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きみの手を引いて:26

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十六話

  

                                           
 午前二時過ぎ。
 ハルの部屋のドアが細く開いた。人影が中を覗く。

 ハルが寝入っていることを確かめると、影はそっと侵入してきた。
 ベッドのそばに近寄り、あどけない ─── まだ子供のようにさえ見える寝顔を見つめる。
 影は手を伸ばすと枕元にある電源の入っていない携帯電話を取り上げた。

 
 ……しばらく後に、作業が済んだ影はハルの携帯電話をOFFにする。元の通りにそれを枕元に置いた。
 寝息を立てるハルの柔らかな髪の毛を意外なほど優しい手つきで撫でる。

「んんー、……」
 ハルは眉をしかめさせて横を向き、その手から逃れる。
 軽く肩を竦めた影は入ってきたときと同じように、静かに部屋を出て行った。

 

  

   

   

 
「お前、腹くくったって言ったな、昨日」 
 朝、─── と言っても十一時近かったが ─── パジャマのままハルがリビングに行くといきなりだった。

 和臣の言葉を聞こえなかったふりをしてキッチンに向かい、コーヒーメーカーに出来ていたコーヒーをマグカップに注ぐ。
 ダイニングテーブルで新聞を広げている和臣の前を横切り、リビングのソファーに座った。
 
 和臣はすでにスーツを着て身なりを整えていた。新聞を丁寧にたたみ、片手に持つとハルの座るソファーの後ろに立つ。
 少し寝グセのついている柔らかい髪の毛の上にぽん、と新聞を載せる。

「言ったよな? 昨日。それとも強がっちゃっただけか?」
 からかう口調の和臣にハルはむッとしてコーヒーを飲んでいた口をへの字に曲げる。新聞を払いのけた。
「……それがなんだよ。今からヤらせろっての? 悪いけど夜にしてくんない、朝っぱらからあんたの相手出来ねーよ」

「俺じゃない」
 新聞を持ったまま腕を組んだ。
 ハルは訝しげに振り返り、和臣を見上げた。

「今夜、ヘヴン行って商売して来い」
「なっ……なんでだよ!」

 唐突な「命令」にハルは思わず立ち上がり、ソファーを挟んで和臣と対峙する。
 朝の光の中、一分の隙もなくスーツを着こなし、新聞を片手に腕を組む和臣はハルが対抗できるとは思えないほど姿が良く、威圧感がある。事実、ハルは和臣に見下ろされ、ぐっと押し黙った。

「腹くくったんだろう。だったら誰が相手でもいいはずだ。─── と言うより、そうした方が手っ取り早く思い切れるんじゃねえの、お前にしても」
「……」

 ハルは唇を噛んで、言葉を押し出す。
「……あんたの、……専」
 言いたくなくて低まる声を、和臣は予想していたように拾った。

「専属? 俺の? ごめんだね、今自分がどんなツラしてるか判って言ってんのか? 大体こっちから願い下げなんだよ、専属とは名ばかりで彼氏に操立てられちゃたまんねーからな」

 何も言い返せない。この間の夜の不始末といい、和臣に愛想をつかされても仕方がなかった。

「どうする」
 和臣の声はやけに優しい。
「やらせねーのにいつまでも居候ってわけにはいかねえぞ。出て行ってもらう。……金が必要だろ。どうやって稼ぐんだ? お前にあるのはそのキレーなツラとイイ声上げる全身性感帯みたいな身体だけだろう」

「……なにそれ。言葉責め? 吐き気がすんだよ……っ」
 ハルは耳まで赤くして和臣を潤んだ目で睨みつける。何も持たない自分が悔しい。

「言葉責め? 冗談だろ、この程度で。事実を言ったまでだ」
 和臣は片方の唇の端を上げて笑った。
 カンに障る皮肉なその笑みにハルは追い詰められる。

 もう柚月のところへは帰れない。和臣には振られた。─── 残されたのは、和臣の言うとおりヘヴンで客を引っかけることぐらいだ。
「……行けばいいんだろ!」

 出て行ってもらう、と和臣が言った以上、近い内に追い出されるのは目に見えている。金が、なるべく多くの金が必要だった。
 稼ぐなら早い方がいい。

「ヘヴン行くよ、今日! あんたより金持ち捉まえてやるからな」
「言うじゃねーか。勝算あんのか?」
 
 昨日と一昨日、声をかけてきたヤシマの顔が思い浮かぶ。同時に、シュウの顔も。
「言っとくが、シュウの客に色目使うなよ。後が面倒だ」
 刺されるぞ、と和臣は釘を刺す。

「わ……判ってるよ!」
 頭の中を覗いたような和臣の言葉にうろたえた。正直、他に当てはない。
 三ヶ月前の客たちとはとっくに切れていた。他の少年たちに鞍替えしたか、遊びに飽きたのだろう。それでもちょっと笑いかければ、いくらでも出すという客は一昨日も結構いた。

 何とかなるだろうが、和臣よりも金持ちとなるとそうは行かない。大体、ヤシマだって和臣より金持ちだとは思えなかった。
 
 金持ち過ぎるヘヴンズブルーのオーナーを腹ただしい思いで睨みつけるハルに、当のオーナーは笑みを向ける。

「いいこと思いついた」
「はあ?」
「ヘヴンで、最初に声かけてきた奴ってのはどうだ?」

 これだから金持ちは嫌いだ。ろくでもないことを考えつく。ハルは心の中で悪態を吐きながらも視線を外さず応えた。
「いいよ」

「当たり外れでかいぞ。やめとくか?」
「いいって言ってんじゃん。最初に声かけてきた奴、ぜんぜんオッケー。サイコー」
「強がるねえ、お前も。いっそ立派だよ」

 やれやれ、とでも言いたげな和臣から顔を背けたハルは、けッと声に出した。ソファーに座り、あぐらをかく。

 和臣は新聞をダイニングテーブルに置くと、冷めたコーヒーを飲み干した。カシミヤのコートに袖を通しながら、忘れずにハルに忠告する。
「瞼、冷やしとけよ」

 からかい半分のその声にハルは唇を引き結んだ。絶対返事なんかするか、と心に決める。
 ハルの返事などそもそも期待していない和臣はそのまま部屋を出て行った。
 
 しん、と部屋に静寂が訪れる。
 ハルはリモコンのボタンを押してTVを点けた。

「……なにが当たり外れだよ」
 
 どんな奴だってハズレだ。あのひと以外は。

 ハルの呟きはCMの音でかき消される。

 自分の膝を抱いたハルは、クッションを引き寄せて顔をうずめた。

 

  

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