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きみの手を引いて:番外編10

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

  

 第10話

  

 ─── 三日後。復活を遂げたオレは臣に連れられてヘヴンズブルーのドアを潜った。
 右手の紙袋の中身は空っぽの小ぶりの土鍋。ヘヴンのフロアマネージャーだという牧田さんがコレで雑炊を作って、熱出して寝込んだオレに持って来てくれたのだ。

 雑炊は、美味かった。それに、臣に聞いただけなのにオレのこと気に掛けてくれたこともちょっと嬉しかった。
 だから臣に「それ、自分で返して礼ぐらい言えよ」と言われた時、素直に頷いた。

 そういうわけで、オレは今、牧田さんのいるカウンターに向かって歩いている。……いるんだけど、……なんか、じろじろ見られてるような気がするのは気のせい……?
 先に立って歩く臣に置いてかれないように、早足になる。
   
 カウンターの中の牧田さんが気付いて、眼鏡の奥の目が瞠られた。
「おや、……オーナーのとこにいる、こね」
「ハル。ハルだよ。へんな呼び方やめて」

 仔猫ちゃんと呼ばれそうで慌てて遮る。……全くもう、このオーナーにしてこのスタッフありだよ。いい加減にしろっての。
「ああ、ハルくんね。……わざわざ返しに来てくれたの?」
 カウンター越しに紙袋ごと渡す。中を確かめた牧田さんは苦笑いした。
 
「雑炊、美味かったです。ありがとうございました」 
「オーナーに頼めばよかったのに」
「お礼、言いたかったから。……それと、このひとに頼むと超高くつくから、ヤダ」

 そう、復活したとはいえ病み上がりのオレが空の土鍋下げてのこのこ臣にくっついてきたのは、そのせいもある。
 水持ってきてもらうだけでべろチュウだぞ。土鍋持ってってくれ、なんて言ったら何されるか。
「本人の目の前で陰口か?」
 カウンターの端っこの席に座った臣が口を挟んだ。

「陰口じゃねーよっ、ジジツをありのままに述べただけ」
「へえ、ひとのベッド占領して献身的な介護を受けた事実も述べてくれたのか?」
 なにがケンシンテキだよ、ほったらかしだったくせに、……。でもオレがベッドを占領してしまい、臣が別の部屋で寝ることになったのは本当だったのでぐッと言葉に詰まる。

 臣はにやにやと笑ってオレの腕を引いた。無理に隣のスツールに座らせる。
「快気祝い寄越せよ」
「……金ねーよ。知ってんだろ」
「身体でお礼しろ」

 ……超ヤな言い方。オレを性的対象として見てるそのイヤらしい言い方に、イラっとすると同時に恥ずかしくなる。触るな。変な目で見るな。
 今、この場で辱められてるような気がする。

「……判ってるよ。契約したんだから、ちゃんとやらせるって」
 それでもオレは臣の口調も目付きも咎めず、大人しくうな垂れた。実際、臣のマンションを追い出されたら困る。
  
 臣は対等に「契約」と言ったが、臣にとって契約するのはオレじゃなくてもいいのだ。無理に契約する必要も、ない。それに比べてオレは身体でも差し出さない限り、眠る場所さえ確保出来ない。
 明らかに、オレの方が分が悪かった。

「今度は騎上位な」
「! なっ……」
「自分で動かなきゃ終わんねーぞ。サービスしてもらう」
 こんなとこで何言ってんだ、とか、そんなこと出来るか、とか文句がありすぎてどれから突っ込んだらいいのか判らない。

 その上、ひとにキジョウイだのなんだの聞かれて注目を集めるの嫌さに、結局オレは熱くなった顔を俯けるしかなかった。
「……オーナー。可哀想じゃないですか、ほら、口も利けなくなって」
 牧田さんが小さい声で庇ってくれる。なのに、それもこのエロオヤジは一蹴した。

「まだフェラチオ強制しなかっただけマシな方だぞ?」
「強制したかったんですか? 最低ですよ」
「そうか? どっちがいい、騎上位とフェラ……」
「……トイレ!」
 
 宣言したオレはスツールを下りて、逃げた。自分を肴にした猥談に付き合ってられるか。
 くっそ、覚えてろよ、と口の中でぶつぶつ言いながらフロアを見渡す。
 
 入ってまっすぐカウンターに来たので気付かなかったけど、結構広い店だった。立ち飲み用の小さいテーブルがいくつかとボックス席。そのどれにも身を寄せずに壁に寄りかかったり、座り込んでいる客もいる。盛況と言ってもいいぐらい混んでいた。

 ……実は、こういう、酒を提供する店に来たのは初めてだ。薄暗い照明と大人の雰囲気が物珍しくて、きょろきょろしてしまう。
 自分のそんな仕草が子供っぽいことに気付いて咳払いしてごまかす。別に行きたくもなかったけどトイレを見つけて、目隠しになっている壁をまわりこんだ。

 手を洗っただけで出ようとした時、オレの前に三、四人の少年たちが立ち塞がった。
 ─── え?

 なんか……剣呑な目付き。好奇心も混じってるのが見て取れる。
 なに、オレなんかした?
 目の前の、髪の毛ふわふわでちょっと上を向いた鼻に愛嬌がある少年が口を開いた。

「……オマエ、オーナーのなに?」
 はあ? なにって、……ナニ?
 ていうか、何でオレ知らないヒトたちにそんなこと訊かれなきゃなんねーの?

 少年たちが口々に友好的とは言いがたい声で言う。
「答えろよ」
「恋人? 愛人?」
「すっげキレーなカオ、触らしてよ」
 
「バッカお前ホンモノのコッチになったのかよ、こづかい稼ぎだろー」
「ちげーよ、バカ、女みてーなきッれーなツラしてっからさ……」
 ふわふわ髪の隣にいる目の細い奴が手を伸ばしてくる。

 その手を身体を引いてかわしたオレは眉間にしわを寄せた。……なんだこいつら。女みたい? フツウ、思ってても言わないんだぞ。
 
「うるせーぞ、遊びてーんなら後にしろよ」
 言いながら、オレに触ろうとした無遠慮な手を払ったのは、最初に声をかけて来たふわふわ髪のガキ。
「こっちはガチで訊いてんだ。……オーナーが連れてきたすげー美人てオマエだろ。どーゆー関係?」

「……怖っえー、シュウ」
「オーナーにお熱だもんねー」
「ちがーよ、オーナーのオカネにお熱なんだろ」

 シュウと呼ばれたふわふわ髪の後ろで、オレに触ろうとした奴とツレらしい奴がくすくすと笑う。
 シュウは眼光一発でそれを黙らせた。

「口きけねーの、オマエ。なんとか言えよ」
「あんたこそ臣のなに? オレがあのエロオヤジのなんかだとマズいわけ?」
 その瞬間、場がシーンとなった。

「……呼び捨てだ」
「臣、だって」
「呼び捨てなんかいけないんだぞ、オーナーとか、外だと臣さん、とか」
「えッおまえ外で会ったことあんの、オーナーと」
「……ないけどさー」

「うるさい」
 急に騒ぎ出したまわりの奴らを黙らせたのは、やっぱりシュウだった。一歩前に出て、オレにきつい視線を向ける。
「……オマエが今度のお気に入りってわけか。呼び捨てさせるってことは相当イカレてんな、オーナー。キレーな顔でケツ振ってカラダでたらしこんだのかよ?」
 
 ……なんだコイツ。言ってることがくだらな過ぎ。臣はオレにイカレてねーし、オレもたらしてねー。あくまで契約、シゴトと一緒だ。
 オレは背中を目隠しの壁に預け、腕を組んだ。

「だからなんだよ。アンタもたらしこんでみれば? 臣がイカレてくれるかどうか、判んねーけど」
 ふん、と鼻でせせら笑う。

 オレのいた施設は大きさの関係でわりと少人数だったけど、それでもイジメなんかはあった。元々わけありで親と暮らせない奴らばっかりだから、どうしてもそういうのは起きやすい。

 オレは、自分より小さいから、とか、立場が弱いから、とか、気に入らないから、とか、そういう理由にもならないようなことで他人を集団で攻撃する奴が、キライだ。その陰湿さに虫唾が走る。
 
 施設に入ったとき十一で、けっこう大きい方だったせいもあって、オレは小さい子を、─── 時には自分より年が上の奴も ─── 庇ったりした。庇えば、無論、次の標的はオレ。

 でもむざむざ標的にされるほどバカじゃない。廊下やらどこやらでボコられそうになる度に、返り討ちにしてやった。背中を取られなきゃたいがい切り抜けられる、と経験上知ってる。

「あのひと、趣味イイからアンタじゃ無理かもね」
「……だと、このやろうっ!」
 
 挑発するのもひとつの手。先に手を出した方が、負ける。ちゃんと管理する大人がいれば、の話だけど。
 胸倉を掴まれたオレはアタマに血が昇ったシュウに目を眇めた。

「……オレに傷つけたら、臣、超怒んじゃねーかな……?」
 管理する大人 ─── 臣はそう思ってないだろうけど ─── の影をちらつかせて、ハッタリをかます。

「~~~っ!!」
 シュウの怒りが伝わってくる。その背後では、少年たちがざわついていた。

「や……やめなよう、シュウ」 
「ヤベーよ、マジで……やばいって」
「オーナーにチクられたらどうすんだよ」
「出入り禁止になるよ、やめなよ……」
 
 口々に言うが、オレとシュウの間に入ろうとはしない。チッ、止めんならちゃんと止めろよな。まあ挑発したのオレの方だけどさ、……と思ったとき。

「─── あれ、なにしてんの、シュウ」
 場違いに明るい声。
 一人の少年が周りの連中をすり抜けてオレとシュウの側にやってきた。

「あっ、オーナーが連れてきた子?」
 オレを見て、微笑む少年の余りの邪気の無さに一瞬あっけに取られる。シュウに胸ぐら掴まれて今にもボコられそうなんだけど、オレ。
 

「……ナオ。来てたのかよ」
 その様子に毒気を抜かれたのかシュウはゆるゆるとオレを離す。ぼそぼそと言い訳がましい言葉を並べた。
 
「……こいつ、生意気なんだよ。だからさ」
「判ってるよ、オーナーには言わない。ここ固まってたら目立つよー?」
「ちッ……」

 シュウは軽く舌打ちしてオレを睨みながらもフロアに出て行く。他のガキたちもそれに追従して散っていった。
  
 あとに残った少年はオレを見て、にこり、と人懐こい笑みを浮かべた。 
   

  

   

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