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きみの手を引いて:30

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 

 第三十話

 

    
 その日、柚月はゼミの新年会だった。
 ハルは「遅くなる」と言われていたが、彼のことが気になり眠れない。時刻は午前二時を指していた。

(……遅いなあ、柚月さん。大学院の、新年会かあ……)
 こういう時、嫌でも自分と柚月の差を感じずにはいられない。柚月は飲み会や合コンにだって普通に誘われる「大人」だ。

 自分がいるせいか、そういうものに滅多に行くことが無い柚月だったが、年に一度の新年会ともなればそうはいかないのだろう。
(オトナの、付き合いってやつ。……どうせ、オレはコドモですよーだ……)

 自分のことを「好きだ」と言ってくれた柚月だったが、ハルはその気持ちを量りかねていた。

 あの言葉は、本当だったのだろうか。
 柚月は、自分みたいな子供のことを本気で好きなのだろうか。
 ……自分といるよりも、同年代の、大人のひと達と一緒にいる方が楽しいんじゃないだろうか。

(……だから、帰ってこない、のかも)
(そうだよね……オレじゃ、一緒に飲んだりできないもんね……)

 ソファーで膝を抱え、見るでもないTVを点けっぱなしのままハルが落ち込んでいると、玄関でガタガタと音がした。
 ドアが開き、パーテーションから柚月の姿が覗く。

「……なんだ。いたのか」
 柚月の第一声はおかしかった。「いたのか」?
 どういうことだろう、と思いながらも柚月が帰ってきたことにほっとした。

「うん」
 起きてたのか、という意味だろうと解釈して笑みを浮かべる。

 柚月は玄関先でダウンコートを脱ぐと、いきなり寝転んだ。
「柚月さん?」
 ハルは柚月が相当酔っていることに、この時、初めて気付いた。ソファーを立ち上がり、柚月に肩を貸す。

「こんなとこで寝たらカゼ引くよ」
 酒と煙草の匂いが鼻をつく。柚月は煙草を吸わない。酒もこれほど、酩酊状態になるまでは飲まない。
 自分の知らない、大人の人たちと楽しく飲んだんだな、とハルは少し気が沈んだ。

 ふらつく柚月はかなり重かったが、なんとか寝室の前まで辿りつく。
「水……」
 柚月が呟く。ハルは彼を壁に寄りかからせると、キッチンに行き、グラスに氷を入れて水を用意する。

 手渡そうと振り向くと、─── ほとんど目の前に柚月がいた。
 音もなく近づいてきていたので判らなかった。ハルは驚いて、柚月を見上げる。
「……なんだ、自分で歩……」
 
 柚月は何も言わず、ハルを抱き寄せた。ハルは慌てて、グラスをカウンターに置く。
「よ、酔っぱらって、しょうがないな、もう」
 冗談めかして言うハル。

 柚月の体温がパジャマを通して伝わってくる。大きな手に撫で上げられた背中が反り返る。反応しそうになり、焦ったハルは柚月の胸を押した。
「は……離して、柚月さん」
 
「……ヘヴンズブルーには行ったのか?」
「柚月さん……?」
 柚月は暗い声でハルに囁いた。
 
「……成沢さんに、会ったんだろう。帰ってこなくても良かったんだぞ。成沢さんのところに泊まってきても、……邪魔したり、しない、から」
 言いながら柚月はハルを抱きしめる。言葉とは逆にハルを離そうとはしない。
 
「オレ、……ヘヴンになんて行ってないよ。臣にも、会ってない」
 ハルは戸惑いながら柚月の腕の中で小さく言った。

 柚月は恐らく、夜、自分がいなければ「ハルはヘヴンに行って成沢さんと会う」と考えたのだろう。朝帰り、とさえ考えたのかもしれない。
(それで、『いたのか』って)
 合点がいったハルは困ったように柚月を見上げた。

 再び同居を始めてからというもの、ハルを預かっている、という姿勢を柚月は崩そうとはしなかった。ハルが想いを寄せているのは和臣で、自分は預かっているだけ。もちろん指一本触れたりしない。今のように、抱きすくめるなんて以ての外………。

 柚月はハルを抱く手を緩めた。軽く突き放す。
「─── 嘘だ。……あのひとと会ってきたんだろう。今みたいに、臣、臣、って甘ったるくあのひとのこと呼んで、……」
 解放されたハルは呆気に取られ、柚月を見つめた。─── ひょっとして、呼び方をずっと気にしていたのだろうか。

「あの……オレが、臣って呼ぶのは、最初からそう呼べって言われたからで……あ、甘ったるくなんか呼んでないよ。……柚月さんが嫌なら違う呼び方にする」
「俺に気を使う必要なんかない。好きなように呼べばいい。─── 俺の前で他人行儀な呼び方してたって、今日みたいにデートした時は、臣、って呼ぶんだろう?」

「デートなんかしてないよ! オレずっとここに」
「邪魔な俺がいないのに? いつも物欲しそうに指咥えて、お前が「臣」に会いたいって言い出しやしないか、どきどきしながら見張ってる嫌な奴がいないのに?」

 ハルはぽかんと口を開けた。
 ─── 柚月がここ最近、度々、口にする言葉があった。
(「ヘヴンに行ってもいいんだぞ。成沢さんに、会いたいだろう?」)
 何度も、何度も言われた。そのたびに、ハルは不機嫌になった。
(だって、オレのこと、好きだって言ったのに)

 自分と和臣が会っても、柚月はなんとも思わないのだろうか。あの時、好きだと言ってくれたのは何かの間違いで、本当は和臣と自分をくっつけようとしているのだろうか。

 言われるたびにハルを不安にさせたその言葉。
 その裏には、ハルが頷いて臣に会いたい、と言い出すのを恐れる柚月がいた。
 
 ハルの気持ちを思いやり、和臣と上手くいくようにしてやりたい、と思う柚月と。
 あのひとと会わないで欲しい、二度と会って欲しくない、……少しでも自分を好いて欲しい、と願う柚月と。
 
 柚月はずっと相反する二つの心を行ったり来たりしていた。
「……嘘は、聞きたくない」
「柚月さ……」
 
 柚月は一度は離したハルに覚束ない足取りで近づく。いつもとは違う彼を感じ取っていたハルは後ずさり、狭いキッチンの中で距離を取った。
「成沢さんと寝てきたんだろう? 大好きな、臣、と、……良かったか?」
 頭を横に振るハル。

 柚月は怯えたように自分を見上げるハルをじっと見下ろした。すっかり酔いがまわっているせいで、相反する心が混ざり合う。
「……俺が可哀想で、言えない?」

 赤い顔にうっすらと笑みを貼り付けて、柚月はハルを壁際に追い詰めた。間に入れられた細い右腕を掴んで壁に押し付ける。
 空いている方の手で、ハルの白い頬を撫でた。
 
「良かった、んだろう? 言えよ。惚気、聞いてやる。……臣って何回呼んだ? 何回ヤった?」
「柚月さん、オレほんとに」
「俺のことなんか呼ぶな。お前の大好きな「臣」がどうやってお前を可愛がったのか、聞かせろ」
「……」

 ハルは俯き、涙の滲んだ目を閉じて弱々しく首を振った。
 掴まれた腕が痛い。酒臭い息が顔にかかる。
「「臣」はどうやったんだ?」
 
 大きな手で顎を掴まれた。顔を上げさせられ、瞳を覗き込まれる。
 柚月は貪欲に真実を、自分の望まぬ真実をハルの瞳の中に捜した。
 
「……臣とは……会ってない……デート、なんて、してない……寝て、ない……っ」
 何度訊かれても同じことだった。ずっとこの部屋で柚月を、帰ってこない柚月を待ってたのだ。
 柚月のことだけ、考えて。
 
 柚月は目を据わらせた。
 ハルの顔を上げさせた手をその下半身に滑らせる。とっさに腰を引いて逃れようとハルは身じろいだが、後ろが壁でままならない。
 あっけなくパジャマの上から中心を揉み解された。

「やだ……っ」
 ハルは柚月を押しのけようと暴れた。─── 柚月に触れられるのは構わない。むしろ、触れて欲しいとずっと思っていた。
 けれど今は違う。

 柚月は無理やりに自分の望まぬ真実を引き出そうとしている。
 それが、ハルにとっての幸せなのだと信じて。
 和臣に会って欲しくない、と考える自分は間違っているのだ、と思い知りたくて。

 柚月が自分を傷つける為に、触れられるのは嫌だった。
「……いや、柚月さん、やだ、……お願い、離して」

 ハルの抵抗を封じようとその足の間に自分の膝をこじ入れた柚月は、パジャマの襟に手をかけ、白く暖かい首筋に唇を這わせる。強く吸われたハルは痛みに身体を強張らせた。
 柚月の指の跡で赤くなった右手首が潤んだ目に映る。

 右手を解放されていたことに気付いたハルは、柚月を押しのけようとその肩に力なく手をかけた。
 柚月はびくともしなかった。
 何度も引っ張られたパジャマからボタンが千切れて落ちる。

 その間もずっと柚月はハルの中心から指を離さなかった。
「……嫌だって? これでも?」
「……」
 囁く柚月の声にハルは真っ赤になって俯いた。

 視線の先では柚月の手に弄ばれたものがズボンを押し上げていた。 
「だって……し……しつこくされたら……」
 うろたえ、涙声になるハルに柚月は優しく問う。

「……成沢さんにはもっとしつこくされたんだろう?」
 ハルは強情に頭を横に振った。
 多分、「臣と会って、寝た」と認めれば柚月は手を引いてくれる。判っていながらハルはどうしても首を縦に振ることが出来ない。

 柚月の留守に、柚月を傷つけぬように、こっそり和臣と会っていた、などと嘘でも認められない。

 頑なに首を横に振り、認めようとしないハルのズボンの中に、柚月は手を侵入させた。
「や……あっ……!」
 ハルは背筋を緊張させ、直に触れようとするその手を掴んで押し止める。

「……柚月さんっ……お願いだから、やめて……オレほんとに、お……成沢さんと会ってないんだよ……ウソついて、ない……」
 たどたどしい懇願に柚月の手の力が弱まる。
 ハルは重ねて言った。

「……ずっと、家にいたよ……? 柚月さんが遅くなるの、判ってたけど、……待ってたんだ。……どこにも行ってない。ほんとだよ……」
 柚月の肩に頭を凭れかけさせる。
 荒々しかった柚月の雰囲気が萎み、ズボンの中から手が抜かれる。その手はハルの細い腰に移った。

「ゆづ……柚月さんが、したいなら、ちゃんとする。……嫌がったり、しない、から……だから、信じて……ほんとに、オレ、……成沢さんと会ってないよ……」
「……」
 柚月は何も言わず、ハルを抱きしめる。ハルも柚月の背中に手を回し、額をその肩に擦りつけた。

 ハル、と柚月は囁く。その声は掠れて痛々しい。
 後悔している声音だった。
「……柚月さん」
 
 ハルは目を閉じた。─── 和臣が好きだと嘘を吐いた自分が一番、悪い。柚月の嫉妬を煽り、猜疑心で凝り固まらせてここまで追い詰めた。
(……酔っぱらった勢いでヤられちゃっても、仕方ない、かも)

(……ああでも、そんなことしたら、明日、柚月さんめちゃくちゃ後悔すんだろうなー……)
 真っ青になって自分に頭を下げる柚月の姿が目に浮かぶ。
 俺、酔っぱらってて、と何度も言い訳をして。ごめん、とうろたえながら謝って。

(オレ、いいのにな、ほんとに、……酔った勢いでも)
 和臣への嫉妬に駆られて触れられるのは嫌だったが、自分を想ってくれる柚月のものになるのは構わなかった。
(柚月さんが好きだ)

 それを口にしようとした時、柚月はゆっくりとハルを離した。─── 顔色が悪い。
 ハルに背中を向け、ふらふらとリビングを横切る。
「ゆ……柚月さん?」

 呼ばれても応えず、柚月はトイレに消えた。
 えづく声と水を流す音が聞こえる。
「……ああ」
 飲みすぎで吐いている、と気付くのに時間はかからない。ハルは脱力し、キッチンの壁に凭れたままずるずるとしゃがみこんだ。

(ヤバかった。流されそーだった。……いや別に流されたってイイんだけど)
 ボタンを失った胸元を気にしながらハルが立ち上がると、真っ青になった柚月がトイレから出てきた。

「柚月さん、水」
「……ああ」
 ハルが差し出した、氷がほとんど溶けてしまったグラスに口を付け、飲み干す。
 もっと水を用意しようとハルがキッチンに向かう間に、柚月は自分の部屋に入って行ってしまう。

 冷えた水を入れたグラスを手にしたハルが部屋に入った頃には、柚月はベッドの上で苦しげに唸っていた。
「……飲み過ぎなんだよ、もう」
 
 グラスをサイドテーブルに置き、毛布と布団を掛けてやる。
「水、ここに置いとくからね、」
 判ったのか判らないのか、目を瞑った柚月は、うーん、と声を上げた。

 ハルは大きくため息をついて、柚月の部屋を後にする。点けっぱなしだったTVとリビングの明かりを消し、ロフトに上がった。

 一度、柚月の手で煽られた性欲は熾き火のように身体に残っていたが、自分で発散するのは面倒だった。
 布団にもぐりこみながら考える。

(……やっぱ、ちょっと惜しかったな……柚月さんがあんな酔っぱらってなかったらな)
(急に止めたのは、信用してくれたってこと……?)
 吐き気のせいかも、とハルは二度目の大きなため息をついて目を閉じた。

  

   

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