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きみの手を引いて:16

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第十六話

 

 その日の夕方。
 ハルは瀟洒な高層マンション最上階に一つだけしかない部屋の前に立っていた。
 ネームプレートに記されているのは成沢 和臣という文字。

 この部屋の住人にしてマンション全体の所有者であり、またヘヴンズブルーのオーナーでもあった。他にも保有する不動産や経営する会社はいくつもあるが、そこまでハルは知らない。

 エントランスのインターフォンでのやり取りの後だった為、オートロックは外してある。ハルはスポーツバッグを肩に掛け直し、ドアを開けた。

 見慣れた、マンションとは思えないほど広い玄関を難なく通り過ぎ、廊下を進む。
「よう」
 リビングに入ると遥か向こうにあるキッチンから声がした。
 
「しばらくだな。火事ん時以来だから三ヶ月ぶりか」
 部屋の主である和臣はスーツの上着だけ脱いで、大きな冷蔵庫に缶ビールを詰め込んでいた。
 ちらりとハルを見止めただけですぐに背を向ける。煙草の匂い。白いYシャツの後姿。やたらと広い、生活臭の薄いリビングダイニング ───。

(何もかも違う)
 目の前にいるのが柚月でなく、今いる場所が柚月の部屋でない。
 その当たり前のことを、突きつけられた。現実。これが、現実 ───。
(……嘘みたいだ)

「飲むか?」
 なんとなくふわふわとした足取りで近づくハルに、和臣は冷えた一本を差し出す。ハルは頭を横に振った。
「……いらね」
 和臣は片眉を上げて、おや、とでも言いそうな顔をした。
「ふーん?」
 
 缶ビールを冷蔵庫に戻し、Yシャツの胸ポケットから煙草を取り出す。
「どうしたよ。ご機嫌ナナメか?」
「べつに。……普通だよ」

「仏頂面が?」
「あんたがナナメとかって言うからだろ」
 顔を覗き込もうとする和臣から逃れ、距離を取る。
「ガキ扱いすんな」
「はいはい」

 和臣は肩を竦めて煙草に火をつける。灰皿のあるリビングにハルも一緒に移動した。
「腹減った。メシ」
「とんだ亭主関白だな。ヘヴンでいいか?」
 ハルの子供っぽいわがままに慣れている和臣はなんなく受け流し、咥え煙草でネクタイを締め直す。

「ヘヴンはやだ。またあんたとどうかなってるって思われんだろ」
 オーナーのお気に入り、と嫉妬と羨望が入り混じった揶揄を他の少年たちから受けたことを思い出し、ハルは顔をしかめた。

「どうもなってない、ってわけでもねえけどな」
「シゴトだ」
「つれねえなァ、相変わらず」

 やれやれと言いたげに和臣は煙草を灰皿に押し付ける。
「ま、適当にイタリアンでも食うか」
「焼肉がイイ」
「判った判った。荷物置いて来い」

 リビングを出て玄関に近い部屋へ向かう。以前、ここで暮らしていた時にハルが使っていた部屋だった。元々ゲストルームらしく、家具らしい家具は最近使った形跡のないシングルのベッドが一つだけ。風通しに半分開けた作り付けのクローゼットの中には何も掛かっていない。
 
 明かりも点けずに、ベッドの上にスポーツバッグを無造作に投げ出す。─── その拍子にダウンジャケットのポケットに入っていた携帯電話が揺れた。
「……」

 ポケットに目をやり、そっと手を差し入れ、取り出す。
 壊れ物を扱う慎重さでゆっくりと開いた。
 真っ暗な液晶画面。

 ハルは電源を切っていた。
(……柚月さん)
 柚月と一緒に選び、柚月が買ってくれたケータイだった。─── どうしても、置いて来れなかった。
 画面の汚れをTシャツの袖で丁寧に拭う。綺麗になるとハルは口元を綻ばせた。

「─── ダレに買ってもらったんだよ」
 不意に掛けられた声に驚いて振り向く。
 和臣が開け放たれたドアに凭れていた。腕を組んだその姿を廊下からの明かりが照らす。

「ケータイ。前、持ってなかったろ」
「……自分で買ったんだよ」
 ハルは携帯を閉じ、ダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。

 つんと顎を反らし、部屋を出ようとドアに凭れる和臣の前を通る。─── 途端に腕を掴まれ、引き寄せられた。
「……何すんだよ」

「なんかお前変だぞ。三ヶ月前と違う。─── 何があった?」
「なんもねーよ」
 ハルは目を逸らして和臣の手を振り解く。その大きな手も、Yシャツの下の体温も、漂う煙草の匂いも、柚月と違うというだけで何もかもが厭わしかった。
 
 ハルの様子が以前と違うことに気づいた和臣は、玄関で靴を履く彼を見下ろした。
「ヤらせる気あんのか? ねェんなら」
「ある!」
 ないならないと言え、一晩ぐらい泊めてやる、と言おうとした和臣は、ハルの速攻の切り返しに口を噤まざるを得ない。

 ハルは和臣を真っすぐに見上げた。
「……あるよ。心配すんなって。オレだって金欲しいんだからさ」
 
 ─── 好きでもない奴に簡単にやらせるな、と柚月さんは言った。
 
 オレがこんなこと言ってんの知ったら、あのひときっとびっくりして、……いや、「やっぱり」って軽蔑して、そんで。
(もう絶対口もきいてもらえない)

 二度と会わないつもりで柚月の家を出てきたのに、無意識の内に彼に会った時のことを考えてしまう。
(……柚月さんなんてカンケーない。どう思われようと)
 ハルは和臣に営業スマイルを向けた。

「稼がせてもらうから。高いの、知ってんだろ」
「……当たり前だ。自分を高く売れって教えてやったの、誰だと思ってる」
「あんた」

 にこにことハルは笑う。
 素直でないハルの「なにもない」という言葉と笑みを額面どおりに受け取るほど付き合いは浅くない。和臣は目を細めた。

「とりあえずさー、メシ行こ。腹減ってたらエッチも出来ねーよ」
「……」
 玄関ドアを開けるハルの背中をじっと見つめ、和臣はコートに袖を通した。

     

  

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