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ヘヴンズブルー:14

 

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第14話

 

          
 ─── ナオが目を覚ました時、ベッドの隣は空だった。
 分厚いカーテンの隙間から陽が射し込んでいる。ナイトテーブルの時計は午前十時を指していた。

 起き上がろうとして痛みが走り、脇腹を押さえる。肩もズキズキと痛み出した。
 しばらくじっとしていると少し楽になる。昨日よりましとは言え、急に動くのは無理なようだ。

 ナオはそろそろと起き上がり、部屋を出る。廊下を抜けてリビングに入るとダイニングで新聞を読んでいる和臣の姿が見えた。もうスーツを着て身支度を終えている。
 
 ナオに気づいて顔を上げた。
「起きたのか。まだ寝ててもいいんだぞ」
 バサバサと新聞を畳む。その横のテーブルの上ではコーヒーカップが湯気を立てていた。

「……」
 和臣のさまになるスーツ姿と比べて、自分がひどくみっともなく思えた。和臣から借りたかなり大きめのパジャマも、唇の絆創膏も、身体中のケガもナオを情けない気持ちにさせるには充分だった。

 朝の光に満たされた、シンプルで洗練されたマンションの室内。一分の隙もないブランドスーツでコーヒーを飲みながら新聞を読む和臣と、ぶかぶかのパジャマで顔にバンソーコーなんか貼ってぼーっと突っ立っている自分とではお話しならないほど釣り合わない。

 ナオは赤くなって俯いた。
「き……着替えてきます」
 その着替えとて安物のジーンズとレイヤードの長袖Tシャツだが、今の格好よりましだろうと浴室に向かう。

「服ならこっちだ」
 和臣の声に振り返りその視線を辿ると、ソファーの上に昨日着ていたナオの服が綺麗に畳まれて置いてあった。
 
「汚れ、なかなか落ちなくてな……」
 ジーンズが少し白く汚れていた。ナオは気にせず、その場でパジャマを脱ぎ出す。
 和臣は新聞紙をストックボックスに入れる振りをして立ち上がり、ナオが着替える様子から目を逸らした。 

「……あの、コートは」
 小さな声で訊かれ、何の気なしに振り向く。
「ああ、玄関の………」

 ナオはジーンズを身に着けたところだった。上半身は何も着ておらず、肩と脇腹のガーゼが和臣の目に焼き付く。
 白く華奢な身体に貼り付けられたガーゼは痛々しく、だからこそ、引っぺがして青くなっているであろう痣を見てみたい、触って痛がらせたいという嗜虐心が煽られた。
  
 昨日ろくに寝てないせいだ、くそ、と生殺しの憂き目を見た和臣は慌ててナオに背を向ける。
「……コートハンガーに掛けてある。でもずいぶん汚れてたぞ。新しいの、買ってやろうか」

 プレゼントなどというつもりはなかった。ナオは一度も物をねだった事がない。汚れたコートの代わりに新しいコートを買ってやるぐらい造作もないことだ。
 しかし、ナオは ── 背を向けている和臣には見えなかったが ── 頭を横に振った。

「いえ! とんでもない、……汚れててもいいんです。安物だし」
「……」
 和臣はナオの他人行儀な物言いに片眉を上げる。昨日のことで気が引けているのだろうか。
 
 少しだけ後ろを見てナオが着替え終わったのを確認してから、改めて振り返る。ナオは和臣のそんな様子に気づいた風もなく、所在なさげに俯いていた。

(……ちっとも笑わない)
 いつもにこにこと笑っていたナオから笑顔が消えていた。昨日、あんな事があったのだし、まだ怪我も痛むだろう。笑えと言う方が無理かもしれない。

 それでも、ナオの笑顔が見たかった。
「……今日の夜、空いてるか?」
「え……」
「なんか旨いもんでも食いに行こう。俺の奢りだ。『比さ乃』でいいか?」

 駅前の大通りからは少し外れた閑静な住宅地に店を構えるその料亭は、訪う客を選ぶ事で有名だった。いわゆる代議士(センセイ)と呼ばれる人間の接待や密談に使われる事が多く、当然一見お断りの老舗である。

 元大物政治家の父が贔屓にしていて、和臣も馴染みの上客である事に違いはないがそれでも敷居は高い。
 わざわざそんな店にナオを誘ったのは、美味い料理でナオを喜ばせてやりたかったのと、顔の怪我を慮ったからだった。

(あの店なら個室だからじろじろ見られたりしないし、女将も給仕も噂話でさえしないからな)
 贔屓筋が筋だけに従業員の教育が行き届いているのが最大の長所だった。

 しかし ───。
 和臣の気遣いは返ってナオを気後れさせた。
「あ……あの、僕……」
 そんな高級料亭に自分は場違いだ、と言いたくて言えない。

 口ごもっていると和臣の眉間に皺が寄った。
「……先約があるのか?」
 ナオの常連客が何人か、和臣の脳裏に浮かぶ。ますます不機嫌になり眉間の皺が増えた。

 和臣の表情にナオは首を横に振る。
「先約なんてない、けど……」
「じゃ、いいな。七時に『比さ乃』だ」

 和臣は強引に決めた。先約があるんじゃないかという嫉妬に駆られ、ナオの困った表情に気が付かない。
「……」
 ナオは仕方なく、頷いた。

   

    

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