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ヘヴンズブルー:10

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第10話

 

           
 両腕を交差させて頭と顔を庇う。─── 今度は手加減なしだろうと覚悟を決める。
(やだな、こんなとこでヤられんの……アオカンでゴーカンて最悪。つまんないAVみたい。てか夜だから青空でもないし、めちゃくちゃ寒い)

予想していた衝撃が来ない。
「……?」
 腕の隙間から薄目を開けてみると眼前に覆いかぶさっていた充が上半身を起こしている。
 捲れ広がるナオのコートの右側に目を向け、引っ掻かれた頬の傷をTシャツの袖で拭うとにやりと笑った。
 
「あッ……!」
 コートのポケットから飛び出したものを鷲掴みに引ったくった充は、ナオの目の前でばさばさと振る。
「これなーんだ?」

 和臣がナオを買った金だった。百万。
 全部充の手に渡ってしまったのかと焦ってポケットに手を伸ばす。まだあると思った充が腰を浮かせてコートを掴もうとした隙に跳ね除け、ナオは路上に座り込んでポケットを探る。ない。
 血の気が引く思いがした。

「……これで全部みてーだな」
 充は薄ら笑い、埃を払う仕草をしながら立ち上がる。
「あのオヤジ、お前にご執心だな。一晩でこんな出してくれるなんていいカモじゃね?」
 
「……あのひとには他に本気で好きなひとがいる。僕みたいな淫売、相手にするわけないだろ。ご執心の振りして遊んでるだけだよ」
 内心の動揺を知られぬよう冷静さを装って、ナオはゆっくりと立ち上がった。

 ジーンズのファスナーを上げ、ベルトを締めながら、血が混じった唾液をぺッと横に吐き出す。
「返せ」
 右手を突き出し、充を睨みつけた。
 
 充はどこ吹く風とばかりに札束を眺め、弄ぶ。焦れたナオは声を荒げ詰め寄った。
「耳付いてないのかよ遊びだって言ってんだろ、遊び。マジで百万も出すわけないだろ、さっさと返せよ」
 
「おっと」
 充は札束をナオの頭上に掲げた。それを掴もうと指を伸ばすナオ。届かない。
「返せっつってんだろばかッ」
 にやにやといやらしく笑う充に、ナオは歯噛みしながらも爪先立ちになる。あと僅かで指先が触れる ─── その時、充が札束を掴んだ手を背中に隠した。
  
 札束を追い、ナオは充に抱きつく格好になった。触れられただけで嫌悪に粟立っていたのに、今はそんな事に構っていられない。
 縋りつき、必死に充を見上げた。
「なあ返せよ、それ僕のじゃないんだ、あのひとのなんだよ。あのひとに返さなきゃいけないんだ。返してよ!」

「何で返す必要があんだ? お前が百万分のシゴトすりゃいいだけの話じゃねーか」
 充はせせら笑い片手でナオを突き飛ばす。強かに背中をコンクリートの壁にぶつけた。
 呼吸が止まる。

「……っは」
 息が出来ない。涙が滲んでくる。
 蹲るナオを横目に充は財布を取り出し、そこに札束を詰め込んだ。
 
「すっげ、二つに折れねーや」
 無理やり財布を二つに折り嬉々としてダウンジャケットのポケットにしまう。
 げほっげほっと咳き込みながらナオは充の片足にしがみ付いた。
「か、えせ……!」

「─── うぜー」
 充は足を一振りしてナオをもぎ離そうとするが出来ない。もう片方の足で無造作に肩と脇腹を蹴った。
 
「───!」
 ずるずると力無く手を放したナオの髪の毛を掴んで上向かせる。
 口の端は切れて青ずみ、痛みに顔を歪めて目を瞑るナオは充の嗜虐心を満足させた。

「返せ返せってうるせーんだよ、お前あのオヤジに惚れてんのか? だったらシゴトのし甲斐があっていいじゃねーか、愉しませてやれよ」
 充は小突くようにしてナオの髪の毛を放す。何本か引き抜かれた柔らかい髪がはらはらと落ちた。

「……返せ」
 ナオは諦めなかった。冷たいアスファルトに手を付き、充の方へ這う。荒い呼吸に咳が混じり白く煙る。
 充は鼻で笑い、背中を向ける。

「ヘッ、……そうだ、またあのオヤジからせしめたらよろしくな? いい金ヅル掴んでんだ、すこーしくらい幼馴染みに恵んでくれたってバチ当たんねえだろ?」
 顔だけナオに向け禍々しい笑みを浮かべる。

「ま……待てよ、返せっつってんだろ……あのひと助けてくれたんだよ、僕を助ける為にそんな大金出したんだ、本気で買うつもりなんかなかったんだよ……! ほんとはもうとっくの昔に飽きられててだから金なんか出すはずなくてでも僕を助けようとして」

 充は肩を竦めた。
「何言ってんのか判んね。買う気ねーのになんで金出すんだよ。お前に突っ込みたくてとりあえずポケットに金突っ込んだんだろ。どんだけ金持ちか知んねーけど百万張ったんだ、突っ込ませてやれよ」

 足取りも軽く充の背中が遠ざかって行く。
「ま、……」
 ごほっとナオは咳き込む。身体中が痛い。

 ナオは壁に縋り、やっと立ち上がる。その間に充の姿は消えていた。
(どうしよう臣さんの金。百万。僕のせいだ)
 充の消えた暗がりに目を凝らし、おろおろとその姿を捜す。

(返すつもりだったのに。あんな大金僕に出すはずないって判ってる、だからちゃんと明日返そうって)
「……どうしよう……っ」

 途方に暮れ、その場に座り込んだ。
 臣さんに謝らなきゃ。ナオは手の甲で涙の滲んだ目を擦る。
(……臣さんに謝って、ちゃんと返すって約束しなきゃ。頑張って稼いで返すって)
 
 和臣は怒るだろうか。怒るに決まってる。
(ヤク中から助けてやったのに百万持ち逃げして結局ヤク中に取られて)
 不機嫌な和臣の顔が目に浮かぶ。

(……助けてやるんじゃなかったって、きっと)
 唐突に携帯電話の着信メロディが流れ出す。場違いに明るいそれはナオのダッフルコートの左ポケットから聞こえてきた。

 蹴られた脇腹と肩の痛みをこらえて携帯電話を取り出す。
 ナオは泣きそうに顔を歪めた。
(……間、ワルい)

 ─── 液晶画面には今一番会いたくて、会いたくない彼の名が表示されていた。

    

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