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ヘヴンズブルー:8

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第8話

 

       
 ナオはほっと安堵の息を漏らした。─── 自分が暴力を振るわれるのはかまわない。しかしオーナーの和臣に何かあったらどうするのか?
 スーツ姿の広い背中をナオは見上げた。
 
 視線に気づいたかのように和臣が振り返る。
「─── 何ですぐにどかなかったんですか?」
 ナオは思わず、咎める口調になる。

「あいつかなりヤバかった、下手したら殴られてたよ、てゆうか臣さん先約じゃないし! この前もそうだ、オーナーのくせに何だってのこのこクスリキメてる奴んとこ出て来るんです!?」
「─── お前が他の男に触られてるのを見るのは我慢がならない」
「え?」

 和臣はほとんど無表情で呟く。嘘偽ざる本音が思わず口をついてしまった。
 ナオには聞き取れなかったそれを咳払いで誤魔化す。
 
「……売れ残ったら買うと言ったはずだ。ちゃんと先約はしてある。あいつを客にする気はないんだろう、だったら売れ残りだ、俺が買う」
「……」
 釈然としない面持ちでナオは俯く。

「その金額じゃ不満か?」
 俯いた先にあったナオの両手に包まれた札束を和臣は顎で指し、また財布を取り出した。
「ずっと俺を避けてたな? 気づかないとでも思ったか、……幾らなら俺に買われてくれるんだ?」
「やめて下さいオーナー」
 
 ナオは視線を周りに走らせる。充が退場したことでギャラリーは三々五々散っていったが、まだ幾人か残っている。
 ナオがどこまで吊り上げるのか、ひそひそと隣りと話し、忍び笑う。

 居たたまれなくなり、ナオはスタッフルームに逃げ込んだ。すぐに和臣も後を追ってくる。 「……助けてくれてありがとうございました」
 和臣と対峙したナオは札束を突き出した。

「僕、帰ります」
 和臣は絶句した。─── 金を出せばナオを買えると思っていた。心が無理ならせめて身体だけでも欲しかった。
「……どうして。何が気に入らない? 金か? 俺が怖いからか? 嫌いだからか?─── それとも」

 ごくりと和臣の喉が鳴る。
「……誰か、好きな奴がいるのか……?」

 以前から漠然と考えていたことを口にする。
 ナオは初めから自分には買われたくなさそうだった。レイを紹介されたことさえある。最初からナオは自分を遠ざけようと ───。
 ナオの常連の顔が何人も脳裏に浮かぶ。どいつだ? 誰が好きなんだ? 全員出入り禁止にしてやる!

 嫉妬で我を失いそうになっている和臣にナオは微笑んだ。─── 淋しい、笑み。
「好きな人がいるの、臣さんの方でしょ」
 俯き、それでも笑みを絶やさない。何でもないように見せかけたかった。

「ハルのこと好きなんでしょう。僕と寝てハルを思い出したいんでしょう?……残念だったね、こんなチビで不細工で色気もないのがハルの友達で。ハルとは月とスッポン、話になんない。……もう無理して買わなくていいよ、臣さんがこれっぽっちも似てない僕をハルだと思いこもうとして、飽きてきても構おうとするの見てらんない」

 和臣は言葉も出ない。俺がハルを好き? 冗談だろう。
 今も目の前のこいつのことで頭がいっぱいなのに。

 壁を背にしたナオに和臣は一歩近づく。ナオは一歩下がり、壁に背中を付けた。
 逃げ場が無いナオを追い詰める格好で和臣は彼に手を伸ばした。

「ナオ」

「僕はハルじゃない!」

 和臣の手が肩に触れる寸前、悲鳴のような声。
 ナオはもう笑ってはいなかった。
 顔を俯かせたまま目に涙を滲ませている。

 衝動的に和臣を怒鳴りつけてしまった。ハルの身代わりにされるのがひどく辛くて、嫌だったとしても大声を出して拒絶するつもりはなかった。
 和臣がヘヴンのオーナーだからではない。

(……臣さんを傷つけたくない)
 自分はハルじゃない、ハルの身代わりは嫌だと突きつけられれば、和臣は彼の面影を捜すのを諦めるしかなくなる。未だにハルを忘れられない和臣にとってそれはどれほど残酷なことか。

「……っごめんなさい」
 ナオは身を翻し、走ってスタッフルームを出た。
 足早に通り過ぎるナオに気づいたレイと牧田が目を丸くして見送る。
 その視線を振り払うように階段を駆け上がった。

  

  

 札束を握り締めたままだったことに気づいたのは、ヘヴンズブルーを出てすぐだった。右手を開かずに隙間から飛び出した紙幣を見つめる。
 振り返るとHeaven's blueと書かれたネオンが目に入る。

 気まずくてとても返しに行けない。
 ダッフルコートのポケットに右手を突っ込んだ。行く当ても無く歩き出す。

(明日返そう。……臣さんがどうしても僕としたいって言ったら寝てもいいや。だって客選べる立場じゃないし、それに臣さんはヘヴンのオーナーで超金持ちだよ。断る方がおかしい。セレブの気まぐれに付き合うくらいどうってことない)

(臣さんが見てるのが僕じゃなくたって構わない)

(「物好きだよねえ、臣さんて。僕でいいんなら幾らでも相手するけどさ、」)
(軽く言って笑う。今日のこと忘れた振りして。……大丈夫、言える。笑える。全然平気)
(臣さんがハルのこと好きでも平気)

 優しく笑いかける和臣を思い浮かべる。ナオ、と彼が呼ぶ。
『何もしなくていいから朝までそばにいてくれ』

「……なんで僕、ハルじゃないのかな……」
 もし僕がハルだったら他のひとなんか見ないで、ずっと臣さんのそばにいるのに。

「─── ハルってダレだ?」

 ナオは足を止める。

 いきなり後ろから掛けられた声に息を詰めた。
 嫌な、とても嫌な気配が背後から近づいてくる。

 ゆっくりと振り返ったナオの瞳に映ったのは、にやにやと薄ら笑う充だった。

  

     

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