« きみの四十五話まで更新しました。 | トップページ | 「きみの」四十六話更新しました。 »

きみの手を引いて:46

  

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第四十六話

 

  
 それから数日後。
 二人は何の進展もないまま、柚月の誕生日前夜を迎えていた。
 
「─── ねー、なにが欲しいんだよー」
 ハルもその現状を手をこまねいてただ見ていた訳ではない。自分の気持ちを柚月にアピールするべく、今もこうして彼の欲しいものを割り出そうと必死だった。

「よっし判った! 三万五千まで出す! これ以上はほんと、マジ無理」
「……金額の問題じゃない」

 頬を引きつらせてプレゼントの値段の上限を上げるハルに柚月は苦笑する。
「何もいらないって何度も言ってるだろう」

 風呂上がりでパジャマ姿のハルは柚月にとって目の毒だった。なるべく早く自室へ篭りたかったが、自分に贈り物をしたいと食い下がってくるハルをないがしろにするわけにもいかない。
 仕方なく、目を逸らしながらも相手をしていた。

「お前が働いて手にした金なんだから、お前が好きに使え」
「だから好きに使おうと思って訊いてるんじゃんか。柚月さんが欲しいもの、あげたい」
 ハルは唇を尖らせて柚月に上目遣いを向けた。

 ─── 自分の手を引いて、柚月がこの部屋まで連れ帰ってくれたあの夜。
 柚月のものになるのだ、と思った。いや、すでに一度は関係があるのだから、この目の前にいる、自分に見つめられると困ったように目を伏せてしまう大きい図体のひとのものだ、と言ってもいいと思う。

 なのに、柚月は。
 あれから一度も自分に触れようとはしない。あの夜、帰って来てからだってすぐに手を離してしまい、風呂に入ってなかった自分を洗面所に押し込み、「俺は寝る」と宣言して自室に引き上げてしまった。

 柚月の気持ちが判らなかった。自分のものだ、と思ってくれているのか、それとも。
 それとも?

 ……判らないけど、柚月さんのそばにいられるだけでイイや、とハルは不満に目をつぶって自分に言い聞かせる。
「なんかあるだろー、欲しいものー、教えてよう」
 
「……そうだな、じゃあ」
「えっなになに、教えてくれんの?」
「じゃがいもと牛肉の切り落とし買って来てくれ。明日肉じゃがにする」
「やった、柚月さんの肉じゃがおいしーんだよねー、あんまり甘くなくてさ」
「砂糖入れないでみりんだけだからな。あ、ついでに本みりんも頼む」
「判ったー、……ってそうじゃなーいっ!!」

 肉じゃがに釣られて一瞬にこにこと笑ったハルは、はッと我に返った。
「そうじゃねーだろ!? オレ、買出しに行きたいんじゃないよっ!」
「じゃがいもと牛肉と本みりん。大丈夫、立派なプレゼントだ」
「どう聞いたって子供のおつかいだよ!」

 ハルは情けなくなって俯いた。─── そんなに柚月は自分からものを貰うのが嫌なのだろうか。年下だから? 子供だから?……下心があるから?
(プレゼントあげるからオレと寝て、とか言わないのに)
 ほんとは言いたいけど。いや、みっともないから我慢、我慢……。 

「……なんでもいいんだよ、……時計、とか、靴、とかさ……」
「……」
 萎れた様子のハルに柚月も気が差してくる。……ずっとハルをはぐらかしていた。

 本当は柚月には『欲しいもの』があった。しかし、それを口にしたところでハルを困らせるだけだ、と判っていたので言わずにいた。
 ─── けれど、そんなに知りたいのなら。
 
「─── なんでもいいのか?」
「うんっ」
 柚月の声にハルは顔を上げて、笑みを見せる。

「……一度だけ……」
「え?」
 柚月の声はわざとのように小さくて、聞き取れない。ハルは柚月の口元に耳を寄せた。
 
「……一度だけでいい。俺と、……寝て」
 押し殺した柚月の言葉にハルは驚き、聞き違いか、とまじまじと彼の顔を見る。

 聞き違いではなかった。
「い……一度だけでいいんだ、この前みたいじゃなくて、あの、……嫌がらないで……抵抗、しないで……俺と……」
「────」
 ハルは絶句して、長い睫毛に縁取られた大きな目を瞬かせた。

 呆然とするハルの様子に、馬鹿なことを言った、と柚月は焦った。拒まれるのが怖くて、次から次に思ってもない言葉が口をつく。
「……諦めるから……一度、だけ、嫌がらないでくれたら、……諦めるから、……だから、あの……」

「……」
 自分を見つめるばかりのハルの視線に、柚月の頬が赤らんでくる。
 ついに真っ赤になった柚月は額に手をあて、頭を横に振った。
「……ごめん」

「……」
「すまなかった。……自分でも馬鹿なこと言ってるって判ってる。諦めるからやらせろ、なんて、脅迫と変わらない。最低だ。……本当にどうしようもない、……」
 ひどい自己嫌悪に駆られ、柚月はうな垂れた。

 ずっとハルに触れたかった。抱きしめたかった。その髪に、頬に、唇に触れたかった。
 けれどハルの気持ちは?
 和臣に振られ、彼を諦めるしかないとしても、無理やりに欲望を押し付けて身体を奪った自分がその心に入り込めるとは到底思わない。

 時間が必要だ、と判っていた。せめて、ハルが和臣を忘れるまで。─── 出来ることなら、自分の犯した罪を許してもらえるまで。
 待てると思っていた。ハルの気持ちが少しでも自分に傾いて、触れても嫌がらないでくれるのを、待つつもりだった。

 ─── 間近で何度も『欲しいもの』を訊かれて、つい心の枷が外れた。本音が出た。
 もしかしたらハルが頷いてくれるかもしれない、と期待してしまった。
 
 未だにハルを欲しがっていることを知られた。脅迫紛いのことをしてまで、欲しがっていることを。
「……っ」
 ハルの視線に晒されているのが辛い。柚月は自分の部屋に逃げ込むべく、ハルに背を向けた。

「柚月さんっ」
 ハルの掠れた声が柚月の背中にぶつかる。ドアノブを握った柚月の手に力がこもった。
 そのまま柚月はドアを開けることも、ハルを振り返ることも出来ない。

 まるで動けなくなってしまった柚月にハルは近づき、─── ドアと彼の間に身体を滑り込ませた。
 柚月を抱きしめる。
「は、……」

 唇にハルの乾ききっていない髪の毛が触れる。柚月はハルの身体の感触と体温、湯上がりの香りに一瞬理性を飛ばしかけた。
 その、理性の尻尾にしがみ付いて手繰り寄せる。

「……やめろ」
「……なんで?」
 ハルの肩を掴んで引き離した。

 それでもドアと柚月に挟まれたまま、切ない目付きでハルは見上げる。
「……オレ、いいよ。イヤじゃない。……嫌がったりしない。今度は、大人しくする」
 ハルの声は緊張から上擦っていた。─── 本当は恥ずかしかった。柚月にあられもない姿を見られるのも、甘ったれた声を聞かれるのも。

 それでも、柚月が欲しがってくれるのなら。
 ハルは柚月の唇に自分のそれを近づけた。
「やめろ……っ」

 柚月はハルの腕を掴み、自分とドアの間から引っ張り出した。ハルから目を逸らしたまま自室に逃げ込む。
 柚月の後を追い、ハルは彼の部屋に足を踏み入れた。
「入ってくるな」

 硬い柚月の声にハルの身体は、びくん、と竦む。
「……」
 その拒絶の言葉はハルを不安にさせる。─── 柚月の機嫌を損ねた、と思った。

 優しい声が聞きたくて、ハルは言葉を重ねた。
「……オレ……イヤじゃないから、あの……」

「─── そんなに俺に諦めて欲しいか?」

 柚月の部屋は暗かった。リビングからの唯一の光源がハルの影を作り、柚月の背中を照らす。
 その背中が低く続けた。
「一度だけ我慢して、……一度だけ、俺の好きにさせて、諦めさせたいのか?」
 ハルはかぶりを振り、柚月に見えないことに気付いて声に出した。

「違う、……オレ」
 顔に血が昇ってくる。柚月に触れられたい、と恥ずかしくて言えない。この間よりみっともない、言葉での直接的な誘い方になってしまう。

 柚月がふっと笑う気配がした。
「違う? 何が違うんだ、……俺が諦めるなら、一度だけ寝てやってもいいと思ったんだろう。少しの間だけ我慢すればいいって……、」

「ちがう……っ」
 ハルは頭を横に振って、柚月の背中に近づく。躊躇いながら伸ばされた手は触れる直前、振り返った柚月に払われた。

「─── じゃあ他にどんな理由があるんだ!」
「柚月さ……」
「金もらっても嫌なんだろう……っ! ずっとここにいるなら諦めさせた方が都合がいいからな!! 俺を誘う理由が他にあるか!? あるんなら言ってみろ!」

 怒鳴られたハルは血の気の引いた顔で柚月を見つめる。─── その茶色い透明な瞳に涙が浮かんだ。俯いて、振り払われた手をぎゅっと握る。
「あ……」
 そのハルの仕草に柚月は胸を突かれ、我に返った。
 
「わ……悪かった……」
 泣かせるつもりはなかった。ただ、抱きついてきたハルの身体が強張っていて。
 自分に触れなくてはならない緊張から声を掠れさせるハルが痛々しくて。
 ─── そうさせた自分に腹が立って。

 柚月は伏せた目を片手で覆った。
「……諦めて、欲しいんだろう? よく、判ったから、……無理しなくていい。……諦める。二度とおかしな目で見たりしない、……」
 言いながら、嘘だと判っていた。諦めることなど出来はしない。
 ただ、ハルを安心させたくて、視線を上げた柚月は無理やり笑みを作った。
 
「……プレゼント、頼むな。最高に美味い肉じゃが作ってやるから」
「……だろ」
「え?」

 俯いたままのハルの声が聞き取れない。柚月が覗き込もうとすると、ハルは顔を上げて彼をきっと睨みつける。
「好きだからに決まってんだろ! バカッ!」
 ─── その目の縁に溜まった涙は今にもこぼれそうに揺れた。

 

 

   押して頂けると嬉しいです    

           目次next≫

  

   *投票していただけると励みになります。

     ←ネット小説ランキングの人気投票です。

   にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
   にほんブログ村  ←クリックすると投票になります。

    ←クリックすると投票になります。

« きみの四十五話まで更新しました。 | トップページ | 「きみの」四十六話更新しました。 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: きみの手を引いて:46:

« きみの四十五話まで更新しました。 | トップページ | 「きみの」四十六話更新しました。 »

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フォト

リンクⅡ

  • 拍手お礼画像等を使わせて頂いています


  • アルファポリス


     
  • 雪ひろとさんと鷹槻れんさんのサイトです。


ブログバナー

  • Bromance

    リンクフリーです。報告は任意でお願いします。
無料ブログはココログ