« ヘヴンズブルー:9 | トップページ | ヘヴンズブルー:10 »

きみの手を引いて:11

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第十一話

  

         
 それから数日の内にハルは柚月に紹介されたアルバイトを始めた。
 コーヒー専門店「カフェ・ヴィンテージ」のマスターは顎に髭を生やした四十前の人物で、従兄弟である柚月同様、背が高かった。

「よろしく。柚月 環です」
 柚月に伴われたハルを驚いたようにしげしげと見つめた後、そう自己紹介しながらにこりと笑みを浮かべる。
「……ハル、といいます。あの」
 
 本名を言いたくなくて口籠もるハルに、環は「判ってる」という風に頷き、コーヒーを淹れ始めた。
 柚月がカウンターチェアに座ったので、戸惑いながらもハルもそれに倣う。
 しばらくして出てきたコーヒーは本当に美味しかった。

「……柚月さんの淹れてくれるコーヒーも美味しいけど、これすごい」
「俺はここで淹れ方、覚えたんだ。やっぱり敵わないな」
 飲み終わるとカウンターの向こう側から、環がごくあっさりと切り出した。

「それで、いつからハル君には来て貰えるのかな」
「え……オレ、いいんですか?」
「もちろん」
「でもあの……履歴書とか、……ほんとの名前も……」
 
 おどおどと目を伏せるハルに、環の声が柔らかくなる。
「要の紹介だからね。気にしなくていい。今は他のバイトの子もいないし、きみが来てくれると助かるよ。きっとOLさん達が喜んでくれる」

 ハルは柚月の意見を求めるように見上げた。柚月は頷き、目尻を下げた。
「大丈夫だ。環さんはパッと見、ちょっと怪しげだけど案外いいひとだから」
「要、お前ね……」
 
 抗議の声を上げる環にハルは頭を下げた。
「……よろしくお願いします。明日からでも構いません。一生懸命やりますから」
「じゃ、明日から来て貰おうかな。明日の十時から」
「はい」

 ほっとするハルに環は人好きのする笑顔を見せた。
 次の日からハルはヴィンテージでアルバイトを始めた。マスターの環は穏やかで物静かな人となりで、柚月に聞かされていたのかもしれないが、ハルの素性を訊ねることはなかった。
 
 季節は過ぎ、いつの間にかハルと柚月が共に暮らし始めて二ヶ月が経っていた。
 初冬と呼ばれる風の冷たいある日。
 柚月は風邪を引いて熱を出した。

   

    

 

「頭、上げて」
 ハルは柚月に触れないように慎重にアイス枕を取り替える。
「……悪いな」

「別にいいけどさー、……ハラ減らない? なんか食う?」
「いや、いい」
 柚月はそれきり目を閉じてしまう。
 
 朝、起きてこない柚月を心配してハルが寝室に入ってみると、熱を出した彼がベッドにいた。もう午後の三時になるが熱は引かない。

 ハルは始めたばかりのバイトを休むわけにもいかず、それでも環に理由を話して ─── 驚いた事に環はハルが柚月の家に居候していることを知っていた。柚月は隠さなかったのだ ─── 早引けさせて貰い、帰った所だった。

 柚月はずっと横になって食べる物も食べずにいたらしい。
 何か口にして欲しかったが、ハルは黙って寝室を出た。帰りに買ってきた風邪薬もこれでは服めない。

 洗濯物を取り込んで、柚月の様子をもう一度見て来ようかとうろうろしていると、チャイムが鳴った。インターフォンに出る。
「はい」

「あ、要ちゃん? カゼ大丈夫なの?」
 女性の声だった。
「……今、開けます」
 
 ドアを開けると二十歳くらいの女の子が立っていた。長く伸ばした茶色い髪の毛をくるくると巻いている。ミニスカートのワンピースにロングブーツ、手にはコートとコンビニの袋を持っていた。大きめのショルダーバッグを肩に掛けている。

(……美人だ)
 女性しか持ち得ない柔らかく滑らかな頬のライン。ふっくらとしたピンクの唇。細い眉の下の大きな瞳は、ハルを見て不思議そうにぱちぱちと瞬いた。
 
「あの……ここ、柚月 要さんの」
「奥で寝てます。どうぞ」
 女は少し訝るようにハルを見つめたが、結局玄関に足を踏み入れた。

 ロングブーツを脱いで立てかけると女はハルをじっと見て訊ねた。
「……あなたは?」
「ここに居候させてもらってます。ハルといいます」
「居候?」
  
 ハルはこの部屋に住む事になった経緯を手短に話しながら、彼女をリビングに通した。柚月は優しいから同情したのだ、と強調する事も忘れない。
 彼女は大きく頷いた。

「そう。要ちゃん優しいからね、……ところで、あなた、男の子……?」
 本気でそう訊いている事にハルは苦笑する。
「はい。女の子に、見えますか」
 
「最初、ちょっとね。びっくりしちゃった。あたしという者がありながら女と住んでるってなに? って」
「男なんで安心してください」
「それにしてもまあ……」
 
 感心したように女はハルを見つめる。ハルは困って曖昧に笑った。
「あのう、柚月さんは寝室で寝てますけど……えっと」
 名前を訊いてなかった。女も言ってなかった事に気づき、峰岸 あやです、と名乗った。

「……峰岸さん」
「あやでいいよ。ごめんね、じろじろ見ちゃって。あんまりキレイだから、………入っていい? 要ちゃん」
 最後は柚月の寝室に入って行きながらだった。
 
「……」
 ハルは目を伏せ、キッチンに立つ。ケトルを火にかけてコーヒーを淹れる用意をした。手は勝手に粗挽きのコーヒー豆を量ってフィルターに淹れていたが、心はまるで別のことを思っていた。
 
(柚月さんの、彼女)
 ハルはショックを受けている自分を、遠くからもう一人の自分が見ているような気がした。そして、そのもう一人の自分は冷静に今の状況を分析する。
 
(……カゼ引いた柚月さんをお見舞いに来た美人の彼女、ってわけか)
 柚月は普通で健康な二十三の男なのだ。─── 彼女がいない、などという言葉を真に受ける方がどうかしてる。

(バカだ、オレ)
 ぽたぽたと落ちる黒い滴を見つめる。
 ちょうどコーヒーが入ったところにあやが出てきた。
 
「コンビニでアイス買ってきたんだけど食べられないみたい。冷凍庫に入れといてくれる?」
「はい、……コーヒー淹れたんでソファーに座ってて下さい。今、持っていきますから」
「ありがとう」
 
 ハルはコンビニの袋ごと冷凍庫にアイスをしまうと、温めておいたマグカップにコーヒーを注いであやに差し出す。
「どうぞ。……柚月さんみたいには上手く淹れられないんですけど」
「いい香り」

 ハルはマグカップに添えられたあやの綺麗な指先をそっと見る。控えめに施されたネイルアートが女らしく、可愛く思えた。
(……柚月さんはこんなふうに美人で女らしいひとが好きなんだ)

 とても、敵わない、とハルは思った。
 ハルは立ち上がり、ダイニングテーブルに置いてあった袋 ─── 風邪薬が入っている ─── を隅へ押しやった。

 あやの座っているソファーを振り返る。
「あの、あやさん。風邪薬買ってくるの忘れちゃったんです。しばらく柚月さんの側に付いててもらえますか」
「ええ、いいわよ」

 あやは二つ返事で嬉しそうに頷く。
「お願いします」
 軽く笑みを浮かべると、ハルは買ったばかりの白いダウンジャケットを手にして玄関に向かった。
 

 

    押して頂けると嬉しいです    

       目次next≫ 

   

   *投票していただけると励みになります。

     ←ネット小説ランキングの人気投票です。

   にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
   にほんブログ村  ←クリックすると投票になります。

    ←クリックすると投票になります。

« ヘヴンズブルー:9 | トップページ | ヘヴンズブルー:10 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ヘヴンズブルー:9 | トップページ | ヘヴンズブルー:10 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ