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きみの手を引いて:31

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第三十一話

  

   
 翌朝。快適とは言いがたい目覚めが柚月に訪れた。
 完全な二日酔いだった。柚月は枕元の目覚まし時計を引き寄せ、無理やり目を開ける。
 十一時。

(寝過ごした)
 柚月は飛び起きようとしたが身体が言うことを利かない。その内、今日が休みだ、と思い出す。柚月のような二日酔い学生を出さぬように、ゼミの新年会は毎年大抵週末に行われるのだった。

 ひとまず安堵の息をついたが、今度は頭痛と喉の渇きに悩まされる。起き上がって、ベッドを下りて、部屋のドアを開けて出て、キッチンに向かい、ミネラルウォーターをグラスに注ぐ ─── ただそれだけのことが、考えただけでも気の遠くなるような重労働に思われた。
 
  身体の向きを変え、その拍子に痛みがひどくなる頭をなだめつつゆっくり起き上がると、……サイドテーブルに水の入ったグラスが目に入る。
 柚月は躊躇なくグラスを引っ掴んで口元へ運ぶ。勢い余って口の端から少し水がこぼれたが、気にも留めず一気に飲み干した。

 大きく息をついてグラスをテーブルに戻すと、口を袖で拭いた。
 自分の服が昨日のままだ、ということに気付く。

 どうやって帰ってきたのか記憶になかった。いや、帰ってくる途中の道は覚えている。
 アパートの前まで来て、家に入ると、そう、ハルがいて、それから……?
 どうも歩いて帰る間に酔いがまわったらしい。
 家に帰ってくるなり着替えもしないで寝てしまったのだろう。
 
 またベッドに横になり、毛布を頭の上まで引き上げる。
「……」
(あいつ、……成沢さんに会ったのかな。ちゃんと、帰って来たんだな……)

 ハルは ─── ヴィンテージでバイトだ。今は家にいない。訊きたくても訊けないことに、柚月は安堵する。
 自分が夜いなければハルはきっとヘヴンに行って成沢に会うだろう、と柚月は思っていた。
 
(……俺に気を使う必要ないのに)
 再び一緒に暮らしはじめてから、ハルは一度も成沢のことを口にしなかった。
 柚月はそれを自分に遠慮しているせいだと思い込んでいた。

 自分に好かれていることを知っているハルが、その気持ちを無視して、ヘヴンや成沢のマンションに行くようなことを出来るはずもない。
 だからこそ、柚月も事あるごとに水を向けてはみたのだ。─── ヘヴンに行ってもいいんだぞ、と。成沢さんに会いたいだろう、と。

 しかしハルはその度に、少し機嫌を悪くしたように唇を尖らせ、ぷい、とそっぽを向いてしまう。「じゃあ、会いに行ってくる」と言われなかったことに内心ほっとしながら、ハルが淋しそうな顔をしていないかこっそり窺うのがいつものことだった。

(─── でも、さすがに昨日は)
 自分が遅くなる、と判っている昨日の夜はヘヴンズブルーに行ったはずだ。
 いつもびくびくしながら監視している自分が、いないのだから。
 
(……成沢さんと何話したんだろう)
(なんで預けたりしたんだ、とか……文句、言ったり、……じゃれたり、とか)
(きっと会えて嬉しくて)
(……俺には見せたことないくらい、綺麗に笑って)
(嬉しくて)

 飲んでいる間中、今頃成沢の隣にいるだろうハルを想像してつい深酒 ─── やけ酒してしまった。
「……くそ……」
 実際、飲まずにはいられなかった。一次会に顔を出すだけでも良かったが、アパートに帰ってハルがいないことを確認してどうするというのか。

 それこそ二人のことを考えないようにして寝るか、冷蔵庫の缶ビールがなくなるまで飲み尽くすか ─── なら、誰かいる分、二次会に付き合ってる方がマシだった。
 その結果が、このひどい二日酔いだったとしても。

(……頭が、がんがんする……)
 柚月は再び眠りに落ちた。

  

    

 
 

 ─── 次に柚月がはっきりと覚醒したのは午後二時を過ぎた頃だった。
 頭痛は大分去っていたが、まだぼんやりとする。楽な格好がしたくて、だるい身体を無理やり起こした。

 寒さに身震いしながらTシャツとジャージに着替えて、キッチンへ行く。無意識にハルの姿を捜しながら ─── バイトで留守にしている、と知っているにも関わらず ─── その場で水を飲んだ。
 何かを踏みつける。

(……ん?)
 紺色のボタンだった。引きちぎられたように同色の糸が付いている。
 拾い上げた柚月は壁際にも同様のボタンが落ちていることに気が付き、二つを手の平に載せた。
 
 同じ服のもののようだった。色も形もそっくり同じ、同色の糸がボタンを縫い付ける穴から飛び出しているところまでも。
(……二つもボタンが取れた服なんてあったか?)
 首をひねりつつ、そのままカウンターに置いた。

 コーヒーを淹れる為にケトルを火にかける。時々、ハルが多めに作っておいてくれるのだが、今朝は時間がなかったのか、コーヒーを淹れた形跡はなかった。それどころか食事を摂った形跡さえない。
 
(あいつ、……メシはちゃんと食えって)
 苦虫を噛み潰したような顔をしてから、二日酔いで食欲がない俺に言われる筋合いはないか、とため息を吐く。

 アルコールがまだ抜けてないのか、なんだか息が酒臭いような気がする。
 空気を入れ替えようと窓に近づくとちらちらと雪が降っていた。
(初雪だ)
 
 暖冬だったせいか一月も半ばを過ぎての初雪だった。ハルが干してくれたらしい洗濯物がベランダに出ているのに気付いて、慌てて取り込む。
(洗濯物干すヒマあったらメシ食えよ)

 乾燥機能が付いている浴室に運び、天井近くのバーにかける。その中にハルの紺色のパジャマがあった。

 ─── ボタンが二つ、取れていた。
 本来、ボタンが付いていたはずの場所は引きちぎったように糸くずが纏わっているばかりだ。
「あ」

 柚月はすぐにキッチンに落ちていたボタンを思った。あの二つに違いなかった。
(なんで、ボタンが二つも取れたんだ……?)
 何か、思い出しそうな気がする。

 キッチンに戻ると湯が沸いていた。カタカタと蓋が鳴っているケトルの炎を弱め、ペーパーフィルターに湯を注ぐ。コーヒーメジャーで量った荒挽きの豆をフィルターに入れ、何度かに分けて湯を注いだ。
 最初は蒸らしで縁近くまで、豆が対流したら湯が全部落ち切らないように注ぎ足して……。

 いつもと同じことをしながら、柚月は「思い出しそうなこと」を思い出そうとしていた。
 
 なにか。何か、あったような気がする。─── ここで。
『やだ……っ』
『……いや、柚月さん、やだ、……お願い、離して』
『柚月さんが、したいなら、ちゃんとする。……嫌がったり、しない、から……』

「え……」
 なんだ、今の。

 ハルの悲鳴。─── 涙声?
 泣きそうな顔で見上げるハル。涙で潤んだ瞳。自分の手がハルの下半身に伸びて……。
「!」
 
 柚月は頭をぶんぶんと振った。
(……ヘンな妄想やめろ)
(ハルは成沢さんが好きなんだ。……そう簡単に俺に触らせるわけない)
(……金もらっても嫌な奴なんか、相手にするわけない)

 出し抜けに玄関で鍵を開ける音がした。柚月はびくッと身体を竦ませ、パーテーションを見つめる。

 ─── ハルが、帰ってきた。

  

  

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