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ヘブンズブルー:最終話

  

 R-15BL小説です。15歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 最終話

 

「ど……どこ行くの、臣さん……」
 必死に自分を見上げるナオの頭を、和臣は軽く撫ぜた。

 ナオを泣かせたくない、という思いは自然に和臣の表情と口調を和らげる。
「ヘヴンだ。レイに会ってくる。……お前が昨日セッティングしてくれたデート、台無しになったからな。……今日、あいつ客付いてたか?」

 そっと髪の毛に触れられながら、ナオは眉尻を下げ、頭を横に振った。
「そうか、付いてないか……選り好みが激しすぎるからだ」
 上手く誘ってやる、と和臣はナオを軽く押しのけた。

「待って、臣さん」
 泣きそうなナオの声。後を追うナオを和臣は振り返った。
「そうだ、約束な」

 内心を押し隠していつもの皮肉っぽい笑みを浮かべる。
 ナオの目には普段どおりの、余裕めいた大人の表情に映った。
  
「明日、俺が戻ってきたら笑ってくれよ? お前の望みなら何でも叶えてやる。その代わり、約束だぞ。……笑えよ」

 軽く、冗談でも言うような口振り。

 けれどナオは和臣の目の奥に自分を視た。

 マンションやヘヴンをくれると言ったのは、自分が和臣の心を要らないと言ったから。─── レイを愛人にするのは、自分がそう望んだから。

(……僕を喜ばせるために、嬉しがらせるために、笑わせるために、臣さんは)

「…………」
 答えないナオから目を逸らし、和臣は玄関を目指す。

 遠ざかる和臣の背中。

(臣さんが、行ってしまう)

 ─── 気が付いた時には。
 
 ナオはその背中に抱きついていた。

「お、……おい」
 驚いて振り返る和臣の胸にしがみ付き、泣き出すナオ。

 こぼれた涙が和臣のYシャツを濡らす。和臣はうろたえ、抱き寄せることも出来ない。
「……参ったな……。笑って欲しいのに、どうしてこう俺のやることなすことマズいんだろうな……どうしたらいいんだ? 泣かないでくれ。何でもするから」

「いっ……行かないで下さい」
 しゃくり上げ、ナオは和臣を見上げる。涙が目の縁から転がり落ちた。

「レイのところに、行かないで。僕と一緒にいて」
「判った。だから泣くな」

 即答した和臣はコートを床に落とし、恐る恐るナオの身体に手を回す。嫌がられたらすぐさま離そうとする慎重さをナオは焦れったく思った。

「……臣さん、僕ね」
「少し、……離れないか」

 ナオは和臣の背中に手を回し、思い切り抱きつく。
 それでも和臣はナオを強く抱き返そうとはしない。
「……ナオ」
 
 昨日と同じ声だ、とナオは思う。どうしたら好きになってくれる、と訊いた声。笑って欲しい、とせがんだ声。
(……怖くない)

 本当はまだ少し怖い。和臣のように激しくひとを愛する気持ちは、相手はおろか和臣自身さえも焼き尽くすのではないか ─── ?

(判らない。そんな気持ちは知らない。でも)

 嫌われたくない、とあの時、思った。

「……嫌われたくなかったんだ」
「え?」

「臣さんに嫌われたくなくて、いつでも、タダで寝るって、……言った。臣さんは気持ちを言ってくれたのに僕は、逃げた。ズルイよね。……本当にびっくりしたんだよ。驚いてどうしたらいいか判んなくて、……でも」
 
 ナオは甘えるように和臣のYシャツの胸に頬を擦り付ける。腰を引く和臣に気が付きながらも離れようとはしない。

「臣さんに、嫌われたくなかったんだ」
 
 腕の中で響く小さな、しかしはっきりとしたその声は、和臣の心に流れ込む。
「寝てもいいから嫌われたくなかった。……どんなことしてでも」

 大きさは違っても、自分の内側に存在する和臣と同じ炎をナオは覚えた。

 制御が利かなくなり、和臣は腕に力を込める。
 ナオの耳に口を寄せて囁いた。

「……それは、告白だと思っていいのか?」
「……」

 頬に血を昇らせ、顔を背けるナオ。
「逃げるな」
 
 和臣は容赦せず、耳たぶに口付ける。そのまま、真っ赤になっている首筋に唇を這わせた。
「……っ臣さん待って、」
「嫌だ。昨日からもうずいぶん待った。……まだ焦らすつもりか?」

 うなじを撫でていた和臣の指がナオの後ろ髪に差し入れられる。直接地肌に触れられ、髪の毛を梳かれる感覚に、ナオの身体がびくんと震えた。
 
 眼下の許しを請うようなナオの目付きを堪能して、そのこめかみにキスを落とす。
 目をぎゅっとつぶったナオは俯いた。

「わ……判った、から」
「── 一度だけでいい。お前の言葉が聞きたい」

 
「……臣さんが、好きだよ……」

 
 目を瞠り、そして満面の笑みを浮かべる和臣。
「やっと、言ったな」
「……言わされたんだよ……っ」
「俺だけじゃずるいからな」

 そっと触れるだけのキスを交わす。
「………」
 離れていこうとする和臣の唇を、ナオのそれは追いかけ、塞いだ。

「……駄目だ。怪我が治ってない」
 ナオの唇の端と身体の怪我を気遣い、和臣はキスを止める。実際、断腸の思いだったが、ナオを辛い目に合わせることは出来ない。
 このまま続ければ歯止めが利かなくなることは判っていた。

「……僕の言うこと、何でも聞いてくれるんでしょう」
 臣さんと、したい、とナオは額を和臣の胸に押し付ける。誘う言葉はまともに和臣の顔を見られなくさせる。

「……無茶言うな」
 口ではそう言いながら、和臣は真っ赤になっているナオの顔を上げさせ、その表情に目を細める。

「ん……」
 ナオは自分を見つめる和臣の視線から逃れようと目を逸らした。その瞼に、和臣の唇は優しく触れる。涙の跡をぺろりと舐めた。
 
「……怪我、辛いかもしれないぞ」
「平気、……構わない」
「泣いても、……止めなくていいか?」
「……いいよ」
 
 吐息と共に出た許しの言葉に後押しされ、和臣はナオを強く抱きしめた。

  

                             end.

  

      ~ おまけ ~  

  

    

「もう一回、聞かせろよ」
「……ヤだ。一度だけでいいって言ったもん」

 ヘヴンズブルーのカウンター席に陣取った和臣は、隣のナオの髪の毛を弄びながらその耳元へ囁く。
 頬を染めて頭を振り、和臣の手から逃れるナオ。

「しつこい、臣さん。ずっとそればっかり」
「お前が言わないからだ」

 強情っぱり、と和臣はにやりと笑う。─── ベッドの中でも「言え」「言わない」の押し問答の挙句、さんざん意地悪をされたナオはそのことを当てこすられ、ますます赤くなる。
 
 そんな二人の目の前のカウンターの中で、ため息を吐いたのは牧田だ。 
 今日もなかなか混み合っているこの店で、オーナーが一人の少年に公然と構っているのは非常に外聞が悪い。
「店内でイチャつくの、止めて下さいね?」

 いや、外聞など大した問題ではない。二人から少し離れて壁に寄りかかり、面白くなさそうに腕を組んでいるレイに視線を向けた。
「……雰囲気、悪くなりますから」

 レイの舌打ちと「やっぱ邪魔しちゃえば良かった」という声が聞こえたような気がして、牧田は剣呑、剣呑と肩を竦める。

「牧田さん、休憩時間ですよ」
 復帰を果たした河合が、トレイに空いたグラスを載せてカウンターに入ってきた。
「ああ、……お前、先入っていいよ」

 カウンターの二人と仏頂面のレイを横目で確認した河合は頬を引きつらせ、ぎこちない笑みを浮かべる。 
「……そうッスか、じゃお先に~」

 和臣をナオに取られたレイ、という図式でも想像したのか、河合は巻き込まれたくないとばかりにそそくさと奥の厨房へ引っ込む。

 あいつ、もうちょっと人を見る目と度胸があってうっかりが直ったらマネージャーに昇格させてやるんだが、……と牧田は心の中で思う。いっそオーナーと互角に渡り合ったレイをスタッフに雇いたくなる。

 成長に期待しよう、とカウンターに向き直るとナオがいない。
「逃げられた」
 自分との仲を隠そうともしない和臣に困惑したのか、辟易したのか、いずれにしろナオの背中はレストルームに消えていった。

「しつこくするからですよ」
「だってあいつが言わねーから」
 全く、子供じゃないんですからね、とたしなめる牧田に和臣は不機嫌そうに頬杖をつく。
 
 見えないところでナオにちょっかい出してないか、とレイに目を向けると、常連らしい「客」に口説かれている最中だった。
 和臣とナオに当てられたせいか首を横に振っているが、「客」も熱心だ。金額の折り合いさえ付けば成立するだろう。

「そういうことは二人っきりでして下さいよ。こっちはハラハラして、」
 言いかけた牧田は人込みに紛れ、和臣の後ろに立った人物に気付き、驚く。

 白いダウンジャケット。茶色い髪は柔らかく、小さな白い顔の輪郭を覆う。長い睫毛に覆われた大きな瞳。形の良い柳眉はひそめられ、赤い唇をへの字に曲げている。
 
 ─── ハルくん?

 彼を見なくなって何ヶ月なのか。前にも増した美貌をなぜか歪め、和臣の背中を見つめるばかりのハルに牧田は沈黙するしかなかった………。

 

 

    ★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

 ここまでお付き合い下さってありがとうございました。゜.+:。(*´v`*)゜.+:。

 おまけは「きみの」の四十話とリンクしています。もし宜しかったらそちらも読んで頂けると嬉しいです。

                八月金魚 拝

         
         
        目次ヘヴンズブルー2:目次

  

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