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月が見ている。10

 

 R-18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 第十話

 

   
 カナエの唇が、幾つもその跡が残るかずさの胸を這う。
 シャツは半ば脱がされ、ベルトとファスナーを外されたズボンの中にカナエの手が潜り込んでくる。

「ん……っ、あっ……」
 反射的にカナエから逃れようとかずさは背を向けた。
 カナエがそれを許すはずもなく、背中からかずさを抱き込むと長く細い指を下着の中にまで侵入させた。

 カナエに触れられるのが怖い。
「……ちゃんと反応しとるやん。なんで嫌がるん……?」
 吐息と共に甘ったるい声がかずさの耳に流れ込んでくる。

「……やっ……こわ……怖い……っやめて……」
 自分の意思とは無関係に息が上がり、身体が熱くなっていく。荒い呼吸の合間に混じる、淫らな自分の声にかずさはじわりと涙を浮かべた。
 それでもカナエは手加減しなかった。

「あっ、あ、いや……っ」
 怖い。怖い。身体がおかしい。熱い。力が入らない。直に触れられ、今までのカナエの行為は悪戯に過ぎなかったことを思い知らされる。
 そしてカナエは、なおも快楽を教えようと囁く。

「かわええな、……」
 耳に、頬に、髪に、くちづけを落とす。
「……もうぬるぬるしとる、ココ。なあ、気持ちええ?」
「わかっ……判んない……っ」

 頭を横に振るかずさにカナエは笑いかける。
「イキたいやろ……?」
「イ……?」
 どういう意味か判らなかった。ただ身体が熱くて。どきんどきんと胸の中で鳴っているのが苦しくて。

 カナエの手がかずさのものを擦り上げ、指先がくびれをなぞる。先端から滲み出た体液が粘つく音を立てた。
「や……っやあっ……あっ、ん……っ……」
「ヤラしいなあ」

 後ろからカナエに首筋を舐められ、その手に昂ったものを弄られて。ぼんやりと霞んだ視界に、かずさはくしゃくしゃになった翠の写真を見つけた。
「……は……っ……は、……」
 
 シーツの上に落ちているそれに手を伸ばす。カナエに蹂躙され、時折震える指先がやっと届いた。
 手の中に、よれた写真をそっと納める。

(……ど、しよ……こんな、くしゃくしゃになっちゃ、た、……大和に)
 
『大和にやったら喜ぶんちゃう?好きな女の写真やもん』
 
(……大和に、あげたかったのに。大和の、喜ぶ顔、見た……見たかっ……)

 嬉しそうな大和の顔を、思い浮かべる。大好きな、美人で色っぽい翠の写真を見て、最初はびっくりして、でも笑って、俺にも……きっと、笑いかけて。
『俺にくれるて? ありがとうな、かずさ』
 きっとそう言って、喜んで。
 
(……やまと)

 容赦のないカナエの手が緩急をつけて往復を繰り返す。もう片方の手が胸を撫で回し、赤く立ち上がった突起を嬲った。

「っあ、あ、あ、いやっ……」
 潤んでいたかずさの瞳から涙が溢れる。
「大和っ……た、すけて、助けて、大和、……大和……っ」
 悲鳴を上げて、大和に助けを求めながら、─── かずさはシーツの上に白濁した体液を散らした。
 
「───」
 カナエは鼻白む思いで、かずさの顔を覗き込む。……放心したまま、涙をこぼしていた。
 
 何が起こったか判らないのか、抗う気力も失くしたらしいかずさを自分のものにするのは簡単だった。このまま覆い被さってしまえばいい。
 しかし。

「……そんなに大和が好き?」
 幼気なかずさの様子に気が咎め、ない交ぜになった怒りが込み上げてくる。
 ─── 大和の、どこがそんなにええねん。
 
 大和に嫌われたくないと口止め料代わりに自分に身体を触らせ、大和の好きな女の写真が見たいと何をされるか想像がついているくせに自分の部屋へのこのこやってきて、達かされながら泣いて大和を呼んだ、かずさ。

 いつだって、好かれて信頼されるのは大和のほうで、自分ではない。母親も、父親も、見世で使っている者たちも、娼妓たちも、同業の他の娼家でさえ、跡取りは大和で、間違いはない、と思っていて。

 ……みんなが。
(オレでのうて、大和を選ぶ)
 
 いつもいつも自分の上にいて、煩くて、─── そのくせ、跡取り息子と自分を立ててでしゃばらず、アホみたいに人が良くて、いい奴で。
(判っとる)
 大和は、ええ奴や。

「─── もうええ」
 かずさの返事を待たず、カナエは身体を起こしてベッドを降りた。煙草とマッチの箱を乱暴に引っ掴んで大股に歩き、部屋を出る。大きな音を立ててドアを閉めた。

(つまらん、ホンマにつまらん) 
 これやから色気もへったくれもないガキはイヤなんじゃ、ボケ、とカナエは苛立ちを抑え切れず、廊下の壁を蹴りあげた。

 

 

 
 

 ─── ゆっくり身体を起こしたかずさは、ぼんやりと中空に目を向けた。
 カナエはいなかった。

 何がどうなったのか判らず、痺れた頭を巡らせる。視線を落とした。
 前ボタンを全て外されたシャツから、幾つもの唇の跡が覗く。だらしなく開かれたベルト、下着ごと下ろされたズボンから見える白い脚。……乱れたシーツに、点々と散る、自分の体液。

「───……」
 涙が、露わになっている脚に、ぽつ、と落ちた。
 
 何が起こったのか判らなかった。ただ、とても、イヤらしいことをされたのだ、ということは判った。─── イヤらしかったのは、自分のほうだ、ということも。

『……あっ、あ、ん……っ』
 耳に残る、自分のあられもない声。カナエの手を汚した自分の体液が、くちゃりと音を立てて。
『ヤラしいなあ』
 カナエが、笑う。
 
 次々に涙がこぼれる。どうしてこんなことになったのか判らない。カナエの手に、思いも寄らない反応を見せた自分の身体が怖かった。
 
「……っく、……ひっく、う……っ」
 涙を拭おうとした手で写真を握り締めていることに気付く。濡らさないように、そっとそれを開いた。
(翠さん)

 印画紙に焼き付けられた翠はやはり美しい。その分、麗しい顔や華やかな着物に走る折線は見るも無残で、かずさはそうっと写真を指で均した。

「……まと」
 そうしながら、かずさは大和を想う。
「……大和っ……大和ぉ……」

 どうしよう。どうしよう。カナエに弄られて、身体が変になってしまった。大和に知られたくない。─── 会いたい。
 大和の顔が見たい。そばに行きたい。声が聞きたい。大丈夫だと、なんでもないと、言って欲しい。安心させて欲しい。
 
 知られたくないのに、安心させて欲しい。

 相反する二つの思いを抱えて、かずさは泣いた。
 

 

  
  

 カーテンが左右に寄せられた大きな窓から、月明かりが差し込んでいる。
 もう寝るばかりに浴衣を身に付けたかずさは、大和の部屋でベッドに腰掛けていた。時折、俯きがちな顔を上げて窓越しに満月を見上げる。

 大和が帰ってくるのを待っていた。

 どうしても大和に会いたかった。
『なんや、また起きとったんか。はよ寝なあかんて言うてるやろ』
 きっと、そう言いながら、目を細めて自分の頭を撫でてくれる。─── それだけで、安心して眠れる。
 
「……」

 あの後、カナエは家を出たまま帰って来なかった。また彼がやってきて、触られるのではないかとびくびくしながらかずさは自分の汚したベッドのシーツを取り替え、風呂で丹念に身体を洗った。シーツは明日の朝、大和より早く起きて洗濯してしまえば判らないはずだ。
 
 かずさは、ちらりと箪笥に付いた小引き出しを見た。しわになってしまった翠の写真をどこに閉まって置けば良いか思いつかず、薔薇の砂糖菓子をくるんである水色のおひねりと一緒にその場所に入れてしまった。
 
 大和に見つかる前に、どこか、別の場所に隠さなくてはならないだろう。綺麗なままの写真なら大和へ贈って喜ばせることも出来るだろうけど、無残にくしゃくしゃになった好きなひとの写真など、いやな気持ちになるだけだ。
 
 足をぶらぶらとさせて、かずさはまた月を見上げた。
 ─── 大和、早く帰ってこないかな。翠さんと、会ってるのかな……。
 写真の中の美しい翠が大和と寄り添う。お似合いだった。

 ……大和のことを諦めなくてはいけない、とかずさは思った。
 もう随分前から判っていた。大和の好きなのは、翠で、自分ではない。

 揺れていたかずさの爪先が、ゆっくりと止まる。
(でも、……あとちょっとだけ。今日だけ。ほんのちょっとだけでいいから……)
 大和に会いたい。優しい声が聞きたい。

(……少し、だけ、そばに……)
 大和を想い、心を満たすかずさを月が見ている。

 ゆっくりとベッドを降りて小引き出しを開けた。
 翠の写真に目を伏せ、水色のおひねりを手に乗せる。

 そっと開いて砂糖菓子の薔薇を見つめる。─── もう二つしかないのは判っていて、眺めるだけにするつもりだったが、……かずさはひとつを摘んで口に入れた。
 甘い味が広がる。

 大和が、そばにいてくれるような気がした。
 
(大和、……)
 ─── ガタン、という音が階下から聞こえた。
(帰って来た)

 ぱっと上げた顔を綻ばせたかずさは、おひねりを手に携えたまま、ぱたぱたと部屋を出て行った。
 
 
 
 

   

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コメント

お久し振りです♪16でございます。

実は第九話の続きが気になりすぎて、第十話を読んでからコメント書こうと心に決めておりました!
かわええな~かずさは(*´Д`)/ヽァ/ヽァ・・
完全にカナエ視点の変態に成り下がっております(笑)
ほんでもって、また続きが気になる~~(ノ∀\*)キャ

あ、改めましてリンクして頂きありがとうございます。
その上、わざわざお知らせの記事を書いて頂きまして。・゚・(ノД`)・゚・。
あんなに褒めて頂いたのは初めてで、ホント勿体無いです私なんかに……。
コメント入れようと思ったんですが、自分が紹介されてる記事に自分のコメント入れるのも恥ずかしかったので、この場をお借りしましてお礼を言わせてもらいます。
本当にありがとうございました┏○ペコ

続き楽しみにしてます♪
またお邪魔させていただきますね♪♪

 
 ≫コメントありがとうございます♪
 無理やりイかされる状況ってエロい、と思って(腐り過ぎ。一度死んだ方がイイ┐(´д`)┌ヤレヤレ)書いたんですが、なんか、イマイチでしたね……カナエの罪悪感のせいなのか、八月の文章力のせいなのか……ひとのせいにしちゃダメ、ということで八月のせいでしょう(;´д`)トホホ…
 
 こちらこそ、紹介していただいてありがとうございます。m(_ _)m^^*
 本当に、大した書き手でもないのに(日々、精進しているつもりなんですが^^;)あんなに褒めていただいて……どうしたらいいやら……~(°°;)))オロオロ(((;°°)~
 
 続き、頑張ります~(´;ω;`)
 またお邪魔させて下さい^^*
 

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