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きみの手を引いて:20

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十話

 

 柚月の家を出て二日後。
 ハルはファストフード店で軽く夕食を済ませると、そのままヘヴンズブルーへ足を向けた。

 大きな通りはクリスマスムード一色だった。店という店から定番のクリスマスソングが流れ、街路樹にはイルミネーションが瞬いている。土曜日だからか、カップルや親子連れが目立ち、その幸せそうな様子がショップのウィンドウに映し出されていた。

 赤と緑ときらめく光の中をハルはゆっくり歩き、半地下になっている店の階段を下りた。
 カウンターでドリンクを受け取り、空いたテーブルを探す。
 ハルに気づいた一人の少年が手を挙げた。

「ハル」
「ここ、いい?」
「うん。─── 昨日どうなったの、あれから」
 
 少年の名はナオと言う。くせのある明るい茶色の髪、色白で少しそばかすの散るその顔は百六十センチそこそこの身長と相まってどう見ても中学生ぐらいにしか見えないが、ハルより年上の十九歳だった。
 
 整った美形と言うわけではなかったが、人懐こく、愛らしい小動物をイメージさせるせいもあって、客受けも同業者受けもいい彼はハルが親しく出来る数少ない友人だ。

「五十出すって言ってた人、いたでしょ」
「ああ。別にどうも」
「別にどうも、って……やっぱり断っちゃったんだー」

「まーね。目の前に現ナマ積まれたわけじゃないしさー、……」
 例え積まれたってヤダけど、と心の中で思う。ダウンジャケットのポケットに手を入れ、そっと携帯電話を撫でた。

「でもあの人、何とかって商事会社の次期社長だよ。御曹司だからもう決まってるんだって。シュウが見せてくれた雑誌にも載ってたし」
「ふーん。前、いなかったよな」

「うん。関西の支社から本社に呼び戻されたんだって。ずっとシュウの常連だったんだけど、……わあ、こっち睨んでるよ、シュウ……」
「怖えー……」

 別にオレ、盗ってないのに、とハルはぶつぶつ言ってグラスに口を付けた。
「あれ、ウーロン茶?昨日もそうだったよね」
「……うん」
  
「煙草も吸わないし、……なんかあった?」
 ナオは意味あり気な上目遣いをハルに向ける。
 
「何もないよ。オレ、未成年だもん」
 シラを切るハルに、ナオは驚いたように目をくりっとさせた。
「僕も未成年なんだけどー、……どしたの? なんかの冗談?」

「冗談ってことないだろっ。未成年だから煙草も酒もやらねーの」
 照れ隠しに唇を尖らせるハルに、ナオは眼差しを和らげた。
「─── そっか。未成年、だもんね」
「そーだよ。悪い?」

 悪くないよ、とナオは笑う。
 バカにしてる、してない、と応酬していると一人のスタッフが近づいてきた。
「ハルくん」

「何? 河合さん」
 河合と呼ばれたそのスタッフはニキビ跡の残る頬を人差し指で軽く掻いた。
「いやあ、今日もダメなのかなーと思って」

「え、河合さんてハル狙いだったの? 知らなかったー」
 そうでないことを知りながら冷やかすナオ。河合は慌てて両手を胸の前で振った。
「違うよー、誤解だって、……今日さ、まだ店が開いてない内から来てた人がいてさあ、どうもハルくん目当てみたいなんだよねー、」

 ハルは嫌そうに眉根を寄せた。
「やだな、そういうの。……オレ、当分商売する気ないから」
「判ってる、判ってるって。ちゃんとそう言ったよ、諦めろって。でも、話すだけでいいって言うんだよねー。……話すだけ、話してみない?」
「うーん……」

 返事を渋るハルを見て、ナオが河合に水を向けた。
「ね、どんなひと?」
「ナオ」
「いいじゃん、どんなひとか聞くぐらい。年イッてた? 若いの?」

 他人事だと思って、とむくれるハルの言葉など二人とも聞いていない。
「それがさ、若くてけっこう男前なんだよ。大学生っぽくて、どうもアレはいいとこのお坊ちゃんてカンジだなー。背え高くてセンの細そうなカオしててさ、なんかこう、明らかに頭脳労働系だった。そう、インテリっての?」

「へえ、けっこういいね。ヘンなイタズラ目的のオヤジよりか、よっぽど……どうしたの?」
 ハルはすっかり黙り込み、青ざめた顔で呆然と河合を見つめている。不自然なハルの様子にナオは首をかしげた。

 掠れるハルの声が問う。
「な……まえ、訊いた?……」
「いや、ちょっとそこまでは」
「……」

 訊かなくても判っていた。
(柚月さん)
 片時も忘れたことなどない彼の顔が思い浮かぶ。無意識に携帯電話を握りしめた。
(……オレを捜して……?)

 「……ハル。大丈夫? 顔色悪いよ」
 心配したナオがハルを覗き込む。ハルは我に返り、ぎこちなく言った。

「─── 大丈夫。何でもない。……今日はもう帰る」
「えッ帰っちゃうの、ハルくん」
 慌てる河合に、ハルは今にも泣きそうな ── 笑みを見せる。ナオははッと胸を突かれた。

「……そのひとには会えない。会いたくないんだ。話もしたくない。─── もしそのひと来たら、そう言っといて。オレがそう言ってたって」
「ハル」
 呼ぶナオに答えず、ハルは飲みかけのグラスを河合に渡す。

 フロアを横切ろうとし、─── 立ち止まった。
 追おうとしたナオは不審に思い、ハルの視線の先を辿る。
 ひとりの男の姿があった。

 河合が言っていた通りの、背の高い大学生風の男。

「……柚月さん……」
「え?」

 柚月だった。
 目の下に少しクマが出来ている。ハルに気付くと、こけた頬にうっすらと血の色が差した。
 その唇が動く。

『ハル』

 フロアにはたくさんの人がいて互いの顔を見るのがやっとだったが、ハルには判った。
  
 彼が、自分の名を、呼んだ。

   

  
 

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