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きみの手を引いて:19

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第十九話

  

 あやを残したまま、部屋を出た柚月は真っすぐヴィンテージへ向かった。
 まだ昼前で、客は二、三人しかいない。
 サイフォンの下のアルコールランプに火を点けながら、環は言った。

「ハル君なら、昨日来たよ」
 顔色を変えた柚月に、少し落ち着け、とカウンター席に座るように環は身振りで示す。
 柚月はしぶしぶそれに従ったが、落ち着けるはずもない。

 目を充血させ、髪の毛を乱した従兄弟の様子で、寝てないと察すると環は手短に話した。
「いつものスポーツバッグ持っててさ、元気なかった。裏口じゃなくて店から入って来たから、どうしたのか訊いたら急に頭下げて」

『……ごめんなさい。明日から来られなくなりました』

「本当にごめんなさい、ってすごい申し訳なさそうに謝るんだよね。理由訊いても俯いて謝るだけでさ、……仕方なく昨日までのバイト代出そうとしたら、それは柚月さんに渡してくださいって、……今までの迷惑料だって」

 沢山のカップが並ぶ背後のキャビネットから白い封筒を取り出した環は、カウンターの上にそれをそっと置いた。
「─── お前にひどい迷惑をかけたって言ってたよ」
 
 迷惑なんか、と柚月は呟き、唇を噛む。
「……どこか、行くって言ってなかったかな。あいつ、……出てったんだ、昨日。帰って来ないんだ……」

「……そうか。そんな感じだったものな」
「環さん」
「何も聞いてない。訊いても言わなかったよ。ただ、お世話になりました、急に辞めてすいませんって、それだけ」

 柚月は立ち上がり、封筒を見つめた。
「ありがとう。……俺、あいつ捜してくる。またここで働かせてもらうから、それ預かっといて」

 言いながらドアに向かう。背後で環が笑みを含んだ声で「判った、預かっとこう」と言うのが聞こえた。

 それから柚月は当てもなく街中を捜した。ハルと一緒に買出しに行った店、ファミリーレストラン、ファーストフード店、CDショップ、本屋、ゲームセンター……。

 果ては駅前をうろつき、ハルがアパートに帰っているかもしれない、と家に戻り、─── あやの姿はすでに無かった ─── 携帯電話をかけ、メールを打つ。

 外を見ると日が暮れていて、三十数時間寝ていなかった柚月はいつしか、気絶するようにソファーで眠り込んでいた……。

 

 

 

 

 明くる日。
 柚月は「Heaven's blue」と書かれたネオン管を見上げていた。その下にはぽっかりと暗い口を開けて地下へ向かう階段がある。

 出会ったばかりの頃、ハルがスーツの男と話していた場所だった。

 ここにハルが来る可能性は高かった。彼はヴィンテージでのバイト代を受け取っていない。金が尽きれば確実にこの店に来るだろう。
 
「……」
 金を稼ぐ手段を思い、柚月の胸はちりっと焦げる。今はそんな場合じゃない、と頭を振って自分を諫めた。
 携帯電話を手にしてじっと見つめる。

(ハル) 
 一度もハルからの返信もなければ、電源が入っていたことさえなかった。

 けれど、彼が携帯電話を ─── 柚月の名義で、支払いも柚月の口座からになっているいわば柚月の携帯電話を持って出たということは、二人での生活に気持ちを残している証拠ではないか、と柚月は思っていた。

 そう思いたかった。

 リダイヤルでハルの携帯電話に掛ける。やはり電源が切られていて繋がらない。
 時計表示は午後の四時を指していた。このまま階段を下りても恐らく開店していないだろう。

「─── まだ開いてないですよ」
 唐突に掛けられた声に振り向くと若い男が立っていた。柚月よりも若いくらいだろうか。頬にニキビ跡がいくつもある。

「それともウチに何か用ですか?営業……には見えないけど」
 ぼさぼさの髪と無精ヒゲ、前を開けたままのダウンコートからよれたシャツを覗かせている柚月をじろじろと眺め、従業員らしい若い男は不審そうな顔をする。

「あ、……あの、何時からやってますか」
「六時です」
 そっけなく言い、男は階段を下りていく。

 柚月はそれを追いかけ、階段を下りきったところで捉まえた。薄暗かったが意外にも広い空間で、目の前のドアにはクローズと書かれたプレートが下がっている。
 
「なんだアンタ」
 男は警戒したようだったが、柚月は構わず訊いた。

「ハル、という子が来ませんでしたか、」
 ハルがここでもハルと名乗っているかどうかは判らない。それでも訊かずにはいられなかった。

 必死な表情の柚月を男は訝しげに見つめる。
「アンタ、ハルくんの知り合い?……客?」
「知っ……てるんですか、ハルを」
 喉がひりついて上手く言葉が出て来ない。

「知ってるよ。昨日、来たよ」
「昨日……」
 柚月は身体の力が抜けそうになった。やっとハルに繋がる糸を見つけた。

 急く心を宥め、男に詰め寄る。
「今日、今日も来るかな」
「来るんじゃないかなあ。なんか一人でいるの、嫌なんだって。ナオくんに話してたよ」
「あの……その、ナオって……客……?」

「違う違う。ナオくんはお仲間。商売のコ。……久しぶりにハルくんが来たっていうからさ、お客さん達目の色変えてんのに、全然相手にしないの。まあちょっと元気なかったけど、そこそこ愛想はいいのに指一本触らせないし、いくら出すって言っても頭、横に振っちゃって取り付くシマもない、ってカンジ」 
 
 柚月がハルの知り合いと判ったせいか、男は気が良さそうに話した。

「あんなにはっきり断るハルくん初めて見たよ。今までは断るにしたって思わせぶりだったのにさ、……でもお客の中には凛としたところが色っぽいとかって、五十万出すって言ってたヒトもいたけどー、」

 柚月は思わず目を剥いた。
「ご……!?」
「別格の美人だからねえ、タガ外れちゃったんだよ。……それでもハルくんちっともなびかなかった。やる気ないから、ってあっさり一言」

「……」
 男を呆然と見つめ、柚月はごくりと息を飲む。

 時給七百五十円でヴィンテージのアルバイトをしていたハルは、その気になれば一晩で五十万稼ぐことが出来るのだ。
 ほんの少し、我慢さえすれば。

 黙りこんだ柚月に男は言った。
「まあそういうわけで、ハルくん商売する気ないから諦めた方がいいよ」
「は……話すだけでいいんだ。話すだけなら、出来るだろう?」

「そりゃ、出来るけどね」
「……ありがとう。これ、コーヒー代」
 財布を出し、男に千円札を渡す。男は一瞬、驚きの表情をニキビ跡の残る顔に浮かべたが、素直に受け取った。

「悪いな、なんか。ハルくんに話、つけとこうか? 男前のお兄さんが来たって。アンタみたいに若くてイイ男だったらハルくんもオーケーするかもね」
「……俺と話してくれるだろうか」

「話す、話すって。それよか先にヒゲ剃ってきなよ。あと、髪もどうにかして。コートはともかくそのヨレヨレのシャツは着替えた方がいい」
 
 柚月の格好をしげしげと見て、男はアドバイスをくれた。確かに今のままでは職質を受けてもおかしくない挙動不審人物だ。
 柚月も自覚があったので頷いた。

 階段をゆっくり上っていく柚月に、男は思い出したように声を掛ける。
「そうだ、ハルくん来るの八時ぐらいだと思うよ。前からそうだったし」
「判った。その頃また来る」
 
 柚月はもう一度男に礼を言って、地上に出た。

    

   

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