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きみの手を引いて:7

   

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

   

 第七話

 

      
 普段なら起きるのが遅いハルの朝食を作るだけ作って、顔も合わせずに出かけてしまう柚月だったが、その日の朝は二人でテーブルに着いていた。

 ソファーで眠ってしまった柚月が寝坊したのだ。九時過ぎに目が覚めた彼は慌てて服を着替えに自分の部屋へ飛び込んだが、そこに居るはずのハルがいない。

 着替えもせずに自分の部屋から出ると柚月はリビングを見回し、ロフトの梯子に手を掛ける。
 少しカーテンが開いたのを感じたハルは寝ている振りをした。目を閉じて規則正しい呼吸を繰り返す。

 柚月の気配が去ってから目を開けた。気づかれないように寝返りを打つ。
 ─── ハルは自分の布団に入ってから結局、一睡も出来なかった。

 どうしてなのか判らない。落ち着かない。
 柚月の事ばかり頭にちらついて離れない。
 
 そうこうしている内に「朝メシ、食うか?」と柚月に声を掛けられ、「あっ、うん」と答えて飛び起きたハルはロフトの天井に頭をぶつけた。

 頭をさすりながらダイニングの椅子に座り、今に至っている。
「あの、……今日、ガッコ行かなくていいの」
「午後から行く。……午前は諦めた」

 柚月をまともに見れずハルは目玉焼きを凝視した。
「……寝坊したの、オレのせいだよね……? ソファーで寝たから……」
 抱き上げられた時、からかったりしないで起きれば良かったと悔やむ。

「お前のせいじゃない。目覚まし掛け忘れた俺が悪い」
 飄々と言う柚月に反発心が募る。─── オレのせいだと思ってるくせに。

「何でベッドに運んだりしたんだよ? ソファーで寝かせとけば良かったのに。……あ、ひょっとしてイタズラするつもりだった? てゆーか、イタズラした?」
 口が勝手に動き、止まらない。
「寝てると思ってチュウぐらいしたんじゃないのー」
 
 ばかッ、それはオレだ、とハルは自分で自分の頭をぶん殴りたくなる。
 柚月は何もしなかった。ハルの髪の毛をそっと撫ぜただけだ。
 
(判ってる。知ってる)

 イタズラしたのはオレの方だ。ハルはぐっと言葉に詰まり、唇を噛んだ。
 柚月は箸を止めて、起きてから視線を合わせようとしないハルを見つめた。

「風邪引くと思って運んだだけだ。……疑われても仕方がないけど、何もしてない。本当だ。証明は出来ないが」
「ほらっ証明できないじゃんか、何もしてないって口だけなら何とでも言えるもんね!」
 ちきしょうこの口を縫い合わせてしまいたい、とハルは心の中で悶絶しながら、柚月に思ってもいない言葉を投げつけてしまう。

「溜まりすぎでオレに抱きつかれただけで勃ってんのに、何もしてないなんて信じられるわけないだろ!」
「……信用してもらえないのは判ってる。けど本当に何もしてない。眠ってる相手に何かするなんて最低なことはしない。本当だ。信じて欲しい」

「───」 
 ハルはぽかんと口を開けて柚月をまじまじと見た。
 柚月はさらに続ける。

「ただベッドへ運んだだけだ。信用したか?」
「……最低……?」
「え?」
「……ああ、そっか……サイテーか……そうだよね……」 
 
 ハルは頭が真っ白になっていた。
(「眠ってる相手に何かするなんて最低」)

 ……その通りだ。
(だって柚月さんはオレの恋人でもなけりゃ客ですらなくて、だから勝手にキスなんてしたらいけなくて) 
(眠ってて意識がない時なんて絶対ダメで)

「……っ」
 俯いてハルは立ち上がる。乱暴な所作に、ガタンと椅子が鳴った。
「……ハル?」
 トーストを口に入れようとした手を止めて柚月はハルを見上げる。

 ハルは視線を合わせず足早に柚月の側を通り、ロフトに向かう。
「おい、メシは? ほとんど手、つけてないじゃないか」
「いらない」
「いらないって……」
「ほっとけよっ、……柚月さんなんか」
 
 優しくて誠実でお人よしで、朴念仁。オレに、ただの居候に、寝てるときキスされたのも気が付かない。

 そんな最低なことされたのも気が付かない。

(……当たり前だ。判らないようにしたんだもん。後でこのひとが聞いたらどんな顔するか、からかってやろうと思って)

(……あんなこと、しなけりゃ良かった)

 ひどい後悔の念が襲う。柚月に最低と罵られるくらいだったら、何もしなければ良かった。

「ハル? 一体どうし……」
 目の縁を赤くして涙を溜めたハルに驚く柚月。席を立ってハルに近づく。
 ハルはロフトに逃げ込んだ。

 慌てて追う柚月の目の前でシャッとカーテンが閉まる。
「待っ、話を聞いてくれハル、本当に何もしてないんだっ。い……いや、あの、ほんとはちょっとさわっ……髪、髪の毛を撫でただけだ! ごめん、嘘ついてごめん、もうしない、悪かった! でもほんとにちょっと触っただけなんだ、寝込みを襲うような真似は絶対してな」
「もうっほっといてよ! 柚月さんのばかっ!」
 
 髪の毛撫でた? なにそれ? 触ったうちに入んの? 謝るようなこと?
 オレなんか。
 寝込み襲って悪かったねー!

 ……ハルは心の中で絶叫してタオルケットを頭から被った。

 

「……ハル」
 ハルにばか、と罵られた柚月はそれを真っすぐに受け止めて落ち込んだ。
 
 なぜハルが急に怒り出したのか判らない。何もしていないと言う言葉を信じられなかったのだろうか?

(……信じられないのも無理はないか)

 柚月はため息をついた。─── あれだけ見惚れて、抱きつかれただけで半勃ちになってるようでは信用できなくて当然だ。俺がハルでも不信感を募らせるだろう……。

 自分で考えたことに柚月はますます落ち込む。
 浮かない表情で洗濯物を干し終え、カーテンがぴっちり閉められたロフトを見上げた。

 声をかければハルの機嫌は尚一層悪くなるだろう。
 静かにその前を横切り、玄関で靴を履く。パーテーションからもう一度ロフトを覗いたが、開く気配のないカーテンに肩を落とし、柚月は外へ出た。

 

 

 

 夕方、帰って来た柚月はシンクに朝食を平らげた皿が置いてあるのを見て、ほっとした。ハルが何も食べないのでは、と一日中危惧してしまった。
 彼がそのことを知れば「うざっ、ガキじゃねんだから」と顔をしかめるだろう。

 その顔を想像していると、ロフトのカーテンが開いた。
 ハルはしかめ面ではなく、寝ぼけ顔だった。今まで寝ていたらしく目を擦りながら降りてくる。

「……朝? 夜?」
「夕方だ。メシ作るから待ってろ」
「うん」

 ハルが普通に話してくれたことに安堵し、柚月は上機嫌で洗濯物を取り込んでから台所に立つ。
 食材を刻みながら、ふとハルを見るとソファーの脇で洗濯物を畳んでいた。

 珍しいな、というか洗濯物畳む所初めて見た、と思いながら柚月は手早くチキンのトマト煮込みとサラダを拵える。昨日の残りの肉じゃがをテーブルの上に出した時には、ハルはもう食べ始めていた。

「おかわりっ」
「……昼メシ食ってないだろ、お前」
 突き出された皿を受け取り、なみなみとチキンをよそってハルに手渡す。

「細いのに良くそんなに食えるな」
「成長期なんだよ。柚月さんみたいなオジサンには判んないだろうけどー」
 がっつきながらハルは憎まれ口を叩く。普段どおりの彼に柚月は安心する。

 メシ作って二人で食べて、ハルの食いっぷりに呆れて。
 そうしてる内にちょっとぎくしゃくしてた空気なんかなくなってしまう。

 ハルが無意識に切ない目で自分を見ていることに柚月は気づかず、いつもと変わらない彼だと信じて疑わなかった。
 
 

    

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