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きみの手を引いて:29

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第二十九話

  

       
『カレシと上手くいったか?』
「─── 臣」
 見覚えのない電話番号が表示された携帯電話にうっかり出たのが間違いだった。相手が判ったハルは声の温度を氷点下まで下げる。

「何でオレのケータイ番号知ってんだよ。てか、あんたよくオレに電話かけてこられるよね。ひとのこと嵌めといてどんだけツラの皮厚いんだよっ」
 送話口に小声でかみつきながらハルは席を立つ。
 
 柚月のアパートに戻った次の日の朝だった。柚月は食事を拵え、ハルはコーヒーを淹れてさあ食べようと席に着いたそのとき、ハルの携帯電話が鳴ったのだ。
 ダイニングテーブルに置いてあったそれを耳に当てたとたん、ハルは立ち上がり、朝食を置き去りにしてキッチンに逃げ込みざるを得なくなる。

『心外だな。泊めてやったけどハメてないぞ』
「朝っぱらから下ネタ聞きたくねー。メシだから切る」
『荷物どうすんだ、お前の』

 それでケータイかけてきたのか、とハルは思い至る。
『取りに来るか? 彼氏、ヤキモチ焼けて気が気じゃねえな』
「……そんなことねーよ」

 和臣の家なら行ってもいい、と言われていた。荷物を取りに行く、と言ったら「泊まって来い」と言われそうな気がする。
『なんだ。昨日の夜、デキたんじゃねえのか』
「デキてねーよっ、今エロい妄想したろ!?」

『してねーよ。お前らのえっちなんか興味ねえ。それより荷物』
「……」
 妄想したのはオレか、とハルは顔を赤くした。ゴホンと咳払いをして誤魔化す。

「あんたんち行きたくない。……まとめて送ってよ」
『俺がじきじきに持ってってやろうか? 新婚夫婦のお宅拝見』
「ゼッタイ来んなっ!」

 ずかずか柚月の寝室まで入っていきそうな和臣にハルは焦って声を荒げる。
 受話口の向こうで和臣が笑った。
『冗談だ。からかいに行くほどヒマじゃねーよ。住所教えろ』
 
 ほんとかよ、金持ちは何思いつくか判んねーからな、と心の中で呟きながら、小さく返事をした。
「……柚月さんに訊くからちょっと待って」
『判んねーのか。まだるっこしいな、柚月くんに代われよ』

「やだよ。あんたぜッッたいヘンなこと言うもん」
『言わない言わない。住所訊くだけ。代われって』
「……」

 ハルはちらりと柚月を見た。─── カウンター越しに彼と目が合う。

 柚月は食事に手を付けていなかった。トーストやハムエッグ、コーヒーが並ぶテーブルを前にしながら、息を詰めている。
 和臣と繋がっている携帯電話を手にキッチンに引きこもったハルが気になり、食事どころではない。

 柚月はハルと合った目をさっと逸らした。─── 思うひとと話しているハルが気になるが、そのことを知られたくない。嫉妬で醜い目をしているだろう自分を彼に見られたくなかった。
 
「柚月さん」
 ハルは柚月に近づき、困ったように言った。
「あの、……代わって欲しいって」

「……俺に?」
 戸惑う柚月にハルは携帯電話を渡す。
『柚月くん?』

「…………はい」
 聞こえた声に緊張する。それでも見栄を張った。
「昨日はご挨拶できなくてすいませんでした。ハルはうちで預かります。預かるだけですから、いつでも誘ってやってください」
『……』

 沈黙の後、受話口から抑えきれないような笑い声が聞こえた。
『ぷッ、くくく……すげーガチガチだね、柚月くん。誘ったりしないから安心しなよ』
 言いながら笑っている。
『俺とあいつがなんかあると思ってんの? なんもないって。本当に』

「……あなたになくても、ハルにはあるんです」
『あいつにだってねえよ。……ま、いいや、俺がいくら「ない」ってったって信じてくれそうもないし』
 恨みがましい柚月の声に、埒が明かない、とばかり和臣は本題を切り出した。

『あいつの荷物送るから住所教えて』
「あ……はい」
 それで電話代わったのか、と柚月は拍子抜けして、住所を答えた。

『……じゃ、後で送るから』
「待ってください、今ハルに代わります」
『いいよ。それよかハルのケータイかけて悪かったね。てっきりデキたもんだとばかり思ってたから。俺の着信履歴消していいよ』

「……そんな、こと、しません」
『いいの? ハルの奴、俺にかけてくるかもよ』
「……っ構いません。どうぞ好きなときに話してください」
『きみが買ってあげたケータイで、ハルが俺と話してもいいんだ』

「…………いいんですッ!」
「ゆ、柚月さん?」
 柚月は携帯電話をハルに突き返した。突然の大声に驚いたハルは慌ててそれを受け取り、耳に当てる。
 柚月に背を向けて、送話口を手で隠しながら小声で詰った。

「あんた何言ったんだよ、柚月さん怒っちゃったじゃんか!」
『怒ったんじゃねえよ。やせ我慢してるだけ』
「もうっなんだっていいよ、臣のバカ、二度とかけてくんなっ」

 携帯電話をぶちッと切ってフラップを閉じる。
 じっと手の中のそれを見つめる。
 ─── 昨日、柚月の部屋に帰ってから、電源を入れてサーバーにメールの問い合わせをした瞬間を思い出す。

 柚月からのメールが入っていた。
 数え切れないくらいのそれの、一回の文面は短い。

『話がしたい』
『どこにいる』
『帰ってきて欲しい』
『お前に会いたい』
 
 ハルは、すべて開封した。のみならず、全部保護した。
(へへ……)
 柚月からのメールが詰まった携帯電話は、物にも、自分の身体にも執着心のないハルの唯一の宝物になった。

 宝物を見つめ、笑みを浮かべるハルに、柚月の心はずきんと痛む。好きなひとから電話をもらって喜んでいるようにしか見えなかった。
「……コーヒー。冷めるぞ」
「あっ、うん」

 低い声で促し、ハルの笑顔を消させてしまった自分に自己嫌悪が募る。
 ─── もし、「成沢さんのアドレスを消して欲しい」と言ったらハルはどうするだろう。
 きっと困って、携帯電話を隠してしまうだろう。あのひとと繋がる手段を失いたくない、と考えて。

 本音を言えば今すぐハルの携帯電話を取り上げてしまいたかった。
 自分の知らないところであのひととハルが楽しそうに話すところなど、想像したくもない。
(……けど、取り上げたりしたら)
 ハルにますます嫌われてしまうことは目に見えている。
 
(「返してよ! 柚月さんのバカ、大っ嫌い!!」)
 顔を赤くして。目に涙を溜めて。
「……ハル。ケータイ、大事か……?」

 いつものように旺盛な食欲を見せるハルに柚月はおそるおそる訊く。
「え? うん、大事、すっげー大事。たからもの」
 トーストを片手に、にこにこ笑いながらくったくなく答えるハル。

「そうか……」
 対照的に柚月は沈んだ表情でコーヒーを啜った。

  

   

  
 
 

 明後日、ハルの荷物が送られてきた。私物と共にスポーツバッグの中に入っていたコンドームとローションは、和臣からの心尽くしの餞別だったが、どう考えても嫌がらせだ。
 柚月とハルは未だ、そんな関係ではない。

 リビングでスポーツバッグの中を検めてしまったハルは真っ赤になり、バッグを抱えてロフトに逃げ込むことになった。
「どうした?」
「な、なんでもない」
 
 心配して声をかけた柚月に平静を装いながら、心の中で「あのエロオヤジ、セクハラも大概にしろ」と和臣を罵倒するハルだった……。

 クリスマスイブからヴィンテージでのアルバイトを再開した。マスターの環から「クリスマス前後は混むので手伝って欲しい」と連絡があったのだ。
 勝手に辞めた自分にまたバイトを始めるきっかけをくれた、とハルはすぐに悟り、環に感謝した。

「ありがとうございます。あの、オレ、……」
『いいから、要と一緒にコーヒー飲みにおいで。二十四日はあいつにも手伝ってもらうよ』
 その言葉どおり、イブは柚月と二人でヴィンテージを手伝うことになった。

 柚月の年末年始の休みは合わせて一週間ほどあったが、ハルは元日以外バイトを入れた。環に恩返しがしたかった。
 二人が部屋で過ごす時間は必然的に少なかったが、それでもハルは柚月と一緒に暮らしている、と思うだけで嬉しかった。

 バイトが終わって、柚月のアパートに帰れば彼がいる。暖かい部屋で、ご飯を作ってくれて、「ハル」と呼んでくれる。ヴィンテージでの出来事を話せば、ちゃんと聞いてくれる。

(柚月さん)
 二度と柚月のそばを離れたくないと思った。
 ハルは自分を複雑そうに見つめる柚月に、どうしようもなく恋をしていた。

 ─── そんな風に年が明けて、一月も中旬。
 その日の夜遅く、柚月は酔って帰ってきた。

 

    

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