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きみの手を引いて:番外編 最終話

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 最終話

 

  
 ぽん、と何気なく枕元に投げ出された金をオレは横目に見た。
「……なにコレ」

 朝の十時。いつまでも起きられず、ベッドの中でぐだぐだしていたオレがやっと伸びをしながら髪をかき上げた時だった。
 上半身を起こして、手の中にその金を浚う。一万円札だ。十枚もある。

「不満か?」
 Yシャツ姿で結んでないネクタイを肩に引っかけた臣がベッドの脇で見下ろしている。
 びっくりしたオレは口をぽかんと開けて臣を見上げた。

「あ……あんたバカじゃねーの? 一回ヤったぐらいで十万?……一万でいーよォ、ちょっと遊ぶ金が欲しかっただけなんだからさ」
 タオルケットに隠れた膝の上で札束をぱさぱさっと振る。こんな大金、持ったこともない。
 一枚抜き出して残りを臣に突き出す。

「……」
「なんだよ?」
 臣は受け取ろうとせずに腕を組んだ。何を考えているのか読み取れない眼差しをオレに向ける。
 
 唐突に口を開いた。
「お前は俺にセックスを売った」
「はあ?……そんな大げさなもんじゃ」
 
 大仰な臣の言葉にオレは閉口した。だってえっちしただけだ。売った、とかそんなつもりない。
「売っただろう。金が欲しくて騎上位した。衣食住を保証する契約以外に、身体を使って金を要求した。これは売春だ」

「……バイシュン」
 援交ってことか。

 言葉の重みに気付いてオレはぎょっとした。ただ、遊ぶ金が欲しかったから、ベッドに引きずり込まれたついでに言ってみただけなのに。
「契約だけならな、一緒に暮らしててそういう関係になりました、って言い逃れも出来る。昨日の夜は違う。お前は金の為に俺に身体を売った。れっきとした売春だ」
 
「……」
 重ねて言う臣にオレは膝を抱えて俯く。ひょっとして、責められてる?
 でも ───。
 
 オレは、そのことがそんなに悪いことだとは思わなかった。だって金が欲しかったんだ。
 セックスするついでに金もらって何が悪いんだろう。
 そうかこれがエンコーか、男でもエンコー出来るんだ、と思ったってのが正直なところ。

 ワルイことなのかな、と臣を上目遣いで見る。
 臣は、さっきから微動だにせずおんなじ姿勢のまま、オレに視線を落としていた。
「どうせ売るんなら出来るだけ高く売れ。自分の値段をつり上げろ。もったいぶれ。……ヘヴンに行くんだろう」

「え、……なんで知って」
「昨日、ずいぶんナオのこと気にしてたからな」
 言って、臣は煙草をスラックスのポケットから取り出す。一本咥えて火を点けた。

 遮光カーテンが閉まったままの薄暗い部屋で煙草の先がぽっと赤く光る。白く煙が漂った。
「……オレにも一本ちょうだい」
「……」

 何も言わず、臣は箱ごと煙草をくれた。吸ったことのなかったオレは見よう見まねで一本取り出し、口に咥える。臣がすかさず金属製の高価そうなライターで火を点けてくれた。
「……マズイ」

 吸い込み、眉をひそめたオレに臣はにやっと笑った。
「……俺の言ったこと忘れんなよ。安売りするな。忠告だ」
 柄にもねーな、と呟いて、臣は背を向ける。部屋を出て行く臣を煙草の煙が追うのをオレは黙って見ていた。

「……」
 手元の金がはらっと落ちる。なんか、アタマがくらくらしてきた。ニコチンとかが頭に回ってんのかな、酔っぱらった時みたいな酩酊感。

 ……臣はオレに十万の値を付けた。
 多分、それはセックス一回の金額としては安くない。もしかしたら、破格に高価い方なのかもしれない。

 臣が、何を考えてるのか判らなかった。売春の意識が乏しいオレが、九万返そうとしたのに受け取らなかった。「高く売れ、値段をつり上げろ」とオレを諭した。

 ただオレに金を受け取らせたかっただけ、ということは充分考えられる。─── 臣はアレで結構、……そんなに、悪い奴じゃない。ひねくれてて露骨に優しくしたりとかはしないけど、えっちもしつこくてエロくてサイテーだけど、でも、……ひどいことはしない。

 けど、それだけじゃない、何かが臣の口調にはあったような気がする。
 忠告だ、と臣は言った。
 
 ナイトテーブルに手を伸ばしてその上の灰皿に煙草を押し付ける。なかなか消えない火種を丹念に潰した。
   
  
 
  
  
  
  
  
 夕方になって、暇を持て余してたオレは臣のマンションを出た。臣は昼前に出てったきり戻ってこなかったけど、別にオレがいなくたってかまやしないだろう。
 真っすぐヘヴンに行こうかと思ったけど、マックで腹ごしらえする。こっちの方が絶対安上がりだ。カラダで稼いだ金、大事にしなきゃ、と思って、その考えがちょっと笑えた。

 ヘヴンに入ってすぐ、きょろきょろしてたオレをナオの方が見つけた。
「ハルー」
 手を挙げて人懐こい仕草をしている。その隣には、知らないヤツがいた。
「この子ね、アキオ。友達」
 
 簡単にナオはオレにアキオを紹介した。アキオはオレをぽかんと口を開けて見て、軽くお辞儀をする。……なんか新鮮な反応だなあ。昨日の奴らとは大違い。
「アキオはハルのこと知ってるよね」
「知ってる。……昨日、目立ってた」

 ナオと話しながら、アキオはオレをちらちら見た。ひょろっとしててオレよりちょっと背が高いアキオは、なんとなく大人しそうなヤツだった。
 おどおどと小さい声で話す。
「……トイレのとこでシュウたちに絡まれてるかも、って思ったんだけど、助けられなくて」

「ああ、べつにヘーキ。どうせひとりじゃ何も出来ない奴らが集まってんだろ、……なんだ、気にしてんの」
「アキオもさー、時々カラまれるんだよ。もっとしっかりしないと」
「う……ん。気を付ける、……」
 なんとも頼りない返事にオレとナオは顔を見合わせた。

   

 オレたちは、─── オレとナオとアキオはわりと気が合った。大人しくてシュウとその周りの奴らとは関わりたくないアキオ、揉め事がキライで無邪気だけど決して無防備でなく他の少年とも上手くやってけるナオ、シュウたちに目の敵にされながらも全く気にしないオレ。─── まあ何度か揉めたりしてる内に、シュウもオレも互いをシカトするようになった。

 そんな中、ヘヴンに集まる少年たちがなにをするのか次第に判ってきた。ただ遊びに来て溜まっているのとはワケが違ったのだ。
 最初に声をかけて来たオッサンはカラオケだけだった。ちょっと手を触らせてやったら一万くれた。
 
「また会ってくれるだろ……?」
 ヘンに声を掠れさせるオッサンに、気が向いたら、と引き気味に応えた。だって手ェ撫でさせただけで一万だぞ。ありえねーだろ、と怖くなってナオとアキオに相談した。

「すごいじゃん、ハル、やっぱ美人は違うねー」
「イイなあ、俺なら毎日でも会うよ」
「……なにそれ。なんかもっと他にねーの、言うこと」
「うーん、カモは逃すな、とか?」
「あのひとだよね、小金持ちでメンクイで、好みがうるさいオジサン」
「あー、ハルはおメガネに適ったんだ」
「もったいぶった方がいいよー、ハルならいくらでもつり上げられそう」

 そこで臣の忠告を思い出した。
 ─── ああ、そういうこと。
 
 ナオやアキオや他の少年たちが時々、男と消えるのには気付いていた。ようするにオレもそういう目で見られてるってワケだ。いきなりホテルに連れ込まれなかっただけマシ、ってやつ?

 オレがひょこひょこカラオケにくっついていったというのが噂にでもなったのか、それからは声をかけられまくった。一緒にメシ食ったり、ちょっと触らせるだけで面白いように金になった。

 そうやって小金を稼ぎながら、四日か五日にいっぺんぐらい臣の相手を、した。契約だから仕方ない、と思ってたけど臣はヤれば必ず金をくれた。

 臣が、呼び捨てにされたこともない、血筋も家柄も宜しい代々のお金持ちで、十万二十万なんて何でもない、ということはその頃知った。そのくせ、金の価値もちゃんと判ってて、オレがその……口でするのを嫌がると「三万だ」と冷たく言い放った。
 
 その後で「それともつり上げる手管か? なら、二十万出してやる」と鼻で笑う。……オレは臣の言いなりになった。
 確かに臣はオレの一番の上客だった。だからって媚売る気はさらさらねーけど。

 一ヶ月ぐらいしてアキオが、やめる、と言い出した。なんでもずっと付き合ってた客と一緒に暮らすことになったらしい。
 今住んでるアパートを解約するのどうの、という話になったとき、オレは一も二もなく飛びついた。

「オレに貸して」
「え、なんで、……オーナーんとこいればいいのに」
 ナオとアキオはオレが臣の家で暮らしてることを知っていた。

「しーッ!シュウに聞かれたらまためんどくさいことになるだろっ。……もう契約なんかヤダ。あのエロオヤジ、しつこいんだよっ」
「うわ、シュウが聞いたら羨ましくてめちゃくちゃ嫉妬するよー」

 昨日の夜、さんざんな目に合わされてたオレはけッと声に出した。
「熨斗つけてくれてやるよ、マジで。……家賃七万だっけ。絶対迷惑かけないから頼む、オレ、保証人いねーからアパート借りられないんだよー」

 オレの必死の懇願にアキオはついに折れて、アパートを貸してくれることになった。
 出ていくと告げても臣は顔色ひとつ変えなかった。
「アキオのアパートだろう。てめえで生活費稼ぐんならこれまでみたいに小金狙ってらんねーぞ」

 ヘヴンで起こることはオーナーの耳に筒抜けらしい。ひと月暮らす間、あてがわれていた玄関近くのゲストルームで荷造りをしながらオレは答えた。
「判ってる」
「当てあんのか? 本番ヤらせねえって話じゃねーか」

「うるせーなっ。あんたにはヤらせてやったろ、他のヤツとどうだろうとカンケーねーよ」
「俺だけだって告白か? それ」
「……バカ臣、死んじまえ!」
 
 投げつけた枕をひょいと事も無げにかわして臣は腕を組んだ。
 ……ああそうだ、臣の言うとおりだ。カラダは触らせても最後までヤったのは臣だけだ。今のところは。

 契約のせいか、なんとなく、他の男とは出来なかった。裏切り……じゃないけど他のヤツとヤったら、出て行け、と言われそうな気がした。気がしたってだけで、臣はひょっとしたらオレが他の男とヤリまくってても平然とベッドに引きずり込んだかもしれない。……オレは多分、「出て行け」と言われることより、オレが他の男と寝ても全く平気な臣を見ることの方が、嫌だったのだと思う。

 バカ臣は好きでもない奴にろくでもないつまんない優しさを時々みせる。そういうところが嫌いだ。期待だけさせて自分はちっとも揺れない、そういうところが吐き気がするほど本当に大っ嫌いだっ。
 
「相手選べよ。変な奴にヤらせると逆上せて付き纏われるぞ」
「また忠告? オレがダレと寝ようとあんたにつべこべ言われたくねー」

 臣はふっとため息のような息を吐いて、いつもの皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「最後までつれねーな。……来いよ。餞別代わりに稼がせてやる」
 一瞬迷ったオレの肩を、煙草の匂いのする大きな手が包んだ。

 

 ……それから数ヶ月。
 火事が起きてアキオから又借りしたアパートが全焼するまで、オレはあのひとの存在を知らず、── 知った時には、自分のしてきたことの愚かさをひどく、後悔することになる。

                  

                            ……end
  

                             to be 「きみの手を引いて」

  

 .:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+

 

 ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。m(_ _)m

 こんなようなカンジで本編「きみの手を引いて」に続くわけですが、どうでしょうか、ハルのツンデレって臣に対してもっとも良く働いているような気がします。本命のカレよりも。┐(´-`)┌

 

 作中、未成年者の飲酒喫煙シーン、売買春などがありますが、あくまでもフィクションです。

 未成年者の飲酒喫煙、及び売買春は厳禁です。物語の進行上のことですので、宜しくお願いします。m(_ _)m

 

 感想など頂けると嬉しいです。

               八月金魚 拝

  

       

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コメント

夢中になっちゃったハルとゆづきさんには焦らされた。あぁ焦らされた。


あたしはどっちかとゆーと、和臣ラブです。なんかときめくわ。
お金お金もアリだけど、やっぱあぁゆう男シビレルわ(笑)
楽しかったです
またいい話待ってます頑張って
 
 
 ≪コメントありがとうございます♪
 柚×ハルは焦れったいです……なんか、書きたいように書いたらそうなっちゃって^^*すいません。
 臣は、カッコいい、と言ってくださる方が多いです。釈然としません^^;ええ本当に……。でも、下ネタばっかり飛ばすSなカレを気に入ってくださって嬉しいです。
 また面白い話が書けるように頑張ります!
  

あーおもしろいなぁーヽ(´▽`)/
なんだこの私のテンション。
臣さんがかっこよすぎて死ねる(笑)

おつかれさまでしたっ!!
また新しいお話まってますvvv
あーやっべーやっぱツンデレだよツンデレ…ツンデレは世界を救うんだよ。
最高だ。
 
 
 ≫コメントありがとうございます!
 八月もツンデレ、好きです^^; ハルのツンデレってデレの割合が少ないような気がするんですけど、どうでしょう?恋愛関係じゃないからかなあ。
 また臣がモテてますね……。あんなドSがどうして……。
  

おつかれさまです^^
ハル×臣、いいですね♪
本編とは違った感じで、楽しかったです☆
これ読んだあとにまた本編戻っても面白いですねェ(≧∇≦)

リンク、全然オッケーです( ^ω^ )
もう嬉しいくらいです!
私もさせてもらってもいいでしょうか?
 
 ≫読んで下さってありがとうございます♪
 早速、リンクさせていただきますね^^*
 B級もぜひ、リンクお願いします☆
  
 
 

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