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月が見ている。8

 

 第八話

 

  
 ─── 大和とカナエが暮らすこの屋敷にかずさを住まわせるようになって、あと数日で一ヶ月が経とうとしていた。

 かずさの変化には気が付いていた。大和がどんなに遅く帰っても無防備に眠っているということはなくなり、待ちかねていたように食堂に降りてくる。口数が少なくなり、食欲もないのか、以前から決してよく食べる方でもなかったのが、尚更食べなくなっていた。

 それでも、大和が「翠からもらった」と称して持ち帰る菓子の類には喜ぶ顔を見せた。

「ありがとう。こんなの、食べたことない。翠さんにお礼言ってね」
 嬉しそうなかずさの表情に、大和は顔が綻ぶのが抑え切れない。高揚する気分のまま、ほんまはずっと俺が買うてきてん、と口が滑りそうになって、その言葉を飲み込んだ。

 そんなことを聞かされたら、かずさはびっくりしてしまうだろう。喜ぶ顔が見たい、その延長線上にある下心に勘付いたかずさはきっと自分を避けるようになる。一緒のベッドを使うことはおろかそばにいることさえままならず、贈り物である菓子も、もう受け取ってはくれまい。
 
 それは、大和には耐え難いことだった。今までかずさから得ていた信頼を一気に失ってしまう。
 自分を兄とも母とも思い、慕ってくるかずさを持て余す気持ちはとうに消え失せ、あとにはなんとしてもかずさに好かれたい、という思いだけが残っていた。

 ─── 本当は最初から判っていた。持て余していたのは、自分の心の方だった。

 かずさに、まだ十三の子供に傾いていく気持ちが止められない。その気持ちは、大事に、大切に扱って、いつかかずさが自分を一人の人間として好いてくれたらいい、という思いと ─── 恋にどうしようもなく付随する、直接触れたい、という衝動を伴っていた。
 
 大和は、精一杯自制を保っていた。一瞬の情動に突き動かされて、かずさに嫌われるようなことがあってはならない。
 ありがとう、と嬉しそうに笑うかずさを思い浮かべるだけで、満ち足りた気持ちになれる。
 
 かずさの様子がおかしいことに気付きながらも、浮き足立っている大和にそれを深く考える余裕はなかった。
 
 最も、知ろうとしなかった大和ばかりが悪いわけではない。当のかずさは大和から「秘密」を隠そうと必死だった。
 大和とカナエが話していると生きた心地がしなかった。いい加減でいかにも口の軽そうなカナエは、面白半分で大和にしゃべってしまうかもしれない。

 何もかもを大和に知られた時のことを想像しただけで、かずさは、ベッドに潜り込みたくなる。知られれば、軽蔑され、二度と口さえきいてもらえなくなってしまう……。

 元凶のカナエは相も変わらず、大和が留守の時を狙ってかずさを捉まえ、身体に触れた。大和に知られるのを恐れるかずさは、抗う術を持たない。

 口止め料はキスだけのはずだったのが、シャツのボタンを外した手が直に侵入してきて、粟立つ肌を撫で回す。
 「手付け」のくちづけの跡が消えかかると、今度は別の場所に次から次に同じ跡を付けられた。

「んっ……」
 薄い胸をきつく吸われ、痛みに思わず目を瞑る。 おそるおそる目を開けるともうその跡は付いていて、跡を付けた張本人はかずさが身体をびくつかせる赤い突起を舌で弄っていた。

 手は、かずさのズボンの前をごそごそと探っていた。
「なあ、もお大和のことなんか諦めてオレんとこきいや」
 カナエは甘く囁く。
「けっこう優ししたってんで、これでも。最後まで無理強いしてへんし」
 
 最後、ってなんだろう、とかずさはぼんやりと考えた。
 カナエの声の調子で「オレのものンなったら、黙っといたる」と言われたことを思い出したかずさは、その二つが同じことを示しているのを感じ取る。
 
 身を捩って嫌がる素振りをみせるかずさにカナエは薄く笑った。
「大和のヤツ、翠からせしめた菓子、まいんち持って帰るんやろ。仲良うてけっこうやな。……何しとんかな? ふたりで、毎晩」
 
 かずさの抗う気持ちを殺ぐには、翠の名を出すことが一番効果的だとカナエは早い段階から気付いていた。そして、それを使うことを躊躇わない。
 
「……こうやって大和の手が翠の胸、触って。好きや、言うて。チュウもして。……お前が入り込む隙間なんか全然のうて」
「……」
 かずさの瞳に涙が溜まっていく。赤らんだ顔を俯けた拍子に、それがこぼれた。
 
 カナエは目を細めてかずさを眺めた。─── シャツの前ボタンを外され、露わになった白い滑らかな肌に幾つものくちづけの跡が目立つ。頭の中は大和と翠のことでいっぱいなのだろう、背中を廊下の壁にもたれさせてぽろぽろと涙をこぼす姿はひどく扇情的だった。
 
「大和の奴が、このこと知ったらなんて思うやろな?」
 周りの人間全てに信頼され、自分よりも、見世の跡を継ぐのに相応しいと思われている大和。
 ろくに手ェも出さんと、大事に部屋に置いといたガキ、先にツバ付けられて。
 
 く く、とカナエは喉で笑う。
 
 このまま無理やり部屋に連れ込んで乱暴するのは容易いことだったが、それは思い止まった。自分が悪者になるばかりで面白くないからだ。
 
 それに、大和は、かずさの口から直截「気持ちがない」ことを聞かされたほうが堪えると、カナエは踏んでいた。大和もカナエも妓楼で育ち、身体の関係など何ほどもない、と身に染み付いている。そうでなければ、娼妓たちを従え、管理する楼主側の人間としてやってゆけない。

 だからこそ無理強いせず、時間を掛けて、大和からかずさを取り上げようと色々施しているのに、一向に自分の手の中に落ちてくる気配はなく。
 
 焦れたカナエは、餌を撒くことにした。

「翠の写真」
 胸ポケットから一枚の写真を取り出し、かずさに裏側を向けて見せる。
「見たいやろ。大和の好きな女」

「……」
 シャツの前を掻き合わせていたかずさは、ぐすん、と洟をすすり、手の甲で涙を拭いながら見上げる。そんな子供じみた仕草を目にして少し気が差したものの、構わず、カナエはかずさの頭の上まで持ち上げたそれをひらひらと振った。
 
「べっぴんやで。見たかったら、オレん部屋おいで」
 潤んだ大きな目が、裏向きになっているであろう写真に、ひた、と吸い寄せられている。
「……翠さんの、……写真」

「そうや」
 カナエはもったいぶるようにゆっくりと、写真を元通り、胸ポケットにしまう。
 かずさの目の前に手の平を差し出した。

「おいで、……」
 胸ポケットの辺りをうろうろと見つめていたかずさの視線が、カナエの手の平の上で止まる。
 
「……」

 かずさの逡巡が手に取るように判る。翠の、大和の好きな女の顔が見たい。けれど、その手を取ったら、 ─── カナエは唇の片端を上げて笑った。
 
 気が急いて思わず身を乗り出したカナエに、かずさはびくっと怯える。しまった、と思う間もなくかずさはカナエに背を向けて駆け出し、大和の部屋に消えてしまった。

 ちッと思い切り舌打ちをして、足音も荒く大和の部屋の前にやってきたカナエはなるべく優しく、ドアを叩いた。
「かずさ。かずさちゃん。……いつでもおいで。待っとるから、な?」

 なんでこんな猫なで声出して下手に出なあかんねん、次こそホンマの本気でめちゃくちゃに泣かしたる、─── 声とは裏腹の、苛立つ思いを抱えてカナエはその場を立ち去った。
 
 
 
 
 

   

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コメント

お久し振りでございます♪16でございます♪
昨日お盆の帰省ラッシュに乗って帰ってまいりました。

どんどん切なくなって胸キュンでございますねc(>ω<)ゞ
もうかずさになって逆にカナエを襲ってやりたい!もちろん寝てる大和もいただきます!Ψ(*・∀・*)Ψシャキ♪
すみません。変態書き込みしちゃって。

あ、こんな場所ではありますが、三万アクセスおめでとうございます!!凄いですね~Σ(゚艸゚;)
ちょうど自分のブログが千アクセス達成なので、その凄さがマジマジとわかります。私もいつか万単位アクセス目指して頑張りますヾ(;´Д`A

そして改めまして、リンクの件よろしくお願いいたします┏○ペコ
こんな不束者ですが精一杯頑張ります。
何だかもう一度嫁ぐ気分……(笑
私の方では先程リンク貼り付けさせて頂きました。

またお邪魔させていただきます♪
 
 ≫帰省ラッシュ、大変でしたね。小さいお子さんがいらっしゃると尚更……。疲れてるのに、ほんとにコメントありがとうございます!
 
 こんなにアクセスして貰えて嬉しかったのと、キリがいいので、「三万アクセスありがとうございます☆」と記事に書いたのですが、なにも記念的な話を考えてなかったですね……。じゃ、月見の続きを、というわけで早めに八話を掲載しました。読んで頂けて嬉しいです。カナエは、好きにしちゃって下さい^^*

 はッ、もうリンクして頂けたんですね~、ありがとうございます!早速リンクします♪
 
 

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