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きみの手を引いて:23

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十三話

 

  
 ヘヴンズブルーを飛び出したハルは現実感が伴わないまま、和臣のマンションに帰ってきていた。金の縁取りのあるドアに付いているパネルを開けると無意識に暗証番号を押し、開錠させる。

(柚月さん)
 思うのは、あのひとのことだけだった。
 
 柚月は少しやつれていた。顔色も悪く、クマも出来ていた。それでも自分の名を呼んで、ぱっと表情が明るくなると、いつもの柚月がそこにいた。

(……会えた)
 
 リビングで白いダウンジャケットを脱ぎ捨て、ソファーに膝を抱えて座る。
 目を閉じて、少し会っただけで話もしなかった彼を反芻する。
 彼の行動のひとつひとつを。

 膝の上に顔を伏せた。
(─── 俺のこと、捜してくれた。少しは気にしてくれたんだ)

 嬉しかった。どうしようもなく嬉しさが込み上げてきて、どうしたらいいか判らないほどだった。
 膝を抱えたまま、ソファーの上にころりと転がる。

「……」
 しばらく心の中の柚月を堪能した後、起き上がると今度はクッションを抱えた。

 次に自分がしなければいけないことは判っている。
 ─── もう二度と柚月に会ってはいけない。つまり、ヘヴンには行けないということだった。

 自分の存在が柚月にとって良くない、─── 害にしかならないのは判っていた。
(大体、合わせる顔なんてないし)

 ここに置いてもらう為に、柚月への気持ちを断ち切るために、和臣と寝たのだ。
(……アレ、ほんとにヤったのかな)
 実際のところ、あの夜の記憶はなかった。
 
 抵抗したくても出来なくなるようにしてやる、と言った和臣は「抵抗したくても出来なくなる」どころか、それ以上にきれいさっぱりハルの意識を失わせてくれた。
 
 朝 ─── 昼過ぎに目が覚めると和臣の姿はもうすでになく、「ヤったっけ?」と訊く機会を逸してしまった。
 何も着てはいなかったが、腰から下の違和感は特にない。三ヶ月ぶりなのだから多少は痛みがあってもおかしくないような気もしたが……。

 エントランス・玄関それぞれの暗証番号を書いたメモと現金 がナイトテーブルに置かれていたから、恐らく寝たのだろう。何もせずに十万も出すとは思えない。

(イタくねーのはローションでも使ったんかな……。全っ然覚えてねーし。優しーんだか、前戯めんどくさかったんだか判んねーなっ)
 ああ見えて存外心根の優しい和臣を知りながらもハルは悪態をつく。いっそ意識も記憶も痛みもあったほうが良かった。

 柚月に会いたい、と思わなくなる。
 
 脱ぎ捨てられたダウンジャケットをちらりと見てハルは立ち上がった。そのポケットから携帯電話を取り出し、そっと撫でる。

 ソファーに座りながら携帯電話のフラップを開いて、黒い画面を見つめた。
「……」
 もし、今、電源を入れたら、柚月に繋がるのだろうか。

 柚月の声が聞ける。ハル、と自分を呼んでくれる。
(……ダメだって。もう会わない。声も聞かない)
 ヘヴンで自分を背に庇う柚月の姿が鮮烈に思い浮かぶ。
 
 頭を振ってその面影を追い払い、携帯電話を閉じた。
(そうだ、……ヘヴン行けないんだ。……行っても、多分、今日みたいに……)
 客を断ってしまう。─── 柚月以外に触れられたくない、ということは金を稼げない、ということだった。

(しばらくは大丈夫、十万あるし……あ、もう九万五千か……でも無くなったら?)
(……ここはやっぱり……臣に……)

 専属にしてくれ、と頼むか。
(専属? そんなもんペットと一緒だ、ぜってーヤダ。気分ワルイ、考えただけで吐きそーだっ……)

(なる……なるべく今ある金、節約して……どうしても、金が必要な時だけ……でも「やらせる気ねーんなら出てけ」って言われたら?……そしたら、)

 吐き気のせいか、八方塞がりな状況のせいか、涙腺が緩む。手の中の携帯電話がぼやけていく。

(……専属とか、ペットとか……柚月さん聞いたらぽかんとするだろうな……)
(「ペット? 犬? 猫か? ハムスターとか?」)
 
「言いそう……」
 ハルはくすくす笑いながら、瞼を擦った。─── 平気だ。愛人でも専属でもペットでも、何だって出来る。こんなの、何でもない。
 柚月の迷惑になることに比べたら、ちっとも辛くない。

 でも。もう一度だけ。
(柚月さんに会いたいなあ……)
 
 会って、自分の状況を知られれば、柚月に嫌われ、蔑まれるだろう。成り行きで拾った自分が売春をしていたことを知り、触るな、と厭わしがった柚月のことだ。─── 和臣を相手にしたことで、どれほど汚らわしいと思われるか知れない。

 判っている。それでも。
(……今度会えたら、何て言おう。声、聞きたい。ちゃんと顔見たい。ヘヴン、暗いんだもん……そんで、全部覚えとこう。……柚月さんにめちゃくちゃ嫌われても)
 
「……っバカだ、オレ、二度と会わないって決めたばっかなのに……」
 会いたい。
 会いたくて、会えたときのことばかり、考えてしまう。
 
 ハルは乱暴に目を擦り、携帯電話をクッションの下に突っ込んだ。
 ─── と同時に。
 玄関で物音がした。

 和臣が帰ってきたのだ、とハルは疑いもせずにソファーに横になり、クッションを隠す。
 リビングのドアが開いた。

 ハルはそのひとの姿を見ないまま言った。
「ずいぶん早いじゃん。まだ九時半だよ。ヘヴンの売り上げでも落ちた?」

「─── ハル」
 
 和臣じゃない。
 気付いたハルはソファーの上にがばっと起き上がり、見上げた。

 柚月が、そこにいた。

  

   

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