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きみの手を引いて:8

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第八話

 
  
 紺色のパジャマを身に着けたハルが柚月のベッドで眠っている。少し開いた唇から歯を覗かせたあどけない表情。髪の毛は生乾きで艶やかに光っている。
 ソファーで眠ってしまったハルを、柚月がベッドへ運んだ昨日の夜と同じ状況だった。

 違うのは ───。
 
 自分の手がハルのパジャマのボタンを外していく。
 柚月は自分の意思とは裏腹のその行為に驚き、慌てた。
 しかし手は止まらない。

 気配に気づいたハルは身動ぎして目を開けた。
 ぼんやりと柚月の顔を見上げ、次に襟元を寛げようとしているその手を凝視する。
「……柚月さん……?」

 もう一度柚月の目を見つめた時、何が起こっているのかを察したハルは ─── 泣きそうな表情で頭をゆっくり横に振った。

「柚月さん……」
 嫌だという響きをひそませた、小さな小さな声。

 柚月はハルの身体にのしかかった。
 押し戻そうとするハルの手を払いのける。
 背けた顔を無理やり自分の方に向かせて口付けた。ハルの左手は柚月の肩を押し、右手は柚月のTシャツの背中を引っ張り引き離そうとする。

 そんな必死の抵抗も意に介さず、柚月はハルのいつもほの赤い唇も温かく甘い口腔も思うさま味わってようやく解放した。
 すぐに身体を捩じって柚月から逃れようとするハルの腕を掴み、ベッドに押さえつけ滑らかな喉に唇を這わせる。

「……やだっ……やめて……!」
 とうとう悲鳴を上げたハルの目に涙が浮かんでいた。
 構わず柚月の舌はボタンの外れた胸元へ進む。

 ハルの両足の間に片膝を割り込ませ細い腰を押さえつける。足をばたつかせる事も出来なくなったハルは諦めたのか、身体の力を抜いた。

 柚月はハルのパジャマのズボンに手を掛ける。
 横を向き中空を見つめるハルの瞳から涙がこぼれた。

  

  

 
「───!」
 柚月は飛び起きた。
 自分のベッドの上。レイプされたハルが隣りにいる ─── などということは無く一人だった。

 息を荒げて周りを見回す。暗い中に作り付けのクローゼットの扉が浮かぶ。本棚の前には入りきらない本が積んであり、その横の机の上はノートパソコンやら書類やらが占領していた。決して広くは無いが過ごしやすい見慣れた自分の部屋だ。真っ暗なのは真夜中だからだろうか。

 枕元の目覚まし時計を見ると午前二時。柚月はパジャマの襟ぐりを片手で掴んだ。
(夢で良かった……)
 心底、そう思った。まだ動悸が治まらない。

 ほっとしたのも束の間、自己主張する下半身に気づいて落ち込む。
(……眠ってる相手に何かするなんて最低なことはしない、だと? 我ながら聞いて呆れる、夢に見るほど触れたかったくせに)

 壁に頭を打ち付けたい。自己嫌悪でどうかしそうだ。
 ベッドに横になりタオルケットを頭の上まで引き上げる。二転三転、寝返りを打つがとても眠れそうになかった。
 
 諦めてタオルケットを跳ね除ける。ベッドを下りて部屋を出た。
 もう暗闇に目が慣れていたので、明かりを点けずに真っすぐ冷蔵庫に向かう。冷えたビールを取り出して、プルトップを引き上げた。
(ちょっと落ち着いてから寝よう)

 一気に半分ほど飲み一息つく。油断すると夢の中のハルが、泣きそうなハルが容赦なく脳裏に浮かんでくる。
(最悪だ。最低だ……)
 
 どうせ夢なら抵抗しないで欲しかった。
 一瞬そう考えて、もうアルコールがまわったのかと冷蔵庫のドアの表面に額をぶつける。ごち、と頭の中に響いた。

「─── 柚月さん」
 唐突に。
 本当に唐突に、ハルの声がした。……背後だ。

 柚月は呼吸を止めて振り返った。
 ハルが、いた。間の悪いことに紺色のパジャマを着ている。─── 柚月に触れられるのを嫌がり、顔を背け「やめて」と懇願した夢の中と同じパジャマ。

 柚月の動揺も知らず、当の本人は不思議そうに首をかしげた。
「……どうかしたんですか?」
「どっどうかって、な、なにが」

「あの、……いつも冷蔵庫相手にキスしてんの?」
「違うっ! そんなわけないだろう!」

 冷蔵庫にキスしてたんじゃないキスしたいのはお前だそれ以上もしたくてでもめちゃくちゃ嫌がられてああ夢だった良かったと思ったけど下半身が落ち着いてくれなくてアルコールで紛らわそうとして、だから。

 だから、これ以上近寄るな。

 ハルは背伸びをした。
「あれ、……カオ赤いよ? 熱あるんじゃ」
 ひやりとした冷たい手の平が柚月の額に押し当てられる。何の警戒もしていないハルの仕草。
 理性が飛びそうになった柚月は。

「触るな!!」
 ハルの手を、自分を心配しているその手を払いのけた。
 ぱしん、という乾いた微かな音。
 驚いたハルの表情。
 払いのけられた手を見つめ、また柚月に焦点を合わせる。

 ─── 夢でしか見たことの無いハルの泣きそうな顔。
 柚月は動転した。
 いつだってハルは生意気に自分をからかい、明るく笑っていたのに。
 
「あ……あ……ごめん、そんなつもりじゃ」
 本当は振り払いたくなかった。その手を掴み、引き寄せて抱きしめたかった。
 ─── 安心しきって無防備に近づいてきたハルはどんなに驚くだろう。慌てて振り解こうと抵抗、夢の中と同じように「やめて柚月さん」と悲鳴を上げて ───。

 そんなことは出来ない。嫌われてしまう。
「ね……熱なんかない。昨日だって何もしてない、本当だ! 何かするつもりなんてない」

 自分に言い聞かせるように呟く柚月。
 ハルを無理やり手に入れようとする夢を見た罪悪感、たった今もハルを自分のものにしたいと主張する下半身に対する罪悪感。

「俺に近寄るな」
 今、ハルにそばに来られたら理性が消し飛ぶ。

 右手にある半分残った缶ビールを抑制剤にしようと握りしめる。その冷たさに意識を集中させた。

「……何もしてないって知ってるよ」
 俯き、微かに震える小さな声。

「オレが風邪引くと思って、運んでくれたんだよね。知ってるよ。……でもそのせいで、柚月さんが風邪引いたんじゃないかって、オレ」
 柚月の額に触れ、払いのけられた手を見つめてぎゅっと握る。

「なれなれ、しく、して、ご……ごめん、なさい」
 たどたどしいハルの言葉。握った手の甲で瞼を擦った。

(泣かせた)
 身体の熱がすうっと冷めていく。
 柚月はうろたえた。どうしたらいいのか判らず立ち尽くす。

 身を翻したハルは足早にロフトに上がってしまう。

(泣かせてしまった。どうしよう。どうしたらいい?……あのままハルに触れられていたら無理やり抱きしめてた、キスしてた、それ以上もきっとしてた……! だから仕方なかった、好きでもない奴にそんなことされないように警告した)
 
(ハルの為だけじゃない、ハルに嫌われたくなかった。力ずくでそんなことしたら嫌われてしまう)

(嫌われたくない)
 柚月は縋るようにロフトのカーテンを見上げた。物音も、─── 泣き声も聞こえない。
 
 柚月はゆるゆると右手を上げ、ビールを一口飲んだ。 
 もう飲む気になれないことに気づいて、缶をシンクに置き、肩を落とした。

  

 

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