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月が見ている。最終話

 

 最終話

 

 頬を腫らし、だらしなく斜めに椅子に腰掛けていたカナエは耳を疑って、思わず聞き返す。
「─── なんやて?」
 たった今、大和から信じられないようなことを聞かされた。

「やから、かずさを連れて見世に行く。旦那様と女将さんに紹介するんや。かずさの事情も話す」
 何の迷いもない大和の言葉に、カナエはぽかんと口を開けた。
 

 朝だった。大和に殴られて完全に酔いが回ったカナエはそのまま食堂で倒れた椅子と共に寝てしまい、起きてきたかずさにちょっとした悲鳴を上げられた。その悲鳴で飛び起きると「だっ、大丈夫、カナエさんっ」とかずさは泣きそうな声を上げて心配し、騒ぎを聞きつけた大和も寝巻きの浴衣のまま階下に降りてくる。
 
 カナエの腫れた頬と青黒く切れた唇の端の傷は大和によって拵えられたもので、その原因が自分だと判るとかずさは顔を真っ赤にして「洗濯、してくるね」と食堂から出て行ってしまった。
 
 いつもより大分早起きになってしまったが、二度寝する気にもなれず、浴衣の大和と昨日の服のままのカナエは差し向かいで茶を飲んでいた。
 熱い茶が切れた頬の内側に沁みる。軽く舌打ちしてふて腐れるカナエに向けてへの、藪から棒な大和の決意表明である。

 まじまじとカナエは大和を見つめた。大和も真っ向からカナエの視線を受け止め、逸らさない。
「─── 春霞楼をクビにしてもらう。余所の見世の商品、かっさらってもうたんやから当たり前やな」

 落ち着いた大和の物言いに、カナエは冷静さを失った。
「き、き、きっ、気でも違たんか大和っ?」
「俺はこれ以上なく正気や」
「お前がおらなんだら見世どないすんねん!?」 
「継ぐのは最初からお前や、俺やない」

 あっさりと大和は言い、茶を飲んだ。
「言うてるやろ、跡取りはお前やて。俺はただの使用人。俺がおらんようになっても春霞楼の屋台骨は小揺るぎもせんわ」
「そんなわけあるかい! 見世はお前が頼りやねんで!?……そ、そ、そうや、クビんなってどないするつもりやねん、ここには住めへんで、かずさと二人で佐野屋から逃げ回って」

「それなんやけどな、かずさを身請けしよ思とる」
「みうっ……!?」
 おかしな声を上げて、カナエは目を剥く。

 対照的に大和は穏やかな表情を浮かべた。
「外、自由に歩かせてやりたいんや。ずっと家ん中閉じ込めて可哀想なことした、……旦那様から毎月頂いとる給金、ほとんど使わんで取ったあるし。足りんかったら佐野屋さんに雇ってもろて身体で返そ、思て。あ、俺ん身体やけど。……春霞楼に迷惑かけんように、クビ切ってもろてからな」

 春霞楼の使用人のままやったら、佐野屋の商品攫って一ヶ月も囲った挙句に落籍せたい言うてきた、言われるやろけど、クビんなればただの客やからな。
 色街の噂話にどれだけ尾ひれがつくか、熟知している大和は少し気恥ずかしそうに「春霞楼の大和」のままだったら飛び交うであろう流言を推測してみせる。
 
 あながちデマとも言えんのが辛いところやな、と照れ笑いしながら大和がカナエに目を向けると、呆然としていた。
「……あかん」
 ぽつん、とカナエが呟く。腫れた頬を引きつらせたかと思うと、いきなり、立ち上がった。
 
「あかんあかんあかんそんなんゼッタイあかん! お前アホちゃうか、うちの見世継ぐのやめて身代半分しかあらへんような佐野屋の下男なる!? お前アホやろ!!」
「アホでかめへん。俺はかずさと一緒にお天道さんの下、歩くんや」
「お天道さんに顔向けでけへんようなこと昨日の夜かずさにさんざんしといて何しれっとぬかしとんじゃボケッ!」
 
「……なんで知っとるん?」
「あの状況でふたりっきりになってなんもないわけないやろ!! かずさはめちゃめちゃイロっぽくなっとるしお前はお前で可愛くてたまらん目付きでかずさ見とるしッ! アホか!」

「……けど、まだ、最後まではしてへんで」
 なんや可哀想になって、と大和はごにょごにょと語尾を濁す。春霞楼の跡を放り出して佐野屋で働く、と聞かされたカナエは喉元に刃物を突きつけられたような心持ちがして、それどころではない。
 
「そんなんどうだってええわ! ヤろうとヤってなかろうと知ったこっちゃ……」
 そんなカナエの金切り声を聞きつけて、かずさが食堂に顔を見せた。
「ど……どうしたの? 大和?」
 
 ケンカ、しないで、と不安気に大和に寄り添う。いつもの通り、お下がりの白いカッターシャツとズボンだったが、言われてみればひどく色っぽくなったような気がする。昨日の夜さんざんそういうとこ見してもろたせいかな、と大和は目を細めた。
 
「心配しなや。ただの話し合い、……ちゃんとお前のええようにしたるさかいな」
 優しく言ってかずさに笑いかける大和。かずさはほっとしたように頷く。
 
 椅子を蹴り倒すような勢いで、カナエはそんな二人に詰め寄った。
「かずさっ、かずさ、オマエ大和止めろや! こいつアタマどうかしてもうた、春霞楼クビにしてもろて佐野屋に見世替えする言うて、……お前かてちっさい見世の下男より大店の旦那の方がええやろ!?」

「え……俺、は」
 かずさは大和をちらりと見た。恥ずかしそうに俯く。
「やま……大和が、そばにいてくれたら、それでいい、から」

「そ、……」
 かずさの様子に当てられ、絶句するカナエに、大和は鼻を鳴らして見せた。
「かずさには昨日の夜、話した。俺を止めさせようとしてもムダやで。諦め」

 もじもじとしているかずさの手を取って、大和はそっと両手で包み込んだ。
「自由にしたるから。お前の好きにしてええねんで。俺、一文無しンなるし、きっと」
「じゃ、じゃあ俺が働くね。お金、全部大和にあげる、……ずっと、そばにいてもいい……?」

 大和はかずさを引き寄せた。椅子に座ったまま、細い身体を抱きしめる。
「そんなん言われたら、自由に出来へんくなるやないか」
「大和、……」

「こら。こらこらこらこらこらッ、なにイチャついてんねん! オレがおるの忘れてませんかー!?」
「忘れてへんで、若旦那」
「わ……」
 
 若旦那。その言葉はカナエに耳鳴りを招いた。
「わかっ……若旦那やて? ダレがやねん!? 俺まだ十七やねんで!」
「それがどないしてん。見世継ぐんは最初からお前しかおらんねんで、カナエ。若旦那やないか」

 ─── ありえへん。
 
 思考が一時的に止まったカナエの目の前で、大和は膝の上に座らせたかずさのズボンの腰に手をまわす。小さなその耳朶に目を細めて囁いた。
「そうや、……薔薇の菓子、潰してもうてすまんかったな。新しいの買うたるから」
「んん……いいんだ、もう、いっこしかなかったし、……」

 それにあれは大和の身代わりだった。ほんものがこうして近くにいてくれるのだから、身代わりは必要ない。そんな気持ちを上手く言葉に出来ずに、かずさは大和の硬い髪の毛に頬をすり寄せた。

 そんなかずさを見逃さず、大和はその耳の下に口付ける。
「や……ダメだよ、大和、……は、恥ずかしいから、下ろして」
 カナエの目を気にしてかずさは大和の膝から下りた。大和は余裕に満ちた笑みを浮かべて立ち上がる。
 
「まだ洗濯終わってへんやろ? 手伝うたる、」
「え、……でも、……へ、へんなこと、しない……?」
 大和の声がやけに甘く、優しく聞こえ、かずさは警戒するように上目遣いを向ける。昨夜一晩で大和がどんなに助平か、思い知らされていた。

 そんなかずさに大和はにやりと笑って見せる。
「それ、昨日の夜みたいにヤラしいことしててフリ?」
 たちまち顔を真っ赤にしたかずさは頭を横に勢いよく振った。
 
 まるで周りのことなど目に入っていない二人を前に、カナエは立ち尽くすしかない。
 
 跡取りと目されていた大和の暇乞いに春霞楼は上を下への大騒ぎになるだろう。
 自分の勘当は早々に解かれ、下働きの仕事から主である父の仕事、大店を切り回す手腕を、一から覚えさせられる。
 それは何年もかかり、その間も、本当の若旦那に納まっても、遊ぶ暇などありはしない。

 ─── 大和を本気で怒らせた、バチが当たった。

「なんもせえへんて」
 言葉とは裏腹の、大和の不穏な目の色に気付かず、かずさは素直に頷く。

 昨日手に入れたばかりの恋人と、その肩を抱いて食堂から出て行く大和の背中を、カナエは殴られた頬の痛みも忘れて為す術なく見送った。

 

                         end.

 

 ここまでお付き合い下さいましてありがとうございました。m(_ _)m
 大和とかずさ、そしてカナエの話はひとまずこれで終わりです。
 続編か、もしくはまた違う話でお目にかかれたら嬉しいです。

                       八月 金魚 拝

  

   

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コメント

もうこんなに進んでいたのねΣと驚き急いでここまで読みました(笑)
感動の最終話、何度も読み返しました。
カナエは不器用なりにもキューピッド的な役割でしたよね!?
最終話のカナエは個人的にすごい好きです*
若旦那と言われた時の反応に萌えました^^
大和とかずさが上手く言ってよかったです♪微笑ましいですねw
 毎回カナエの事を言っている気がするのですが…やっぱり本当に好き☆連載お疲れ様でした*
そして、「続~」を見て参ります(∩∀`*)ノシ
 
 
 ≫コメントありがとうございます♪
 お忙しいのに来て頂けて大変嬉しいです^^*
 
 さんざんヤンチャしたカナエさん、最後は無理やり落ち着かざるを得なくなるというこの顛末…。
 この話って大和とかずさが軸だったんですが、第三者のカナエの内面まで踏み込んでしまいました。そのひねくれたカンジが面白くて、つい( ̄ー ̄)ニヤリ
 結局、慌てふためくカナエ視点で最終話になったのですが、続編でちょっと落ち着くとイイな、と思います。一話目は全然落ち着いてませんけども^^;
 
 ブログの方、またお邪魔させて頂きますね~♪
 

おひさしぶりです♪♪
実はかなり前に読んで、やっぱりハピエン!ラブ!!と思っていたのですが、連休と旦那のぎっくり腰のせいでコメントが遅くなってしましました。゚(PД`q。)゚。

連載お疲れ様でした(o´ェ`ノノ゙☆パチパチパチパチ
全十五話でも内容の濃い充実したお話で、最後までドキドキさせて頂きました♪文章とか時代設定とか、最後までクオリティーの高さに驚かされます!私には絶対出来ませんΣ(o゚д゚oノ)ノ凄ッ!

個人的にはカナエがやっぱり気になる(っ´ェ`c)キュキューン
そして大和。さすがに男前や。
可愛い可愛いかずさも♪出来れば続編でお会いしたい!!

次回作楽しみにしております☆
またお邪魔させて頂きますね♪
 
 ≫大変な時に、お越しくださってありがとうございますι(´Д`υ)アセアセ
 時代が時代だし、ぎゅうぎゅうに詰めたカタカタの文章で書いてみたので、読み手の方には読みづらかったと思うんですが、(ほんとに書いてみたかったから書いた、みたいな…┐(´-`)┌)16さんに褒めて頂けてとても嬉しいです。^^*
 
 旦那さまのお加減はいかがでしょうか?(「堕ちます…あなたと」の続きが読みたい願望も含めて^^*)ご回復を願っております。
 
 またお邪魔しますね~☆

こんにちは!
最初の作品から読ませてもらってます。以前の作品と時代も違っていたけど、八月さんのこだわり(衣装とか)もあって楽しかったです。最後の大和がすっごく素敵・・・
文章とか、難しいですよね。
でも八月さんの描写、好きです(・∀・)イイ!
あと、台詞外で、括弧付けないで台詞入れてるあたりが少し読みにくいかなと思いました
これからも楽しみにしています!!ふぁいとぉ
 
 ≫コメントありがとうございます♪
 最初の作品から読んで頂いているということで、大変嬉しいです。(≧∇≦)
 「台詞外で、括弧付けないで台詞入れてるあたりが少し読みにくいかなと……」ですね!!判りました、すぐには無理かと思いますが、そこ直します。(  ̄^ ̄)ゞラジャ
 具体的な、ここをこうした方がイイ、という読み手の方からのご意見は大変貴重なので(あんまり指摘されたことがないのです…(;ω;))とても嬉しいです^^*
 
 また何かありましたら、よろしくお願いします m(_ _)m

 

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