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きみの手を引いて:21

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十一話

 

  
 柚月が、─── 会いたくて、会いたくて、仕方がなかった柚月が近づいてくる。
 
 ずっと柚月に会いたかった。顔が見たかった。声が聞きたかった。
 そばにいたかった。あの優しい眼差しで見て欲しかった。─── 優しくなくてさえ構わなかった。

(ただ、そばにいられるだけで良かったんだ……)
 その強い想いにハルは放心する。

 周りに沢山の人がいることも、自分と近づいてくる柚月とをナオが心配そうに見つめていることも、意識から消えた。
 
 瞬きもせずに柚月を見つめるハルの前に誰かが立ち塞がり、視線を遮る。
 
 ハルはぼんやりと、立ち塞がった「誰か」に焦点を合わせる。─── 昨日の夜、ハルに五十万出すと言った男だった。
 アルマーニのスーツを着た二十代後半のその男は爽やかそうににっこりと笑った。

「今日も会えて嬉しいよ、ハル。君にプレゼントしたい物があるんだ」
「プレゼント……?」
 ハルは男の名前が思い出せない。最初から覚えてないのだから当たり前だった。

 それよりもそこをどいて欲しかった。
(柚月さんが見えない)             
 柚月がそばにいないことに自分がどれほど飢(かつ)えていたか、ハルは思い知った。
 
 ハルの思いなど全く知らず、目の前の男は小さな紙バッグから木製の箱を取り出し、開けて見せた。
「カルティエとピアジェ。どっちがいい?」
 中にはビロードに包まれた腕時計が二つ入っていた。恐らく、どちらも百万は下らない。

「君の返事次第では二つともあげるけど。……今夜、僕と過ごしてくれるなら」
「どっちもいりません。そこ、どいて下さい」
 一瞥しただけであっさりと言い放つハルに、男の笑みは固まる。

 様子を見ていたナオは、はらはらしながらもそれを隠し、やんわりと言った。
「八島さーん、シュウはー?」
 そうかヤシマだっけ、とハルはちらっと思ったがやっぱり心当たりはない。首をかしげるようにして、どいてくれるのを待った。

「じゃ、じゃあブルガリとかはどう? 僕のマンションに来てくれれば」
 ナオの言葉に聞く耳を持たず、八島はハルに詰め寄る。
 ハルは頭を横に振った。

「いらない。オレ、ブランド物知らないし興味ないから」
 八島を避けるようにして、その横をすり抜ける。ハルの後を追って八島も身体の向きを変えた。
 ─── 柚月はじっと八島の手元を見た。

 八島が現れた時から立ち竦んでいた柚月は、それがとても高価なブランドの時計と判ると眉尻を下げ、情けない表情をする。
 自分がハルにつり合っていないと感じた。

 ハルの気を引く為の高価なプレゼントもなければ、財布の中の持ち合わせも少ない。ブランド物のスーツなど持っていないし、それを着てこようとも思わなかった。
 
 自分がハルにしたことと言えば、下心いっぱいでアパートに置いてやり、四六時中物欲しそうに見ていたことぐらいだ。
 ─── 一体どうしたらハルに戻って来てもらえる?

 立ち尽くす柚月をハルの茶色い目が見つめている。

「ひどい、八島さん、ブルガリの時計はボクにくれるって言ったじゃないか!」
 突然の金切り声と共に、八島に体当たりするようにしがみ付いたのはシュウだった。
 ぱっちりとした大きな目と愛嬌のある少し上を向いた鼻を持つ彼は、ふわふわの髪の毛を揺らし、きつくハルを睨みつける。

「嘘つき、約束したのに!─── こんなガキのどこがいいんだよッ」
 ハルを指差して喚くシュウに辟易して、八島は彼をもぎ離した。
「ん、そうか、約束したかな……もちろん君にもちゃんと」
 
 柚月から視線を外さず、ハルは冷静に言う。
「オレ、カルティエもピアジェもブルガリもいらないからシュウがもらえば? ヤシマさん盗ろうなんて思ってないし」

 その言葉にかっとなったシュウは真正面からハルの襟元を掴んだ。
「バカにしてんだろうハル! ブランド物も男も盗られそうになってヒステリー起こしてるって! スカしたツラしやがってお前みたいのが一番アタマくるんだよッ、やる気ねーんなら来んな!」
 人が変わったようなシュウの口調に目を丸くする八島。止めに入る気配はない。

「シュウ、シュウ! ちょっと落ち着いて、ね!?」
 慌てたナオはシュウを宥めようとその肩に手を掛け、ハルから引き離そうとする。

 ほぼ同時に大またで近づいた柚月は、ハルとシュウの間に割って入った。
 ハルを背中に庇うようにして立ち、シュウを見下ろす。
「─── 済まなかったな、逆撫でして。悪気はないんだ」

 いきなり現れた、自分より大分上背のある仲裁人をシュウは見上げた。気圧されて後ずさる。
「な、……なんだよアンタ」
 小さく不満そうな声を漏らすが食って掛かろうとはしない。柚月が何者なのか、推し量ろうと上目遣いに睨めつけた。

「─── バカになんてしてないよ」
 ふいに柚月の背中から、ハルの声。
 振り向く柚月。周りの視線がハルに集中する。

「バカになんて、してない。本当にいらないからいらないって言ったんだ。……気ィ悪くしたんなら、ごめん」
 ハルは俯いて小さく言った。

 ナオもシュウもハルのそんな様子に唖然とする。以前のハルならば間違いなく謝ったりなどしない。「客盗られるほうが悪いんだろ。そんなに大事ならアソコに名前でも書いとけば?」ぐらいは平気で言うだろう。

 それが、そんなハルが、─── なんだこれは?
(エラく可憐になっちゃって)
 このひとのせいかな ─── とナオは柚月を見上げた。

 その柚月は、俯いて自分を見ようとしないハルに視線を注いでいる。

「……なんなんだよ、一体。……調子狂うなー」
 毒気を抜かれたのか、シュウはぶつぶつ言いながらもぽかんと口を開けていた八島の腕を取り、その場から離れていく。ボクだけだって言ってよ、ねえ、と甘えた声が微かに聞こえた。

「……」
 ギャラリーも散っていく中、ナオは柚月とハルを見守る。
 
 いきなり、ハルは柚月とナオに背を向けて出入り口に向かいだした。
「ハル」
 柚月とナオは同時に彼の名を呼んだがその足が止まることはない。

 柚月は迷わずハルの後を追い、ナオは肩を竦めてそんな二人を見送った。

 

  

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