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きみの手を引いて:45

     

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第四十五話

  

   
 スタッフルームを出たそのままの勢いでヘヴンズブルーを後にしたハルは、大通りで立ち止まった。
 この道を来た時と同じように、柚月が少し離れてついて来ていた。顔だけ振り向くと柚月も足を止めたのが目に入る。

「……」
 少しの躊躇の後、柚月はハルのそばへ近づいた。
 二人は、沈黙したまま再び歩き出す。
 ハルより半歩遅れて、しかし離れないように柚月は足を進めた。
 
 繁華街が近い駅前のこの通りさえ、終電を過ぎた今の時間はさすがに行き交う人は少ない。それでも街灯や閉まったショップの防犯の為の明かり、車やタクシーのヘッドライトと喧騒、深夜営業の店のイルミネーションなどで、賑やかな、不夜城といったような雰囲気があった。

 そんな中を付かず離れず二人は歩き、信号で止まる。
 柚月はちらりとハルを見た。─── 泣いているかもしれない、と思った。
 和臣には恋人がいた。小さくて、色が白くてそばかすがあって、柔らかく笑って彼を「優しい」と嬉しそうに話す恋人。─── ハルの、友達。
 
(もっと頻繁に、無理やりにでもハルを成沢さんに会わせておくべきだった)
 そうすれば、和臣はハルに気持ちを傾けていたかもしれない。あんなふうに和臣のそばにいたのはハルだったかもしれない。

 ナオとハルを重ね合わせたせいで柚月の心は少しざわめいたが、無視する。自分のことよりハルのほうが気にかかった。
 知らない内に、友達が思う人の恋人になっていた。

 自分ならばとても耐えられない、とハルの様子を窺う。
 ハルは、泣いてはいなかった。
 ダウンジャケットのポケットに手を入れ、ほの赤い唇から白く息を吐き出している。ただ目の前を通る車を見ているだけのようで何を考えているのか判らない。

 柚月は情けなさそうに眉尻を下げて、ぽつりと溢した。
「……ごめん」
「え?」
 きょとん、とした顔でハルは首を傾げる。

「もっと早く成沢さんに会いに来てたらよかったな、……それか、俺がお前を預からなかったら」
 柚月の言葉にハルは鼻を鳴らした。
 
「……オレが成沢さんのおもちゃになってたほうがよかった?」
「……そんな言い方するな。ちゃんと、恋人として」
「成沢さんがオレを恋人にすると思う? ありえない。あのひとナオがいいんだよ」

 こっちだって願い下げだし、とハルは呟く。車の騒音で柚月には聞こえない。
 フォローの仕様もなく、黙っているしかない柚月をハルは上目遣いで見た。
「……ナオってさあ、カワイイよね」

「……そう……か?」
「素直でー、いっつもにこにこしてて、いい奴で、なんか守ってあげたくなるようなカンジ。柚月さんもナオみたいのが、イイ?」

「……なに言ってるんだ」
「さっき、いいカンジだった、ナオと。……あの二人が出来てなくて、オレのこと成沢さんに預けられたら、ナオのこと、誘った?」

 軽い口調ながらも不安の滲んだハルの声に柚月は困惑した。こんな風にハルに絡まれるのは初めてで、どう答えたらいいのか判らない。
 一方、自分の嫉妬に気付いたハルは、ふん、と肩をそびやかした。

「べっつに柚月さんがナオとデートしたって構わないけど! オレにはカンケーねーしっ」
 まただ、とハルは自分が情けなくなった。いつも、心とは裏腹なことを言ってしまって後で後悔する。きっと今度もそうなると判っているのに ───。

「あ、ナオと会いたかったら連絡しよっか? オレが頼めば、デートしてくれるかもねー。でもヤらしてくんないと思うよ、成沢さんと出来てるからさ、……オレと同じようにってわけには」

「……ハル」
「……」
 低く自分を呼ぶ柚月の声に、ハルは口を噤んで俯いた。─── やっぱり後悔することになった。柚月が、忘れたがっていることを蒸し返してしまった。

(……柚月さんが忘れたくても、オレは忘れないんだから)
 信号が変わり、ぱらぱらと動く人々と共に歩き出す。渡り終え、しばらく無言で歩いていたハルは柚月のアパートに続く住宅街に入る細い路地で立ち止まった。

 柚月を見上げる。
「……オレ、ヴィンテージの倉庫で寝かしてもらう」
「なん、……」
「一緒に、いたくないって……し……知ってるから。大丈夫、環さんいいひとだから、根掘り葉掘り訊いたりしないし、……絶対、言わない」

 薄々気付いているらしい環なら何も言わずにおいてくれるだろう、とハルは思った。柚月さんには何も言わないで、と頼めばきっと不承不承でも知らない振りをしてくれるはずだ。

「荷物、後で取りに行くから。……柚月さんのいない時にする。元々へんだったもんね、オレ柚月さんのなんでもないのにさ、ずうずうしく居候してて、……柚月さんに付け込んでさんざんわがまま言って、……」
 触ってもらった。キスをせがんで、してもらえたら嬉しくて。
 
 そんな風に嬉しがっていた自分がバカみたいだ、とハルはうな垂れた。自分の気持ちを誤解している柚月がどんなに後悔して苦しむか、判っていたくせに知らない振りをした。
 柚月のものになりたかった。

「ヴィンテージで寝泊りしたらさ、住み込みってことになるのかな? オレ、そういうの初めてだよ。なんかカッコいいね、働き者、ってカンジ、……」

 ハルは、突然の申し出に驚いている柚月を見上げて、にこりと笑った。
「……オレねえ、柚月さんは信じてくんないかもしれないけど」
 少しは、ナオを見習わなければ。ハルは素直に口に出した。

「柚月さんちにいれて、すごい楽しかった。毎日、柚月さんと一緒にいられて嬉しかったんだ。ほんとだよ。……でも、柚月さんがオレと一緒にいられない、って、……辛いって思うんなら、……オレ、そういうの嫌だからさ、柚月さんが辛いの、ヤダからさあ、……」

 徐々に小さくなっていく声はどうしても涙に濡れる。柚月に気付かれたくなくて、背を向けた。
 「……じゃーね、柚月さん。あ、環さんのコーヒー飲みたくなったらオレ、奥引っ込んでるから。安心して来てイイよ」

 軽い口調で別れを言い、なんでもなさを装いながら歩き出す。─── 本当になんでもないことだ、とハルは考えた。これきり二度と会えないというわけでもない。柚月と環は従兄弟同士で、近しい関係だ。ヴィンテージだって近いのだから、道端で偶然柚月に会うことだってなくはない。
 
(……だからぜんっぜんヘーキ、……柚月さんと一緒にいられなくても)
 それより今頃訪れたら環も迷惑だろう、と朝までコンビニかネットカフェで時間を潰すことに決める。─── そんなことでも考えていないと声を上げて泣いてしまいそうだった。

(バカかオレは。泣くな。……こうやって追い出されんのもオレが柚月さんに手え出したのが悪りーんだし、……だから自業自得。臣の言うとおり。ちきしょう、ムカつく……)
 自分のスニーカーが交互にずんずんと踏み出されるのを目で追う。白い息と滲んだ涙のせいでぼやけたそれが、ふと止まった。

 柚月がハルの腕を掴んでいた。

 力強い手はハルを引き戻し、路地を曲がる。公園が見えてきた。
「……柚月さん」
 戸惑うハルの声に柚月は歩く速度を落とし、その腕を離した。ハルの気配が立ち止まったことに気付いて、振り返る。
 ゆっくりとハルに近づいた。
 
「……」
 凍てつく冬の空。月も星もその姿は見えない。公園の街灯がふたりを照らし、影を作った。
 一心に柚月を見上げるハルに、大きな手の平が差し出される。

 その手から目を逸らしたハルは小さく咎めた。
「……誰かに、見られるよ」
「構わない」
 柚月の白い吐息がハルの唇にまで届く。あ、と思う間もなく温かい手の平が、ハルの手を包み込んだ。

 柚月は冷たいハルの手を引いて歩いていく。

 虚勢も意地も必要のなくなったハルは、柚月の手をぎゅっと握りしめた。

 

    
   

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