« きみの手を引いて:26 | トップページ | きみの手を引いて:28 »

きみの手を引いて:27

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十七話

  

     
 薄暗いヘヴンズブルーの店内。目立たない、壁際の隅にハルはいた。
 内心、ひどく緊張していたがそんな素振りはつゆほども見せず、慣れた様子で壁に寄りかかる。

 半円のカウンター席の一番端に、ハルより先に来た和臣が陣取っているのが目に入った。
 自分が朝言ったことを履行するかどうか見張ってるのだろう、とハルは眉根を寄せる。

(ちゃんと、シゴトする。一回、ヤれば平気になる。……あのひとのことは、忘れる)
 よし大丈夫、と思った矢先から心がぐらつく。
(……やっぱやだな……ナオか河合さんとしゃべってるふりして、声かけてきた奴無視できないかな……)

 悪あがきだ、と自分でも判っている。それでもそう思わずにはいられない。
 ハルは不安そうな目をフロアに走らせ、ナオを、河合を捜す。生憎、ナオは来ておらず、河合はカウンターの中で接客中だ。

 ナオを捉えられなかった代わりに、ハルを見つめる複数の目と遭遇する。熱っぽい視線、あからさまに値踏みする目付き。
 ハルは俯いてそれに耐える。どんな妄想をされているのかはあえて想像しない。

 ダウンジャケットのポケットに手を入れて、電源の入っていない携帯電話を握りしめた。
(……お守り、じゃないけど)
 少しだけ心の安定を取り戻す。
 
 一昨日なら平気で笑いかけられた、シゴトしない、指一本触らせるつもりの無い一昨日なら。
 今日は違う。

 誰にともなくにっこりと愛想良く微笑めば、何人かの男がやってくるだろう。その中で最初に声をかけた奴を相手にする。早い者勝ち、だ。
(笑え。笑わないと。こんな仏頂面してたら、客引っかかんない。……引っかかんなくてもいい)

 いっそ和臣にそしられてもいいからこの場から逃げ出そうと思ったそのとき、声が聞こえた。
 ハル、とその声は呼ぶ。

 聞き間違えるはずがない、その声。
 フロアの客の間を縫って現れる。

 俯けていたその顔をゆっくり上げるハル。
 血の気が引く。

 前に立つその人を、真っ青になって見上げた。

  

   

   

   

 携帯電話が鳴った。ベッドに横たわって天井を見上げていた柚月はその音が聞こえるリビングに、億劫そうに目を向ける。

 取るつもりはなかった。放っておけば切れる。
 誰とも、話したくない。

 カーテンを閉め切っているがぼんやりと明るい。時計に目を走らせると午後二時。真っ昼間だ。
 時間の感覚がなかった。

 昨日の夜、─── 最低だった昨日の夜、アパートに帰り、ダウンコートをそこら辺に脱ぎ捨てベッドにもぐりこんだ。浅い眠りを何度か繰り返しては、覚醒した。

 耳の奥に声が響く。

(『─── もちろん寝たよ。この部屋の奴と。金も、もらった。前なんかじゃない、そんなこと思ってるのあんただけだよ』)

 冷笑するハル。 

(『客になってくれるってんなら、あんたのアパート行ってもイイよ?』)
 
 首をかしげ、誘う仕草。

(『オレ、好きなひとがいるんだ。この部屋の人、……金持ちで優しくて、あんたと大違い。……あんたなんか大嫌い』)

 耳を塞ぎ、頭を横に振る。
 
(『金もらってもあんたとだけは寝ない』)

 涙で潤んだ目の縁を赤くしていた ───。

 
 ハル、と声に出してみる。
『なに?柚月さん』
 違う。彼はもう返事をしない。

 四六時中、おかしな目で見ている男のところを飛び出して、本当に好きな人のところへ行ってしまった。
 
 あやのことはきっかけに過ぎない。物欲しそうな目で見られることに嫌気が差していたハルは、ついに本音をぶちまけた。
 
 大嫌い、と。金もらっても寝ない、と。

 ああ。そうだろう。
 表面上は良識ある大人のようにふるまった、自分は年上だからハルの面倒を見なければいけない、煙草を吸ったり平気で誘惑したりするハルを諫めて、良い方向に向かわせようとして、その実は。

 どうしてもハルのそばにいたかった。自分のものにしたいと思っていた。ハルに「客になってくれるなら家に行ってもいい」とからかい半分に言われ、簡単にその誘いに乗ってしまうほど。─── あのまま、無理やりに金を渡してハルをこのアパートに連れ込んだら、自分が何をしたか考える。

 歯止めが利くはずがない。ハルが、自分を厭って当たり前なのだ。

 
 ……一度止んだ携帯電話の着信音が再び鳴り出す。
 柚月はのろのろと身を起こした。出るつもりはなかったが、うるさい。
 むやみに明るいリビングに顔をしかめ、脱ぎ捨ててあったダウンコートのポケットを探る。携帯電話は切れなかった。

 見覚えのない番号が表示されている。
 柚月は迷いながらも、通話ボタンを押した。

「……はい」
『柚月くん?』

 心臓がどくんと跳ね上がる。─── ハルが思いを寄せる当の本人。
 切ろうとして耳から離した携帯電話から、声が聞こえた。

『成沢だけど。……話があるんだ。ハルのことで』
 こっちにはない。もう、終わったことだ。
 
 それでも柚月は携帯電話を耳に当てた。
「……もう、いいんです」
『いいってなにが? 諦めるってこと? 大嫌いって言われてヘコんじゃった?……あんな奴知るかって見限った?』

 そんなわけはない。ハルを、見限るなんてとても出来ない。
 どれほど嫌われても。
「……」
『ハルを引き取った養父のことは聞いてる?』

「……ええ。ケンカして家出したって」
『ケンカ?……あいつ、そんなこと言ってごまかしたんだ。君に知られたくなかったんだな』
 
 携帯電話の向こうの成沢の声は続く。

『ハルはその養父と寝たんだよ。寝たったって半分レイプみたいなもんだ。尊敬する、憧れの父親に嫌われたくなくて言いなりになった。……でもそれが辛かったんだろうな。父親ってものを知らねえハルは養父を神聖視してる。憧れの父親とは寝たくない、だって父親が子供の自分にそんなことするはずがないから。かと言って嫌がって嫌われたくない。……ハルは辛くて辛くて家に帰れなくなった』
 
「……」
『ショックで声も出ない?』
 
「─── いえ」
 柚月は自分でも不思議なくらい落ち着いていた。
「なんとなく、……ただのケンカじゃない気がしてました」

『柚月くんて見かけによらずキモ据わってるよね。あいつを迎えに来たときから思ってたけど』
 笑いを含んだような成沢の声に柚月は純粋な疑問を口にする。
「……どうして俺にそのことを?」

『君に預けたい』
 一転、成沢の声は真剣味を帯びた。
『ハルと、ハルの傷、一切合財。預かって欲しい』

「何で俺なんです?」
 柚月の声は相手を咎めるように上擦る。
「ハルが好きなのはあなただ。俺じゃない。あなたが預かるべきなんだ」

『俺には荷が重すぎる。君みたいにキモが据わってる人間は、そう多くないよ? 俺みたいに気の小さい男にはあいつの傷は手に余る。癒し方も判らねーし』
「……俺だって、そんなの」

『大丈夫、柚月くん癒し系だから。……いやマジで。切るなって』
 からかう成沢の言葉に一瞬怒りが湧き上がる。沈黙で察したのか、成沢は慌てたように付け加えた。
『これからが本題なんだよ。聞いてる? 柚月くん』

「……聞いてます」
『今夜、ハルがヘヴンに顔を出す』
「は……?」

 成沢がなにを言いたいのか判らない。ハルなら毎日でもヘヴンズブルーに行ってもおかしくない筈だ。
『一番最初に声をかけてやって欲しい。誰よりも早く』
「……成沢さん」

 柚月は絶句した。昨日の夜のハルと自分のやり取りを聞いていなかったのだろうか。
 ハルは大嫌いだ、と言ったのだ。あんたなんか大嫌いだ、と。顔も見たくないとさえ、言った。
 昨日の今日で一体どのツラ下げて会いに行け、と言うのだ?

「……俺は、ヘヴンズブルーには、行きません。ハルには、会えない。─── あいつはきっと、嫌がる」
『嫌がらねえよ。そういうことになってるから』

 わけが判らない。そういうことになってるってどういうことだ?
 困惑して黙り込む柚月に成沢の声が畳みかける。
『まあ、とにかく来なよ。来ないと後悔するよ? 俺にはカンケーないけどな』
 考えといて、と言って通話が切れた。

 柚月は携帯電話のフラップを閉じて、手の中のそれをぼんやりと見つめた。
 ─── ハルと、ハルの傷。預ける。来ないと、後悔する。

 成沢の言葉を心の中でめぐらせ、柚月は顔を上げた。

     

   

   押して頂けると嬉しいです
    

      目次next≫

  

   *投票していただけると励みになります。

     ←ネット小説ランキングの人気投票です。

   にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
   にほんブログ村  ←クリックすると投票になります。

    ←クリックすると投票になります。

« きみの手を引いて:26 | トップページ | きみの手を引いて:28 »

コメント

もう中毒です( ̄ー ̄)ニヤリ
見ないと、次の日頑張れません(*≧m≦*)
切ないですねェェェ。
お互い好きなのにすれ違って…
最初に会ったのが柚月でよかった(@Д@;またヤシマだったらどうしようとか思ってました∑
あぁぁ、続きが気になる♪
また明日来ますww☆

 ≫コメントありがとうございます♪
 下手だし、じれったい話なので、正直、読んで頂くのが心苦しいです……。落ち込むので、完結してからは一度も読み返してません。(書きっぱなしかよ……)
 けど、続きが気になる、と言って頂けると飛び上がりそうに嬉しいです^^*
 連載中から、続編を、と言う声をもらっていたので、今ぼちぼち書いています。書きたいところから。(←いつもそうなんです。へんな書き方……)
 それで時間がなくて、お邪魔できなくてすいません……m(_ _)m
 こんなに悠樹くんのことが気になっているのに~(泣)
  
   

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: きみの手を引いて:27:

« きみの手を引いて:26 | トップページ | きみの手を引いて:28 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ