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月が見ている。11

 

 第十一話

 

  
「大和っ、おかえ……」
 言いながら、食堂に入ったかずさが目にしたのは流し台の前でコップの水を飲み干すカナエの背中だった。
「……あ……」

 ことん、とコップを流しの脇に置いて、カナエは振り返る。
「……大和やのうてザンネンでした」
 皮肉気なカナエの口調にかずさは俯き、手に持っていた水色のおひねりを後ろに隠した。カナエの顔を、まともに見ることが出来ない。

「毎晩、大和のお出迎えしてんねんな? かずさちゃん。相変わらずケナゲ」
「……」
 俯いたままかずさは顔を赤らめた。すっ、とカナエは近づく。

「大和のことが好きで好きで、諦められへん?」
「……」
「─── オレにあんなヤラしいことされても」
 
 耳まで真っ赤に染めたかずさは、カナエに背を向けて食堂を出ようとする。カナエは自分から離れていこうとする浴衣に包まれたその小さな身体を、背中から抱きしめた。
 酒臭い息で、カナエが酔っているのをかずさは知る。
 
「や、……離し……」
 かぶりを振ってもがくかずさの手に、水色のおひねりがあることにカナエは気付いた。
「なんやねん、コレ」
 あっという間もなく、おひねりはカナエに取り上げられる。かずさは慌てて取り返そうと手を伸ばした。

「かっ、返して下さい、……大事なもの、なんです、」
 中に入っている薔薇の形をした砂糖菓子はあとひとつしかない。それこそ食べないで、大事に取って置こうと決めていた。
 カナエは無遠慮におひねりを解いた。

「なんや、ずっと前、翠にもろた言うてたヤツかいな。いっこしかあらへん、オレにチョーダイ?」
 必死に首を横に振ってかずさは拒んだ。心の拠り所であるこの砂糖菓子をカナエにやることは出来ない。
「なんで? 恋敵にもろたもん、後生大事にとっとくことないやろ」

 かずさは眉尻を下げた、哀しそうな表情を俯けた。
「……翠さんは、優しくて、いいひとです。こんな、見たこともないようなお菓子くれて、……大和は、だから、翠さんを好きで」
「だから恋敵やねんか。なんで大事にしとん、こんなん」

 かずさの目の前でおひねりに戻した和紙を無造作に振ってみせる。
「返してくださいっ、乱暴にしたら壊れて」
「……」
 カナエはかずさにそっと和紙を差し出した。

 ほっと安堵したかずさの手の平に和紙が載せられる。
 ─── その手首を掴まれ、かずさはカナエに抱きすくめられた。

「……っ」
「続き、さして。……さっきの、続き」
 耳元でカナエが囁く。近づいてくる唇から顔を背けて、かずさは腕を突っ張った。

「なんで?……イロたら可愛い声聞かしてくれたやん」
 酒臭いカナエの言葉にかずさは頬を赤く染めて、涙を浮かべる。返す言葉もなかった。
 それでも、カナエの腕の中から抜け出そうともがく。

 抗うかずさに手を焼いたカナエは、酔いも手伝い、宥めるのを諦めた。
 諦めて。
「─── ヤらしてくれへんのやったら、大和に言うで」
「カナエさんっ……」

 どうして、とかずさは頭を横に振る。もうずっと、さっきだって、カナエに触らせているのに、……これ以上。

「お前の気持ちも、オレにヤラしいことされたんも、……さっきのことも、全部言う。……大和のヤツ、どんなカオするか見ものやな?」
 かずさは今にも泣き出しそうな顔でカナエを見上げた。
「……お願い、カナエさん、大和には黙ってて……言わないで、お願い……」

 くっ、とカナエは笑った。─── 可哀想なかずさちゃん。大和のことが大好きで、嫌われたのうて、オレに犯されようとしている。
(どうせ嫌われもんやねんから、エエ目見さしてもらわんとな?)
「おいで」
 かずさの腕を引っ張り、食堂を出ようとする。

「……」
 かずさは動けなかった。このまま、カナエの部屋に連れ込まれたら── 。
「……かな、……カナエさん、……」
 いやだ、と思った。怖かった。

 またカナエに身体を触られて。……あんな、こと。
 
 身体が竦んで動けない。
「……や、だ」
「なんやて?」
「お……お願いです、他のこと、なんでもするから……っ、か、堪忍して、ください……」

 すっと目を眇めたカナエは、かずさを見つめる。ほんの少しの沈黙の後、かずさの手を離した。
 許してもらえた、と気持ちが緩んだかずさに、カナエは背を向ける。
「そおか。ほな、今から見世行って大和にバラすわな」

 その言葉にかずさは凍りついた。食堂を出ようと、カナエの背中が遠ざかる。
「まっ……待って、カナエさん、俺、他のことならなんでもするから」
 
 カナエの前に回りこんでかずさは必死に引き止めた。
「他のことなんかどうだってええわ、そんなん。やらせろや」
「お願い、カナエさん……っ」
 
「何が堪忍や、そんなに大和のこと好きでオレがイヤやったら、とっとと大和に抱いて下さい、言うたらええやろ! まあ大和がお前みたいなガキ相手にするわけあれへんけどな。哂われて、気色悪い言われて、二度と口利いてもらえんようになったらええ、─── オレが言うたる。全部バラしたる」
「やめて、やめてカナエさん、お願い、大和に言わな……」

「─── かずさ……?」
 不意に ─── 。
 
 背後から大和の訝しげな声が聞こえた。

 

 
   

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