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きみの手を引いて:24

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十四話

  

  
 長い時が経ったような気がした。実際はせいぜい三十秒だろう。
 ハルはそろそろとソファーを下り、柚月と向かい合った。

 柚月はぎこちない笑みを微かに浮かべた。
「……捜したんたぞ。迎えに来たんだ。一緒に、帰ろう」
 そして、ハルに近づく。

 ハルはいやいやをするように頭を振って後ずさる。
「……ハル」
 戸惑いを含んだ柚月の声。

 柚月に会いたい、もし会えたら、と考えていたハルの頭の中は真っ白になっていた。なぜ柚月がここにいるのか判らない。その上、迎えに来た? ありえない。そんな都合のいい話が転がっているはずはない。─── 帰れるわけがない。

「か……帰らない。帰りたくない」
「あやから聞いた」
 掠れるハルの言葉を柚月は遮った。

「……噂になってるって、言われたんだろう。お前が出て行くように……。そんなこと、気にしなくていい。今はちゃんとバイトだってやってるんだし、家事だって出来る。前のことを気にする必要はない」

「─── 前?」
 自分を庇う優しい柚月の姿を、ハルはその目に焼き付けるように見つめた。

 これから先、何度も思い出せるように。─── もう二度と会えなくても。

 ふいにハルはくすくすと笑った。
 冷たい、馬鹿にしたような視線を柚月に向ける。

「前なんかじゃないよ。このマンション、すげー広くてキレイだろ? 柚月さんの……あんたの貧相なアパートなんか比べものになんない、……オレ、こっちの方が良かったから置いてくれって頼んだんだ。─── もちろん寝たよ。この部屋の奴と。金も、もらった。前なんかじゃない、そんなこと思ってるのあんただけだよ」

 柚月は言葉を失った。
 凍りついたその表情に向かって、ハルは一層きれいに笑って見せる。

「さっきさ、オレにカルティエくれるって言ってたひと、いたろ? アレねえどっかの商事会社の御曹司で次期社長だって。昨日も五十万出すだの、愛人になったらマンション買ってやるだのうるさくてさー、……ま、愛人も悪くないけど」

 ふん、と鼻で笑ったハルは腕を組み、柚月を挑戦的に見た。

「オレはね、金さえもらえれば、誰とだって寝るんだ。金の為にいやいや寝てると思ってた? 違うね、気持ちいーことして金もらえたらそれでラッキーだろ。あんた騙されてたんだよ、家出してウリするしかなくてカワイソーって。オメデタイひとだね、……そうだ」

 ハルは、つ、と柚月に近づく。首をかしげてにっこりと笑った。
「客になってくれるってんなら、あんたのアパート行ってもイイよ?」

 声が、震えそうだ。
 
 柚月にだけは言いたくなかった。誘う言葉。しかし、彼に徹底的に嫌われる為には、─── 仕方なかった。

 柚月は、ハルを初めて見るような目をした。

 ハルは ─── 可笑しそうに笑って柚月から離れた。

「ウソだよ。冗談に決まってんだろ、お堅い柚月サン。オレみたいな誰とでも寝るような奴、気持ち悪くて指一本触れないもんねえ? 嫌われてんの、知ってんだから。……ぼけーっと突っ立ってないでさっさと帰ったら? ウザイよ、顔も見たくない」

 気を抜くと涙が出そうになる。ハルはそっぽを向いて、もう話したくないという態度を取った。

 柚月はハルの高慢な横顔を見つめる。その伏せた目は涙を押し止めようと睫毛を震わせていたが、柚月はそれに気づいた様子もなく、ただ黙っているだけだ。
 ハルは痺れを切らした。

「もうっ、判んねーひとだな! オレはここがい……」
「─── いくら出せばいい?」
 
 癇癪を起こしたハルの声を柚月は遮った。
 財布をコートのポケットから取り出す。

「今、手持ちがあんまり無いんだ……足りなかったら明日必ず払うから」

 ぼんやりとした柚月の表情。抑揚の乏しいその声が、あんなにも聞きたかった声が信じられない言葉を放つ。

「いくら出せば、お前のこと買える?」

「なに……言って……柚月さん……」
 か細い、ハルの声。顔色が真っ青になっていた。
 柚月はラグに投げ出されていた白いダウンジャケットをゆっくりと拾い上げ、呆然としているハルに着せかける。

 ハルはびくッと身体を竦ませ、それを振り払った。
「……冗談……だよね……?」

「……」
 柚月は黙って財布から紙幣を取り出すと、ハルの腕を掴み、その手に握らせた。
 ハルは膝から下が震えているような気がした。

 あの、潔癖な柚月が。
 好きな奴以外とはするな、と 金の為にそんなことはするな、と言った柚月が。

(オレを、買う)

 腕を掴んだまま、柚月の唇が近づいてくる。ハルは両手で柚月の胸を押し、もがいた。
「やー……っやだっ……」
 手の中にあった紙幣が落ちてばらまかれる。

 柚月は構わず唇を重ねた。
 
 その手の力が緩んだ隙に、ハルは柚月を突き飛ばして逃れる。
「……どうして」
 柚月の低い声。

「……客なら家に行ってもいいって、言っただろう?……」
 ハルは頭を横に振った。その目に、涙を溜めて。

「ちがうっ……オレ……」
 柚月が呆れると思った。二度と会いたくない、と思わせたかった。
 嫌われたかった。

「金なら出す、ちゃんと……今はこれしかないけど」
 柚月は情けなさそうに眉尻を下げた。ラグの上にばらまかれた千円札も混じる紙幣を、屈んで拾い集める。

「明日、必ず払うから……それともブランドの時計が欲しいのか? 今は……無理だけど、必ず、……必ずお前の欲しいもの買ってやるから……だから……」
「そんなんじゃないよ……!」

 ハルは唇を噛み、泣くのを必死で堪える。
 ─── 柚月がそんなことを言うはずがなかった。言いたいはずがなかった。
(オレのせいだ)
 
 柚月は、自分を連れて帰るために。
 したくもないことをしようとしている。

「……柚月さんに買われるの……やだ……」
 小さな声で懇願した。
「お願い……オレのこと、買わないで。お願いします……」

 跪いていた柚月はゆっくりと立ち上がり、ハルを見下ろした。
「─── 俺と寝るのがそんなに嫌か」
「ちが……柚月さ……」

 ハルは耳を塞いで、俯く。─── 今の柚月はいつもの、ハルの知っている柚月ではない。普段の、ハルが思いを寄せた柚月は。
(無理やりキスしたりしない。穏やかで、お人好しで、他愛ない話しして、からかうと赤くなって、オレに優しくしてくれて)
(こんなのやだ)

 俯くばかりのハルに柚月の理性が飛んだ。言ってはならない言葉が口を付く。
「この部屋の奴とは寝たんだろう」

 ハルの両肩を掴む。
「どうして俺は駄目なんだ? あの人は良くてなんで俺は、─── あの人のこと好きだからか? 好きだからここに置いて欲しくて寝たのか?」
 弾かれたように顔を上げたハル表情は今にも泣き出しそうだった。

 それをごまかす為に、柚月の手を邪険に振り払う。
「……そうだよ。オレ、好きなひとがいるんだ。この部屋の人、……金持ちで優しくて、あんたと大違い。……あんたなんか大嫌い。金もらってもあんたとだけは寝ない」
 
 たどたどしいハルの言葉に、柚月は放心した。呆然と、瞬きもせずにハルを見つめる。
「───」

 沈黙の後、柚月はゆっくりとうなだれた。
「そ……うか……。悪かったな……」
 手に握り締めた紙幣を財布に戻し、覚束ない足取りでドアへ向かう。

 遠ざかる柚月の背中に抱きつきたい衝動を、ハルは必死で堪えていた。
 
 ─── 柚月と一緒にいたい、と。

(……もし、言えたら)
(オレを捜してくれた。迎えに来てくれた。……一緒に、帰ろうって)
 
 柚月の消えたドアが涙でぼやける。ハルはその場にうずくまると、声を殺して泣いた。

 

  

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