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ヘヴンズブルー:15

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

   

 第15話

 

         
 ─── レイは大通り沿いのファミリーレストランにいた。ナオに呼び出され、彼を待っているところだった。

「ごめん、遅れた?」
 ナオの声がし、携帯電話をいじっていたレイは顔を上げる。

「いえ、俺が早く来すぎたんです。ナオさんから連絡貰えるなんて思ってなかったから……」
 舞い上がっちゃいました、と続けようとして驚く。その視線の先にはナオの唇の端の絆創膏。その周りも青く腫れあがっていてひどく痛々しい。

「……どうしたんですか、それ」
「あ、これ?……なんでもない、ちょっと」
 レイと向かい合わせに座りながらナオは絆創膏に手をやり、顔を顰めた。

「何でもなくないでしょう、かわいいツラが台無しじゃないですかっ」
 声を引きつらせて上半身を乗り出すレイ。ナオの頬を両手で包み込もうとしてとレイは手を伸ばしかけたが、ここが公共の場だということを思い出し、その手はテーブルの上に乗せられるに留まった。

「なにそれ、イヤミ? 自分こそそんな綺麗なカオしてるくせにさー」
 ナオは明るく言って苦笑する。
「イヤミ? 何がイヤミなんです、そんなこと言ってせんよ! 一体誰に、……まさかオーナーが」

 レイは昨日、ヘヴンを飛び出したナオを和臣が追いかけて行った事しか知らない。
「違う違う」
 慌てたナオは頭を横にぶんぶん振って否定する。
「臣さ……オーナーは手え上げたりしないよ。すっごい優しいんだから。あんな優しくていいひと、見たことない」

「……」
 レイは疑いの眼差しをナオの目と絆創膏に交互に向ける。
 仕方なしにナオは声を低めて話し出した。

「─── 昨日、ヘヴンに来た奴だよ。あの後あいつに尾けられて、……殴られた」
「殴られた、だけ?」
 口ごもりながらのナオの言葉にレイは思わず詰問する。

 ナオは言いにくそうにぼそぼそと白状した。
「……レイプされそうになって抵抗したら殴られた」
 そこで上目遣いでレイをちらっと見ると、腕を組み口をへの字に曲げた不機嫌丸出しの表情。「お待たせしましたー」と愛想良くコーヒーを運んできたウェイトレスも美形のあまりの不機嫌ぶりにそそくさと立ち去ろうとする。

「僕もコーヒーお願いしますっ」
 どん引きのウェイトレスを無理やり引き止めオーダーを通した。
 ナオがレイに向き直ると矢継ぎ早に文句が飛んでくる。

「あんな風に絡まれて金ずくで追い払うような真似して恥かかせたくせに何で一人で飛び出すんですか!? ちょっと考えたら外で待ち伏せてるかもしれないって想像付くでしょう! ああもう何だってこんな……!」

 やっぱりオーナーなんか当てにならない、けしかけてる暇があったら俺が行けば良かったと歯噛みするレイにナオは弁解する。
「待ってよ、問題は殴られたとかレイプされそうになったとかじゃないんだ」
「充分問題だと思いますけどね!?」

 レイの速攻の切り返しにナオは、はは…と笑うしかない。
「……で、その時さ、逃げようとした時なんだけど、……お金、取られちゃって」
「お金って……」
 まさか。レイはごく、と唾を飲む。

「百万全部……?」
 ナオはこくんと頷く。はあ、とレイは息を吐き出した。
「……バカだよねえ、オーナーのお金持ち逃げしてあいつに捕まって、全部取られちゃうなんて。ほんとはお金返して断ろうと思ってたんだよ、でもオーナー受け取ってくんなくってさー、……結局このありさま。百万の借金」

 ちょうどナオのコーヒーが運ばれてきて会話が途切れる。ウェイトレスが行ってからナオが口を開いた。

「取り合えず今日から頑張って稼ごうと思うんだけど、今日の夜さ、オーナーに食事に誘われてて。……なんか強引に決められちゃったんだけど、……僕の代わりにオーナーと会ってくれないかなあ……?」

 それは。つまり。
「……俺にオーナーの相手をしろってこと、ですか」
 思わず知らずレイの声は低くなる。
「うん……いや、かなあ?」
 嫌に決まっている。なにが悲しくて恋敵と寝なきゃならないのだ。
      
 渋い表情でコーヒーを飲むレイにナオは畳み掛けた。
「あの、さ、オーナーお金持ちだからさ、お気に入りになったらきっとすごい貰えると思うよー。なんなら愛人とかどう? 僕も押すし……あのひとメンクイだからさ、レイみたいにキレイな子が好きなんだよね」
 
 愛人! 冗談じゃないっ、とレイは気色ばんだがそれを隠し、ぎこちない笑みを浮かべた。
「またまた。オーナーの「お気に」はナオさんでしょ。みんな知ってますよ、オーナーとナオさんがデキてるって」
 内心嫉妬に駆られながらもレイは軽く言う。

「僕……?」
 ナオは目を丸くしてぱちぱちと瞬かせた。
「え、そんなんじゃないよ、オーナーはそんな趣味悪くないよ。すっごいメンクイなんだ。……ちょっと前にハルってすごい美人がヘヴンに来てたんだけど、オーナーその子のこと今でも好きなんだよ。僕はその子と仲良くしてて、だから気に掛けてくれるだけ」

 目を伏せたナオは静かに言う。
「……牧さんもそんなこと言ってたけど、お気に入りとかデキてるとかそんなんじゃないんだ」
「……」

 レイはため息をついて頭を掻いた。─── なんだって俺がこんな事言わなきゃなんないんだ?
「─── じゃあナオさんが「お気に」じゃないとして、百万も出してあのヤク中から助けたのはどうしてでしょうね? 昔の恋人……だかどうだか知らないけど、その美人の友達だってだけでそんな大金出すと思いますか?」

「それは……」
 言いよどみ、ナオはコーヒーを一口飲む。

「……オーナーね、優しいんだ。客付かなかったら買ってやるとか言って売れ残りの僕をいやいや買ってくれてさ、……ほんとは僕と寝たくなんかないんだよ。ベッドの中で僕のことじーっと見て、ちょっと笑ってアタマ撫でてカオ撫でて、なんて言ったと思う?」

 オーナーとナオのネヤゴトなど知りたくもない、とレイは思ったがしぶしぶ先を促す。
「……なんて、言ったんですか」

「何もしなくていいから朝までそばにいてくれ、だって。……ほら、僕、こんなだからさ、チビだし不細工で色気もないからさ……飽きられちゃって。でも、売れ残ってるのほっとけなくて……仕方なく。オーナー、僕と寝るの、ほんとは嫌なんだよ」

 オーナーは優しいひとだから、とナオは続ける。
「前もあいつから助けてくれた。先約だって、嘘吐いて。昨日もおんなじ。……今度は金出さなきゃあいつが引き下がらなかったから、……僕を百万で買ったんじゃないんだよ。助けてくれたんだ。だって、飽きちゃった奴に百万も出すわけないもん」

 ナオは鼻を、すん、とすすり、へへと笑った。
「みんながお気に入りって勘違いしてんの、おかしいね。ほんとは臣さ……オーナーが優しいだけなのにね。……僕さ、オーナーを喜ばせてあげたいんだ。何回も助けてもらって、お金も失くしちゃって……僕に出来ることったらレイみたいな美人とのデート、セッティングするぐらいしかなくて」

「……」
 レイは俯くナオをじっと見つめる。─── ナオがなんと言おうとオーナーが彼に本気なことは明白だ。本当に目の前のこのひとは「飽きられた」と思ってるんだろうか?

「─── 俺がナオさんの代わりに来たって言ったら、オーナー、喜ぶと思いますか? 俺には烈火のごとく怒り狂うとしか思えないな、」
 
「え、何で? 怒ったりしないよー。……きっと喜ぶ。レイはキレイだもん。お願い、オーナーと会って。絶対悪い話じゃないから、」
 縋り付くようなナオの瞳にレイの心が揺れる。ため息を吐いた。

「…………判りました。ナオさんの頼みなら、仕方がない」
「ありがとう、レイ。一生恩に着る」
「ナオさんの頼みだから聞くんですよ。そうでなかったら」

 誰があんなナオを独占しようと躍起になってる奴のところなんか、と心の中で呟く。俺が代わりと知れば、最悪暴れられかねない。
 ナオは不思議そうにレイを見た。

「レイってちょっと変わってるよね。他の子たちはみんな、オーナーに気に入られたいって思ってるのに。なんか眼中にないってカンジ」
「……向こうもお互い様じゃないっすかね」

 頬を引きつらせるレイに、ナオは「美形ってそういうもんなのかなあ?」と見当外れに首をかしげる。
 レイは咳払いをして話を変えた。

「それでどこへ行けばいいんですか。食事、ですよね」
「『比さ乃』知ってる? この通りの裏手の」
「ああ、料亭の……知ってます」
「そこに七時。少し遅れてったほうがいいと思うな。オーナーが先の方が話早いから」

「……ナオさんは」
 レイはじっとナオを見つめた。そばかすの散る小さな顔に黒目がちの瞳。唇の端の暴力の後が全く似合っていない。
「ナオさんは、ヘヴンに行くんですか」
 
 それは売春をするのか、と訊いているのと同じこと。
 ナオは頷いた。
「うん。外寒くて立ってらんない」
「そーいうこと言ってるんじゃなくて。……ケガ、してるんだから家でおとなしくしてたらどうです? せめて腫れが引くまで」

「んん……でも、早くお金返したいし。こんなカオじゃ客付かないかな?」
 絆創膏を触り、「痛ったー」と顔をしかめるナオ。
 レイはナオから視線を外し、冷めたコーヒーの黒い水面を見つめる。

「……金なら俺が都合します。無利息無期限で百万。……この際、下心もなし」
 代わりに俺のものになって、と言いたい誘惑に負けそうなレイに、ナオはぽかんと口を開けた。
「レイ、金持ちー。もうそんな稼いだの? それともお坊ちゃん?」
 
「俺のことはどうでもいいですから。今日はヘヴン行かないで」
「借りないよ」
「ナオさん」

「オーナーの相手してくれるだけで充分。お金まで借りられないよー。自分で頑張って稼がなきゃ。売れ残ったらどーしよ、河合さんでも口説いてみよーかな?」
 なんで河合だ、俺なら今すぐ口説かれてやるのに! と心の中で叫ぶレイ。
 
 口に出すわけにもいかず、恋敵の立場でナオを引き止めるしかなかった。
「ナオさんが自分を売った金で返されてもオーナーはちっとも嬉しくないと思いますよ。まして、自分とこのスタッフ口説いてなんて。……あのオーナーが知ったらソッコー解雇、下手すると殺され……」
 
 言ってて怖くなってきた。背中がぞくぞくする。 
 身震いするレイにナオはきょとんとした表情を向ける。
「? なんで? お金返してもらったら嬉しいでしょ?……あ、確かに河合さんってのは良くないかも知んないけどー」

 でもスタッフ口説く子も結構いるんだよー、と暢気なナオに、レイは額に手を当てて嘆息した。
「……いいですか、オーナーのお気に入りにコナかけられてうっかり間違って手え出しちゃった哀れな従業員を見たくなかったら、やめて下さい」

「お気に入りじゃないって言ってるのに」
 首をかしげるナオにレイは目頭を押さえる。
「本っ当に自覚がないんですね……」

 オーナーも大変だ。いや、ナオみたいに自分に自信がないタイプははっきり言わなきゃ判らないのに、気持ちを言わないオーナーが悪い。
(あーあ。好きだって言っちゃおうかな)
 
 思ったものの、躊躇しているうちにナオは伝票を手に取り立ち上がる。
「七時に『比さ乃』だからね」
「……判りました」
 レイにはナオの華奢な後ろ姿が遠ざかっていくのを見送ることしか出来なかった。

 

 

    

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