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きみの手を引いて:番外編7

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第7話

 

   
「── 桐嶋ってのは?」
「……前の、名前……養子になる前の……」
 座り込んだオレはぼんやりとシーツを見つめていた。ベッドの横にある小さいテーブルの上のランプの明かりが影を作る。

 その影を避けるように、臣はオレの膝頭の近くに財布と保険証をぽん、と投げて寄越した。
「しばらくとはいえ、家に置くからな。ちょっと身元を割らせてもらった」
 横柄な口調。これっぽっちも悪いことをしたなんて思ってない。

 オレは財布と保険証をのろのろと拾い上げて、俯いたまま言った。
「……ひっでーな、あんた。勝手にひとの財布ん中調べんのかよ。サイテー」
「俺が家空けてる間に、金目の物一切合財持ってトンズラこかれちゃたまんないからな。最低限の自己防衛だ」

「……オレの住所も把握済みってわけ」
「当然。長谷川 瞠、十五歳。住所は」
「判った、もういい。……絶対家に連絡入れんなよ。あのひとに知らせたりしたら」
 
 言い淀んだオレを臣はせせら笑った。
「『長谷川さん』に知らせたらどうするんだ?」
「……あんたに監禁されて暴行されたって言う。オレの身体が証拠」

 臣は目を見開いて驚いたような顔をする。次の瞬間、身を二つに折って心底可笑しそうに笑い始めた。
「── いいタマだな、お前。十五のガキにしちゃ上出来」

 何が可笑しいんだ。オレは面白くなくてむっとした。
「ヤラしいことしといてガキ扱いすんな」
 財布の中にぐいぐいと保険証を突っ込む。

「言っとくけどオレ、あんたのこと大っ嫌いだから。でも契約した以上、シゴトはするよ。あんたがさせろってったら、させる。── その代わり、あのひととのことごちゃごちゃ言うな。名前もキリシマ ミハルだ」

 臣は片眉を上げて皮肉そうな表情を作る。オレがそう言うことで、返って意地悪く突付かれるかと思ったけど、臣はただ鼻を鳴らしただけだった。
「ま、ちゃんとやらせんならなんだっていいけどな」
 
 言いながら煙草をテーブルの上の灰皿に押し付ける臣に背を向けて、オレは布団に潜り込んだ。
 手の中の財布が熱を帯びる。
 どこにでもある二つ折りの黒い財布。長谷川さんがオレに買い与えたものだ。

(『……そんな安物じゃなくて、ブランド品にしたらどうだい? 瞠には高級な物の方が似合う』)
 それを断り、この黒い普通の財布がいい、とオレは長谷川さんに言い張った。
 ブランド物の財布を買ってもらえるなんて自分にはありうべかざる幸運で、とても信じられない、と思っていたから。

 長谷川さんと暮らすようになってオレは毎日、有頂天だった。地に足がついてない、夢見心地な日々。
 一戸建ての大きな家、広い庭。地位も名誉もある、格好が良くて優しい長谷川さん ── お父さん。 オレのことを気にかけてくれて、何も不自由がないように配慮してくれて。
 
 長谷川さんが ──。
 オレを、ヘンな目で見てることに気がついたのはいつだったろう。
 初めてキスされる直前だったかもしれない。

 びっくりして……でもその後も長谷川さんはいつもどおりだったから、何かの冗談だったのかな、あんまり気にしないほうがいいのかな、って思って……何も、言わなかった。
 次にキスされた時も。……舌入れられた時も。触られて、イヤだ、と思って……でも。

 ヤダって言ったらマズイんじゃないか、ってその時初めて思った。
 長谷川さんを拒んだら、ここを追い出されてしまう。「お父さん」を失ってしまう。
 オレはそれがひどく怖かった。

 けれど、長谷川さんの行為はだんだんエスカレートしてきて。
(『や……やだ……っ』)
 オレは泣いて訴えた。痛いからやめて欲しい、と。

 初めてイヤだ、と言ってしまって、「ああ、やっぱりオレ長谷川さんとこんなことするのイヤなんだな」と自覚して ──。
 
 イヤだけど、「お父さん」は失いたくなかった。だからずっと黙ってた。誰にも言わなかった。
 長谷川さんの行為がそれで終わってくれたら、今でもオレは沈黙を守ってあの家に住んでいたかもしれない。

 でも。
 五日前、長谷川さんに「部屋に行くよ」と耳打ちされた。

 長谷川さんが怖かった。おかしなことをされるようになってから、ずっと。
 昼間は上品で優しく姿の良い父親。けれど夜になったら。

 息を荒げてオレを組み伏せ、熱っぽい手で身体中を触り、唇を這わせる。
 オレは緊張に身体を強張らせたまま、その愛撫を受ける。
(……やだ……そんなこと、されたくない……)

 また、アレをされる ──。
 そう思ったら怖くてたまらなくなった。足が竦んで動けない。
 鏡を見たら、顔色が真っ青で。

 オレは家を出て、そのままもう帰れなくなった。
  
『お前の意思無視して無理やり突っ込んだらレイプだろうが。なに庇ってんだ、お前。バカか?』

 臣の言葉が、頭の中に響く。
 それを聞いた時、目の前がさっと開けたような気がした。
 あの不思議な感じ。ずっと遠くまで見渡せる、あの感じ。

 多分、臣の言うとおりだ。オレは長谷川さんにレイプされた。
 長谷川さんとセックスなんかしたくなかった。我慢すればいいやって思ってたけど、やっぱり嫌だった。

 無理やり突っ込まれたらレイプなんだ。そうか、と思った。
 
 でもまだ納得出来ない。
 そんな簡単にレイプされたってこと認めるわけにはいかない。

 長谷川さんだって何か事情があったのかもしれない。突っ込まれるまで抵抗しなかったオレが悪かったのかもしれない。
 オレがもっと早くイヤだって言ってたら良かったのかもしれない。

 そしたら、やめてくれてたかも。だって長谷川さんはいいひとなんだ。
 オレの父親になってくれたんだ。

 そっと黒い財布の表面を撫でて、枕元に置く。
 頭の上まで布団を引き上げてじっとしているとひどい眠気が襲ってきた。

 臣の言葉が頭の中でぐるぐると廻っていたけど、考えるのはやめて目を閉じた。

 

    

    

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