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続・月が見ている。最終話

 

 R‐18BL小説です。18歳未満の方、BLに嫌悪感を持たれる方はご遠慮下さい

 

 〈最終話〉

 

 やってられんわ、とカナエは呆れたように部屋を出て行き、翠も続く。静かに襖が閉てられた。
 
 少し身体を離した大和はかずさの片頬に手を当て、顔を上げさせる。大きな黒い瞳とそれを取り囲んだ睫毛が涙で濡れているのは自分が為だ。じんわりと心の底から愛しさが込み上げてきて、小さな紅い唇を唇で覆った。
 
「……紅いの、取らんと帰られへんからな……」
 そっと触れるだけのそれは何度も繰り返され、かずさは大和にしがみつく。
 
 そんなかずさの仕草に煽られ、大和はその舌を柔らかい唇の隙間に潜り込ませる。頬の内側や歯列を撫で、薄い舌に絡ませた。かずさは必死に自分の舌を追いかけ、応えようとする。
「……んっ……ん……っ」
 
 余裕なく息を上げるかずさに気が差して唇を離した。それでも抱きしめた腕は、解かない。
 涙を止めたかずさはぼんやりと大和を見上げた。
「……嫌なこと言われた……? 佐野屋の旦那さまに……」
「─── ま、少しはな。大したことない」

 そんなはずはなかった。同業者が余所の見世の商品を攫って手を付けたのだ。非はそっちにある、といくらでもあげつらえる。
 針の筵だったであろうことを思うと、かずさは申し訳なさでいっぱいになった。
 
「ごめん……なさい……」
「謝まっとる場合とちゃうと思うで。─── 俺に身請けされたんやで、お前。何されても文句言えへんの、判っとる?」
 かずさの気持ちを解そうと大和はふざけた口調で言い、にやりと笑う。

「泣いて嫌がっても許したらん。俺の気が済むまで弄う。その時なってとんでもない助平に身請けされた思ても遅いで。自分の心配せえや」
 昨夜のみならず朝にも大和にされたことを思い出し、かずさは頬にかあっと血を昇らせた。
 
 かずさを脅かしてやろう、と大和は華奢な背中に手を回し、緩く結わえてあった帯を解く。する、と桜色の単が小さな肩から滑り落ちた。
 もう一度キスをした後、かずさの耳の下から首筋にかけて唇を這わせる。ぎゅっと目をつぶって、かずさは大和の首に抱きついた。

「や……っ大和の気の済むように、して……いいから……っだいすき……」
「かずさ、─── ここで俺の理性飛ばしたいんか?」
 冗談のつもりだった言葉をかずさはまともに受け取り、その可愛らしさに大和の心はくらりと揺れる。
 男殺しやな、とかずさに囁いた。
 
 かずさは首を横に振った。そんなんじゃない。大和に自分の気持ちを知っておいて欲しくて、言ったのだ。
 大和はかずさに触れたい衝動を押し殺して引き離す。唇に余裕の笑みを浮かべてみせた。
「残念やけど、続きは家帰ってからにしような。ここでコトに及んだら翠に殺されるし」

 いきなり、襖が外から軽く叩かれた。
「別にかめへんけど、旦那さまが呼んだはるから早よ済ました方がええでー」

 ぼそぼそとカナエの声が続く。
「そら無理や。水揚げまだやもん。時間かかるで」
「そうなん? なんや大和、大事な子ォには手ェ出せへんねんな」
「そやねん。せやからオレに出し抜かれるんやで。なっさけな、かずさにはてんで弱あて無理強いなんかぜった出来ひん……」
 
 遠慮会釈のない会話を断つべくガラリと襖を開けた大和は、そこに立つ美形の姉と弟のような二人を睥睨した。
 二人は首を竦めながらも、にやにやと笑みを浮かべる。
 
「……あ、聞こえとった? 旦那さまが」
「お呼びやねんやろ! 噂話は本人に聞こえんようにせえ!」
 翠とカナエに話を聞かれていた恥ずかしさで頬を火照らせるかずさを、行くで、と大和は呼び寄せる。その手を取った大和は、客や娼妓が忙しなく行き交う見世中を、人目など全く気にせず階下へ降りていった。

  

  

 
 
 
「……それで最初、薄青い着物着せられたんだよ」
「そうなんか」
「でもね、翠さん、俺には桜色の方が似合うって、……へん、だったでしょ?」
 
「そんなことない。よう似合とった。ずっと着せときたいくらいやったで」
 臆面もなく褒める大和にかずさは頬を染めて俯く。箸の先で摘んださつま芋の甘露煮をもぐもぐと食んだ。
 
 
 春霞楼の主人と女将に身請けの礼と挨拶を終えて、大和とかずさは見世を後にしていた。本来なら大和は夜半過ぎまで仕事があるはずだったが、ふたりの様子を目にしてため息を吐いた主に、「もう帰ってええ。そのでれっとした顔、明日までに直して来いや」と追い出されてしまった。
 
 この機に乗じて「オレも帰ろかな、」と腰を浮かせたカナエは、翠と女将に「なに言うてんの。勘当解かれたんやろ」「今日からお前は離れで寝起きなさい」と口々に引き止められた。いよいよ娼家の主となるべく、自由の日々が失われそうな予感に見舞われたカナエは「いやや~、オレも帰る~」と駄々を捏ねていたが、「ここがジブンの家やがな」と引きずられるようにして離れへ連行されていった。……
 
 
 それから一時間後、色街から離れた屋敷に戻った二人は差し向かいで夕餉を取っていた。翠の部屋で起こった出来事を楽しそうに話すかずさを、大和は飽かず聞いている。そんな大和の目がひどく優しいことに気付いて、かずさは照れ隠しにカナエの話題を振った。
  
「あっ、あのね、最初に着せられた薄青の着物はね、カナエさんが着たんだよ。キレイですっごくよく似合ってた、」
「カナエが? 酔狂やな、……女将さんに似てカオだけは綺麗やから、似合えへんこともないやろけど」
 
 何の気なしの大和の言葉をかずさは気に止めた。
  こっそりと大和の様子を伺ってしまう。
「……カナエさん、お客さんに声かけられたんだよ。別嬪さん、て」
 
 大和は愉快そうに屈託なく笑った。
「そらええ。若旦那なるんやめて、見世の稼ぎ頭なったらええわ」
「……」
 
 舞い上がっていた気持ちがしぼんでいくのをかずさは感じる。─── 大和は少なくとも、カナエの顔が綺麗だと思っているのだ。
(……うん。カナエさんは、美人だ)
 
 自分に覆い被さってきた時の、笑みを浮かべたカナエが脳裏を過ぎる。
 線の細い神経質そうな顔つき。肩につくほど伸ばした髪の毛。細く通った鼻筋も薄い唇も癇の強そうな目も整っていて、退廃的で。さっきの秋草と紅葉のあだっぽい薄青の着物がよく似合ってた……。
「どないした?」
 
 急に大人しくなってしまったかずさを訝しく思って、テーブルの向こうの大和が訊いてくる。
「あの、……あのね」
「うん」
「カナエさん、……片思いしてるんだって」

「はあ、そらたまげたなあ」
 全く興味がなかった大和は気のない返事を返した。
「思い煩っとるより押し倒すほうが早い、思とる奴やのに。簡単には押し倒せへん女なんか?」
 
「……うん。カナエさんが押し倒すのはちょっと無理があると思う……」
 体格差と体力差で。かずさはちらりと大和を上目遣いに見た。
「意外やなー、あいつでも手ェ出せへん女がおるなん、知らんかった。ダレ?」
 
「……大和」
「……なんて?」
「だから、大和。翠さんが言ってた、カナエさんは子供の頃から大和に本気で相手して欲しくて、挑発するんだって。……片思い、なんだって」
 
 大和は鰆の西京焼きを突付こうとした手を止めて、うな垂れるかずさをまじまじと見た。箸をそっと揃えて置いたかずさは、膝に手を置いて俯いたまま言う。
「……カナエさん、美人だし。キレイだって大和が思うの、し……仕方ないよね」

「ちょ、待てや、」
 大和の制止を聞かず、かずさは小さな声で続けた。
「……カナエさんのこと、好き……?」
 大和はあごを落とした。─── どう、……どうしたらそう思えるんや。
 
「……俺、大和に身請けされて……それだけで嬉しい、から……カナエさんが大和のこと想ってて、大和も……カナエさんのこと……好きでも……」
 俯くかずさの目尻が赤く染まっている。
 
「あのな、かずさ」
 言いかけて、どこからかずさのとんでもない勘違いを訂正したものか判らなくなり、口を噤む。どこから、というか徹頭徹尾、最初から最後まで間違いだと言い切れる。
 
 箸をテーブルに投げ出すように置いた大和は両手で顔を覆い、はーっとため息を吐いた。そして食事も喉を通らない様子のかずさを改めて見る。
 
「……立って」
「え……」
「立って、こっちきいや」
 
 なぜか判らないながらも、席を立ったかずさはおずおずと大和のそばに近づく。椅子に座ったままの大和はかずさを向き直り、そのシャツのボタンに手をかけた。
「や……」
「黙れや。動くな」
 
 大和とは思えない強い口調と言葉にかずさは驚き、少し怯んだ。次いで悲しくなる。─── 大和は、心を詮索するような自分の言動を疎ましく思い、厭ったのかもしれない。
「……気に障ったなら、謝るから……」

「黙れて言うたはずや」
 骨ばった指がかずさのシャツのボタンを外していく。徐々に白く薄い肌が露わになった。
「─── めっちゃ気に障るなあ」
 当然のように、カナエが残したくちづけの跡も晒される。ボタンを外した指が、その跡に触れた。

 かずさはびく、と身体を震わせる。
「この跡。……なんなん?」
 知っていて、低く訊く。大和は、答えられないかずさの腕を掴んで引き寄せると、自分の足の間に無理やり座らせた。
 
 華奢な背中を抱き込んで、前に回した手の平をかずさの薄い胸に這わせる。かずさの肩の上にあごを乗せ、自分の大きな手が幾つも唇の跡の付いた柔らかい肌を蹂躙する様を眺めた。
「……っやあ、……」
 
 小さな、色の薄い突起がぷつっと立ち上がってくる。そこを弄ってかずさの身体がびくびくと反応するのを愉しんだ大和は、そのまま手を下に下ろしていく。
「! 大和、イヤ……っ」
 
 大和の意図に気付いたかずさは、その手を止めようと抗議の声を上げる。脇の下から伸びている大和の逞しい腕を掴んだ。
 大和はかずさの抵抗をまるで無視して、ベルトに手をかける。カチャカチャという音を立ててベルトとズボンの前を開けた後、なんなく中にその手を潜り込ませた。
 
 小さく悲鳴を上げるかずさの唇を、顔をねじ向かせて唇で塞ぐ。舌で乱暴に中を掻き混ぜ、混じり合った唾液を無理やり飲ませながら薄い舌を吸い上げた。
 その間も、大和は手を休めることなく動かす。

「……ん……っん、あ……んっ……」
 唇を解放されたかずさは既に力が抜けて抗えなくなっていた。─── 視線の先には、大和の大きな片手に包まれて先端から滴をこぼしている自分自身。もう片方の手はかずさの胸を這い回り、赤く立ち上がった突起を弄っている。大和の手と指の動きは的確で執拗で、かずさを簡単に高みへと押し上げていく。
 
 自分の状態が恥ずかしくてかずさは大きな目に涙を滲ませる。やめて、大和、と消え入りそうな涙声が訴えるのに、大和はかずさの耳に唇を寄せた。
「……やめへん。気が済むまで弄う、言うたやろ」
 
 大和の手に包まれたものがくちゅくちゅと音を立てる。あえかな声を上げるかずさを背中から抱き込み、その様子をずっと眺めていた大和はごくりと息を飲んだ。
「……ヤラしいな」
  
 かずさはいよいよ泣きたくなり、自分を捕らえる大和の頑丈な腕から逃れようと身体を捩った。 
「……やだっ……ヤラしくないもん……大和がそんなこと、するから……っ」
「そんなことて? お前のココ、手と指でめちゃくちゃにイロたこと?……勝手に気持ち良うなったんはお前やろ」
 
 助平、と囁く大和の声にかずさは真っ赤になった顔を伏せた。
「やっ……大和の意地悪……」
 その大きな瞳に本当に涙が浮かんでいるのを見て、大和は手を止めた。─── 無理やり達かせるようなことをしたら、かずさの気持ちを失ってしまうかもしれない。
 
 自分がどれほどかずさに心を奪われているか痛感しながら、大和は赤く染まった耳に口付けた。
「……俺の気持ち、信じてへんバツや。仕置きやで。……カナエが、なんて? こんなことしたいん、お前だけやのに。なんで他の奴がどうとか思うん?」
 
 かずさは涙の膜が張った目で大和の目を見つめた。
「……だって……カナエさん、き……キレイだし……大和だって、そう」
「……身請けするほど惚れた奴の身体にこんな跡付けた男のこと、俺が許すと思てんのか?」
  
 大和の指が赤いくちづけの跡を一つ一つなぞっていく。怒りを孕んだ声がかずさの耳に流れ込む。
「─── この跡見るたび俺が嫉妬で気ィ狂いそうになるん、判っとる? お前」

 カナエに好き放題触らせた自分を、その事実を、大和は許していないのだ、とかずさは思い知らされる。
 そしてそれは同時に、大和の心を信じなかったことを後悔する気持ちと、彼の心が自分に向いていることの嬉しさを生み出した。
 
 身体を後ろへねじ向けて、背後の大和にしがみつく。大和は一度、そんなかずさをきつく抱きしめると身体の向きを変えさせて、椅子に腰掛けたまま正面から抱き寄せた。
 悲鳴を封じる為ではないくちづけが、何度も繰り返される。大和の唇と舌が、かずさの反応を見るようにゆっくりと動く。かずさは自分から優しいキスを受け入れた。

「……大和」
「ん?」
「俺、ね、大和にチュウされるとぼーっとして、力が抜けて、わけ判んなくなる……」

「そらええこと聞いた。今のうちにイロイロしたろ」
「もうっ、そうじゃなくて、……カナエさんにはそうならないってこと、……大和だけだよ……」
 出来うる限りの表現で気持ちを伝えようとしているかずさに気付いて、大和はまなじりを下げた。
 
「なんや、俺と他の男を比べとんの。仕置きの続きせんとあかんな」
「ええっ、……」
 意地の悪い言葉に身体を引こうとしたかずさを逃がさず、ベッドの中でな、と大和は口付ける。
 何度目かも判らないそれを甘ったるく感じながら、かずさは目を閉じた。

 

                               〈終〉

 

 ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました。m(_ _)m
 短い続編でしたが楽しんで頂けたらなによりです。
 
                        八月 金魚 拝
    

      

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コメント

 
 連載お疲れ様でした~♪♪
 久し振りに寄らせて頂いたら、なんと最終話……!!
 
 仕事で疲れた身体に染み入りました。あまり涙もろいタイプではありませんが、本当に泣きそうになっちゃいました……。
 やっぱり八月さんの文章最高です!! 色気も切なさもあって、それでいて清潔でエロい♪ 
 心からかずさにおめでとう♪と言ってあげたい。・゚・(ノД`)・゚・。
 最後、やっぱり甘甘&ハピエンは良いですねえ゚+。スリ(*u_u人u_u*)スリ。+゚
 
 ああ……そして、もう新連載が始まっているのですね!?
 今から読ませて頂きます♪♪
 
 
 ≫お仕事お疲れ様です!お忙しいのに来て下さって、コメントも残して頂けるなんて、本当にありがとうございます(≧∇≦)o(_ _)oペコッ
 お疲れなのに、こんな駄文を褒めて下さって……本当に嬉しいです!なんと言えばこの嬉しさが伝わるんでしょうか? ゜.+:。(*´v`*)゜.+:。←精一杯、絵文字で表現してみました。
 
 最後、どうしても甘々にしたかったんで頑張りました!でも、なんか、思ったような甘々にならなくて、難しいな甘々ラブラブ!とPCの画面を睨みながら苦々しく思いました。画面に出てる内容と雲泥の差の書いてる本人。┐( ̄ヘ ̄)┌
 
 ほんの少しでも、息抜きにでも、楽しんで頂けたら感無量です( ´;ω;`)ブワッ(≧∇≦)
 
 
  

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