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きみの手を引いて:25

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十五話

  

  
 ─── 泣いたことを忘れたくて浴室に閉じこもること一時間。

 昨日から和臣に借りているパジャマを身に着けて浴室を出たハルは、バスタオルを頭から被ったままキッチンへ直行した。冷蔵庫を覗き、500mlペットボトルから直接ミネラルウォーターを飲む。

 煙草の強い匂いでこの部屋の主が帰宅していることに気付く。
「……ずいぶんお早いお帰りで」
 ソファーに近づきながら嫌味っぽい言葉を投げつけた。

 テーブルを挟んで向かい側ではYシャツ姿の和臣が煙草を吸っていた。ジャケットとネクタイがソファーの背に掛かっている。

 眇めた目がソファーに座るハルを捉えた。
「瞼、腫れてんぞ」

「……腫れてねーよ。元からこんなんだ」
 言いながら頭のバスタオルを引き下げ、目を隠す。
 煙草を消した和臣はハルの隣に移動した。ぐい、と髪の毛ごとバスタオルを掴み、上向かせた顔を覗き込む。
 
「泣き過ぎなんだよ、バーカ。せっかく彼氏が迎えに来てくれたってのに、あんな言い方する奴があるか」
「なっ……」

 ハルは和臣の手を振り払い、立ち上がる。
「やっぱりあんたか。あんたが連れて来たんだな?……追いかけて来たにしてはおかしーと思ってたんだっ、その上盗み聞きかよ。変態。サイテー」

「サイテーでけっこう。ここは俺ん家、誰連れてこようと俺の勝手だ。居候にとやかく言われる筋合いはねえよ」
 しれっとした顔で言い放つ和臣を、目の縁を赤く染めたハルが睨みつける。

 和臣はソファーの背に腕を伸ばすと、ハルをつくづくと眺めた。
「お前、彼氏の世間体考えて身ィ引いたんだってな。泣かせる話じゃねーの」
「……そんなんじゃねーよ。聞いてたなら判ってんだろ。あんな奴のところにいるの、嫌んなったんだよ。そんだけ」

「お前の言ったこと、全部本当だってか? 俺を好きだってのも?」
 う、と言葉に詰まったハルは和臣から目を逸らす。
「俺を使うなんざイイ度胸じゃねーか。見上げたもんだな」
 
「……」
 ハルは唇を尖らせて俯いた。「使われた」和臣が面白くなく思うのは当然だ。反論の仕様もない。
 
「座れよ。いつまで突っ立ってんだ?」
 促され、元の場所に腰掛けようとしたハルの腕を掴む力強い手。バスタオルが落ちた。
「こっちだ」

 引き寄せられたハルは、ソファーに片足だけ乗せた和臣の腿の上に座らされる。
 Yシャツ越しに和臣の胸板に手を付くことになったハルは身体を硬くした。
「……臣、ズボンがシワにっ」

 背中にまわる左手から逃れようとお為ごかしを言ってみる。
「別に構わねえよ?」
 軽くあしらわれた。

「柚月くんのことが好きなんだろう」
 はっきりと言い当てられ、言葉に詰まる。
 素直に肯定すれば、和臣は「ヤらせない」と判断して出て行け、と言うだろう。─── 柚月のところへ帰れ、と。
 
(柚月さんの迷惑になるのはいやだ)
 ハルは唇を引き結んで、言った。
「……好きじゃない。前にも言っただろ、大嫌いだって。あんた耳ついてんの」

「俺の耳、性能良くてな。お前の大嫌いは大好きに聞こえる」
「……どんだけ耳悪いんだよっ……」
 和臣の右手がハルのパジャマの下に侵入し、這い回る。左腕はハルの背中を支え、その先の手は細い腰を撫でていた。
 
 薄いTシャツの上から胸の突起を摘まれ、爪の先で軽く引っかかれる。ハルはびくッと身体を竦ませた。
「ん……っ」
「嫌そーなツラ。言えよ、「柚月さん」のことが好きです、って」

「……言わねー」
「あ、そう」
 和臣はハルを押し倒すとパジャマごとTシャツを捲りあげる。

 反射的に抗おうとするハルの二の腕を掴んで、その頭上でソファーの肘掛けに押さえつけた。
「俺を使ってくれた罰だ。白状しろよ。犯すぞ?」
「……痛てーよ、臣……っ手え、離せ」

「他に言うことあんだろ」
「………判ったよ!」

 観念したハルの言葉と共にその腕が自由になる。
 起き上がったハルはパジャマとシャツを引き下ろし、二の腕をさすった。
「……ってーな! バカぢからっ、あんた手加減ってもん知らねーのっ?」

「お望みならもう一回。……彼氏のこと、本気だな?」
「……」
 ハルは和臣を上目遣いで見て、頷く。
 
「彼氏の世間体のために俺んとこ転がり込んできた、と」
「……こないだ、言ったろ。オレ、あのひとに嫌われてるって」
 完全に酔っぱらう前の記憶は残っていた。ハルはうな垂れて、続ける。
 
「あの……あのひと、オレに同情してさ……すっげー優しくしてくれた。家出してウリやって、って知ってんのに、オレのこと、ちゃんと扱ってくれた。……からかってヤラしいこと言ったり、どうやってやんの、とか言ってきたりもしなくて……。だから、「触るな」って言われるまで気がつかなかったんだ。あのひとに嫌われてるって。オレ、アタマ悪いからさ、……柚月さんに軽蔑されてるって、判んなかった……」

 和臣は黙って煙草とライターを引き寄せ、火を点けた。一瞬、煙草の先がぽっと赤く灯る。
 
「……柚月さんと一緒にいたくて……なるべく近寄んないようにした。オレ、気持ち悪い、からさ……でも、柚月さんやさしいから、自分から近づいてくれたりしたんだ。……オレのこと、友達って言ってくれた。普通に見られるようにするって、……すげーやせ我慢。オレめちゃくちゃ嬉しくってさあ、柚月さんのそばにいられるって、……有頂天んなった」

 咥え煙草の先から紫煙が漂う。聞いてるのかいないのか、和臣はハルから目を逸らしたまま凝った意匠のライターを弄んだ。

「ほんとはさ、あの時、……嫌われてるって判った時に出てけば良かったんだよね。そしたらオレのこと、噂にならなくて済んだ。……柚月さんに迷惑かけなくて済んだ。……オレがそばにいたいって思ったから、柚月さん、すげー迷惑……っ」

 下を向いたままのハルの目から涙がこぼれる。パジャマのズボンの上にぽつぽつとしみを作った。
 和臣は眉をしかめて煙を吐き出した。
「さっきさんざん泣いただろうが。明日の顔、見らんねーぞ」

「ど……うせっ、見んの、臣だけだろ……っ」
「あーはいはい、俺は物の数に入ってないわけね、」
 落ちていたバスタオルを拾い上げた和臣は煙草を咥えたまま、ハルの顔をぐいぐいと拭いてやる。

「臣ー、……」
「あ?」
「オレさあ、これ以上柚月さんに嫌われたくない」

「あっそ。それで?」
「……柚月さんとこ帰ったら迷惑んなって余計嫌われるからさあ、だから」

 ハルは自分の顔を拭う和臣の手をそっと掴んだ。バスタオルを取り去り、煙草の匂いのするその手を自分の白い頬に押し当てる。涙で潤んだ目を瞑り、温かく滑らかな喉に這わせた。
 その喉が和臣の手の平の下で動く。
「……ベッド、行く……?」

「やなこった」
 和臣はハルの手を振り解いた。灰が落ちそうな煙草を灰皿に押し付けて消す。
 立ち上がり、浴室に続くユーティリティに向かった。
「臣!……臣っ」

 追い出されるのではないかと危惧したハルは必死で後を追う。
「なんでだよっ、さっき犯すっつったじゃんか!」
「お前が白状しないからだろうが」
 
 袖のカフスボタンを外しながら和臣は言った。
「他の奴のことしか考えてねー奴と誰が寝るか。またさんざん酔っぱらわせたあげく「柚月さん」て泣かれんのがオチだからな」

「な……、なに言ってんの?」
「覚えてねーか。あんだけワケ判んなくなってたら当たり前だけどな、……」

(『や……離して。触んなっ……オレ帰んなきゃ……柚月さん……柚月さんとこ……』)
 
「帰るってマッパだぞ?こっちは指しか挿れてねーんだよ。フェラはしないは泣き出すは、口を開けば「柚月さん柚月さん」、……いっそ縛り上げて猿ぐつわかましてヤっちまうかと思ったけど、そこまですんのもめんどくせーしな。何がベッド行く?だ。腹括ってから誘え」

 事の顛末を知ったハルは真っ赤になって俯いた。
「……ごめん。も……あのひとのこと、言わないから」
「どうだか」

「名前、呼んだりしない。ちゃんとヤラせる。今度は、……シラフで。だからここに置いてください。お願い、します」
 うな垂れながら頭を下げたハルを和臣は見つめる。
 その目を細めた。
 
「……そんなに彼氏が好きか。シラフで俺と寝てめちゃくちゃ泣き喚くことになっても、……それでも、彼氏んとこ帰って迷惑かけるよりここにいて俺に抱かせる方を選ぶんだな」
 
 ハルは首をかしげて和臣の顔色を窺った。
「フェラもするよ?」
「そういうこと言ってんじゃねー」

 和臣は黙ってYシャツの前ボタンを外す。
 ─── 和臣の元に転がりこんできたのも、抱かせるのも、柚月に冷たい言葉を浴びせて自分がひどく傷ついたのも、全ては柚月のため。

 柚月を守るためにハルは意図せず自分を傷つける。

 柚月のことしか考えず、時に自分をさえ傷つけるその想いは、全く和臣をないがしろにしていたが ─── 。
 なぜか気分が良かった。感嘆した、と言ってもいい。
 
 自分よりも大事なものを守ろうと必死になるその思い。

 きらきら光る「それ」をハルの内に視た和臣は、ふんと鼻を鳴らした。
「向こう行ってろ。風呂入れねーだろ」

「……臣」
 ハルはYシャツの袖を掴んで和臣を見上げる。
 
「……ハラ、くくった、から」
 和臣の唇に自分のそれを寄せた。
 ハル自身は気付いていないが、掠れたその声はひどく痛々しく聞こえる。
 
 無論、それを無視してキスを受けても良かったが ─── 。
「……つまんねーな」
「え?」

 「退屈だ。お前誘うの下手だな。自分の部屋行って寝ろ、ガキ」
 ぐい、とハルの頭を押しのけ、ユーティリティから追い出すと引き戸をぴしゃりと閉める。

「な……っ何だよそれ! ふざけんなっ、臣のばーかッ! 二度と誘わねーかんな!」
 目の前で立て切られた引き戸に向かって言い放つハル。

 上等だ、と言う内側からの笑い声に背を向けて、ハルは足音も荒くリビングに戻った。
 

 

    

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