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ヘヴンズブルー:13

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第13話

  

           
「あ……あの、ね、僕、何でもするよ。何でも言うこと聞く。臣さんの言うとおりにする。……さっきいやだって言ったけど、牧さんと寝て稼いでこいって言うならそうする。あの……写真撮ってネットで売ってもいいよ。し……したかったらレイプしてもいい。臣さんの気の済むようにして下さい」

 腕の中にあるナオの柔らかい身体。Yシャツをぎゅっと掴み、震える華奢な指先。
 和臣の理性など無いも同然だった。
 ごく、と喉が鳴る。
(……ヤバ、い、……)

(何でもする、だと? 俺の言うこと何でも聞くって?)
(バカなに想像してんだ。やめろ、怪我人相手に)
(据え膳だぞ。幾ら寝たって俺のものにならなかったナオが好きにしてくれって言ってんだぞ。今なら俺のものに出来る。俺を好きになれって命令できる)

(ばかッそんなの本当に好きになるわけじゃない、好きな振りされるだけだ)
(フリでもいいじゃないか? さんざんヤラしいことして泣かせて好きだって言わせて他の奴好きになるの許さなくて、そしたらほらずっと俺のものだ。なんでそうしたらいけない?)

(……たった百万でナオを縛り付けるつもりか? そんなことをしてもナオは手に入らない。俺を好きにはならない)
(もったいない!)

 風前の灯火だった理性を見事松明ぐらいにまで復活させ、和臣はナオの身体を引き離した。
「……腹と……肩か? 怪我したとこ見せろ」
 もったいない、もったいないと頭の中でかかるエコーを無視する。

「……」
 必死の思いで和臣を誘惑し、それを断られたナオはしゅんと肩を落とす。言われるままバスローブの前を寛げた。

 左肩と左の脇腹、肋骨すれすれの部分が青黒く腫れている。顔の右側には擦ったような細かい傷。左端の唇が切れてやはり腫れていた。
 和臣は眉を顰めてひとつひとつ確かめる。

「肋骨はイってないみたいだけどな……ひでえな、商売道具に……あのくそッたれヤク中、マグロ船乗せて死んだ方がマシだって目に合わせてやる……」
 ぶつぶつ言いながら脇腹と肩にシップを張り、やっと見つけたテープで止める。さらに包帯を巻こうとする和臣をナオは「おおげさだよ」と止めた。
 
 和臣はらしくもなく眉尻を下げて情けない表情を作る。
「誰かの手当てをしてやるなんて初めてだから加減が判らない。………顔、殴られたんだろう? 口の中切れてないか」

「あ、……ちょっと切れた。もう平気、です」
 顔を上げさせ、切れた唇の端に絆創膏を貼った。苦痛に瞑った目が平気でない事を物語る。
 和臣は苦々しく呟いた。

「金なんか素直にくれてやりゃ良かったんだ。そうすればお前が怪我する事なかった。……こんな」
 大きなシップが貼られたナオの細い身体は痛々しかった。和臣は抱きしめようと手を伸ばしかけ、やめる。

 抱きしめればナオは何をされるか判らない、と怯えるだろう。それでも抵抗せず、和臣の腕の中で身体を硬くするナオは見ていられない。

 和臣はナオから目を逸らし、バスローブの前を合わせた。
 手早く救急箱を片付け、パジャマと下着、Tシャツを持ってきてナオに手渡す。目を合わせず背を向けた。

「ベッドに行ってそれに着替えて寝ろ。俺はここで寝るから、安心し……」
 くん、とYシャツの背中を引っ張られる。顔だけ振り向くとナオがじっと見上げていた。
「臣さんと一緒でなきゃいやだ」

「な、……」
「お願い。……臣さん」
 掠れるナオの声。Yシャツを掴む指に力がこもり、ナオが真剣さが伝わる。

 和臣はため息を吐いた。
「……判った。一緒にベッドで寝る。でも、絶対近づくなよ。さっきみたいに抱きついたら」

 和臣は言葉に詰まった。ベッドの中で抱きつかれたら、さっきでさえ風前の灯火だった理性がどうなるのか想像に難くない。
「……抱きついたら、俺は外で寝る。凍死されたくなかったらああいうことはするな。判ったか?」

「……」
 ナオは泣きそうな顔をして掴んでいたYシャツをゆるゆると放す。こくんと頷いた。
「……判った。もうしない、……」

 泣くのを堪えるような声で言うと、ナオはゆっくり立ち上がり和臣の寝室に入っていく。
 しおれた後ろ姿を見つめながら和臣はもう一度ため息を吐いた。

  

   

 広いベッドの端と端で和臣とナオは互いに背を向け横になっていた。

 充に取られたとはいえ、自分に百万もの大金を出した和臣と寝ないわけにはいかないと、ナオは思っていた。必死に和臣を誘い、なんとか許してもらおうとしたが和臣に「近づくな」と釘を刺され、今はひどく落ち込んでいる。

 一方、和臣は無論眠れるわけがなかった。言いなりになると言ったナオがすぐ側にいる。
 何であの時格好つけて引き離したりしたんだ畜生、百万分やらせろって言えば良かったと人間性を疑われるような考えが頭の中をぐるぐる回っていた。

 ナオはしくしくと痛む脇腹に手を当てた。その仕草が肩の痣に響き、「つッ」と声が漏れる。
 気づいた和臣は身体の向きを変え、ナオの背中を見つめた。

「……痛むのか」
「……ん、……平気です。ちょっと、辛いだけ、……臣さん、僕が邪魔で眠れない?……」
 邪魔じゃないから眠れないんだ、とツッコミたかったが思い止まる和臣。

「痛み止め服むか? 確か救急箱に入って」
「ううん。いらない。……そっち、向いてもいい?」
 出来ればそのままでいて欲しい、と和臣は心の底から思ったが、自分の意向を伺うナオの小さな声に負けた。

「……こっちを向くだけだぞ。絶対に近寄るな」
 ナオはゆっくりと身体ごと和臣に向き直る。
 柔らかな茶色の髪の毛が枕の上で揺れる。大きすぎる和臣のパジャマは倒錯的でひどく艶かしい印象をナオに添えた。

 実年齢より大分幼く見えるそばかすの散るその顔に絆創膏が目立つ。
 ナオは二、三度瞬きをして和臣を見つめた。
「─── もう誘ったりしないから安心してください」

(お前がベッドの中でそうしてるだけで充分誘ってるんだッ!)
 和臣は喚きたいのを堪えた。
「僕じゃその気にならないって判ってるし……あの、だからお金は必ず返します。せめて身体で少しでも返せたらなー、なんて甘いこと思ってたけどそんなわけいかないよね。……ハルみたいに臣さんの好みの美人だったら良かったんだけど、」

(身体で返すだと? ちきしょう身体で返してくれ。ヤらせろ。一発百万でチャラにしてやる)
 錯乱した気持ちが口まで出かかっている。抑止剤になったのはナオの唇の端の絆創膏とシップの匂いだった。

「……金は返さなくていいって言ったろう。あの金はお前のものだ。もう俺の金じゃない。早く寝てケガ治す事だけ考えろ」
(……すごい無理してるな、俺)
 自分の余りにも「イイひと」な言葉に和臣は心の中で自嘲した。

 ナオは和臣の心中など知らずぼんやりとしていたが、やがてその目を閉じる。
「臣さんて……本当に優しいね……尚更……返さなくちゃ……僕、必ず……」
 うわ言のような言葉の後、ナオは眠りに落ちた。

 

  

    

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