« 「きみの」三十八話更新 | トップページ | きみの手を引いて:2 »

きみの手を引いて:1

   

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい    

  

 第一話   

  

 ……澄んだ冬の夜空の下。きみの手を引いて歩いていく。
 決して離さぬように。
 強く握りしめた。

    

  

   

 炎と黒煙をハルはただ見つめていた。ものが焼けるひどい臭いが充満している。熱気を頬に感じた。
 
「おい、危ないぞ下がれ!」
 誰かに怒鳴られ、腕をつかまれて野次馬にのまれる。それでもハルは立ち尽くしたまま、目を逸らさない。

 せまいけれど快適だった自分のへやの窓ガラスが割れ、炎が噴き出す。消防車が来て消火活動を始める頃にはアパート中が火の海になっていた。
 周りの声がハルの耳に入る。

(……失火だって、一階の……)
(ケガ人、いる?)
(でも半焼じゃなくて良かったよ……全焼なら保険、全額下りるから)
(みんな逃げてケガした人いないらしいよ)
(タバコだって、原因……)

 小さな三階建てのアパートで、ハルが暮らしていたのは二階の一室だった。火元の真上で、外から見る限り、何もかも燃えてしまった。

 炎が見えなくなっても残り火を完全に消すため消防車は放水を止めず、黒く焦げた建物は次に水浸しになった。燃え残ったものがあったとしても、到底使い物にはならないだろう。

 ハルは群集から離れ、ふらふらと歩き出した。駅前の大通りに出ると花壇のレンガにしゃがみこむ。なにも考えられない。

 何もかもが無くなってしまった。住むへやも、服もベッドも、少しあった金も。あのへやにあったものだけがハルの全てだった。

(……どうしよう、これから……)
 うなだれるハルの目の前を野次馬が火事を見ようと通り過ぎる。

(もう火、消えてるのにな)
 他人事のように思うハルに、すっと影がかかる。誰かが前に立ち止まったのだ。

「……あのアパートに住んでたのか?」
 頭の上から男の声が降ってくる。
 ハルは誰だったろうといぶかしんだが、どうでも良くなり、ろくに顔も見ずに投げやりに答えた。

「うん、まあね。……火、消えたみたいだけど興味あるんなら見てくれば」
「消えたのは知ってる。見てたから」
「……あんた、ダレ」

 ハルはやっと男を見上げた。
 背が高かった。百八十センチ以上はある。ハルは百六十五センチあるかないかなので並んで歩きたくない相手だった。
 
 キースヘリングのTシャツに、ヴィンテージ風のジーンズが長い足に良く似合っている。細面 ――― というのか、線の細い顔立ちだった。

 一重なのにわりと大きく見える目、薄い唇。えらも頬も張っておらず、その代わり鼻は高く通っていた。眉が目尻に向かって上がっているのが凛々しさを与えている。

 ハルが最初に認識したのは、客ではない、ということだった。
(……ふん。まあ、男前だな。普通の大学生でそっちのシュミはない、と……)

 何を思われているかも知らず、男はハルの隣に座った。

「さっき、火事のところで腕つかんだの覚えてないか?」
「……ああ。下がれって」
「そう、それ」
「なんかオレに用?」

 ハルは男をじっと見つめる。彼が微かに赤くなるのが判った。

 自分の顔が他人の目にはそれなりに見えることをハルは知っていた。
 眉は自然にカーヴを描き、くっきりとした二重の大きな目を長い睫毛が囲んでいる。細い鼻筋、形のよい唇は少し赤い。白く小さな顔にそれらがバランスよく収まっている。

 肩にはつかない程度に伸ばして、アッシュブラウンに染めた髪。黒い細身のジーンズにノーブランドのチェックシャツという服装が返って彼の顔立ちの良さを際立たせていた。

「……なんか用って言い方はないか。すげー煙で死ぬとこだった。ありがと」
「少しでも煙吸ったんなら医者行ったほうがいい」
「ヘーキ。……朝メシ食いに行ってたらアレだもんなー、参った。……あ、オレの朝メシ、二時なの、商売柄」

 駅前にある大きなデジタル時計は午後の4時半を指していた。
 ハルはジーンズの後ろポケットから財布を出して中身を調べる。かんばしくなく、眉根を寄せた。

「……やっぱ、マックにすりゃよかったな……」
 ぶつぶつ言いながら、財布をしまう。
「どうするかな……」

「─── 大家か仲介の不動産屋に相談してみたらどうだ。こういう時の為に火災保険とか入ってるはずだし、すぐに金は入らなくても泊まるところぐらいは提供してくれるだろう」
「へえ、そうか、大家か……考えつかなかった」

 ハルは感心したように男を見上げた。肩をすくめる。
「でもそれ、だめなんだ。オレ、アキオじゃないから」
「え、……なんだって」

「あのアパートを借りてたのは、アキオって奴なんだ。オレの知り合い。そいつがなんかオトコの家で暮らすって言うからさ、あのへや貸してもらったんだ。又借りってやつ? 保証人いないとどっこも貸してくんないんだよねー」

 こういうのって違法だろ、とハルは小さく言う。

「……下手したら家に連絡されかねないし」
「家出、してるのか」
「あんたに関係ないだろ」

 ハルはとたんに不機嫌な表情になる。

「さて、ちょっと早いけど金稼ぎと宿探しに行くか」
 話は終わったとばかりにハルは立ち上がり、すたすたと歩き出す。男はあわてて後を追った。

「……泊まるところ、ないんだろう」
「あるよ。これから見つける」
「金もない」
「あんまりね。でも平気、稼ぐから。……ちょっと横、歩くなよ。オレが貧相に見えんだろ」

 その長い足どうにかしなよ、とハルは難癖をつける。男は困ったような顔をしてまじめに謝った。

「ごめん。……あの、名前、教えてくれないか」
「なにそれナンパ?」
 だっせー、とハルは笑う。しかし答えた。

「ハル。ハルだよ」
「ハル、……フルネームは?」
「じゃーね」

 ハルは足早に歩き出す。男は彼を引き止めようとその腕を掴んだ。
 振り向いたハルは男を思い切りにらみつけた。

「……オレのこと詮索すんな」
「判った。何も訊かない。……名前はハルで、たった今住んでたアパートが火事で全焼したところ。泊まるあてもなけりゃ、金もない。それでいいか」
「まあ、そんなとこかな」

 ハルはきつい表情をゆるめ、自分の腕から男の手を外す。

「で、あんたの名前は?」
「柚月、要」
「柚月さん。なんでオレにかまうの?」

 柚月は眉尻を下げた情けない表情になる。迷いながら答えた。

「あの火事で見かけて……気になって。もしあそこに住んでるんだったら困ってるんじゃないかって」
「家族とか恋人とかといっしょに住んでたかもよ?」

「だったらもっとあわてて、探したり、連絡取ろうとするだろう? 落ち着いてたっていうか……ただ、火事になったことだけがショックみたいだったから」

 ハルはじっと柚月を見つめて意地悪く言う。

「ふーん。よく観察してるね」
「そういうわけじゃ」
「オレ、男だよ」
「判ってる」
「そう? たまにいるんだ。本当は女なんじゃないかってしつこいのが」
「……きれいな顔してると大変だな」
「そういうこと、面と向かって言わないでしょ、ふつう。それもこんな往来で」

 ハルは呆れて辺りを見回した。駅前の大通りだ。ラッシュの時間帯を外れているせいでさほど混んでいないが、それでも学生や、買い物帰りの主婦、デート中のカップルなどが通りにあふれている。

「変態だと思われるよ」
「きれいはきれいだろう。それに誰も聞いていない」

 柚月の言うとおりだった。電車が着いたらしく、駅からたくさんの人が出てきたが誰もふたりを気に留めない。

 時々、ハルを見て振り返りながら歩いていく男女もいたが ─── 話までは聞いていそうもなかった。

 ふいに柚月は言う。

「……行くとこなかったら、俺の家、来てもいいぞ」
「変なひとだね、柚月さん。オレ、そーゆーの大体ハズレたことないんだけど、男なんかこれっぽっちも興味ないだろ」

 あんたがヘヴンに来るような奴なら話早いんだけどね、とハルは肩をすくめる。

「ヘヴン……?」
「ヘヴンズブルー。ショットバーだよ。俺らみたいのを品定めして声かける奴がけっこういる、……柚月さんには一生、縁ないだろうね」

 ハルは彼がどんな反応をするか見てみたかった。
 柚月は特に気にするふうもなく、もう一度言う。

「……俺の家、来るか?」
「行ってもいいわけ? オレと関わり合いになるのやめたほうがいいんじゃないの」

 探るようにハルは柚月の目を見つめる。その目は優しく、濁りがなかった。
「もう関わってる。名前はハルで、行くとこなくて、金もない。今のお前がこれほど判ってる奴は俺だけだと思うけど?」

 ハルは小さく声を上げて笑った。
「変なひと。……柚月さんの家ってどこ?」

 ふたりは駅から続く大通りを少し歩き、ショップや飲食店が軒を連ねる横道に入る。

 今年は猛暑だったが、九月も終わりに近づくと急に涼しくなってきていた。半袖で歩いている人はちらほらで、ほとんどが長袖か上着を羽織っている。夕刻になり、家路に着く人々の中でハルは急に立ち止まった。

「どうした?」

 細い路地の奥にぽっかりと穴を開けた場所があった。その穴は地下の店へ続く階段になっている。─── ヘヴンズブルーだった。
 
 ハルは、店の前でオーナーと従業員がなにやら話しているのを目に留めた。従業員はすぐに階段を下りて行ったが、オーナーはそのままそこで煙草に火を点ける。

 ハルに気付いたオーナーは、精悍な顔立ちにハルのよく知っている皮肉気な笑みを浮かべて、薄く煙を吐いた。 

           

    押して頂けると嬉しいです

       

        目次next≫ 

           

  *投票していただけると励みになります。

     ←ネット小説ランキングの人気投票です。

   にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
   にほんブログ村  ←クリックすると投票になります。

    ←クリックすると投票になります。

« 「きみの」三十八話更新 | トップページ | きみの手を引いて:2 »

コメント

初めまして~
ネット小説ランキングから飛んできた真下まゆと申します
1から最後、続編まで拝読しました!携帯からで短文申し訳ないのですが
深夜のテンションで思わず一挙読みしてしまいました
すごくいいですね、良かったです♪
二人のすれ違いがもどかしく、長ーく感じられたので、それだけに幸せになれたときの喜びが大きいですね!
素敵な物語をありがとうございました♪
 
 ≫コメントありがとうございます♪
 全部一気に読んでいただけて大変嬉しいです!すごい時間かかりませんでしたか?じれったくて長い……^^;
 ところでアドレスを教えて頂いたので、お邪魔したのですが……「悪戯にたゆたう」のまゆさんだったんですね!びっくりしました~^^*
 ぜひまたお邪魔して、作品を拝読させていただきたいと思います。なんかもう、時代物、男娼というキーワードでハマりそうなんですけど……^^;
 
 

訪問&コメありがとうございました(o^-^o)
すごく励みになります♪♪

先に番外編の方を読んでしまったので、「君の手を引いて」を1話から読んでみることにしました☆☆
ハルくんの顔とか行動とか勝手に頭の中で出来ちゃって、そんな風に想像できる文を書くことができる八月さんはやっぱりスゴイです(*^-^)ノ

1話ということでまだ始まったばかり*続きをまた見ようと思います(*^m^)
 
 ≫以下レスです。
 コメントありがとうございます♪
 こちらこそ、励みになります。
 本編とスピンオフは三人称なので、一人称の番外編よりは少し書きやすかったのですがまだまだ下手です……。
 どっちも完結しているということで、最初から最後まで通して読めるのが唯一の取り柄だと思って、ココロのハードルをかなり下げて読んで頂くとありがたいです……^^;
 またサイトの方にお邪魔しますので宜しくお願いします☆
  
   

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: きみの手を引いて:1:

« 「きみの」三十八話更新 | トップページ | きみの手を引いて:2 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ