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きみの手を引いて:14

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第十四話

 

 眺めていたアパートの情報誌を、ハルは乱暴にテーブルの上に置いた。
 どんなに古い物件も今の彼には高嶺の花だ。敷金礼金、保証人 ─── 身分証明は保険証があるもののそれだけで済むか判らない。

 伸びをひとつしてソファーに寄りかかる。
(……やっぱ、柚月さんに頼んでみようかな)
 保証人と最初にかかる費用 ─── バイトを掛け持ちして少しずつ返すと約束して。

(本当はここにいたいけど、……仕方ないよね)
 そもそもハルがこのアパートを出るべく、安い物件を検討しているのは、柚月に ─── 家主に避けられているからだった。

 熱を出して寝込んだ三日前から、彼の態度は一変した。
 明らかに自分から目を逸らしている。わざと見ないようにしている。
 会話もほとんどない。

(……完全に嫌われた)
 ハルはソファーの上で膝を抱え、顔を埋める。
 
 あやと二人きりにした事をひどく怒っていた。あんなに怒った柚月は ─── 熱のせいもあったろうが ─── 初めて見た。
(「俺とあやがくっつけばいいと思ってるんだろう!」)
 柚月の声が耳に蘇る。

(余計なことして……オレってほんとバカ……)
 落ち込み、後悔しながら、その後の柚月の寝室で起こった事も同時に思い出す。

 手の平から伝わる柚月の熱。ちくちくとしたその手触りは頬に無精髭が生えているせいだ。汗の匂い、「冷たいな」という柚月の言葉。ひっくり返りそうなほど大きな自分の心臓の音 ───。

 思い出すだけで顔が熱くなる。柚月に自分の気持ちがバレなかっただろうか。
(まさかバレて嫌われてたりして……)
 もしそうなら、尚更ここにはいられない。

 もう一度情報誌を手に取ったとき、玄関のドアが開く音がした。─── 柚月が帰って来たのだ。
 慌てて情報誌を背中に隠し、ソファーに深く座る。

「お……お帰りなさい」
「……ああ」

 なぜ隠したのか自分でも判らず、ハルは混乱した。そのことに柚月は全く気づかず、自分の部屋に入っていく。
「……」
 
 柚月のそっけなさがハルには辛かった。ろくに口もきいてもらえないのだ。
 背中の雑誌を取り出して、ぱらぱらとめくる。

 不意に柚月が部屋から出てきた。また、情報誌を背中に隠す。
「……なんだ?」
 その態度が返って不審を生んだらしい。柚月は訝しげな表情も露わに、ハルに近づいて来た。  
 
「何隠した」
「な……なんでもないよ」
 ハルは目の前に立つ柚月を恐る恐る上目遣いで見た。柚月は不機嫌そうに右手をハルに突き出す。

 無言で「見せろ」と要求する柚月に、仕方なくハルはその右手の上に情報誌を乗せた。
「……何だこれ。どうしてこんなもの」
「あのう、……もうそろそろ出てったほうがいいかなー、なんて。……いつまでも居候してたら迷惑だし、……」
 
 柚月は驚いたようにハルを見つめる。
 ハルは俯き視線をさまよわせた。
「そ……そうだ、柚月さんにお願いがあるんですけど、……あの、保証人になってもらえませんか……? もちろん迷惑かけないし、それからお金も、その……」

 徐々に小さくなるハルの声。
「か、……貸して欲しいんだけど……あの、ちゃんと返すから。ヴィンテージでバイトして、それだけじゃ足んないから他にもバイトして、働いて返します。借用書とかも書くし……あの、柚月さん……?」

 見上げると柚月は相槌ひとつ打たず、呆然とハルを見ている。
 やっぱり厚かましかったか、とハルは目を伏せた。
「……やっぱいいや。ごめん」
 
 居たたまれなくなりハルは立ち上がる。アパートの情報誌を返して欲しかったが、柚月は右手に持ったまま身体の脇にぶら下げていて、返す気配はない。
 ハルは諦めて柚月を避けるとロフトに向かう。

「待て」
 ばさっと何かが落ちる音。
 ─── ハルは柚月に腕を掴まれた。

 そのまま引き寄せられ、両腕を掴まれる。柚月の怒ったような顔にハルは身を竦ませた。目の端に落ちて広がった情報誌を捉える。
 
「出て行く必要なんかない。ここにいればいい」
 ハルは驚き、柚月をまじまじと見つめた。
 引き止められるとは思わなかった。早く出て行けと言われてもおかしくないとさえ思っていたのだ。

(あ、……もしかしたら)

「あのう、……保証人とかお金のことだったらもういいから。オレのこと、信用できないの当然だし……知り合いに、頼んで」

 その知り合いの顔が思い浮かぶ。
 ヘヴンズブルーのオーナーであり、一ヶ月ほど一緒にいたことのあるその男はハルの身体に見返りを求める、出来れば頼み事をしたくない相手だった。最後に会った時、店の前で煙草を吸っていた姿を思い出す。

『俺ん家のゲストルーム貸してやろうか。前と変わってないぞ』
(……ヤらせんの、やだな……)
 他の誰でも、柚月以外は。

 はっきりとそう思い、ハルは柚月から目を逸らした。

「そういうことじゃない」
 もどかしげに柚月はハルを揺さぶる。ハルは反射的に顔を上げた。
「……そういうこと言ってるんじゃないんだ。お前が一人で暮らしたい、自立したいって言うなら保証人にだってなる、金も出してやる。……でも違うんだろう」
 
「……柚月さん」
「……俺の態度のせいだな? 悪かった。普通に接しようと思って……お前にうっとうしいと思われないようにしようとすると、ついそっけなくなって。……すまなかった。でも少し時間が欲しい。友達として見られるように努力するから、……ここにいてくれるか」

 ハルはこくん、と頷いた。
(ともだち)
 さっきまでの重く塞がれた気持ちが晴れていくのが判る。
  
(柚月さんに嫌われたわけじゃなかった。……ほんとは嫌われてんのかもしんないけど、でもここにいていいって。このままオレの気持ちバレなかったら、本当に友達になってくれるかも。……少し好きになってくれるかも)

(柚月さんのそばにいられる)
 
 柚月は念を押すように言った。
「ここにいていいんだからな。出て行かなくていい。……あ、悪い」
 ずっとハルの二の腕を掴んだままだったことに気づき、柚月は慌てて放した。
 
 掴まれていた部分が熱い。
「……オレ、コーヒー淹れる」
 ハルは頬を赤らめながらその場所をさすり、キッチンに逃げ込んだ。

 

  

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