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ヘヴンズブルー:20

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第20話

 

 午後七時過ぎ。ヘヴンズブルーに入ってすぐ、レイはナオを捜した。
 どうやら今夜は来ていないようだ。

 昨日、顔に怪我を負っているのだからしばらく家でゆっくりしていた方がいい、と進言したのを聞き入れてくれたのかもしれない。
 少しほっとして、気が緩む。

 カウンターの中にいる牧田にオーダーしがてら、話しかけた。
「昨夜、オーナー来たでしょ。血相変えて」
「え、……ああ、デートだったんだっけ」

 縁なし眼鏡ごしの表情が強張るのを隠し切れない牧田。それでも何事もなかったようにドリンクを手早く作りながらレイを伺うように見た。
「……オーナーと、昨日、何かあった?」
 
「ちょっと。ナオさんのことつついたら、テキメン。オーナー、店に行くって飛び出してっちゃって、酔っぱらってるって自覚なかったんじゃないですかね。ナオさん、今日はヘヴン行かないって言ってんのに聞かなくて」

「……来たよ。ナオくん」
「え」
 牧田の言葉にレイは固まる。ごくりと息を飲んだ。

「ウソ、……マジで? だってカオ怪我して」
「うん。口のところバンソーコーしてた。ちょっと痛々しいよね、あれは」
「いや、てゆーか、まさかとは思うけど、……オーナーと鉢合わせ、とかって……」

 ふふふふ……と牧田は暗い笑みを浮かべた。
「……危うく、うちのスタッフが一人生き埋めになるところだったよ……」
 レイの喉がひッ、と鳴る。

 そういえばナオは、河合さんにでも声かけてみよーかな? とか言ってなかっただろうか?
「もしかして河合さん……」
 牧田はレイの前にグラスを出しながら、大儀そうに頷く。思わずフロアを振り返ったレイは河合を捜した。

「河合は二日酔いで休み。……あいつ、ナオくんに声かけられてね……ノッたあいつも悪いんだけど、交渉中に血相変えたオーナーが飛び込んできて。後はもう……」
「……それって美人局じゃないですか」
「要求されるのは金品じゃなくて命だけどね……」
 
 目にしたはずも無いのに、レイの脳裏にまざまざとそのときの様子が思い浮かぶ。
 修羅場。修羅場だ。こんなことならもっとちゃんとオーナーを引き止めるべきだった。いいや、ナオをこそ、引き止めるべきだった。
 
 頬を引きつらせてジントニックに口を付けるレイを、牧田は半眼で見た。
「レイくん、……ナオくんに気があるでしょ」

 なんでバレた? ってオーナーに対する態度かあ……、と思いながらもレイは誤魔化すように笑った。
「まさか。オーナーのお気に入りに手え出すなんて身の程知らずじゃないですよ、俺」

「ま、いいけどね。……あのひと、めちゃくちゃ本気みたいだから、出来ればナオくんから手、引いてやってくれない? ただでさえナオくんて掴み所がないのに、その上、君みたいに同年代のコがちょっかい出してるなんてなったら、あのひと嫉妬と独占欲でどうかするよ。監禁ぐらいしかねない」
 
「……俺を?」
「ナオくんを。……昨日だってあの後どうなったんだか……」
「あの、あの後って?」

 牧田はわずかに身を乗り出し、声を低めた。
「……オーナー、スタッフルームにナオくん連れ込んだんだよ。すっごい怒ってた」
「……そりゃ」
 それはそうだろう。本人以外、公認のお気に入りが自分の店の中でスタッフにコナかけたのだ。レイでさえ同情を禁じえない。

「その後さ、……その後、オーナー一人で出てきて、店出てっちゃったんだよ。平然としてたけどああいうことの後でしょう。まさかナオくんに手を上げたりはしないだろうけど心配になって、スタッフルームに行こうとしたらナオくんも出てきたんだ。……そしたら」

「そっ、そしたら?」
「泣いたみたいに目、赤かった。怒られて泣いたのかな、と思ったんだけど、オーナーは? ってスタッフに訊いててさ……出てったって教えたらナオくんも出てっちゃって。……オーナーの無表情といい、ナオくんの様子といい、ただ怒った怒られたってカンジじゃないね、あれは」

 「………」
 レイは押し黙り、グラスを見つめた。─── 何があったのだろう。
 ナオに聞き質したかったが ─── その権利ぐらいあるはずだ ─── ヘヴンに彼の姿はない。

「ナオくん来てないし……」
 レイの心を読んだように、牧田は眼鏡のブリッジを押し上げてフロアを眺めた。
「……もし、あの後オーナーの家に行ったんだったら、最悪、監禁とかってことも」
「ま、……」

 まさか。
 不吉なことを言う牧田をレイは呆然と見つめる。

「……ま、無いと思うけどねー。あのひと、ナオくんのことすごい大事にしてるから。嫌がることしないでしょう。極端な話、ヘヴン出入り禁止になりたくなけりゃ愛人になれって脅迫することだって出来たのに、辛抱強くナオくんが気付いてくれるの待ってたりして。育ちに似合わず我慢強いって言うか、押しが弱いっていうか」

「はあ……」
 雇い主に対して言いたい放題の牧田に、レイは全くその通りだ、とため息と共に頷く。
 そもそも、和臣とナオがとっとと恋人同士になってしまえば自分と牧田だって振り回されなくて済んだし、河合に至っては命を危険に晒さずに済んだのだ。

「─── あ。来たよ、天然の『お姫様』が」
 牧田の声にレイは振り返り、フロアを見渡す。

 誰かを捜すようにきょろきょろしている、そばかすのある白い顔。唇の端の腫れは大分引いていたがまだ絆創膏が貼られている。
 不安そうにフロアを見回した後、カウンターのレイに気が付き、足早に近づく。

「レイ、……昨日ごめんね。連絡、出来なくって」
「え、いや、いいですけど……」
 オーナーとのデートが駄目になったことを謝っているらしい。そんなものに興味の無いレイは軽く流し、他のもっと「興味のあること」の為にナオにスツールに座るように促した。

「そんなことより。……昨日、ここに来たって本当ですか。オーナーと鉢合わせしたって」
「え……ああ、……うん」

 スツールには座らず、ナオはちらりと牧田を見る。レイと牧田の間で昨夜のことが話されていたのに感づいたナオは、隠す必要も無い、と牧田に訊いた。

「……オーナー、来てる?」
「いや、今日はまだ……」

 まさに渦中の人物からもう一人の渦中の人物の名が出たことで、妙な空気になる。
 ナオはそのことに気づかず、顔を俯けた。
 
「そっか、……」
 明らかに落胆した声。レイは気が気ではない。
「とにかく座って。─── 何があったんですか、昨日?」
「んん……」

 口ごもるナオを強引に座らせ、牧田にオーダーする。
「俺と同じのでいいですよね」
「あっ、僕、金ないから……」
「俺がオゴります」
「オーナーに付けとくから」

 ナオの声に被さるレイと牧田の声に一瞬、場がしんとする。
 おろおろと二人を見るナオに ─── どうせそんなことしてもらったら悪い、とでも思ってるに違いない ─── レイは咳払いをした。

「……まあどっちでもいいですけど。金のことは心配しないで」
「そ、そうかな……ごめんね……?」
 自分でもなぜ謝っているのか判らないナオ。

 焦れたレイは性急に訊ねた。
「それより。昨日のこと聞かせて下さいよ。俺には聞く権利、あると思いますけど」
「う……ん。そうだよね……」

 ナオの前にレイと同じグラスが置かれる。少し離れた牧田は他のオーダーをこなしながらも、充分聞き取れる位置にいた。

「……昨日、ね、……臣さん」
 オーナーと言わずに、いつもの ── 二人のときの呼び方で和臣を呼んだナオはたどたどしく話し始めた。

  

   

     

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