« 番外編7更新しました。 | トップページ | ヘヴンズブルー:22 »

ヘヴンズブルー:21

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第21話

  

「はあ……」
 スタッフルームであったことをナオの口から聞いたレイは思わずため息を吐いていた。
「……あの、オーナーが」

 形振り構わないオーナーの告白が信じられない。酔っ払っているという自覚がなかったせいか ─── いや、酒の力を借りたからこそ身も世も無い告白が出来たのか。

「……それで、……ナオさんは?」
 当然恋人同士になったものとしてレイは話の続きを促す。オーナーが腹を括ったのなら仕方が無い、という心境だった。
 
 牧田が言った「オーナーが先に一人で店を出た」という言葉が少し引っかかったが、ナオが断るのは考え辛い。─── オーナーの為に自分を呼び出し、デートして欲しいと頼んだほどなのだ。

(ナオさんの気持ちはオーナーにある)
 傍から見れば嫌になるほど良く判る。

「…………」
 ナオは言葉に詰まった。

 押し黙るナオにレイは首を傾げる。
「どうしたんですか? 俺、結構ココロ広いからすこーしくらいならノロけてもいいですよ」
「……そんなんじゃないよ」

 頬を赤らめるナオを目を細めて眺めながらレイは次の言葉を待った。
「……僕……あの……泣いて」
「は?」

 泣いて?─── そういえば牧田はナオが泣いたみたいだと言っていた。
 
「……びっくりして……あんな風に、なんでもするって、─── 好きになって欲しいって言われて、……怖くて……」
「怖い……? 何が怖いんです? 好きな人に好かれたいと思うのって当然でしょう」
 ナオの瞳が揺れる。

「でも、……すっごい怖かったんだ。臣さん、……僕しか視てなくて……僕ね、全部臣さんに取られちゃうって思った。無理やり、全部、心も身体も持ってかれるんだって思った。……無理やりにでも好きにさせようとしてるって、……だって、臣さんはそうしようと思えばいつだって、『俺以外見るな』って命令できるんだもの……」
 
 小さな、小さな声。囁くほどの頼りない声はそのままナオの不安な気持ちを表す。

 レイはグラスを片手で揺らしながら頬杖をついた。
「─── オーナーは命令なんかしないでしょ。てゆーか、出来ない」

 揺れるグラスの中身を見つめながらナオは頷いた。
「……うん。たの……頼んだだけ。笑って欲しいって……あと、どうしたら好きになってくれるって……」

「めちゃくちゃ下手(したて)じゃないですか」
 それで怖がられて泣かれたらオーナーも遣る瀬無い。なんだか気の毒になってきた。

「う……うん。それで後から、悪いことしたって……泣いたりして、臣さん、びっくりしただろうなって、思って……臣さんの家、行った」
 牧田の言ったとおりだ。ナオの話を遮らぬようこっそり視線を送るレイに、牧田は「聞いている」と言うようにわずかに頷いた。

「なんか、僕もなんて言ったらいいか判んなくて……あんな風に、すごい勢い、っていうか……情熱、っていうか……そういう風に言われるの怖いから、言わなくていいって言ったんだ。あの、……好きなんて言わなくても、寝るって……」

 レイは思わず顎を落とした。─── なんだってそんなこと。
「な……なんでそんなこと言ったんですか。オーナーが欲しがってるのは、ナオさんの心、なんですよ。身体じゃない、そんなこと判ってるでしょうっ」

「だって、……だってどうしたらいいか、判んなかったんだ。臣さんが僕のこと好きって知らなかったし、あんなに、すごく、……思ってくれてるの怖くて、でも」

「でも?」
「……臣さんに、嫌われたくなかったから……」

 萎れたようにうな垂れるナオ。
 レイは脱力していた。─── やっぱり惚気じゃないか。バカバカしい。やってられない。
 何回目かも判らないため息を吐いて、レイはジントニックを飲んだ。

「でもね、臣さん寝てくれなかった。僕、誘うの下手だから……」
「─── それは誘うのが下手なんじゃなくて、オーナーの意思表示だと思いますよ。ナオさんの心が欲しいっていう」

 生殺しかー、オーナー良く我慢したなー、と半分感心しながらレイはナオを見つめた。
 ナオは眉尻を下げ、すがるような目付きをする。
 
「……どうしよう、臣さん怒ったのかな。朝、謝ろうと思ったんだけど起きたらもういなくて……ヘヴンも来てないし」
 不安そうにフロアを見回す。

「怒ってるんじゃなくて、ただ落ち込んでるだけだと思います。ナオさんと顔合わせらんないくらい」
 その言葉にナオはうろたえ、手が空いた牧田とレイを交互に見た。

「どうしよう、僕どうしたらいい? もう嫌われた?……もうカオも見たくない?」
 牧田と視線を合わせたレイは肩を竦めてみせた。─── 仕方が無い。オーナーに貸しひとつ付けとくか。

「ナオさん。……嫌われたくないってオーナーに言ったらどうです?」
「な……なんで? そんなの、いつだって」

 そんなのいつだって思ってるってか? やっぱ邪魔しちゃおうかな、と思いながらもレイは助言した。
「……いつだって思ってるんなら、言ってください。多分、それが一番近道です」

「…………」
 ナオは目を伏せて、ジントニックを飲んだ。

 
 ─── 自分に「嫌われたくない」と言われて、和臣は「嫌わないで」くれるだろうか。

 昔、両親にそれを望んだ時は駄目だった。テストでいい点を取っても、逆上がりが出来た時も、二人は話しかけられるのさえ疎ましがった。
 
(……今度は失敗しないようにしたかったけど)
 
 和臣は自分を抱かなかった。ヘヴンにも来ない。─── もう嫌われてしまったのかもしれない。

 
「……ごちそうさま」
 ナオは立ち上がり、隣のスツールに置いてあったダッフルコートから財布を出す。

 慌ててレイは制止した。
「俺が出すって言ったでしょう。……オーナーのとこ、行くんですか?」
  
 ナオは曖昧に笑った。
 なんとなく淋しそうな笑みにレイは胸を突かれる。
 衝動的に、コートに袖を通したナオの腕を掴んで引き寄せた。

「ナオさん、……欲しいものは欲しいって言わないと、ダメですよ。嫌われたくないって言っていいんですよ」

「……うん」
 ナオはレイの目を見ようとしない。
 やんわりとレイの手を解くと、気を取り直したように言った。
 
「ありがと、レイ。今日はごちそうになるけど、今度は僕がおごるね。忘れないように覚えといてよー?……」
「そんなの、……」

 軽い口調のナオにレイは眉根を寄せた。無理に明るく振舞おうとするナオは見ていられない。

 レイが逡巡している間にナオは手をひらひらと振り、ヘヴンズブルーを出て行った。

 ナオの後ろ姿を見送るとレイは唇をへの字に曲げ、カウンターに頬杖を付く。
「……欲しいものは欲しいって言わないと駄目って?」
 牧田の声がレイの頭上から降ってくる。

 レイはちッと舌打ちをすると、牧田を見上げた。
「判ってますよ。言うは易し、行なうは難し。……どうせ俺のことですよーだっ」
 ははは、と珍しく牧田が声を上げて笑う。

「案外レイくんてイイこだね。もっと強かだと思ってた」
「強かですよ? 俺は。……ナオさん相手だから調子狂うだけ」
  
 牧田は新しいジントニックのグラスをレイの前に置いた。
「じゃ、強かでイイこなレイくんに牧田さんから奢り」
 ふん、と鼻を鳴らして、飲んでいたジントニックを空け、グラスを牧田に渡す。

「オーナーに貸しひとつ、これだけじゃチャラにしませんからね」
「判ってるって」
 面白くない顔をしているレイに牧田はまた、破顔した。

  

   

   

 

 ……自分のアパートに帰りついたナオは、後ろ手に鍵を閉め、ため息をついた。
 目の前には、見慣れた自分の部屋が広がっている。
 殺風景なワンルーム。ベッドとクローゼット、二人がけのダイニングセット、 ─── 以前、島崎という男に囲われていた時に使っていた ─── 今では、椅子が一脚余って邪魔なだけだ。

(……小さいソファーとローテーブル、買おうかな。これ、もういらないし)
 放っておけば和臣のことを思う頭から、彼を締め出そうと取り留めのないことを考える。
(あ、……金、ないんだった。どうしよっかな……)

 TVをつけてその前に座る。ちょうど後ろにあるベッドに寄りかかったとき、チャイムが鳴った。
 ナオはこげ茶色の玄関ドアを見た。

 一人暮らしで親とは絶縁状態、訊ねてくる友人もいない……と言うか、この時間、ナオが親しく口を利く人間は、ヘヴンか似たような店にいるはずなのだ。

(新聞の勧誘?……でももう八時半だし……)
 誰だろうといぶかしみながら、立ち上がる。
 ひっきりなしに鳴るチャイムの音がうるさくて、インターフォンを使わずにいきなりドアを開けた。
 
「おっと」
 ドアの外で驚いて飛び退ったのは、金髪の頭。── 充だ。

 驚いたのはナオも同じだった。
 何でここに、と思いながら、ドアを閉めようとノブを引く。

 そうはさせまい、と充はドアを掴んだ。
 ナオからは充の右手の指がドアの隙間から見えている。

「……放せよ! 指へし折るぞっ!」
 必死で叫ぶナオ。── 怖い。充には関わりたくない。
 蹴られた腹が痛い。

 充は力いっぱい引っ張るナオに根負けしたのか、手を離した。
 バン、と音を立てて閉まったドアに施錠し、チェーンをかける。手が震えてなかなか上手くいかない。

 やっとかけ終えたところへまたチャイムが鳴り出した。
 のみならず、ドアが叩かれる。ドンドンドン……。

(うるさい……っ)
 ナオはチェーンをかけたまま、そっとドアを開けた。
 
「よう。ごアイサツだな?── ちゃんと開けてくれよ、ここ」
 頬に引っ掻き傷を付けた充はチェーン越しにナオを見下ろし、薄く笑いながら威圧する。

 震えそうな膝を叱咤し、ナオは充を思い切り睨みつけた。

  

  

    

   目次next≫

  

↓投票して頂けると嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

 

« 番外編7更新しました。 | トップページ | ヘヴンズブルー:22 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヘヴンズブルー:21:

« 番外編7更新しました。 | トップページ | ヘヴンズブルー:22 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ