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きみの手を引いて:15

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第十五話

 

 

 十二月も半ばを過ぎ、街には赤と緑の配色が目立ち始めた。至る所でツリーが飾られ、ショップでは定番のクリスマスソングが流れ出す。 

 その日、ハルはアルバイトが休みだった。ロフトの片付けをしていたところへ、玄関のチャイムが鳴ったので慌てて降りる。
「はい」
 何度も鳴るインターフォンに出ると、女の固いつっけんどんな声が聞こえた。

「……峰岸 あやです」
 ドアを開けてハルは驚く。
 あやは唇を引き結んでハルを睨みつけたのだ。

「……あやさん。あのう、柚月さんはまだ帰ってないんですけど」
 睨み付けられる覚えのないハルは戸惑う。
「判ってるわ、大学院にいたもの。……あなたに話があるのよ」

「オレ、ですか……?」
「上がってもいいわね。ここで話すことじゃないと思うの、あなたの為にも」
 あやは強引に部屋に上がりこんだ。コートを着たままソファーに浅く腰掛ける。
 
 ハルはキッチンに立ち、コーヒーが入っているサーバーを火に掛けた。
「何もいらないわ。そこに座って。話があるって言ったでしょう」
「はあ……」
 初めて会った時とは打って変わったあやの冷たい声に困惑しつつ、火を消し、L字のソファーの短い方へ座る。
 
「……ヘヴンズブルー」
 あやは前置きなく切り出した。
「あなたはヘヴンズブルーで何をしていたの」

「……あやさん」
 あやの目は真っすぐハルを射抜く。「悪いもの」を排除し、断罪する、瞳。
 徐々にハルは表情を強張らせ、俯いた。

「売春してたのね?」
「───」
 直截的なあやの言葉にハルは声を失う。膝の上で両手をぎゅっと握り締めた。 

 あやは声を上擦らせた。
「それとも現在進行形かしら。要ちゃんをカモにしてるってわけ」
「違います!」
 思わず顔を上げて大きな声を出してしまう。あやの視線とぶつかり、うろたえながら俯く。

 声を落とし、それでも否定した。
「……違います。柚月さんとは何もありません」
「たぶらかしたくせに」
「そんなことしてませんっ……オレはただの居候です……」

 あやは品定めをするようにハルを眺めた。─── 本当にまだ「ただの居候」なのだろうか。柚月はハルが好きだと肯定した。

「……あのひと、あなたに言い寄ったでしょう?」
「あのひとって? 柚月さんが? オレに? まさか。ありえない」

 あやのことで柚月と気まずくなり、最近になってやっと普通に会話が出来るようになったばかりだった。言い寄るどころか、柚月の態度は今もってぎこちない。
 
「……本当にただの居候なのね」
「はい」
「でも売春はしてた」
「……」

 俯いたまま、肯定も出来ずにハルは小さく声を発した。
「どうして……知って……?」
「友達がたまたまそのヘヴンであなたを見たらしいわ。……すごく目立ってたって。彼女、あなたのそのキレーな顔見たくて何回か通ったけど、あなたの周りにはいつも、」

 あやは口を噤んだ。察したハルはうな垂れる。
「……それであなたの『仕事』が判って諦めた。ところが、今度は昼日中あなたが男と歩いてるのを見かけた……要ちゃんと、あなたが。彼女びっくりしてあたしに訊いて来たわよ、柚月 要ってソッチのひとなの、って」

 居たたまれず、ハルはロフトに逃げ込みたくなった。
 柚月と夕飯の買い物に行った時だろうか。それとも柚月がヴィンテージに来て一緒に帰った時だろうか。何にしろ、ふたりで出歩くべきではなかった。

 こんな風に噂になるのは当然のことだったのに。

「要ちゃんはあたしと付き合ってる、って言っといたわ。……あなたと一緒にいたなんて見間違いだって」
「……その人だけですか。オレのこと、知ってるの」
「今はね。……けど、もしあなたと要ちゃんが一緒に暮らしてるって知られたら、あたしがどんなに庇っても、無理。………」

 じっとあやはハルを見つめる。自分の言葉の意味がハルに浸透するのを待ってから、改めて口を開いた。
「あたしの言いたいこと、判るでしょう」

 この子は聡い子だ。この間、気を利かせようとした事だけでも判る。─── 必ず、汲み取る。

 うな垂れたままのハルの肩が揺れた。
「── 判りました。出て行きます」

 あやはほっとして息を吐いた。柚月の心とこの部屋に入り込んだ『ハル』を追い出したかったが、面と向かって「出て行け」と言うのはさすがに気が咎める。自分から言い出してくれればそれに越した事はない。

 ハルはスポーツバッグを取り出してくるとダイニングテーブルに置いた。ヴィンテージの制服を持ち帰り、洗濯する為に柚月に貰ったものだった。今はそれに私物を入れていく。
 Tシャツやジーンズ、パーカー、雑誌や漫画がほんの少し。
 すぐに出て行ける。
 
「……ずいぶんあっさりしてるのね」
 ソファーから立ち上がり、そのままハルの様子を見ていたあやはぽつりと呟く。─── なんだか拍子抜けする。柚月と一緒に暮らすという特権を失っても淡々としているハルの気が知れない。

「ねえ、……あたしを嫌な女だと思ってるんでしょう」
「思いません。あやさんは、柚月さんのことが好きで大事に思っていて、だからオレみたいな奴にそばにいて欲しくない……当然のことです」

 柚月さんの彼女って言ってくれて助かりました、とハルは微笑む。

「本当に何もないけど、ヘンな噂立ったら、柚月さん、困るもんね。……オレねー、柚月さんに嫌われてんです。あのひと、お人好しだからオレのこと置いてくれてるけど、もう嫌ってんの丸判り。だからそろそろ出て行こうと思ってたところなんです」
 
 明るい口調で言うハルにあやは眉根を寄せた。
「それ、嫌味? 誰が誰を嫌ってるって?」
「柚月さんが、オレを、です」
「……」

 フザケているのだろうか。それとも本気?─── だとしたらハルは柚月の気持ちを知らないということになる。
「─── あなたは?」
「え?」
 
「……要ちゃんはあなたを嫌ってるんでしょう。だったらあなたは?」 
 あやの胸の奥がずきんと痛む。今、ハルが柚月の気持ちを知れば出て行くのを止めるかもしれない。それだけは嫌だ。絶対、嫌だ。
 だから、痛くても言わない。

「オレー?……柚月さんはいいひとですよ。でもそれだけ」
「す……好きなんじゃ、ないの」
「好きって恋愛で? まさか。そうゆうイミなら好きじゃないです。ただの家主とただの居候」

 何のてらいもなく言うハルにあやは少しだけ安堵した。柚月の想いは一方通行だ。
 ハルを出てゆけがしにした罪悪感が薄れる。

「……帰るわ」
 それでも苦いものが胸に残り、ハルから目を背けた。
「あっ、はい。……オレもすぐ出ます」
「今? すぐに?……」

「ええ。……柚月さんにカオ会わせらんないから。ほんとに何もないのに柚月さんに迷惑かけて、……他の人にヘンに思われて」
 オレはほんとのことだからイイけどー、とハルは寂しそうに笑う。

「……行く当てあるの、」
「泊まるとこぐらいどうにでもなります。……オレのシゴト、知ってるでしょ?」
 ふっとハルの雰囲気が変わった。あどけなさを残すぱっちりとした目を僅かにすがめ、口角を上げる。首をほんの少し傾げ、どうしようもなく色っぽい表情をあやに向けた。

 あやは真っ赤になり、ばたばたとパーテーションの向こう側に逃げ込む。
 ブーツを履くのももどかしく、柚月の部屋を出た。

「……冗談なのにな」
 一人残されたハルはくすくすと笑う。
 そして二度と訪れる事のないこの部屋を、見渡した。

  

  

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コメント

うひゃぁぁぁぁ∑ヾ( ̄0 ̄;ノ
あやサン、また来たー∑
ハルも出て行っちゃうし(ρ_;)
まとめてココまで読んだんですけど、想いがすれ違ってる切なさが…><
心臓を握られてるような気分です(∩∀`*)胸が苦しい><
続き、また見に来ます☆☆
  
 ≫コメントありがとうございます♪
 あやは割りと一途なキャラなんですが、「振られちゃえ!」とか言う辺り、結構サバサバしてる……つもりです。
 ハルを出て行きがしにした時が一番無理してるあやかな……。
 またお邪魔しますので宜しくお願いします。m(_ _)m

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