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きみの手を引いて:番外編9

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第9話

   
 何かの物音で、目が覚めた。何か ─── チャイムみたいな音。
 ここでは、臣の家では初めて聞いた。て言っても、この家には丸一日くらいしかいないから何だって初めてだけど。

 小さいテーブルの上のアンティークっぽい置き時計を見る。十二時になろうとしているところだった。夜中の。
 ……昨日は今頃、ピザ食ってビール飲んで、……今から思えば飲まされた、んだろうな。すげー簡単に身体熱くなって。

 初めて臣と寝た。そんで熱出した。
 別にオレがか弱いわけじゃない。ここ何日かのカルいホームレス生活が祟ったのと、臣に付き合わされた運動が激しかったからだ。契約までさせられた。悪魔。鬼畜野郎。

 何で今オレがここで寝てるのかをつらつら思い返していると、ドアの隙間から声が聞こえた。何を言っているのかまでは判らない。

 ─── 臣の声じゃない。
 
 はっきりと覚醒したオレは身体を丸めて神経を尖らせた。
 ダレかが、この家にいる。

 さっきみたいな電話じゃない、TVでもない、肉声。明らかに臣とは違う声が微かに聞こえる。

 そういえば、オレ、臣のこと全然知らない。名前と顔と、……カラダのことはよく知りたくもないのに無理やり知らされたけど、それだけだ。性格だって、案外優しいのかもしんないなー、ってぐらいで、本当はどうだか判らない。

 ……臣が悪いヤツで、同じような仲間呼んだ、とかだったらどうしよう。悪いって何がどうワルいのか判んないけど、……ヤクザ、とか。前科何犯、とか。……海外、売り飛ばされたりして、オレ。
 いやいやいやいや。男なんか売れるもんか。

 どうしよう。今すぐこっから逃げ出す? どうやって? オレが今いる臣の寝室は一番奥まっていて、リビングを抜けなきゃ玄関まで辿りつけない。ベランダは無理だ。まだ見たことないけど、 ─── 下を見れば目も眩むだろう高層マンションの最上階、この一戸しかなくて隣に助けを求めることさえ望めない。

 結局どうも出来なくて布団の中で縮こまっていると。
 
 ─── すげーイイ匂い。
 ご飯の匂いだ。ピザ食って以来、丸一日なんも食ってないオレの嗅覚は鋭い。
 さっきまでものを口に入れるなんて考えらんなかった。欲しいのは水分だけで ─── 臣に足元見られて触られまくった ─── こんなにご飯の匂いに誘惑されるとは思わなかった。

 ゆっくりとベッドを下りる。恐る恐る歩いてみると足もふらつかず、腹が鳴った。
 治ったんだ、オレ。
 多分、まだ完全じゃないだろうけどリビングでもトイレでも自分で行ける。

 そっと足音を忍ばせて部屋を抜け出し、廊下を通ってリビングのドアの隙間から中を窺い見る。
「何やってんだ、お前。さっさと入れよ」
 中から掛けられた臣の声に飛び上がりそうに驚く。気付かれた。

「……」
 恐る恐る、滑り込むようにしてリビングに入る。

「あ、起こしたかな?」
 続きのキッチンからの声にびくついて、そっちを見た。ここにいるのはやっぱり臣だけじゃない。
「腹が空いたらしいぞ。鳴ってる」

「ちょうど良かった」
 小ぶりの土鍋が鍋敷きに乗せられて運ばれてくる。運んできたのは、若い男。 白いシャツに黒いベスト、黒いズボン。お仕着せの、カフェの従業員ってスタイルだ。すっきりと整った顔に縁なしの眼鏡がちょっと冷たそうな印象。─── なんか仕事デキるってカンジ。

 不審なオレの表情を読んだのか、センターテーブルに鍋敷きごと土鍋を乗せながら彼は言った。
「今、様子を見に行こうと思ってたんだ。うちのオーナーにイジメられたんじゃないかと思って。……そんな、怪しいもんじゃないよ」
「……はあ」
 
 うちのオーナー?……臣のこと? 多分そうなんだろう。
 オレは臣にちらっと視線を送ったが、当の本人は素知らぬ顔をしている。

 レンゲと小鉢を運んできた彼は土鍋の前に並べ、その蓋を取り去る。
「雑炊、食べられるかな?」
「大好きっ」
 立ち上る湯気と出汁のなんとも言えない、いい香りにオレは即答していた。

 彼は苦笑しながら小鉢に雑炊をよそい、その前のソファーに座り込んだオレに手渡してくれる。
「熱いから気を付けて」
 オレは彼を横目で見ながら頷き、雑炊を盛ったレンゲを吹いた。ちょっと熱すぎたけど我慢できなくて口に運ぶ。美味い。
 
「べろ火傷したら俺が舐めてやるよ」
 臣のバカがまたエロいこと言ってる。無視無視。
 食べ始めた俺から離れた彼は臣に近寄った。

「……ノラ猫、というより迷い込んできた仔猫じゃないですか。親元に帰さなくていいんですか?」
「帰りたくないって鳴いてる。仕方ないだろう」
 彼は肩を竦めた。

「ずいぶんお気に召したんですね、あの子が。あんまりイジメないで下さいよ。可哀想だ」
「お前こそ、ずいぶん仔猫ちゃんの肩持つじゃないか。惚れたのか?」
「オーナーが事の外、ご機嫌麗しいんで牽制してるだけですよ。あの子に夢中になって店に顔出さなくなられても困りますしね」
 
 小声だけど聞こえる。オレのこと、話してる。ダレが仔猫ちゃんだ。
「臣っ! このでっかいTV見ていいっ?」
 噂話されんのが気に食わなくて、せめて聞こえないようにしよう、と断りを入れてからTVを点ける。

 返事がなかったのでちらっと臣を見るとにやにや笑ってた。その隣の彼は驚いたように目を瞠っている。
「……呼び捨て、させてるんですか?」
「ああ。いいだろう?」
 はあ、と彼はため息を吐いて、頭を横に振る。

 いかにも呆れた、と言わんばかりのその仕草にちょっとむっとする。臣が呼び捨てでいいって言ったんだぞ。……でも、雑炊美味いから許す。
 
「そろそろ店に戻ります」
 そう言ってリビングを出る彼に臣はついて行く。チップだ、なんだとちょっとやり取りの後、臣だけ戻ってきた。

「……今の人、ダレ? オーナーってアンタのことだよな? アンタ一体なにやってるヒトなの?」
 オレは自分で冷蔵庫から出してきたミネラルウォーターを飲んで、また雑炊を食べながら訊いた。
 
「今のは、牧田。俺はしがない場末のショットバーの経営者で、そこでオーナーって呼ばれてる。一応な。牧田はそのバーのフロアマネージャーだ」
 律儀に全部答える臣が意外だった。どれかははぐらかされるような気がしてたから。
 ……でなきゃウソつかれるか。

 どれかはウソかもしんないな、と思いながら「ふーん」と相槌を打った。
「コレ、あのひと、……牧田さんが作ってくれたの? 超美味い」
「感謝しろよ。店で作って土鍋ごと持ってきたんだ」

「すっげイイひとー。オレ、あのひとに拾われたら良かったな」
「……ピザ食わせてやって一日看病してやった俺の立場は?」
「その分身体で払わされたじゃん」

 臣は可笑しそうに笑いながら、キッチンへ行った。
「ごちそうさまでしたっ」
 土鍋を空にして、両手を合わせた俺の前に薬袋が置かれる。
「ちゃんと服んどけよ」
 
 三種類の錠剤をミネラルウォーターで飲み下す。あれ、薬ってミネラルウォーターで服んでいいんだっけ? ま、薬って言っても栄養剤だからいいか。
 
 ……そのままぼんやりTVを見てたらなんだか眠くなってきた。ずるずるとラグの上に座り込む。
 何だコレ……。さっきまで一日中、寝てたのに。やっぱまだ完全には治ってなかったのかな……。

 とろんとした目付きで臣を見上げる。臣はソファーに座って水割りかなんか飲みながら、煙草を吸っていた。
 オレの視線に気づく。

「……そういえば、その薬、どれか睡眠導入剤だって言ってたな」
「……すいみん、……睡眠薬?」
 ダメだ、眠くて頭まわんねー。臣の口がぱくぱく動いてる。

「そんな強いやつじゃない。医者は、過労だからとにかく身体を休めろ、とさ。……よく効くな、お前」
「……効いてんの? オレ、……すげーねむ……」
 自分の言ってることが判らない。ぐらり、と傾いだオレは、あったかい、煙草臭い身体に抱きとめられた。

 抱え上げられる浮遊感。
「……仕方がねーな、寝てる奴相手にしても面白くねーし、……」
 ぶつぶつ言う臣の声を最後にオレは意識を手放した。
 

 

 

   

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