仕方がない。ヘヴンに来なければ外で客引きをしているのかと気を揉み、来たら来たで声をかける奴がいないか、やきもきしながら見守る。
 
 いっそそれこそ愛人にでもしてしまえばいい、という考えが頭をもたげないでもなかったが、和臣には出来なかった。

 欲しいのはナオの心。

 ─── 身体だけいくら手に入れてもムダだ。
 
 ナオの過去を知ったあの夜の予感は的中した。
 和臣はナオに心を奪われ、どうしようもなく夢中になってしまった。

 そんな自分がおかしくてこみ上げてくる笑いを抑えることが出来ない。
「臣さん?」
 
 和臣のベッドの中。きょとんとした面持ちで下から見上げてくるのはバスローブ姿の愛しき君。

 一緒に夜を過ごすのが何回目か、正直ナオは覚えていない。
 それでも、ベッドの中でいきなり和臣が笑い出したことは今まで一度もないはずだ。

 和臣はひとしきり笑うと、ナオの柔らかい髪の毛を撫でた。
 
「今日はいい」
 とびきり優しい声で囁き、はだけたバスローブを整える。まるで壊れ物を扱うように彼の頬に触れた。

「何もしなくていいから、朝までそばにいてくれ」

 ベッドの中でナオは戸惑い、不審な表情で和臣を見上げる。
 和臣の真意がわからない。

 ─── 何もしなくていいって?

 つい、おとといまでさんざん僕の……アレ、舐めて「イイ声だ」って言ってたのに?「お願い」しなきゃイかせてくれなかったのに?

 僕の中の気持ちいいとこ指で探して、見つけたらそこばっかりいじって、僕が泣きそうになってもやめてくれなかったのに?

「─── 飽きたから?」

 ナオの言葉に和臣は驚く。ただ、ナオのぬくもりを抱きしめて眠りたかっただけだ。
 終わった後、ナオはさりげなく離れて眠ってしまうから、だから。

 初めから何もしなければ、朝まで腕の中にいてくれると思っただけだ。

「あ、図星。いいよ、飽きたなら飽きたって言って下さい。僕はこの通り色気もないし、ハルみたいな美人でもない、チビでそばかすの売れ残りだよ。……とっくの昔に飽きたって言われてもおかしくないんだから」

 ナオは和臣をそっと押しのけて身体を起こす。

「へへ……とうとう飽きられちゃった。まあ持ったほうだよね、臣さんみたいなひとが僕なんて買う必要ないもん。ハルを思い出させるからって、無理に僕みたいなの買わなくても」
 
 ベッドを下りようとしたナオの肩を掴む。
 強く引いて、和臣はナオをベッドに押さえつけた。
  
「─── 二度と」

 低く、押し殺した声が和臣の口から漏れる。

「二度と、あいつの名前を出すな」

 ナオが自分でも薄々とは気が付いているであろう劣等感から、ハルの名を出すのが見ていられなかった。

「……お前が一番美人だって言ってるだろう?」
 
 ナオは怯えたように覆いかぶさる和臣を見上げる。─── 和臣の逆鱗に触れたと思った。

(……やっぱり、ハルのこと好きなんだ)

 他の男に取られた、本気で好きな子の名前を何度も呼ばれて面白いはずがない。

(どう……どうしよう、臣さんを怒らせた……)

 この失敗をどうにか取り繕わなければ、とナオはおずおずと口を開く。

「ご……ごめんなさい。もう、あの……呼んだりしないから……」

 普段は対等な風を装うナオが、自分の機嫌を損ねまいとする様子は和臣の劣情を掻き立てた。

 乱暴に唇を奪う。一方的なキスの後、和臣はナオの耳朶を甘く噛みながら囁く。

「……飽きてなんか、いない」

「……うん……」
   
 ちっとも納得していない声色で肯定するナオの首筋に舌を這わせる。
 びく、とナオは身体を震わせた。

「……俺が怖いのか?」
 
 バスローブの合わせから手を差し入れ、小さな突起を指で弄ぶ。優しく摘まれナオは身を捩った。

「……そりゃ、……ヘヴンのオーナーだもん……」
 
 和臣はすっと目を細める。─── いつまでもたっても、ナオにとって自分は追い出されたら困る「仕事場」のオーナーで、寝たくなくても断れないってわけか。

 同じ夜を幾度過ごしても。

 自分がどれほどナオを思っていても。

「……そうか、よく判った」

 冷える心とは裏腹に和臣の熱は高まっていく。身を捩るナオの仕草が拍車をかけた。
 
 執拗にナオの薄い胸を舌で舐る。バスローブの裾を割り、膝から柔らかい太ももを撫で回した。付け根には手を触れない。

 それでも、ナオ自身が徐々に大きくなっていく。

「ん……っう……」
 
 ナオが微かに漏らす声に煽られ、彼のものを口に含む。一瞬ナオは身体を硬くしたが、すぐに力を抜いた。

 うすぼんやりと夜が明ける頃、やっと解放されたナオはぐったりと身体を横たえる。いつにも増して執拗な和臣の愛撫に疲れ果てていた。

 何度も頂点を昇らされ、喘いだ喉がひりつく。

(……そういえば「あンのエロオヤジ、しつこいんだよっ」ってハルがずっと前言ってたっけ……)

 なるほど、と思わず笑いそうになる。

 和臣と目が合い、笑うのを止めた。

 ─── ひどく寂しそうな目の色をしていた。

 ナオの頬にゆっくりと、手を伸ばしてくる。恐る恐る指先が触れ、手の平が頬を包み込む。

 和臣の優しい手の平の熱が心地よくて、ナオは目を閉じた。

(本当は、ハルにこうしたいんだろうな……)

(何だってハルはあのひとなんか選んだろ……臣さんはこんなに優しくて、ハルのこと思いながら僕を身代わりにするくらいなのに……)

(けど、身代わりも今日でおしまい。……臣さんに飽きられちゃった。そりゃそうだよね、ハルに比べたらお粗末で話にならないもん)

(僕は、ハルじゃないもの……)

 沈み込むような眠りにナオは落ちて行く。
 和臣はナオを背中をから抱きしめ、腕の中に閉じ込める。

 ─── ナオの心が遠くて、どうしたらいいか判らない。

 近づき方を知らない和臣は、ただ抱きしめることしか出来なかった。

  

    

   目次next≫

  

↓投票して頂けると嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

 

« きみの手を引いて:7 | トップページ | 「きみの」四十一話更新♪ »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヘヴンズブルー:6:

« きみの手を引いて:7 | トップページ | 「きみの」四十一話更新♪ »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ