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きみの手を引いて:9

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第九話

 

 午前一時五十五分。ハルは眠れずに何回目かの寝返りを打った。
(夕方まで寝ちゃったからだ)
 それでなくても一ヶ月前までほとんど昼夜逆転の夜型生活で、一時に眠れるようになったのはここ一週間のことだった。

 大体、朝の四時五時に眠りについていた人間が夜中の十二時に布団に入っても眠れるわけがない。ハルは夜中に起きている感覚を取り戻しつつあった。
 その上、ハルの眠りを妨げる障害物がもうひとつ。

(……もう寝たのかな、柚月さん)
 形の良い唇を指でなぞる。
 柚月の唇の感触を思い出し、自分では知らず頬を赤らめた。

 すぐに頭を横に振って柚月を意識から締め出そうと試みる。面白かったTV番組のこと、チキンのトマト煮込みが絶品だったこと、明日のメシは何かなと考え、「柚月は料理が上手い」にたどり着き、またもや彼のことで頭が一杯になっている自分に気づく。
  
(何やってんだオレ)
 ハルがため息をついた時、柚月の部屋から物音がした。
(……?)

 しばらく耳をそばだててみる。
 ドアが開き、閉まる音。柚月が起きて来たらしい。

 ハルはカーテンの隙間から梯子に足をかけて静かに降りた。冷蔵庫を開けた明かりで一瞬周囲が照らされる。すぐに暗闇に戻る中、ハルは柚月の背中に近づいた。
 柚月は冷蔵庫に額をくっつけている。

「……柚月さん」
 イケナイものを見てしまったような気がして恐る恐る声をかける。
 柚月は弾かれたように身体ごと振り返った。
「どうか、したんですか?」
「どっどうかってな、なにが」

 ……噛み噛みだ。柚月さんらしくない。
 ハルは訝しく思いながら首を傾げた。
「あの、……いつも冷蔵庫相手にキスしてんの?」

「違うっそんなわけないだろう!」
 言下に否定する柚月に安堵する。良かった。人間より無機物が好きなひとなのかと思っちゃった。……いや、柚月さんが無機物好きだって関係ないけどさ、……。

「あれ」
 後ずさる柚月の顔が少し赤いことにハルは気づく。
(熱、ある……?)
 ひょっとしてソファーで寝たから風邪引いたんじゃないか?

 ハルは何も考えずにすっと手を伸ばす。柚月に抱きついたことさえあるハルにとって、本当に何の気なしにしたことだった。
「顔、赤いよ? 熱あるんじゃ」
 柚月の額に触れる。温かく少し汗ばんでいるが熱はな……。
「触るな!」

 柚月の鋭い声。同時に手を振り払われる。ハルが驚いて見上げた柚月の顔は、真っ赤に染まっていた。
 ハルは、じん、と痛む手に視線を落とす。
 なぜか涙が出そうになった。

「あ……あ……ごめん、そんなつもりじゃ」
 柚月の声は戸惑いを含んでしどろもどろだった。
「ね……熱なんかない。昨日だって何もしてない、本当だ! 何かするつもりなんてない、……俺に近寄るな」

「……知ってるよ」
 柚月さんは、優しい柚月さんは。
「オレが風邪引くと思って、ベッドに運んでくれたんだよね」
 何かしたのは俺のほう。柚月さんが寝てるのをいいことにキスをした。

「でもそのせいで、柚月さんが風邪引いて熱出したんじゃないかって、オレ」
 心配になって。
 柚月と自分の裸足のつま先が滲んでぼやける。
 握った手の甲でまぶたをごしごしと擦った。
 
(みっともね、こんなんで泣くなんて。……何やってんだろオレ、バカみたい)
『触るな。俺に近寄るな』
 それが柚月の本心。
 オレには指一本触れられたくない ───。

「なれなれしく、して、ご、……ごめん、なさい」
 やっとのことでそれだけ口にするとハルは踵を返した。
 ロフトに上がってタオルケットに潜り込む。
 声を殺して泣いた。

 

  

  

  

 ……目が覚めたのは朝の六時だった。泣きながら眠ったせいか、頭が痛い。
 思い出す必要もなく昨夜の事が脳裏に浮かんだ。

(オレ、柚月さんに嫌われてんだな)
 優しい柚月はそれを少しも悟らせずに今まで過ごしてきた。
 しかし昨日の夜は。

 限界だったのだろう、なれなれしく額に触れた自分の手を払いのけて「触るな」と本心を言ってしまった。いや柚月も戸惑っていたのだから思わず本音が口をついて出てしまった、という所か。

(柚月さんは優しいひとなんだ。焼け出されて一文無しに近いオレをここに置いてくれた。自分を大事にしろ、と言ってくれた。オレには何一つ要求しないで何にも訊かないで ─── )

 でもそれはただ優しいから同情したってだけで、オレを好きなわけじゃなくて。
(……本当はオレみたいな身体売ってたオカマ野郎なんか嫌いで)
 触られたくなくて。
『触るな!』

 柚月の言葉が耳の奥で響く。
(当然だ。当たり前だ。ダレがウリやってた奴に触られたいと思う? 誰も思わない、誠実でまともな柚月さんなら、なおさら、……気持ち悪いって思って当然だ)
 
 目を閉じ、布団の中で縮こまり、耳を塞いだ。
『触るな。俺に近寄るな』
 心臓が痛い。頭が痛い。

 柚月のことを考えるのは止めようと試みる。柚月はただの家主で自分はただの居候、嫌われてたってカンケーない、大した事ない、全然ヘーキ……。
 思い込もうとして出来なかった。

 胸の奥の炎が消えない。
 柚月のことを思うと温かく切なくなる「それ」が無くならない。─── 苦しい。

『ハル』
 柚月が名前を呼ぶ。ぽん、と頭にのせられる大きな手。からかわれて赤くなる頬。自分の為にベッドを譲り、ソファーで眠る彼、その唇に触れた感触。

(……嫌いな奴に、触られたくない奴にそんなことされたなんて柚月さんが知ったら)
(怒って、もう二度と口もきいてもらえなくなる。─── それどころか出て行けって言われる)
(柚月さんのそばにいられなくなる)

 ほんの一ヶ月ほど前までは柚月の事など全く知らなかったのに、今やハルは彼のそばに居場所がなくなるのが怖くてたまらなくなっていた。

(どう……どうしよう、絶対バレないようにしなきゃ……)
(これ以上嫌われたくない)

 知らずに柚月と同じことを思ったハルは、指で唇をそっと撫でた。

  

  

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