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ヘヴンズブルー:19

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第19話

  

「あの、……あのね、臣さん」
「……」
 今。
 振り返って、ナオを抱きしめたらどうなるか。

 絶対に歯止めが利かなくなる。ナオがどんなに抗っても自分のものにしてしまうだろう。
 それはたった一回のことではない。
 この先ずっとナオを所有するということだ。─── ナオの気持ちを、心を無視して。

(……そんなことをすればナオはきっと俺の前では笑わなくなる。俺の顔色を気にして、怯えて)
 それは、ナオじゃない。

 ドアの前から一歩も動けない和臣にナオは近づいた。
 広い和臣の背中に抱きつく。

「……やめろ」
 ナオは頭を横に振る。
 その髪の香りと体温に和臣の理性は飛ばされかける。

 慌てて振り返り、ナオの両腕を掴んだ。
 端に青痣のある唇を引き結び、ナオは必死に和臣を見上げる。─── 怖さを堪えている。
(そんな表情をさせたかったんじゃない)

「……もう、いいから。無理するな。……俺と寝て機嫌を取らなきゃいけないと思って来たんだろう? そんなこと、しなくていい」
 やっぱりお前の頼みでも部屋に上げるんじゃなかったな、と和臣は淋しい笑みを浮かべた。

「……ちが……う」
 ナオは頭を横に振った。
「話……聞いて? お願い……」

「……」
 和臣はゆるゆるとナオの腕を放した。思いの外、強く掴んでいたらしいその部分をさすり、ナオは俯いた。

「……臣さんが……あの……僕のこと、す……好きって言ってくれたとき……びっくりしたんだ……」

 眼下にナオの赤く染まった首筋を見た和臣は、思い切り目を逸らした。

「笑って欲しいとか……何でもするって、言われて……こ……怖くて……怖くなって……」

 和臣はため息を吐いていた。─── 風呂上りでバスローブ着た片思いの相手を目の前にして、フラれる理由を聞かなきゃならないのか。
 
「─── あんな風に、好きだって言ってもらったの、初めてだったから……」

 和臣は片眉を上げた。
 以前、寝物語でナオの過去を聞いた。愛情の薄い家庭。のけ者にされた子供だったナオ。抱きしめられたことも、心配されたことも、物心付いた頃にはほとんどなかっただろう。

「……びっくりして、怖くなって…どうしたらいいか、判んなくて…」
 突然激しい感情、愛情を向けられたナオは戸惑い、泣いた。
 
「臣さん、……僕のこと、好き、とかそんな風に思わなくてもいいんだよ」
 ナオはゆっくりと和臣に手を伸ばす。和臣のバスローブの合わせを掴み、額を押し付ける。

「お金とか迷惑かけてるし……臣さんに呼び出されれば、いつでも、あの……タダで……好きなんて言わなくても……」
 和臣はナオを抱きしめた。

 ─── ナオは何も判っていない。何一つ。
(ナオに好かれたい。嫌われたくない。怖がられたくない。そばにいて欲しい。他の誰にも触れさせたくない。─── 笑っていて欲しい)

 自分の心を占める「ナオ」と同じぐらい、ナオの心を自分で占めたい。─── ナオの心が欲しい。

「お……臣さ……」
 抱きしめられたナオはぎゅっと目を瞑り、おずおずと和臣の背中に手を回す。和臣の気持ちに身体を与えることで応えようとしている。─── 身体を与えれば、満足すると思っている。

「……くそっ、お前に惚れてさえなけりゃとっくの昔に強姦してるところだ……っ!」
 和臣はナオを引き離した。
 踵を返して、部屋を出る。ドアが閉まる瞬間、ナオの「待って臣さんっ」と追いすがる声がしたが、あえて無視した。

 背中を押し付け、ドアが開かないようにする。
「……開けてっ、開けてよ臣さん!」
 ガチャガチャとレバーハンドルが上下に動き、ドアが叩かれる。

「お願い、開けて! そこにいるんでしょ、臣さんっ……ごめん、ごめんね、僕、誘い方下手で、今度は臣さんが気に入るようにするから! お願い、開けてよ……っ」
「いいから寝ろ! お前が寝るまでここ動かねーからな!」

 やけくそで和臣は叫ぶ。ちきしょう何が誘い方だ、ただそばにいるだけでこっちは触れたくて気が変になりそうだってのに!
   
 しん、と部屋が静かになった。
 微かに鼻をすするような音。くしゃみが聞こえた。
「……早く着替えてベッドに入れ。風邪引くぞ」

「ごめん……臣さん……僕、どうしたらいいか判んなくて……」
 涙声。ドア一枚隔ててナオがいる。額をドアに押し付けて和臣に精一杯、話しかける。
「……僕と寝るの、いや?……」

(嫌な訳あるかっ)
 ナオの気持ちが自分にあるのなら、当然、抱くに決まっている。
(……でも今のナオは)

 自分の気持ちを初めて聞かされ、怯えて混乱している。ナオ自身の心を脇に退けて置いて、とりあえず寝ておこうとしている。
(……俺だけ好きなんてごめんだ)

「……青痣だらけの身体なんか抱く気しねえよ。触る度に痛がられたんじゃ、おちおち突っ込んでもいられねーしな。よがらせて泣かせんならともかく、怪我の痛みで泣かれたら興醒めなんだよ」

「……」
 ドアの内でナオは小さく、和臣の名を呼ぶ。冷たいドアの表面を撫でて和臣の体温を知ろうとするが、叶わぬと悟り、涙の浮かんだ目を手の甲で擦った。
 
 ゆっくりとベッドに近づき、パジャマに着替える。和臣がドアを開けて、さっきのように抱きしめてくれるかもしれないという思いが離れず、何度も目をやった。
 
 ドアは開かない。
 
 涙を滲ませたナオの膝の下でベッドが軋んだ。
 

 ……お休みなさい臣さん、と小さな声が聞こえたような気がして、和臣はドアに背を付けたまま蹲る。
 
 天井を見上げて大きく息を吐いた。

   

    

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