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きみの手を引いて:37

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

  

 第三十七話

 

   
 大学と院、共通のカフェテリアに柚月はいた。学生で賑わう長テーブルの端に座り、ぼんやりとトレイに乗せられた昼食を見つめている。
 食欲が湧かなかった。それでも、手にした箸で鯖の味噌煮を突付く。

 近くにひとの気配が立ち、柚月のトレイの隣にカルボナーラの乗ったトレイが置かれた。
「どうしたの、要ちゃん。顔が変」
 あやだった。

 柚月の気持ちが自分にないことを思い知らされ、痛手を負った彼女だったが今ではすっかり回復していた。ハルを出てゆきがしにした、あの出来事の一週間後には柚月の前に現れ、二人が一緒に暮らし始めたのを知ると「カモフラージュになってあげる」と言い出し始めた。

 柚月は「彼氏ができないぞ」と断ったが、あやは勝手に触れ回った。曰く「難攻不落の柚月 要を落とした」、と。
 友人の間を廻り回ったその噂を耳にした柚月は頭を抱えた。

 大学に入った年に両親を亡くしてから、誰とも付き合うことのなかった自分は難攻不落だと周囲に思われていたのか、と落ち込み、「高校の頃は彼女がいた、あやは幼馴染みだ」と柚月が一応の弁明を試みたところで時はすでに遅く、柚月とあやのことは周知の事実になっていた。

 彼女なりの謝罪なのか、それ以来柚月と付き合っている振りをしながら、ハルとの仲を応援してくれている。
「……ヘン、……そうか、変か……」
 ろくすっぽあやの方も見ず、柚月はぼそりと呟いた。

 あやは肩を竦めて、柚月の隣に座る。カルボナーラの上の半熟卵をフォークでざくざく突き崩して混ぜた。
「何よ、ぼけーっとしちゃって。寝ぼけてんじゃないの」

 言いながら食べ始める。柚月に振られてからというもの、あやは柚月の前で女らしく振舞うのがバカバカしくなって止めた。ハルに夢中になっている柚月相手にしなを作ったところでムダだ。
 それでも一応恋人同士らしく、小声で耳打ちしてみる。
 
「……なに? ついに愛しのカレに手え出しちゃった?」
 あくまでも冗談だった。好きな相手と一緒に暮らしてるのに、どういうわけか自制している柚月をからかう為の冗談。

 いつもなら、「何言ってんだ、ばかばかしい」と顔をしかめた柚月にあしらわれるのが常だったが ───。
 その冗談に、柚月は頷いた。

「……は? 要ちゃん?」
「─── やってしまった」
「や、や、やったって、何を? 何が?」

 思わず声を上擦らせたあやは、ここはカフェテリアで周りに人が沢山いることを思い出し、小声になる。

「落ち着こう。落ち着こう、ね?……キスとか、その程度でしょ?」
 柚月は頭を横に振った。
「……キスも……した、無理やり……犯した。強姦した……」
「ごッ……!?」

 ごうかん、と叫びかけたあやは慌てて口を噤んだ。昼食時に賑わう明るいカフェテリアに相応しい話題では、ない。セクハラもいいところだ。

 恐る恐るあやは柚月の様子を窺った。
「……マジ?」
「……ああ」
 鯖の味噌煮を見つめながら柚月は肯定する。

 口をあんぐりと開けて柚月の横顔を見つめるあやの手元のフォークから、卵黄が程よく絡まったパスタが落ちた。

    

    

    

    

「─── どういうことかキリキリ白状してもらいましょうか」
 ところは変わって柚月のアパート近くのファミリーレストラン。あのまま、カフェテリアで話を続けるのは憚られて、それぞれのゼミが引けた後ここで落ち合うことになった。

 あやは腕を組んで柚月を問い詰めた。その目には困惑の色が浮かんでいる。
「あいつが許すまで指一本触れないって言ってなかったっけ。……なんでいきなり、そんな」
「……俺が悪いんだ……」

 テーブルの上のコーヒーを見つめながら自責の言葉を口にする柚月に、あやはため息をついた。
「そりゃ、強姦は悪いわよ。でもほんとに強姦なわけ?」
「……強姦強姦言うな、女だろう」

「だから何よ、男も女も関係あるの? そんなこと。黙ってりゃゴーカンされないっての? そうじゃないでしょ? いくらだって言えるわよ、レイプ、強姦、痴漢、猥褻物……」
「判った、判った、もういい」

 柚月はあやの言葉を遮ってコーヒーに手を伸ばした。今朝、柚月の分までもコーヒーを淹れたハルを思う。─── どんな気持ちだったのだろう。
 嫌だ、やめて、と言ってもやめてもらえなくて。抵抗を力ずくで封じられて。さんざん泣かされて。

 どこにも行くところがなくて。
 あの部屋で暮らす日常を失いたくなくて、何もなかったような顔で柚月の分の朝食を用意して、笑ってみせた……。

「─── もう駄目だ、あや、俺はあいつとは一緒にいられない」
「いられないって……一緒にいたくて連れ戻したんでしょう。責任取りなさいよ」

「あいつ、好きなひとがいるんだ。他に好きなひとが。……それでもいいと思ってた、あいつと一緒にいられるならいいって、……あのひととハルが恋人になってもいいと思ってた……でも駄目だった。……ハルが好きなんだ……」

「知ってるわよ、」
 あやは自分の紅茶に砂糖とミルクを入れ、かき混ぜた。
 ハルを思う柚月の気持ちを聞かされても、全く心はざわめかない。それどころか、振った女に自分の恋の不始末を懺悔するような男をどうしてあんなに好きだったのか判らない、と不思議に思うほどだった。

「だからね、ハルはどうなのか、ってことなのよ、問題は。あの子だって要ちゃんの気持ち知ってて一緒に住んでたんでしょう。他に好きなひとがいるにしろ、合意の上っていうか、……そういうことになってもいいと思ってたんじゃないの?」
 
「それは、……」
 そうかもしれない。
 気を使ったにしろ、同情したにしろ、ハルは柚月に「好き」と言った。あれは、寝てやってもいいということなのかもしれない。

「……そうやって、同情やら気遣いで俺に許してあいつが辛くないと思うか……?」
「許した、ってことは合意なんじゃないの」
「許さざるを得なかったというか……俺が強引に……つい、歯止めが利かなくなった……」
「生々しいわねー。そこまで訊いてないわよ」

 紅茶を飲みながらサバサバとあやは言った。
「それで今朝はあの子どうだったの? 思いっきりシカトされた? 強姦魔って罵られた?」
 強姦魔、という言葉に胸を貫かれて、柚月は思わずうめき声を上げながらも答える。

「……普通だった」
「普通? 初夜が明けての朝なのに?」
「初夜って言うなっ……とにかく、あいつ普通で……普段どおりで。メシ作って、コーヒー淹れて……でも俺が近づいたら、顔真っ赤にして、離れて……目、逸らして……」

「ははあ」
「なに、何がははあ、なんだっ?」
「そりゃ恥ずかしいんだわ。一線を越えた後の反応としてはまあ、ありがちよね。ちょっと純情すぎるって感じだけどー」
 でも、その反応はどう考えても強姦魔に対してじゃないわよ、とあやは続けた。
 
「……」
 そうなのだろうか。いや、あやは知らない。自分がハルに対して行った数々のセクハラ行為。彼はその度に我慢して誤魔化そうとしていた ───。
 
 柚月は居住まいを正して身を乗り出し、あやに縋り付くような目を向けた。
「─── 頼みがある。お前の家でハルを預かって貰えないか」
「はあ? うちで? ダメよう、実家暮らしなの知ってるでしょ。ハルみたいの連れて帰ったら、あたしが五つも年下の美少年たぶらかしたって大騒ぎになっちゃう」

「……駄目か……」
 一縷の望みを賭けてみたもののあっさり断られ、柚月は落胆する。
「そんなにハルと一緒にいたくない?」
「いたくないんじゃない。そばにいたら何をするか判らないからだ、俺が」
 
 真顔で訴える柚月にあやは呆れた表情を隠さない。
「ねえ、あたしは結局ノロケを聞かされてるわけ? バカバカしくてやってられないわ。……そんなに好きなら正面切って、好きだ、あいつのことなんか忘れろ、忘れさせてやるー、って迫ってみたらいいじゃない」
 
 にやにやとひとの悪い笑みを浮かべながら頬杖をつくあやを、柚月は恨めしそうに見た。
「……面白がってるだろ、お前」
「ちょっと。だって面白いんだもん」

 あやはテーブルにつくほど長い自身の巻き髪をくるくると指に巻きつける。
「あたしに言わせればね、要ちゃん。合意かどうか微妙なところでもハルは許したんだし、今朝のその様子からしても本当にイヤがってるとは思えないのよ。要ちゃんがなんでそんなうじうじしてるのか判んないわ」

 いっそ開き直って、俺のものになった、みたいなカオしてたら、とけしかけながら、あやは携帯電話をバッグから取り出す。時間を確かめて席を立った。

「残念、もう行かなきゃ。後日談聞かせてね」
「……合コンか」
「飲み会よ、飲み会。あたしは要ちゃんのカノジョだから人数合わせ。その前にちょっと女子だけで集まるの」

 軽い足取りで店を出て行くあやを見送りながら、柚月は深いため息を吐いた。
 ─── あやの言うように、身体を繋ぐのを許されたから心も自分のものになる、というのならどんなにことは単純だろうか。

 ぼんやりと昨夜のハルが脳裏に浮かびそうになり、柚月は慌てて伝票を手に立ち上がった。

  

  

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