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きみの手を引いて:41

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第四十一話

 

   
 ハルが成沢の陣取るカウンターにゆっくり近づいていくのを、柚月は黙って見ていた。
 気付いて振り返る成沢。その隣のスツールに、ハルは肩を落として座り込んだ。

「……」
 柚月は出入り口近くの壁に背中を預けた。─── ハルを成沢の元に送り届け、詫びを入れようと思っていた。大事な、預かりものをキズものにしてしまいました、すいません、……けれどその預かりものはあなたのことが好きなので。
 
(……どうか、一緒に暮らして恋人にしてやって下さい)
 今すぐにでも成沢に土下座したい。ハルは悪くない、自分が無理強いしたのだ、─── だから、ハルを好きになってやって欲しい、と頼み込むつもりだった。

 それなのに、二人が並んで座る後ろ姿を見ると。

 近づけなかった。

 何かを話している様子が判る。成沢がハルに顔を向け、ちらりと柚月を見た。ハルは、泣いているのかもしれない。─── 乱暴された、無理やりだった、と想い人に訴えているのだろうか。
(……土下座する間もなく成沢さんに殴られそうだな)

 その方が良かった。お前なんかに預けるんじゃなかった、と成沢が怒ってハルを自分から取り上げ、大事に扱ってくれれば諦めがつく。自分が謝らないでいた方がハルの幸せに繋がるのなら、そうする。

 二人の背中を見ているのが辛くなり、柚月は、ふい、と顔を背けた。
 ─── レストルームから出てきた少年と目が合った。
「……あ」

 異口同音に言い、さらに少年の方は、ぴょこ、と頭を下げて柚月のそばに来る。
「ええと、……確か、柚月さん」
「……ハルの、友達の」
 面識があった。ハルを捜しに来た時、ケンカを止めようとしていた ───。

「ナオです。ハルは一緒じゃないの?」
 白い頬にそばかすを散らせた小さい少年は柚月に笑顔を向ける。明るい笑みと共に口にされた邪気のない質問に、柚月の心はずきりと疼く。
「……ああ」

 ぎこちない表情の柚月にナオは首を傾げた。─── ハルを背中に庇った時とは別人のように生気がない。
 不思議に思いながら柚月の視線の先を辿ったナオは、カウンターにこの店のオーナーとハルが並んで座っている事実を知る。

 ナオは眼を瞠って、柚月を見上げた。辛そうに俯いた柚月の泳いだ目と出会う。
 柚月はナオからも目を逸らした。
「……いいんですか?」
「なに、が?……」

「ハルのこと、好きなんでしょう。……オーナーのそばにいて不安じゃないの?」
 訊ねるナオの声も少し平静を欠いていたが、ほとんど初対面の柚月には判らなかった。
「……成沢さんのところに行くように俺が言ったんだ」
「……どうして?」

 柚月と同じように背中を壁に凭れさせて、ナオは彼の顔を下から覗き込む。
「オーナーがハルのこと、す……好きになって、……もう帰さないって言うかも」
 わずかに柚月は頷いた。
「─── いいんだ、それで。……ハルが好きなのは成沢さんだから」

 ナオは驚き、カウンターのふたりの背中を見つめる。
「……そうなんだ、知らなかった、……」
 小さく言って視線を落とした。

 柚月は自分の肩ぐらいしかない、ナオの明るい茶色の頭を見下ろした。
「……俺、ハルには嫌われててね。……金もらっても嫌だって。……でも、成沢さんが、……あいつの好きなひとが俺に預けるって言ったもんだから、仕方なく、一緒に暮らして、……あいつ、俺に気使ってて、ずっと。……それにつけ込んで」

 ひどいことをした、と柚月はナオに聞こえないように口の中で呟いた。ハルが、自分に乱暴されたことを友人に知られたいとは思えない。
 頭を横に振って呟いた言葉を打ち消す。
「……もう、成沢さんのところに行った方がいいんだ、あいつは。俺のところにいるべきじゃない」

「……柚月さんは、それでいいの?」
 少し高い、透明なナオの声が柚月の耳に届く。
「辛くないの ───?」

「……」
 辛くないわけがなかった。二人が一緒にいるのを見ているだけで、苦しくなる。今すぐにでも視界から消したい。成沢がハルを預かると確約するまではここにいなければならないことは判っていたが、─── 見なければ、少しはマシだ。
 
 それで苦しさが消えるわけではないということも本当は判っていた。ここから逃げ出して、家に帰り着いても成沢とハルのことを嫌というほど考えながら布団に潜るだろう。忘れろ、諦めろ、と自己暗示を掛けながらそれでも二人のことを考えて、一睡も出来ないで朝を迎える自分が容易に想像ついた。

 例えそれでも。眠れぬ夜がどれほど続いても。
「……ハルが泣かないでいてくれたら、それでいいよ」
 真っすぐカウンターを見つめる柚月をナオはじっと見上げる。

「……そんなにハルが好きなんだ」
 ナオはヘヴンのオーナーと並ぶハルの背中に視線を移した。
 ─── そのハルの隣に、ごく自然に座る人物が現れる。
 
 あ、と柚月が声を上げるのを聞きながらナオは名前を口にしていた。
「レイ、……どうしたんだろ」
「……レイ?……」

「友達なんです。……ハルよりいっこ上だったかな。でも、ハルとは会ったことないと思うんだけど」
 ナオは戸惑いながらも説明する。
「すっごくキレイなコ。ハルとちょっとタイプ違うけど、……なんの話、してるのかなあ?」
 暢気に呟くナオに柚月は訊ねた。 
 
「……成沢さんは、その、レイ、とは」
 身体の関係があるのかどうか訊かれているとすぐさま当たりを付けたナオは、笑って首を横に振る。
「ああ、なんにもないですー。ビックリするくらいキヨラカ、……て言うか、お互い好みじゃないみたいで」

「そうなのか……、恋人、かと思った」
 成沢さんの、と続ける柚月に、ナオは内心動揺した。─── もし「成沢さん」に恋人がいたら?
 どうなるんだろう、と訊かずにいられない。
「……恋人、いたらどうします? オーナーに」
 
「どうって、……別れて欲しいって頼むよ。ハルを大事にしてやって欲しいって」
「そ……そっか、そうですよねー」
 軽い声に笑みさえ含ませながら、淋しそうに目を伏せるナオ。

 その様子に柚月は違和感を覚える。
「─── 成沢さん、恋人いるのか?」
 低く発した柚月の真っすぐな言葉に、ナオはうろたえる。

「や、僕は、なにも、……判んないです。……オーナーのこと、よく、……知らないし……」
「……知らない……? 本当に?」
「……」

 ナオはただ、柚月を見上げることしか出来ない。背の高い柚月は切羽詰まった目でナオを見下ろした。
「……何か知ってるなら教えてくれないか。成沢さんが俺にハルを預けたのは、恋人がいるからじゃないのか? あいつが邪魔で、だから」

「それは違います、だってハルが柚月さんのところに戻ってからだったから、……」
 慌ててナオは口を噤んだが遅かった。柚月の顔色が変わる。
「……恋人が、いるんだな?」

 確信を得た柚月はナオに詰め寄った。
「どんな、……どんな奴なんだ?……成沢さんはハルが眼中にないくらい、そいつが好きなのか? どうして、ハルじゃ駄目なんだ……!」
 後ずさろうとしたナオの腕を掴む。

「……教えてくれ。頼む。知ってるんだろう……?」
 必死に和臣の恋人の情報を乞う柚月にナオは困惑した。まさか自分だとは、言えない。
「あのう、……あの、僕はよく判んないんだけど」

 柚月の真剣な目をじっと見つめながら、ナオは小さく囁いた。
 他の誰にも聞こえないように。

「……オーナーはそのひとに、すごく優しいです。笑って欲しい、って……そのひとも、嬉しいみたいです、……」
 そしてにこり、と笑うと恥ずかしそうに顔を伏せる。

「……え? ナオく……」
 柚月が事の真相に気付いた時。
 ナオの腕を掴んでいた柚月の手が、ヘヴンズブルーのオーナーによって乱暴に振り払われた。

  

 

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