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ヘヴンズブルー:11

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第11話

 

          
 ナオがヘヴンから飛び出した後、逡巡している和臣を焚きつけたのはレイだった。

『ナオさん様子が変だった。オーナーが放っとくなら俺が追いかけますけど構いませんよね?』
 傍目には嫣然と笑みを浮かべながらヘヴンのオーナーを口説いているようにしか見えないだろうが、レイのその目は笑ってなどいない。

 明らかに恋敵に対する挑発だった。
 
 レイ、あいつあんなお上品なツラしてナオにマジで惚れてやがる。
(大体初めて会った時から気に食わなかった、ナオを見る目つきがただ事でなかった、俺を冷たーい目で観察してた)

 まるでナオに相応しいかどうか量るように。
(ナオは誰にもやらない。レイにもヤク中のくそガキにも、ナオが嫌だと言っても)
 
 軽いストーカーだな、と自覚しながら寒空の下へ走り出る。どこへ行ったのか、家に帰ったのならいいが……。
 和臣はナオのアパートを知らなかった。舌打ちをして辺りをまわるが見つからない。駅前の大通りを何度も行きつ戻りつしてから、ケータイにかければいいと思いつく。ナオに拒否され、和臣は自分で思う以上に動揺していた。

(ざまあねーな)
 一回りも年下にいいように鼻面引き回されてる、とため息を吐いて携帯電話を取り出す。しかもその一回りも年下は天然で全く自覚がないときた。始末に負えねえ。

 耳の中で何度もコール音が響く。
「……なんで出ない」
 どうしてだ。焦燥感が募る。

 和臣はいらいらと足を運び、狭い路地に入る。
 ヘヴンを出てから馴染みの客と会っているのだろうか。胸にちりっと焦げ付くものを感じ、和臣は一旦切った携帯電話のリダイヤルボタンを押した。

 コール音が途切れる。和臣は立ち止まった。
『……』
「ナオ」

 おかしい。電話の向こうに気配を感じるのに無言だ。
「……ナオ? どこにいる?……俺が悪かった、俺に買われるのが嫌ならもうそんなことしない、ただ」
 ただ店に来て顔を見せてくれたらそれだけでいい、と続けようとして躊躇う。

 本当にそれだけでいいのか? 他の客に、レイに笑いかけるナオを目の当たりにして平静を保てるのか?……無理だ。想像するだけで表情筋が引き攣る。

「……とにかくどこにいるんだ? 話がしたい、会いたい」
 和臣は言葉を詰まらせた。三十過ぎたいい大人の言うこっちゃない。咳払いで誤魔化した。

 沈黙。和臣も携帯電話の向こうのナオも押し黙る。
 互いの息遣いしか聞こえない。

『─── 臣さん』
 口を開いたのはナオの方だった。

「ああ」
 和臣は安堵の息を吐く。電話の向こうにいるのがナオでなく、他の誰かなのではないかと疑った。─── 他の、ナオが心を許し、携帯電話を預ける人間。杞憂だった。

「今、どこにいる? すぐに行くから待ってろ」
『だ……駄目、来なくていい』
 
 和臣は虚を突かれた。─── 来なくていい、だと?
「……顔も見たくないってか?」
『違う、僕も会いたい。……臣さんに会って話したいことがあるんだ』

 さっきの台詞は咳払いでは誤魔化せなかったらしい。言葉の綾だと弁解したかったが、ナオの様子がいつもと違う事に気付いて、和臣は口を噤んだ。

『でも今は駄目、会えない。……ちょっと、酷い、から』
 ナオは辛そうな ─── 痛みを堪えているような声音で続ける。
『こんなんで会ったら、臣さんびっくりしちゃう……へへ、助けてくれた臣さんに酷い事言ったからバチ当たった、ね』

「……どうしたんだ?」
 和臣の胸に不安の雲が広がってゆく。
『……平気。そんな心配そうな声出さないでよ……』

「心配させたくなかったら場所教えろ!」
 焦りから思わず和臣は怒鳴っていた。─── 一体なにがあった? ナオはどうしているんだ?
 あの時迷ってる暇などなかった、引き止めれば良かった……!

『……』
「頼むから教えてくれ」
『……』
「ナオ」

『……臣さんの、マンション』
「え?」
 ナオは根負けしたように息を吐きながら言った。

『臣さんのマンションに行くから。部屋で待ってて』
「迎えに行く」
『外、寒いから駄目。……お願い、最後だと思って僕のわがまま聞いて』

「最後?」
『……きっと臣さん、僕の顔も見たくなくなるよ。せっかく助けてやったのになんてバカだって。すっごく怒る……』

「……そんなこと」
 確かにひとの心はきっかけがあるにしろないにしろ、移ろって行くものだ。和臣も経験上よく知っている。
 けれど、それでも。
 ナオの顔を見たくなくなる、なんてことがあるか。

『部屋で待っててね。……百万の価値なんて全然ないけど、僕、ちゃんと』
 ぷつっと音がして携帯電話が切れた。
「……ナオ」
 和臣は足早にマンションへ向かう道を、ナオに繋がる道を辿った。

 

「……百万の価値なんてないけど、僕、ちゃんと仕事するから」
 通話が切れていた。ビルとビルの谷間で電波状況が悪いのだ。
 しゃがみ込んだナオは冷たいコンクリートの壁に凭れて空を見上げた。星などほとんど見えない。

 吐く息が白い。
「……臣さん」
 明日までは大丈夫だと思っていたのに。

(早かったな、バレるの。臣さんカンいいんだから)
 何も充に百万ひったくられた直後に電話してくることないのに、とナオは苦笑いを浮かべた。

(……ああでも、いかにもレイプされましたって格好で路上に座り込んでるとこ見つかるよりはまだ電話のがましか。こんなみっともないの、臣さんに見られたくない)

 自分で和臣のマンションに行き、詫びを入れることが出来ればまだ格好がつく。
 ……いくら謝ったところで許してくれないだろうけど。
 
 よろよろと立ち上がる。
 壁に手を付きながら、ナオはゆっくりと和臣のマンションを目指した。

 

    

     

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